環境保全型農業レポート > No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘

     バイオ燃料については,環境保全型農業レポート「No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響」で,農産物価格への影響を中心に紹介した。その後,先進国で構成するOECD(経済協力開発機構)が,世界的に過熱気味のバイオ燃料に警鐘を鳴らす報告書を2008年7月16日に公表したので,その概要を紹介する (OECD (2008) Economic Assessment of Biofuel Support Policies. 119p) 。

    ●2007年の主要なバイオ燃料製造国

     2007年における世界のバイオ燃料の製造量は,バイオエタノールが520億リットル(アメリカ265億,ブラジル190億,EU 22.5億リットルなど),バイオディーゼルが102億リットル(EU(ドイツ,スウェーデンなど)61億,アメリカ16.9億リットルなど)である。そして,2007年時点で輸送用燃料総量に占めるバイオ燃料の割合は,ブラジルで約20%にも達しているが,アメリカやEUでもそれぞれ約3%と2%弱にすぎず,他の国ではさらに少ないが,バイオ燃料の生産と利用を開始ないし考慮し始めている。

    ●バイオエタノールとバイオディーゼル

     エタノールは炭水化物を含むバイオマスから発酵によって生産され,通常低濃度でガソリンに添加されて利用されている。ブラジルやアメリカはガソリンに10%のエタノールを添加しており(E10),この混合物はガソホールと通称されている。ヨーロッパの一部の国は5%を添加している(E5)。こうした低濃度のエタノールならエンジンの改良は必要ない。エタノールのオクタン価は高いので,エタノールを30%以上に高めるケースもあるが,その場合にはエンジンの改良が必要になる。

     高オクタン価のアンチノック剤として機能するMTBE(メチル-t-ブチルエーテル:CH3OC(CH3)3)にエタノールを変換してから,ガソリンに添加することもある。かつてアメリカでは,老朽化した地下タンクから漏出したガソリンによってMTBEの地下水汚染が問題になった。つまり,漏出したガソリンは地下水に混ざらないで,土壌に保持されているうちに,土壌微生物によって徐々に分解された。しかし,発がん性を有するMTBEは地下水に溶けて拡散し,地下水汚染問題を起こした。このため,アメリカは2005年にガソリンへのMTBEの添加を2014年12月31日以降禁止することを決定している。

     動植物性の油脂そのものでは粘度が高すぎて,エンジンに不具合を起こしやすい。そこで,動植物性油脂にメタノールと触媒(通常水酸化ナトリウムか水酸化カリウム)を加えて,油脂分子を分解してエステル交換反応を起こし,これに酸を加えて中和したうえで,脂肪酸メチルエステルとグリセリンに分離させる。分離した脂肪酸メチルエステルを精製したのがバイオディーゼル燃料である。

    ●原油価格が上昇しても,バイオ燃料のコスト的優位性は高まっていない

     マクロ的にはバイオ燃料価格は原油価格に連動して変動している。このため,原油価格が高騰している現在は,バイオ燃料価格も上昇し,その生産の経済的優位性が高まっていると一般には考えられがちである。しかし,2004年に比した2007年のバイオ燃料原料の国際価格は,トウモロコシが1.86倍,コムギが2.11倍,植物性オイルが1.91倍に値上がりした。このため,ブラジルのサトウキビ由来のエタノールを除くと,バイオ燃料の生産コストは2006年に比して2007年には大幅に上昇した。2007年のバイオ燃料の正味の生産コストを1リットルのガソリン相当価格で表示すると,ブラジルのサトウキビから製造したエタノールは0.2 USドル台で,約0.5ドルのガソリンよりも安価である。しかし,アメリカのトウモロコシから製造したエタノールは約0.7 ドルで,ガソリンよりも高価である。さらに,EUの砂糖テンサイから製造したエタノールが約0.8ドル,コムギから製造したエタノールは約1.3ドル,ナタネから製造したバイオディーゼルが約1.7ドルで,ガソリンよりも高価であり,特にナタネ価格上昇によってバイオディーゼルの競争力は低下している。

