環境保全型農業レポート > No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想

    ●茨城農業改革大綱

     茨城県の農業産出額はかつて全国2位であったが,近年その順位を下げた。茨城県の橋本知事は,茨城農業の再生を図るために,2002年1月に有識者からなる「いばらき農業改革研究会」を設置した(座長は故松本作衛元農林水産事務次官)。茨城県は大消費地の東京に近い地の利もあって,しばらく前までなら農産物は作れば売れたが,最近では品質・作目・出荷時期などを消費者ニーズに合わせることをややもすれば忘れていた側面も少なくなかった。こうした反省に立って,「いばらき農業改革研究会」は「消費者のベストパートナーを目指す茨城農業」を農業再生の中心に置いた中間報告を2003年2月に知事に答申した。

     茨城県はこれを受けて,2003年度から「いばらき農業元気アップ作戦」を実施し,県内の各地の市町村で農業者や農業団体関係者などを集めて啓蒙活動を開始した。そして,最終答申である「茨城農業改革大綱〜消費者のベストパートナーとなる茨城農業の確立」が2004年2月に答申された。

     「茨城農業改革大綱」では,環境にやさしい農業の推進も,農業改革の基礎となる条件として,その重要性が特記されている。しかし,「大綱」では,エコファーマーの取組強化を掲げつつも,環境にやさしい農業への取組強化の具体化は先送りにされたといえる。

    ●「エコ農業茨城」構想と「農地・水・環境保全向上対策」のかかわり

     茨城農業改革は,2003年度からスタートして2010年を目標達成年度に設定しており,後期の2007〜2010年度を改革進展期としている。茨城県は2007年3月に2007〜2010年度の年次計画を策定したが,そのなかで,『環境保全と農業との関わりについての方向性を整理し,本県農業のイメージアップにつながる「エコ農業茨城」の導入を検討』や,「農地や農業用水の保全と一体となった地域ぐるみの環境に配慮した農業の推進」という項目を特記した。そして,橋本知事は2007年4月に「エコ農業茨城」構想専門委員会を設置して,「エコ農業茨城構想」の基本的な考え方を諮問した。

     この専門委員会を設置するに至った直接の背景,つまり,「エコ農業茨城構想」の骨格となったものは,農地・水・環境保全向上対策(環境保全型農業レポート.No.54.対象範囲の狭い農地・水・環境保全向上対策)である。

     農地・水・環境保全向上対策では,まず,基礎支援として,集落など一定のまとまりを持った地域において,農業者だけでなく非農業の地域住民などが参画する活動組織を設置し,活動協定を定めて,社会共通資本である農地・農業用水などの資源を適切に保全する活動に一定の支援を行なう。そして,基礎支援に上乗せする形で,他の支援が追加される。つまり,基礎支援対象地域内の活動組織に参加している農業者が,協定に基づいて環境負荷低減に向けた取組を共同で行ない(営農基礎活動支援),その上で地域内で相当程度のまとまりを持って,持続性の高い農業生産方式として指定された技術を導入したり,化学肥料と化学合成農薬を地域の慣行よりも原則5割以上削減したりするなどの先進的な取組を実践する場合(先進的営農支援)に支払が行なわれる。

     「エコ茨城農業構想」は2007年12月26日に知事に答申されたが(「エコ農業茨城」構想専門委員会 (2007)「エコ農業茨城」構想専門委員会提言),農地・水・環境保全向上対策による国の支援金に,さらに県の支援金を上乗せして推進しようとするものである。

    ●「エコ農業茨城」構想

     「エコ農業茨城」構想は,茨城県全県で集落(全県で3,800)などを単位とする地域ぐるみで,農村での環境保全活動と,環境にやさしい営農活動を一体的に進めようとするものである。そして,

     (1)良質で安心できる農産物を持続的に供給できる生産基盤の保全

     (2)霞ヶ浦など水域の水質保全

     (3)平地林などが保全され,生態系に恵まれた,豊かで美しい農村環境の創出と活用

    を,目指すべき目標としている。「エコ農業茨城」の活動によって,「茨城の農村は美しい景観を有し,そこで展開される農業は環境にやさしく,生産される農産物は健康に良い」というイメージを醸成して,そのことを県内外に情報発信し,基準に従って生産された農産物に「いばらきエコ農産物」のラベルを付けて,付加価値を有する農産物として販売しようとするものである。

