環境保全型農業レポート > No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析

    ●中国輸入食品の安全性に対する関心の高まり

     アメリカでは2007年と2008年に,工業用化成品のメラミン(*注)を混入した食品,発がん性のある動物医薬品の残留した養殖した魚やエビ,工業用漂白剤を使用した麺,病死や罹病した個体から製造した豚肉を使用した加工食品など,中国から輸入した食品の安全性に対する関心が高まった。このため,アメリカ農務省の経済研究所が2009年7月に中国食品の安全性についての総説をまとめた(Fred Gale and Jean C. Buzby (2009) Imports From China and Food Safety Issues. Economic Research Service: Economic Information Bulletin. No.52. 30p.) 。その概要を紹介する。

     *注:尿素とアンモニアから合成する窒素含有率の高い化合物で人体に有害。メラミン樹脂の原料などに利用されているが,中国でタンパク含有率を高くごまかすために,メラミンを添加した小麦や米から抽出したタンパク質と牛乳を使って,様々な加工食品が製造されて多数の国に輸出された。

    ●アメリカの中国からの食品輸入の状況

     2001年12月に中国がWTO(世界貿易機関)に加盟してから,安い労賃に支えられた安価な中国製食料のアメリカへの輸出量が急激に増えてきている。そのことは,アメリカの中国からの輸入食料金額が,2001年には13億ドルだったものが,2008年には52億ドル(2005年の基準相場105円/ドルで日本円に換算すると5460億円)に増加したことから明らかである。ただし,アメリカは農産物輸出国であり,2005年における国内の食料供給量に占める全ての国からの輸入食料の割合は,金額ベースで7.0%にすぎない。そして,輸入食料に占める中国からの輸入食料の割合は2008年で5.8%であるため,アメリカの国内食料供給量に占める中国からの輸入食料の割合(金額ベース)はわずか0.4%だけである。

     穀物や油糧種子の価格は中国から輸入するよりアメリカのほうが安く,酪農製品は輸出できるほど中国では生産されていない。しかも,アメリカは中国の獣や家禽の肉そのものの輸入を認めていないため,アメリカの食事の核となっている穀物,肉,酪農製品は中国からほとんど輸入されていない。またそれ以外にも,野菜,果実などの生鮮物も,中国からは基本的に輸入していない。輸入している中国製の食料は加工食品で,リンゴジュース,ニンニク,マンダリンオレンジの缶詰や加工処理した魚類やエビが主なものである。2007年において中国からの輸入品がアメリカでの総供給量に対するシェアは,リンゴジュースで60%,ニンニクで50%超,エビで9.6%,ナマズで1.9%などとなっている。

    ●FDAによる通関届出検査

     アメリカでは,食品,医薬品,医療器具,照射装置を輸入して販売しようとする際には,本格的な輸入に先立って,必要書類と当該商品の積荷を,保健社会福祉省のFDA(食品医薬品局)に提出して,輸入届出手続を行なうことになっている。

     FDAは提出された輸入届出用積荷を全て検査するのではなく,その一部を検査しているだけである。1997から2007会計年度の間に,FDAが所管する食品の通関手続数は3倍に増え,検査された積荷の割合は1992年の8%から,最近では1%に低下したとのことである。FDAは,輸入届出が関係法規に照らして適法であるか否かを判定するが,この判定では,厳密な証拠に裏付けられていなくとも,書類上の不適合や係官が違反を疑うに足る肉眼検査での論拠があれば良く,係官が判断した違反のタイプを記して,不適格なものとして輸入を拒絶する。拒絶理由は,ごみなどの異物の混入,違法な添加物の使用,違法な農薬や動物医薬品などの化学物質の残留,病原菌による汚染や腐敗,不当表示(英語による内容表示の欠如を含む),製造者の事前登録の欠如などに分類される。そして,書類や肉眼検査では判断できない場合に,分析によって違法な化学物質や病原菌などの混入が確認される。

