No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画
●国の基本方針と都道府県の利用促進計画
1999年に公布された「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」は,家畜排泄物の適正な管理と利用の促進を図ることを目的にしている。そのなかで,農林水産大臣は,家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針を定め,それに即して,都道府県は,農林水産大臣と協議しつつ,当該都道府県における家畜排泄物の利用の促進を図る計画を定めることができることが規定されている。この都道府県計画は,
(1) 家畜排泄物利用の目標
(2) 整備する処理高度化施設(送風装置を備えた堆肥舎やその他の家畜排泄物物の処理の高度化を図るための施設)の内容とその整備に関する目標
(3) 家畜排泄物利用の促進に関する技術の研修の実施と技術向上に関する他の事項
(4)その他の必要な事項
についての計画である。都道府県計画は「定めることができる」もので,策定しないところもある。ただし,策定したなら,直ちに公表し,農林水産大臣に報告することが規定されている。
「家畜排せつ物法」の公布直後に定めた最初の基本方針は,2008年度を目標にした都道府県計画を策定することを求めた。その目標年度が間もなく終わることから,農林水産大臣は,2007年3月30日付けで基本方針を改訂して,2015年度を目標年度として都道府県計画を改正することを求めた。その中で,家畜排泄物の堆肥化の推進とエネルギーとしての利用の推進が軸になっている。
●ホームページで公表されている都道府県計画
改訂した基本方針に基づいて,2015年度を目標にした家畜排排泄物の利用の促進を図るための計画を策定して,県庁のホームページで公開している道県は下記のとおりである。
北海道,群馬県,
埼玉県,
愛知県,
新潟県,
富山県,
香川県(目標2010年度),
徳島県,
愛媛県,
長崎県,
宮崎県
なお,目標年度が2008年度のままの計画をホームページで公開している県は下記のとおりである。
岩手県,
宮城県,
福島県,
長野県,
福井県
●畜産の活発な4つの県における家畜排泄物利用計画の概要
都道府県計画について,記載様式が細かく定められているわけではない。このため,自治体によって記載様式,現状や目標の具体性などにかなりの幅が存在している。
多くの自治体は,現状の家畜飼養頭羽数から排泄物の発生量を試算している。しかし,2015年度における家畜の飼養頭羽数や排泄物発生量の予想値あるいは目標値に加えて,利用量の計画値を明示している自治体はわずかで,宮崎県,愛知県,群馬県,愛媛県の4県だけである(表1)。
表1に示す4県の耕地面積当たりの家畜排泄物量は,宮崎県>群馬県>愛知県>愛媛県の順に多く,この負荷が高い県ほど事態が深刻といえる。
(1)宮崎県の計画の概要
宮崎県では県内農地への負荷を軽くするために,現在,「その他」の浄化処理で816千トン,焼却処理で230千トンと,他3県よりもはるか多くの排泄物を,農業利用以外の形で処理・利用している(焼却処理については,環境保全型農業レポート.No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収を参照)。現在,農業利用している排泄物は3,424千トンだが,このなかには戻し堆肥として利用されている量が多く,実際に耕地に還元されている堆肥量は1,236千トン,液肥は505千トンと試算されている。
宮崎県では2015年度の家畜排泄物量が4,765千トンと,現在よりも若干(295千トン)増えると予測している。現状でも,既に耕地への家畜ふん堆肥や液肥の施用量が施肥基準を超えているケースが多い。このため,浄化処理を95千トン,焼却処理を200千トン増やして,排泄物の増加分を農地に還元しない計画を立てている。そして,現状分に相当する排泄物から製造した堆肥のうち農業外や県外で利用される堆肥量を30千トン増やすことを計画している。
(2)群馬県の計画の概要
群馬県では,2015年度の排泄物量が現状よりも若干減少すると予測している。そして,現在,農業利用されている2,059千トンの排泄物量は,耕種農家で1,225千トン,畜産農家側の利用は833千トンと推定している。2015年度には農業利用される排泄物を1,944千,そのうち,畜産農家の利用量を223千トンに減少させ,耕種農家による利用量を1,637千トンと大幅に増加させ,その他での利用(県外販売であろう)を84千トンにすることを計画している。
家畜排泄物の全体量が減少すると予測されているのに,畜産農家での還元量を大幅に減らすのは,おそらく現在畜産農家での還元量が多くて,地下水汚染などの環境問題が生じているのを減らすためであろう。その分を耕種農家で利用してもらうために,耕畜連携の促進を軸にした計画を立てている。
(3)愛知県の計画の概要
愛知県では,2015年度の家畜排泄物量が若干(67千トン)減少すると見込んでいる。そして,豚と乳用牛では,固液分離した尿の浄化処理を中心に浄化処理(下水処理を含む)する排泄物量を106千トン増やすことを計画している。このため,農業等での利用量を173万トン減らして,1,982千トンと計画している。そのかわり,農業外や県外での利用量を86千トン増やして,県内農業での利用量を259千トン減らすとしている。これも県内での負荷を減らすことが環境保全の点で必要なことを反映していよう。
(4)愛媛県の計画の概要
愛媛県では,家畜排泄物の耕地への負荷が上記3県よりは軽いためであろうが,2015年には排泄物量が増加し,耕畜連携を軸に,農業利用量を増やすことを計画している。
●鹿児島県の率直な問題点指摘
トップクラスの家畜排泄物の負荷が生じている鹿児島県は,家畜排泄物の利用について率直に次の問題点を指摘している。
(1)生産(畜産側)
ア 野積み,素掘など家畜排せつ物の不適切な管理が見受けられる。
イ 基本技術の励行が不十分で,品質の良い堆肥が生産されていない(品質が不安定)。
ウ 経営収支の成り立たない堆肥生産施設もある(売れない,減価償却費の負担)。
エ 堆肥が高コストで生産されている。
(2)利用(耕種側)
ア 堆肥利用のメリットに対する理解が不足している。
イ 施肥基準どおりの施肥がなされていない。
ウ 散布体制が整備されていない(労力不足である)。
エ 堆肥を保管・調整するためのストックポイントが確保・整備されていない。
(3)流通
ア 流通体制が整っていない。
イ 堆肥の需要が1時期に集中している。
ウ 地域間で堆肥の供給がアンバランスである。
各項目の実態などについては具体的に論及せずに問題点だけを指摘しているが,家畜排泄物の負荷が大きな県に共通する問題であろう。
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