    ●政府支援は国内消費者に割高なバイオ燃料を強いることになる

     ブラジルを除くと,バイオ燃料価格はガソリンよりも高く,政府の公的支援があってはじめてバイオ燃料の利用が可能になっている。本報告書は,アメリカ,EUとカナダのバイオ燃料の供給・利用に対する合計支援額は2006年で年間約110億USドルに達し,中期的(2013-17年の平均年額)には年間250億USドルに増加すると試算している。

     政府がバイオ燃料に対して実施している支援の理由は国によって様々である。共通して温室効果ガスの排出削減や化石エネルギーの削減をバイオ燃料に対する支援の第一の理由としているものの,二位以下の理由は国によって異なり,エネルギー輸入量の削減,都市の汚染軽減,農業所得の向上,農村開発/雇用の創出などの様々な理由を指摘している。

     政府が行なっている公的支援は次の三つのカテゴリーに区分される。

     金銭的支援 バイオ燃料製造業者,小売業者や利用者に対する税の割引か,バイオ燃料の製造・利用に必要なインフラや装置の整備に対する直接支援のいずれかの形でなされている。これらの手段は,既往の税収を減らすか,追加出費を増やすかして,政府予算に直接影響する。

     法的規制 輸送燃料の全使用量に占めるバイオ燃料のシェアないし使用量が最低値以上とすることを法律で規定する。この手段は公的予算に影響しない。しかし,大方の国ではバイオ燃料の方がガソリンよりも高いために,消費者の燃料代負担を増やす。

     貿易制限 主に輸入関税をかける形の貿易制限が行われる。コスト効率の悪い国内のバイオ燃料産業を低コストの外国との競争から保護するための制限であり,国内のバイオ燃料価格を高いものにする。この手段は国外に存在するより安価な代替供給者を活用せずに,国内利用者にコスト負担を強いることになる。

    ●バイオ燃料による温室効果ガス排出削減効果はケース・バイ・ケース

     栽培・収穫したバイオマス原料から製造したバイオ燃料を使用した場合について,本報告書は温室効果ガス排出量の削減率をまとめている。これは栽培から使用までの全工程で排出される温室効果ガス量を,原油から製造したガソリンやディーゼルだけを輸送燃料として使用した場合と比較した研究を整理したものである。そのうち,土地利用が同じ,つまり,森林や草地を畑に開墾するのでなく,畑を畑として利用した場合については次が示されている。

     ブラジルのサトウキビからエタノールを製造した研究例は,いずれもガソリンの場合よりも70%以上の温室効果ガス排出削減率を示しており,約85%の削減率を示した研究が多い。そして,砂糖製造時の副産物から発電する場合には100%を超えるケースもありうる。

     しかし,アメリカ,EUおよびカナダでの現在の支持政策が対象にしている原料では,温室効果ガス排出の削減はずっと少ない。つまり,コムギ,テンサイや植物油から製造したバイオ燃料では温室効果ガス排出の削減は一般に30%以上から60%までで,トウモロコシから製造したエタノールでは通常30%以下の削減で,削減率がマイナスになるケースもある。これは化学肥料の施用量やエタノール製造時のエネルギー使用量などによって,温室効果ガス削減率が変わってくるためである。それゆえ,化学肥料を施用しない木材を原料にして製造したエタノールの場合には,サトウキビなみの高い削減率が得られている。

     ただし,炭素蓄積量の多い泥炭土壌,森林土壌や草地土壌を開墾して畑にして作物を栽培した場合には,土壌蓄積炭素の多くが二酸化炭素になって放出されるので,上記の温室効果ガス排出削減率は著しく低下する。