     「エコ農業茨城」を推進するために,2007年度から全県で,集落などを基本単位とした活動組織を結成して,農業資源や農業環境の保全の観点から,農業用施設の点検,遊休農地の状況把握,栽培方式の見直しなどを総点検する。その総点検の結果を踏まえて,地域の環境保全活動と環境にやさしい営農活動を一体化した取組を開始することになるが,取組の度合いに応じて,エコ農業開始地区,展開地区,優良地区の三段階を設ける。

     エコ農業開始地区:できるだけ多くの地域が取り組めるように,地域の農業者等が環境保全活動や農業生産に関して協議する組織体制を整え,最低限取り組むことについて,合意ができた地区を開始地区とする。

     エコ農業展開地区:地域ぐるみで取り組む活動に加えて,総点検活動の結果に沿って平地林などの林野の整備や,化学合成農薬および化学肥料を慣行の50%以上削減した農業生産等が,部分的に行われている地区を展開地区とする。

     エコ農業優良地区:環境にやさしい営農活動が面的に拡大するとともに,地区での取組の成果が,水質,生物モニタリング調査や都市農村交流参加者の満足度調査等によって,客観的に評価される地区とする。

     この3つの地域でのエコ農業の取組度合い評価する客観的な地域評価認定制度を設けて,環境保全への地域的な取組が,消費者,都市住民などに認知・信頼されるようにする。環境保全活動には民間企業,NPOなどの参加を積極的に求めるとともに,環境にやさしい営農活動の技術指導を強化する。そして,「点」的な取組を「面」的に拡大するため,環境にやさしい営農活動にかかる生産費の掛かり増し経費に対して支援を行なう。

    ●具体化に際しての問題点

     (1) 時間が足りるか?

     「エコ農業茨城」構想は枠組を決めただけで,構想に基づいて,今後,県は具体的施策を盛り込んだ「エコ農業茨城推進基本計画」を策定して,事業展開を行なうことになる。「エコ農業茨城」は2007〜2010年度に実施することになっており,構想に記述された「エコ農業茨城推進基本計画」や地域評価認定制度,さらにはこれらを施行する際の営農行為の具体的基準などを早急に策定しなければならない。まもなく2008年度に入り,残りの期間は3年間しかない。時間的に間に合うかの不安がある。

     (2) 霞ヶ浦などの水質保全との関連づけ

     「エコ農業茨城」構想が茨城県らしさをもつためには,茨城県の主力農産物について,霞ヶ浦,涸沼などの水域の水質保全を図る具体的な営農行為基準(あるいは規範)を明示して,環境と生産の双方を両立させることが大切になる。

     なかでも霞ヶ浦は指定湖沼で,その水質浄化が大きな課題になっている。2005年6月に「湖沼水質保全特別措置法の一部を改正する法律」が成立し,農地・市街地からの流出水対策が必要な地域を,新たに「流出水対策地区」に指定し,「流出水対策計画」を策定のうえ,対策措置を進めることができるようになった(環境保全型農業レポート.No.36.流出水への監視強化へ)。そして,環境省は2006年度から3年間,指定湖沼の汚濁負荷量推計方法を調査する「流出水対策推進モデル計画策定調査」を霞ヶ浦などの指定湖沼で実施している。

     こうしたことから,霞ヶ浦周囲に「流出水対策地区」を指定して,その地域内では環境負荷レベルを地域外よりも少ない農業行為を基準とし,その実施に要する生産費の掛かり増し経費を多くする方策が考えられる。

     上述したように,エコ農業優良地区は,地区での取組の成果が,水質など客観的に評価される地区とすることになっている。しかし,湖沼への流出量を減らす農業行為を実践しても,過去に排出されて底泥に沈殿した栄養塩類が強風などで舞い上がって,湖沼の水質が短期間に改善されることは期待しにくい。このため,湖沼の水質改善で評価するのでなく,農地からの栄養塩類の排出削減量を計算できるようにすることが大切となろう。