     FDAは,輸入届出手続において輸入を拒絶したケースを,毎年報告書として刊行している。この輸入拒絶報告書は,アメリカに輸入された食品全体での違反を反映したものではないが,ERS(経済研究所)はこの報告書を基本に置いて,中国の食品の安全性問題を解析した。

    ●輸入拒絶の多い三大食品

     中国からの食品の輸入届出手続で拒絶の多い品目は,「魚類・エビ製品」,「果実・ジュース製品」および「野菜・キノコ製品」の3つで,2002年以降,中国からの輸入食品で拒絶されたものの70〜80%を占めている。ただし,2002年以降でもこれら3品目内での構成割合は変化しており,魚類・エビ製品は2000-04年に拒絶されたものの約20%を占めていたが,2007と2008年にはほぼ40%に増加した。他方,果実・ジュース製品と野菜・キノコ製品は両者の合計で,2002-04年で拒絶された食品の約50%を占めていたが,2008年には約30%に減少した。減少が特に顕著なのは野菜・キノコ製品だが,その減少が,法律遵守程度が向上したためなのか,他の原因によるのかは分からないとしている。  

     (1)魚類・エビ製品

     魚類・エビ製品では,ウナギ(冷凍と蒲焼き),ナマズの切り身とエビが拒絶されたものの大部分を占めている。その他,ティラピア,マグロ,アンコウ,イカ,クラゲ,ザリガニ,カニ,サバ等の様々な製品にも拒絶されたものがある。

     ウナギ,ナマズ,エビなどから,アメリカでは発がん物質の可能性のために禁止されているマラカイトグリーン,ニトロフラン,ゲンティアンバイオレット,人間による摂食で抗生物質抵抗性を誘導する可能性のために禁止されているフルオロキノロンが慢性的に検出されたため,FDAは2006年10月から魚類・エビ製品のモニタリング頻度を高めたが,2007年3月末までの間に,テストしたサンプルの25%からこれらの薬剤残留物を検出した。このため,中国で生産されたウナギ,ナマズ,エビなどの製品に対して,2007年に輸入警告を発した。    警告対象となった積荷は,第三者の検査結果またはその他の証拠によって,当該製品に有害な残留薬物がないことを証明できれば,アメリカでの販売に供することができる。そうでなければ,積荷は保留されて,残留分析で含有量が基準以下であることが確認されてから販売用に開放されることになる。因みに2008年4月までにFDAは約3000の積荷を保留にし,残留分析の後にそのうちの1387がアメリカでの販売用に開放されたとのことである。そして,輸入警告が発せられると,当該食品の輸入量は減少することになる。

       (2)果実・ジュース製品と野菜・キノコ製品

     果実・ジュース製品や野菜・キノコ製品は2002-04年に比べて,最近では拒絶割合が減少しており,量的に輸入量の多いニンニク,リンゴジュース,蜂蜜の拒絶件数は大幅に減少している。拒絶された「果実・ジュース製品」は,主に缶詰・乾燥・塩漬けされたプラム,サンザシ,クコなどの果実やクコのハーブティなどの果実飲料などであった。また,「野菜・キノコ製品」のなかでは,アジア料理に使われる,キノコ・カビ製品(乾燥・煮たもの・缶詰)を始め,タケノコやショウガの加工品,漬け物のダイコンやキャベツには,相変わらず拒絶されているものが多い。  2007〜08年に拒絶されたその他の食品で多かったのは,アジア独特の食品である。なかでも豆腐と醤油が「ソース/特殊食品」の品目で拒絶されたものの大部分を占め,大豆が「ナッツ/食用種子」の品目で拒絶件数の多くを占めている。

    ●輸入拒絶の理由

     (1)積荷の三大違反

     2007-08年に最も多かった三大違反は,「不潔」,違法添加物と不当表示であった。  「不潔」は,ごみや腐敗ないし分解した物質(人間や動物の毛,糞,昆虫や泥)を含んでいたり,腐っていたりするもので,違反の20%を占めていた。

