No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術
茨城県奥久慈地域の取組み
●茨城県奥久慈地域の農業の特色:耕畜連携の必要性
茨城県北部の福島県や栃木県と境を接する県北地方を2つの農業改良普及センターが担当している。栃木県寄り地域が常陸大宮地域農業改良普及センター,太平洋側が常陸太田地域農業改良普及センターである。常陸大宮地域は,日本穀物検定協会の食味ランクで,全国17か所の特Aにランクされた良質米生産地帯(2003および2004年度)の一つで,関東唯一の地域である。だが,常陸大宮地域は良質米生産地帯とはいえ,稲作専業農家はわずかで,大部分の農家は,酪農,肉用牛,リンゴ,ブドウなどと水稲の複合経営を行っており,2001〜2002年度の農業産出額のうち,畜産が37%,米が36%を占めている。このため,多量に排出される家畜ふんの耕種での利用促進が地域の課題である。また,良質米生産地帯でありながら,JAには稲作部会がないか休止状態であり,販売までも考えた稲作農家の組織的取組強化が必要であった。
●農家の実践事例を生かした普及活動
常陸大宮地域農業改良普及センターの寺沼昇氏(現・土浦地域農業改良普及センター)は,化学肥料と1 t/10aの牛ふん堆肥を毎年連用してコシヒカリを10数年にわたってかなり上手に栽培している農家が大子町に存在することに注目した。その後,同様な農家が旧里美村(現・常陸太田市)にも2軒存在することを認めた。同氏が農家の施肥を検討したところ,化学肥料の施用量が多めであったため,年によってはコシヒカリが倒伏したことも説明でき,施肥の改善を指導した。
改良した施肥によって農家レベルで安定生産の可能性の展望をえたことから,常陸大宮農業改良普及センターは1999年から大子町と旧里美村で,良質米づくりの研究会を立ち上げて,栽培マニュアルを作成し,農家で本格的実証を行った。そして,2003年に奥久慈米をブランドにするために,管内の生産者,3つのJAと旧9町村からなる「奥久慈うまい米生産協議会」を発足し,米のブランドを「奥久慈の恵み うまかっぺ」(「うまかっぺ」は「美味しい」の茨城弁)に決定し,堆肥を利用した良質米生産技術の普及を軌道に乗せた。(茨城県農業総合センター平成17年度普及活動成果『堆肥を活用したブランド米「奥久慈の恵」の生産と販売』参照)
●施肥技術のポイント
(1)乾田を対象にする。
(2)各農家が自分の水田での生育状況や品質評価結果を確認し,さらにリン酸緩衝液可給態窒素量の簡易診断法を活用して,化学肥料による慣行栽培でのコシヒカリの適正窒素施肥量を事前に把握しておく。
(3)地域の肉用牛農家と酪農家が生産して,農業改良普及センターが分析した牛ふん籾殻堆肥1 t/10aを前年の秋に施用する。
(4)牛ふん籾殻堆肥の肥効率30%として,堆肥の全窒素含有率から,化学肥料相当窒素量を計算する。
(5)事前に把握しておいた適正基肥窒素量からこの堆肥由来分の窒素量を差し引いた量を化学肥料で基肥施用する(標準は2 kg/10a)。
(6)排水不良で倒伏しやすい水田では堆肥を0.5 t/10a,肥料もちが悪く地力を上げる必要のある水田では堆肥を1.5 t/10aとして,(4)に従って計算を行って化学肥料基肥窒素量を補正する。
(7)生育状況をみて,必要な場合には,出穂15〜20日前に穂肥に窒素1 kg/10a以下を追肥する。
●ブランドの確立・維持
「奥久慈の恵」のブランドを確立・維持するために,常陸大宮地域農業改良普及センターが中心になって施肥技術の指導,圃場巡回や展示圃を行って,技術レベルの向上を行うとともに,次の努力を行っている。
(1)茨城県特別栽培農産物の認証を受ける(化学肥料窒素3.2 kg/10a以下,化学合成農薬の使用回数8回以下。
(2)ライスセンターの乾燥機で籾を調製した際に,日別・生産者別に食味計(サタケ)と農産物検査を行って,検査結果を農家に通知するとともに,千粒重22 g以上,玄米水分14.5〜15.5%を目標とし,食味値が85以上を「桔梗」(3,750円/5 kg),84〜80を「山吹」(3,250円/5 kg),79〜75を「桜」(3,000円/5 kg)に区分して販売する。
(3)「奥久慈うまい米生産協議会」に販売チームも設けてPRを強化している。
(4)協議会が補助金を活用して自走式マニュアスプレーダを購入し,堆肥連携チームが安く堆肥を施用するシステムづくりをするとともに,地域の耕畜連携の強化を図っている。
「奥久慈の恵」の生産は,2004年度24.4 ha,46戸,2005年度42 ha,81戸と拡大しており,2006年度は80 haを計画している。現在,「奥久慈の恵」は水戸以北の県北を中心に販売を拡大しつつあるが,2005年11月1〜6日に開催される「農林水産業から日本を元気にする国民会議」主催の「東京ファーマーズマーケット」に出店するなど,販路拡大に努めている。
●今後の課題
堆肥を施用して作物を生産する際には,化学肥料をどの程度減らすかが問題になるが,この例は肥効率を用いた計算が農家レベルで有効なことを示している。肥効率での計算はあくまでも概算値を求めているので,正確さは多少落ちる。しかし,この例では堆肥施用量を1 t/10aに押さえているので,実際の誤差が小さく,成功していると理解できる。ここでは牛ふん堆肥の肥効率を30%に設定して好結果を得ているが,牛ふんおが屑堆肥の肥効率は従来から15%とされており,堆肥の組成によって肥効率の設定が問題になる場面があろう。また,今後,さらに長期連用していった場合には,土壌に蓄積した有機物からの無機態窒素量の放出が次第に増えて,誤差が拡大してくる懸念がある。農業改良普及センターが土壌・生育診断を指導して,必要な場合には堆肥施用量堆肥を調節し,過剰施用による倒伏や食味の低下を防止することが大切になろう。優れた品質の米を長期に安定生産できることの担保が,販路拡大の大切な要素だから。
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