     (3) 特別栽培農産物の生産基準

     「エコ農業茨城」構想では,化学合成農薬および化学肥料を慣行の50%以上削減した特別栽培農産物などの生産を目指している。現在の特別栽培農産物の生産基準では,化学肥料については窒素肥料の施用量を慣行の5割以下に抑えることだけが求められているに過ぎず,その他の有機質資材やリン酸肥料の施用量については何らの規制も求められていない(環境保全型農業レポート.2004年7月1日号.特別栽培農産物の条件設定とその問題点)。

     化学肥料窒素を減らしても,有機質資材を安易に施用すれば,かえって窒素が過剰になって,農地外への窒素の排出量が増えてしまう。欧米では水質汚染対策として農地へのリン酸施用量を厳しく制限しているが,日本では可給態リン酸レベルが過剰にまで蓄積した耕地が多くなったにもかかわらず,リン酸の施用量に何らの規制も加えていない。国が規制していないから県は規制しなくても良いという姿勢でなく,県が一歩進んだ規制を行ない,意識的にリン酸減肥を行なった農業者に奨励金を支給する仕組みを作ることが望まれる。

     (4) 畑地帯での農業資源保全活動とは?

     農地・水・環境保全向上対策は,水田地帯で用排水路などの農業資源の共同管理が難しくなった現状をどう打破するかから発想された施策である。水田の維持には集落共同の用排水路管理が不可欠であり,水路には親水機能や水生生物の多様性保全機能もあって,地域住民の参画もえやすい。これに対して,畑地帯では環境保全に役立つ農業資源を保全する共同作業が何かが,かねてから問題になっている。

     「エコ農業茨城」構想には平地林の管理も記載されている。しかし,入会地の平地林なら地域で共同管理することになろうが,個人所有の平地林の場合には個人で管理することになるし,畑地帯では水田地帯での水路管理のような共同作業が必要な場面はあまりない。

     農地・水・環境保全向上対策をもっと広くとらえてはどうだろうか。共同作業にならなくとも,例えば,野菜畑を冬期に裸地にしないで,風食や硝酸の流亡を抑制する冬作物や緑肥を地域で一斉に栽培するのも対象にすることが考えられる。茨城県那珂市は放棄地の環境対策としてヘアリーベッチ栽培に補助金を交付しており(環境保全型農業レポート.No.44.ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付),麦類の畑への栽培に補助金を支給している茨城県の自治体もある。また,群馬県嬬恋村では傾斜地のキャベツ畑から排出された土壌によって河川が汚濁されるのを防止するために,畑の下端に牧草を生やしたグリーンベルトを設けて,牧草茎葉に土壌をトラップさせて,水路に土砂が流入するのを防止している(環境保全型農業レポート.No.67.野菜畑と河川底性動物との関係)。傾斜地でなくとも,豪雨時に土壌や栄養塩類が表面流去水によって流されて,水路や河川に流入するのを防止するのに,畑と水路や河川の境にグリーンベルトを設けるのは効果的である。

     こうした畑への冬作物の作付,耕作放棄地へのカバークロップの作付,グリーンベルトの設置など,共同作業ではないが,地域が取り決めをして各戸に行なう作業も,共同作業とみなす必要があろう。

     (5) 施肥の適正化による農産物生産の向上と環境保全の両立

     「エコ農業茨城」構想では,まず栽培方式の見直しなどを総点検することになっている。その際,普及センターや研究所の職員が,地域のアドバイザーとして機能することが重要になる。例えば、環境保全的な農業技術を導入することによって環境負荷の削減に結びつくだけでなく,品質の向上や生産コストの削減などが可能になることを具体的に説明して,農業者が地域の主力農産物の生産技術を変えることを納得できるようにすることが必要であろう。また,「エコ農業茨城」を実践するうえでの農産物の生産基準を明確にしておくことも必要であろう。

     「エコ農業茨城」構想専門委員会の構成をみると,環境保全的な農業技術や環境負荷軽の専門家なしに構想をまとめたようだが,農業者が納得できる生産技術を基準にすることが何よりも必要なはずである。

    ●「エコ農業茨城」構想の具体化への期待

     「エコ農業茨城」構想の具体化にはこうした難しい問題があるが,具体化して実践することによって,すでにその取り組みを始めている滋賀県の環境こだわり農業(環境保全型農業レポート.2004年7月1日号.滋賀県が環境こだわり農業推進条例で直接支払制度を開始 )に見られるように,地方自治体が行なう環境保全と両立させる画期的な農業支援政策となることが期待される。

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