     違法添加物は,違法な着色料や色素,ズルチン,チクロ,基準以上の亜硫酸塩,メラミンなどの添加物を含有していたもので,違反の22%を占め,果実製品で最も多かった。全ての国からの届出用積荷では違法添加物の違反割合は約7%に過ぎなかったが,中国からの積荷での違反割合22%はそれよりもはるかに高かった。

     不当表示は,内容物,重量ないし個数,栄養情報,人工着色料や甘味料使用の有無を誠実に表示していないか,英語表示していないもので,違反の約22%を占めた。

     2007-08年に4番目に多く,違反の14%を占めていたのが,動物医薬品の残留問題である。最近になってこの違反割合が高まってきたが,それはFDAが魚や海産物の検査を厳しくしたことと関連していよう。動物薬剤残留の違反はほぼ全て魚とエビ製品で起きている(アメリカは中国から肉類や家禽肉を輸入していない)。この点について,著者らは,中国から輸入された魚やエビの大部分は,悪い水質の池で養殖されており,生産者は養殖池で疾病やカビの感染を防止するのに薬剤を一般的に使用しているためとしている。

     次いで多かった違反は製造者による製造計画や製造プロセスのFDAへの事前登録の不履行で,違反の約10%を占めた。この違反は,野菜の漬け物や乾燥品,その他の加工品で最も多かった。

     (2)その他の理由

     次いで病原菌やその毒素の混入が約6%を占めた。病原菌は主に魚やエビで問題になっており,主な病原菌では,サルモネラが主に魚,海産物,スパイス,調味料から検出され,リステリアが魚や海産物から検出されている。また,カビの生産する発がん性物質であるアフラトキシンが,ナッツ,種子,キャンディ(ナッツ含有)から検出されている。

     残留農薬は違反の約4%を占めた。違法な残留農薬が,セロリ,大豆,レンコン,エンドウの莢,キノコ,ワケギ,ショウガ,朝鮮人参など,一部の野菜とその製品から検出された。有機と称された豆やベリーで,残留農薬のために拒絶されたものもある。また,残留殺虫剤で汚染されたウナギの積荷も多かった。中国の中央テレビ局の調査番組が,魚を干物にする過程で群がってくる虫を殺すのに殺虫剤を散布している者を見つけて放映したとのことで,著者らはウナギもこうした方法で汚染されたと推定している。

     (3)違反は製造過程のどこで生じたのか

     中国からの輸入食品でFDAが摘出した違反の多くは,農場での一次生産過程ではなく,食品の加工やハンドリング過程で生じた問題であった。「不潔」は不衛生な包装や加工施設への汚物や異物の持ち込みのために生じている。違法添加物は加工過程で色,フレーバや保存性を向上させるために添加していることが多い。農場での一次生産過程の問題では魚やエビでの動物医薬品の残留問題が多いが,違法な農薬残留や重金属汚染といった問題は,実際には他の理由で拒絶された積荷についても分析を行えば,摘出されたよりも高い頻度で起きていると考えられるとしている。そして,中国産食品の残留農薬や重金属汚染は,日本,香港,中国国内で大きな関心事項となっていることを記している。

    ●中国国内向け食品の安全性問題

     中国では,国内市場向けと輸出用とで,食品の生産や品質管理に関する規制や生産態勢が異なる。主に輸出用には,優良規範と高度な装置を備えた数千の現代的で大規模な企業や農場が操業している。他方,国内向け食品の生産は主に小規模な農家や事業体によって支えられている。すなわち,中国には約2億戸の農家があり,その平均農地面積は04〜0.8 haにすぎない。食品加工事業体は少なくとも40万はあり,その大部分は従業員が10人以下である。この他,数百万の人々や事業体が農場外での食品のハンドリングや運搬に関与している。

     このように,小規模な農家や事業体によって13億の人口を養う食料の生産を確保するために,中国はこれまで資材を多投した集約農業を行なってきたし,中央政府は資材多投路線を継続するとしている(環境保全型農業レポート「No.89 中国における農業環境問題」参照)。

