環境保全型農業レポート > No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる

    ●家畜ふん堆肥の電気伝導度低下の必要性

     環境保全型農業レポート「No.58.高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問」に記したように,1994年12月に農林水産省農蚕園芸局長通達「たい肥等特殊肥料に係る品質保全推進基準について」で,家畜ふん堆肥の電気伝導度(EC)の望ましい基準値が5 mS/cm以下とされた。しかし,当時においても,流通している家畜ふん堆肥の大部分のECがこの基準値を超えていた。「家畜排泄物法」が2004年11月から完全施行されて,畜産経営体において家畜ふん堆肥を野積みすることが全面禁止された。この結果,雨水を遮断して行なう一次堆積の後,雨水にあてながら行なう二次堆積(後熟)で,塩類を雨水によって流亡させることができなくなった。このため,家畜ふん堆肥のECが以前よりも上昇し,施設園芸を初めとする集約的作物栽培では,土壌のEC上昇による作物生育障害への懸念が高まっている。

     家畜を飼養していない耕種農家が,畜産経営体などから購入した家畜ふんや家畜ふん堆肥を自分の耕地に野積みして,脱塩することは法律違反ではない。しかし,非農家の住宅が近くに存在する都市近郊などの耕種農家では,近隣住民から苦情が寄せられて,家畜ふん堆肥を野積みできないケースが少なくない。

     そこで,家畜ふん堆肥を野積みして雨水で脱塩することなく,家畜ふん堆肥のECを下げる方法が渇望されている。

    ●嫌気貯留した豚ぷんの消石灰添加による堆肥化促進

     石川県畜産総合センターの高橋正宏氏らは,養豚経営体には,労力の関係から豚ぷんを毎日きちんと堆肥化できず,豚ぷんを1週間程度貯留してから堆肥化しているケースが多いことに注目した。そして,そうしたケースでは堆肥化過程がどのようになっていて,きちんと堆肥化するにはどうすれば良いかを検討し,次の結果をえた(石川県畜産総合センター (2001) 嫌気的条件を経た豚糞の堆肥化技術.平成12年度研究成果情報:高橋正宏・柾木茂彦 (2004) 嫌気貯蔵豚糞の堆肥化と消石灰の添加効果.日本畜産学会報.75(3): 429-440)。

     実験的に生豚ぷんを切り返さずに1週間程度貯留すると,嫌気性となって揮発性脂肪酸が増加し,豚ぷんのpHが当初7強の弱アルカリ性から約6の弱酸性に低下した。こうなった豚ぷん(嫌気豚ぷん)に,水分を60%に調整なるようにモミガラを混合してから小型堆肥化実験装置に入れて,常時通気しつつ,7日ごとに撹拌して切り返しながら好気的条件で28日間堆肥化処理をした。

     この間に嫌気豚ぷんでは,品温が2日後に約30℃に上昇しただけで,揮発性脂肪酸もさらに増えてしまった。しかし,嫌気豚ぷんに1%ないし1.5%の消石灰(水酸化カルシウム)を混和して同様に堆肥化処理をすると,揮発性脂肪酸によって低下したpHが改善され,品温が直ぐに約70℃まで上昇し,揮発性脂肪酸も激減して,通常の堆肥化処理を行なうことができた。しかも,堆肥のECが4 mS/cm未満にまで低下した(図1,表1)。そして,詳しくは後述するが,その後の実験で,消石灰添加によって堆肥化期間の28日間における有機物の分解も促進された。なお,1.5%の消石灰ではアンモニアガスの発生量が多くなって,作業者に危険が生ずることも懸念されるので,1.0%の消石灰添加が適当と判断された。