    ●現在の支援策ではバイオ燃料生産増加による温室効果ガスの削減効果はわずか

     現在の政府のバイオ燃料支援策では,先進国での輸送用燃料の総使用量に占めるバイオ燃料の割合がさほど伸びるとは期待できず,輸送で生ずる温室効果ガスの全排出量のうちで削減できるのは,世界全体で1%以下と試算される。また,輸送セクター全体での化石燃料の削減量も1%以下で,EUのディーゼルセクターで2〜3%の削減にしかならない。削減効果が比較的少ないために,節約したCO21トン当たり960〜1700 USドル,または未使用の化石燃料1リットル当たり概ね0.8〜7 USドルとかなり高価となる。

    ●農産物価格の上昇

     バイオ燃料支援策によって,2007年に世界の粗粒穀物生産量の8%,植物油生産量の9%がバイオ燃料用に使用されたが,中期的にはそれぞれ12%と14%が使用されると予想される。そして,現在のバイオ燃料支援策によって,中期的にはコムギ,トウモロコシおよび植物油の平均価格がそれぞれ約5%,7%と19%押し上げられると試算される。他方,ブラジルでのサトウキビからのエタノール生産量が若干減少し,ヨーロッパでのバイオディーゼル生産が増えて,砂糖価格と油糧種子粕価格が現実に低下している。そして,アメリカの新しいバイオ燃料を助長するイニシアティブとEUの提案中のイニシアティブによって,農産物価格はさらに押し上げられると考えられる。

    ●政府支援策の強化による環境破壊の危険性

     バイオ燃料に対する既存の政府支援策や今後に追加される支援策は,世界的な土地利用変化をもたらし,特にラテンアメリカとアフリカでは作物栽培農地の拡大を加速することになろう。こうしたことは貧しい農村の人達に新しい収入をもたらすことになろうが,一方では森林伐採の加速,温室効果ガス排出量の増加,生物多様性の喪失,養分や農薬の表面流去をはじめとする,環境破壊の可能性を回避する対策を講ずることが必要になる。

    ●政策提言

     上記の事柄を踏まえて,報告書は下記の政策提言を行なった。

     (1) 各国とも多数の目的を持ってバイオ燃料に公的支援を行なっているが,国の優先順位や条件に応じて複数の政策を組み合わせるべきであり,どの国にも適用できる共通の政策組合せはない。

     (2) 運輸部門では,温室効果ガス排出削減に要するコストは,バイオ燃料などの代替エネルギー源に切り換えるよりも,燃費効率の向上などによるエネルギー使用量の節減の方がはるかに安い。

     (3) 代替輸送燃料によって,化石燃料の使用量と温室効果ガスの排出の削減を行なう場合には,排出削減率を最大にするバイオ燃料を対象にすることが必要である。

     (4) 土地利用の仕方はバイオ燃料の環境パフォーマンスに影響する。政府は,劣化しているか自然価値が低くて,作物生産に現在使用されていない土地を使用すべきであり,環境的にセンシティブな土地の使用は止めさせるべきである。

     (5) 国内生産を保護するために原料やバイオマスに輸入関税をかけることは,投入物価格を上昇させてバイオ燃料生産に事実上課税することになる。関税はバイオ燃料輸入にもかけられるが,それによって資源配分を歪曲させ,使用者に負担を強いることになる。バイオ燃料と関連原料の市場開放によって,生産効率の一層の向上と生産コストの一層の低下が可能になり,それと同時に,環境パフォーマンスを向上させて化石燃料への依存度を下げるのに役立つことになる。

     (6) バイオ燃料セクターの今後のさらなる発展・拡大は,中期的な食料価格の上昇をもたらし,開発途上国の最も弱い人達の食料不安定性を高めることになろう。上述した線に沿って現在の支援政策を改善することによって,意図しなかった悪影響を減らすことができよう。そして,より自由な貿易環境の下でバイオ燃料生産を増やすことは,一部の途上国における雇用や収入機会の改善を可能にしよう。

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