       (1)生産および食品加工の実態について

     中国の資材多投型農業では,有毒な残留物質が残る恐れのために,先進国で禁止されている薬剤や動物医薬品を広汎に使用して,高い収量の作物や動物の生産が達成されている。

     多数の農場や食品加工工場が沿岸部の工業地帯に存在し,その一帯が土・水・大気が工場や車両からの廃液や排ガスで汚染されている。香港の研究者は,中国南部の珠江デルタの耕地土壌に,高レベルの鉛やカドミウムが蓄積していることを認めている。また,大方の農村地域では下水道が未整備で,人間や家畜の排泄物が劣悪な水質に部分的には寄与しており,家畜や家禽の排泄物を圃場散布したり魚の餌にしたりすることは日常化している。

     中国の国内市場向けの食品の加工・貯蔵・流通の施設は,安全性の点で多くの問題を内蔵している。生鮮物の野菜や肉は,通常,小さな屋根なしトラックで輸送され,収穫・屠殺されたその日のうちに,小規模な小売店で販売されるのが伝統となっている。冷蔵庫や冷蔵輸送装置はまれにしかない上に,それらが利用可能であったとしても,停電,鉄道の遅れ,温度基準の違いなどによって,腐敗が起きかねない。中国では食品を介した病気のリスクについての認識が低く,そうした事故の統計は過小評価になっていようとしている。

     こうした背景の下で,多数の食品加工業者が,食品保存のために,違法な添加物や色素,外見だけは類似した効果のない偽化合物を使用して生産コストを削減したり,製品の見てくれを良くするなどしたりしている。広東市の南地区で食品の安全性を監視している係官は,食品製造では,不適切な建築材料による時代遅れの施設,古いさびた装置,労働者の健康・衛生の不適切な管理,汚染された水の使用,記帳がないか詐欺的な記帳,食品ラベルには含有成分,栄養,その他の情報が適切に表示されていないことなどの問題を指摘している。

     中国の食品セクターでは新規参入する農業者や事業者が多く,労働者の回転も早い。その結果,基準や規範を知らない経営者や労働者も多い。事業体間競争の厳しい中国においては,経費を節約し,有毒物質を添加し,安全管理を手抜きして,わずかな利益を増やしている生産者や商人がいることも事実であるとしている。

     (2)中国の新しい法律による食品安全規制

     中国の食料政策ではこれまで13億人を食べさせる食料の量を増やすことを優先させ,食品の安全性が政府の優先事項になったのは,21世紀に入ってからである。危険な農薬や動物医薬品の過剰使用や土・水・大気の汚染に対する関心の高まりを受けて,食料の安全性についての調査も実施され始めている。例えば,農業省は国内市場における野菜,肉類,魚類の農薬と薬剤の残留について検査しているが,2007年には農産物の91〜100%が遵守されているとの結果が報告されている。しかし,検査の詳細はほとんど公表されていない。また,中国の農業省と環境保護省は,野菜,肉類,魚類の化学物質や薬剤の残留物の広汎な検査,および,農村の土壌,大気,水の重金属やその他による汚染の検査を最近開始した。中国ではこうした調査結果が公表されていないことが多いため,中国のデータによって安全性を具体的に評価することが難しい。

     中国では,2009年2月28日に中華人民共和国第11期全国人民代表大会常務委員会第7回会議で『中華人民共和国食品安全法』が採択・公布され,2009年6月1日から施行された。この法律は,国定食品基準の制定,食品安全委員会の設置,製造者に対する記録の保持要求,食品安全性違反を行なった供給者への責任賦課などによって,食品の安全性に対処する枠組を定めたもので,これから基準などが具体的に施行令などによって定められることになるので,新しい法律の効果は,その執行の仕方次第で違ってこよう。なお,食品安全法の日本語訳はジェトロ(日本貿易振興機構)のホームページから入手できる。

    ●輸出食品の安全性システム

     中国は,輸出食品については国内食品よりも厳しい安全性基準を厳格に運用し,選りすぐりの企業や農場だけに輸出食品の生産を認め,安全性に関する行政を中央政府の国家質量監督検験検疫総局(General Administration of Quality Supervision, Inspection, and Quarantine: AQSIQ)とAQSIQ直轄の支局(CIQs)に一元化させている。