    ●消石灰添加による豚ぷん堆肥の電気伝導度の低下

     上記の実験と同様に,生豚ぷんと7日間嫌気的に貯留した嫌気豚ぷんに,水分がそれぞれ65%と60%になるようにモミガラを混合した後,それぞれ0〜1.5%の消石灰を混合した。混合物を小型堆肥化実験装置に入れて7日ごとに撹拌して切り返しながら,好気的条件で28日間堆肥化処理をした。生豚ぷんと嫌気豚ぷんの双方で基本的には同じ傾向の結果がえられ,1.5%までの範囲だが,消石灰の添加割合が高いほど,ECが低くなった。本稿ではデータを割愛したが,例えば,生豚ぷんの場合,当初のECは6.9 mS/cmだったが,4週間後のECは,消石灰の添加割合がゼロで5.6,0.5%で4.8,1.0%で4.5,1.5%で4.2 mS/cmに低下した。

     では,消石灰の添加によってなぜECが低下したのだろうか。高橋正宏氏らはこの点を解析して,次の結果をえた(高橋正宏・梅本英之 (2005) 消石灰を添加した豚糞モミガラ堆肥は水溶性ミネラルが減少する.平成16年度「関東東海北陸農業」研究成果情報(畜産草地部会):高橋正宏・梅本英之 (2005) 消石灰添加が豚糞堆肥の電気伝導度ならびにミネラル溶出率に及ぼす影響.日本畜産学会報.76(2): 191-199)。

     その一つの原因は,前項で紹介した報告で認められたように,消石灰添加によって豚ぷんのpHがアルカリ性となって,アンモニウムがアンモニアガスとなって揮散して,その分のECが低下することである。それに加えて,豚ぷん中のミネラルの多く部分が消石灰添加によって,水に溶けにくい形態に変わってしまうため,豚ぷん堆肥を水に分散させたときのECが低下したことが確認された(図2)。すなわち,消石灰を1.0〜1.5%添加した豚ぷん堆肥では,水溶性のリン,カルシウム,マグネシウムが存在量の10%未満に激減し,カリウムやナトリウムでも70%未満に減少した。ECは水に溶けているイオン量の指標なので,水溶性のイオン量が減れば,低下することになる。

    ●消石灰施用による有機物分解の促進

     前述したように,消石灰添加によって堆肥化処理28日間における嫌気豚ぷん堆肥中の有機物の分解が促進された(高橋・柾木,2004)。高橋氏はこの点をさらに解析した。すなわち,生豚ぷんと7日間嫌気的に貯留した嫌気豚ぷんに,水分がそれぞれ65%と60%になるようにモミガラを混合した後,0〜1.5%の消石灰を混合して,上記の実験と同様に,混合物を小型堆肥化実験装置に入れた。7日ごとに撹拌して切り返しながら,好気的条件で28日間(4週間)堆肥化処理をした後,その内容物を広口ポリビンに移し替え,隙間ができるように口にふたをずらせて乗せて,わずかな換気ができる状態で,3か月目と6か月目に内容物を撹拌(切り返し)して12か月目まで放置した。そして,界面活性剤を用いた飼料分析法(デタージェント分析法)を用いて,堆肥化過程における有機性成分の動向を分析した(高橋正宏 (2004) 豚糞モミガラ堆肥への消石灰添加がもたらす有機物分解促進効果とデタージェント分析による効果の検証.日本畜産学会報.75(4): 587-598)。

     生豚ぷんと嫌気豚ぷんとも基本的には類似した結果を示したが,消石灰無添加系に比べて,1%および1.5%の消石灰添加系では,4週間までの有機物の分解率が明らかに高まった。ただし,無添加系ではその後の分解率が添加系よりもがむしろ高く,12か月後の有機物分解率には差がなくなった(図3)。これは豚ぷん中のヘミセルロースのほぼ全量と,一部のリグニンの分解が消石灰添加で促進されたためと推定された。

    ●肥料取締法で石灰資材添加家畜ふん堆肥の販売は可能

     消石灰の添加によって家畜ふん堆肥のECが低下し,有機物分解が促進されることは,上述の豚ぷん堆肥に加えて,牛ふん堆肥でも観察されている(畑中博英・窪田泰之 (2002) 未利用有機物資源の堆肥化と利用技術.石川県農業総合研究センター研究報告.24: 17-24)。こうした研究成果に基づいて,野積みして雨水で塩類を洗浄しなくても,消石灰などの石灰資材を添加して,ECの低い家畜ふん堆肥を製造して販売することが考えられる。