     輸出しようとする食品加工事業体は,所有する生産施設,装置,製品,輸出先の国名,水質と水処理方法,生産プロセス,労働者の質,分析室の装置,原材料の調達源,取得している認証に関する情報を添付して,AQSIQのCIQに衛生登録を行なう。

     輸出しようとする食品加工事業体は,原料農産物を,登録してある「生産基盤」(事業体が直接管理している農場か,事業体に原料農産物を供給している特定の農場グループ)から調達しなければならない。そして,問題が起きたときに追跡を可能にするために,AQSIQは加工事業体と原材料の生産者に,原材料に関する生産記録(栽培場所,栽培・収穫の期日,化学資材の施用について記録)を保持することを求めている。食品加工事業体に対して輸出して良いかの認証は,検査結果を踏まえてCIQが決定する。

     中国国務院の2007年報告書によると,中国の44万8000の食品加工事業体のうちの約1万2000だけが食品輸出を認められ,1億2100万haの農地のうち,38万haだけが輸出用作物の生産を許可された。そして,CIQの認証は3年後に更新しなければならない。CIQは輸出時点で製品サンプルが輸出食品の安全性基準を遵守しているかをテストしており,2007年9月からは輸出用の各積荷にAQSIQの合格シールを張らせている。そして,検査結果の優れた事業体に,「有名ブランド」食品輸出事業体と「検査免除」食品輸出事業体の資格を与えている。

     中国はこうした登録システムによって食品の輸出事業体を選ばれた少数の者に限定している。そして,輸出を行なっている食品加工事業体のなかには,外国で要求されているHACCPや適正製造規範,ISO 9001,グローバルGAPなどの国際的な安全性認証も取得しているものも少なくない。中国でHACCP認証を取得している食品事業体が約2800,グローバルGAPを取得しているものが約300に達している。

    ●輸出食品の安全性システムの問題点

     (1)情報更新と情報公開

     理屈の上では,輸出をAQSIQの承認した事業体に限定することは食品の安全性を向上させることになろう。しかし,いくつかの問題がある。

     その一つは,AQSIAが多数の企業や生産基盤を常にモニタリングして情報を更新し続けるにはかなりの資源が必要だが,更新が頻繁にはできていないことである。例えば,報告書の著者らがAQSIQのホームページにある輸出事業者のリストを2009年3月にチェックしたところ,2年前のものであった。

     そのほかにも,輸出を認められた事業所の英訳リストの公開が限定的で,香港とマカオに輸出できる事業体はAQSIAのホームページから入手できるが,アメリカ向けのものは同じホームページからは入手できない問題もある。省に所在する支所のCIQsのホームページから当該省に所在するアメリカに輸出可能な事業体のリストが一部品目について入手できるが,アメリカに輸出可能な事業体の全体は,英語では無論,中国語でも入手できない。その上,事業体の中国名の英訳がまちまちで,事業体名や所在地の変更のフォローが乏しく, AQSIQのリストにある事業体名が当該事業体のホームページにある名称と一致しないことすらある。同一所有者が複数の事業体を所有している場合,各事業体の区別が明確でないこと,事業体のホームページには当該施設とは異なると思われるものの写真を掲載しているケースが存在するなどの問題がある。

     (2)メラミン混入乳児用品や日本で問題になった農薬混入餃子

     メラミン混入乳児用品や2008年に日本で問題になった農薬混入餃子を製造したのは,「検査免除」の認定を受けた食品輸出事業体であり,両事業体ともHACCP認証も受けていた。こうしたケースが起きると,AQSIQの監査が信頼しにくいことになりかねない。

     国際的にはHACCP,グローバルGAP,ISO 9000,有機などの認証は,政府機関とは別の第三者機関によって行なわれている。しかし,中国では,輸出事業体に対するHACCP認証は,省の検疫局によって実施されている。また,CQC(中国品質センター)が,有機,グローバルGAP,ISO 9000に加えて,HACCPの認証も行なっている。CQCは名目的には独立組織だが,2002年までAQSIQの支所であり,実質は政府系組織である。また,中国ではこれらの認証に加えて,食品の安全性チェックのための成分分析も,政府系組織がほとんど行なっていて,民間のNGOや第三者機関によるものはごくわずかでしかない。

     例えば,水質検査も政府系組織によって通常なされているが,技術的問題,基金や人材の不足,係官によるテストの選別やデータの操作がつきまとっていると記している。そして,民間の第三者機関の認証組織やラボが中国で自由に活動でき,政府系組織による認証やラボに加えて,輸出事業体が民間の第三者機関の認証組織も自由に選択でき,双方の分析結果や監査結果が互いに再確認できるようになれば,海外および国内の消費者の双方とも,中国の食品製品をより信頼するようになろう。

    ●終わりに

     いくら規制や監視態勢を整備したとしても,どこの国でもあえて違反を犯す者はなくならない。問題は,違反して摘出されたら莫大な損害を被ってしまうので,違反をせずに誠実に商売をしたほうが得になるという規範が定着する社会を作ることが大切である。

     中国では,輸出用食品は,厳格に安全性が管理され,さらに国内外の価格差もあるために,国内向け食品よりも高い価格になる。大きな価格差が存在すれば,安全性の乏しい管理下で低コスト生産した質の劣る製品を輸出用に販売したいという誘惑にかられる。こうした誘惑が生じやすい構造を温存したまま,輸出用食品の安全性を確保するには,食品の生産・流通チェーンを監視して違法な輸出用食品を排除することの強化が必要になる。

     アメリカの保健社会福祉省(FDAの所属省)は2007年12月に中国のAQSIQと食品の安全性問題について協議し,FDAは中国製食品の輸入の許諾を判定する際に,AQSIQの管理している登録および認証のデータベースを利用できるようにし,さらに緊急事態にはFDAの検査官が中国の事業体に時宜適切にアクセスできるようにすることが合意された。しかし,中国では,「陰の工場」,記録偽造のための高度な戦略など,監査を巧みにすり抜けている事業体も存在するため,全ての監査を信頼できるものにすることが難しいことを,著者らは記している。

     中国では2002年以降,食品の安全性に対する取組が強化されたが,行政官,農業者,食品の加工・流通に関係している経営者や従業員は,まだ国際的な安全性基準や規範を勉強しているところである。こうした人達に対して基準や規範のトレーニングを実施して,認識を向上させるために,保健社会福祉省はAQSIQとの間で,食品安全性に関する検査官と分析技術者のための共同トレーニングプログラムを開設することを合意した。

     しかし,農業者や食品加工事業体の労働者の認識レベルをいかに向上させるかが問題になる。中国では農業や食品産業界の労働者は,回転が早いため,研修プログラムに参加することが少ない。中国の行政官は,農業者向けには,食品安全性基準や規範に関するホームページの開設,本の刊行,ビデオの作成を行なっていると述べている。しかし,農業者がこれらの媒体を使用している程度が高いとは思えない。限られた調査ではあるが,中国の農業者はほとんど新聞や雑誌を読んでおらず,インターネットにほとんどアクセスすることもなく,大方の情報をテレビで得ているとの結果が報告されている。政府機関による農業者向けの実証圃場では,現場の看板に安全性基準や規範を記述している。しかし,短い記述だけでどの程度理解されるか疑問である。中国では農業普及事業が弱く,アグリビジネス企業が農業者に技術や市場の情報を伝えているケースも事実上ない。

     中国製食品の安全性については改善すべき多くの問題が存在している。しかし,著者らが記しているように,中国からの食品輸入が急速に増加しており,しかも,そのマイナス事故が報道されると,一時的に輸入量が減少するが,事故の原因が改善されると,輸入量が回復している。このことは,中国製食品に対する旺盛な需要があることを示している。中国からの安全な製品の流れを確保することは,アメリカを始め外国の消費者と中国の供給者の利益になることを忘れてはならない。

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