     だが,肥料取締法は,石灰肥料などの普通肥料と,家畜ふんや堆肥などの特殊肥料とを厳然に区別して運用されている。普通肥料と特殊肥料の両者を混合したもので,公定規格の定められていないものはできなかった。

     2003年に愛知県が,田原市と渥美町を対象に,家畜ふん堆肥と化学肥料を混合した肥料の販売を容認する「渥美半島バイオリサイクル農業特区」を内閣府に申請した。この問題について内閣府と農林水産省の間でやりとりが行なわれた結果,2004年10月25日付けで,農林水産省消費・安全局から農林水産省告示を変更することの通知文書「肥料取締法に基づく特殊肥料の品質表示基準等の一部改正について」が発行され,「特殊肥料の品質表示基準」(2000年8月31日農林水産省告示第1163号)の一部が,「生産に当たって腐熟を促進する材料が使用されたたい肥を販売する際は,当該肥料にその材料の名称を表示することとする。」に改正され,「特殊肥料等の指定」(1950年6月20日農林省告示第177号)の一部に,堆肥の定義として「尿素,硫酸アンモニアその他の腐熟を促進する材料を使用したものを含む。」が追加された。これによって腐熟を促進させる窒素肥料や石灰資材を添加した堆肥の販売が認められた。

    ●消石灰によるワラの腐熟促進は戦前からの公知の事実

     1932年(昭和7年)8月に旧農林省農事試験場が促成堆肥製造方法講習会を開催し,その講習資料が残されている(農林省農事試験場 (1932) 促成堆肥製造法要綱.p.1〜12.農事試験場)。この資料を高橋正宏氏らが研究報告のなかで引用している。この促成堆肥の製造方法は,1934年に刊行された齋藤道雄著「本邦厩肥の研究」(明文堂,東京)にも「葵式石灰堆肥製造法」と題してその概要が紹介されている(p.290〜299)。「葵」とは農事試験場の技師であった葵見丸氏のことである。家畜ふん尿を使用しないで,ワラに化学肥料窒素を添加して分解を促進して製造した堆肥が促成堆肥である。

     葵氏は,イギリスなどの文献を参考にして,化学肥料窒素の添加に先立って,まず切断したワラに強アルカリ性の消石灰懸濁液をかけて,ワラ組織をアルカリ分解によって崩壊させる。消石灰は間もなく水に溶けている炭酸イオンと反応して炭酸石灰(炭酸カルシウム)に変化して,弱アルカリ性にpHを下げ,微生物の増殖が可能になる。そうなってから化学肥料窒素を添加する堆肥製造方法を,葵氏は推奨したのである。特にムギワラの組織は硬いので,化学肥料窒素を添加しただけでは堆肥化がスムースに進行しないが,消石灰添加でワラ組織を部分的に崩壊させることによって堆肥化がスムースに進行することを利用したのである。

     促成堆肥の製造方法として,昔から研究者は農業者に化学肥料の窒素や石灰の混和を推奨してきた。しかし,そうして製造した堆肥を特殊肥料として販売してはならないとしてきた肥料取締法は,農業現場を無視してきた悪法であったといわざるをえなかった。ただし,ワラ堆肥に比べて窒素濃度の高い家畜ふん堆肥製造に際しては,消石灰添加によってアンモニアガスが高濃度で発生するので,作業に細心の注意を払うとともに,揮散するアンモニアガスを捕集して,大気に逃がさないことが必要である。

     さらに,窒素,リン酸,カリの組成のバランスが悪い家畜ふん堆肥に,普通肥料の化学肥料や有機質肥料を添加・混合して,作物生育に合うように養分バランスを整えたものも特殊肥料として認めることも,農業における物質循環を促進するためにも必要である。

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