環境保全型農業レポート > No.45 コンニャク根腐病対策の新展開
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開

    群馬県が取り組むコンニャクの輪作・被覆栽培

    ●自然生栽培と植玉栽培

     かつてコンニャクは,福島県南部から本州中心部,関西を経て山口県に至る山間部と,四国から九州に至る山間部で自然放任の形で栽培されていた。この方式は自然生(じねんじょう)栽培と呼ばれ,一度植え付けたら除草や有機物の補給を行うだけで,途中で掘り起こさずに,土中で越冬させて,年数の異なる個体の群落を形成させ、大きな個体から収穫していた。自然生栽培のときには在来品種を100〜200年もいわば連作していたが,土壌伝染性病害が特に問題になることはなかった(栗原 浩 (1987) コンニャク自然生栽培.農業技術大系 土壌施肥編 第3巻 p.土壌と活用IV 45-50)。

     今日では毎年春に植え付けて,秋に掘りとり,冬に屋内貯蔵した後,翌春再び植え付ける植玉栽培が行われている。これによって生産効率が高まったが,同じ畑に植え付けるため,コンニャク栽培は土壌伝染性病害との戦いが最も激烈な作物の一つで,土壌消毒が不可欠になっている。  健康食品としてアピールしているコンニャクが、実は農薬多用作物だったというのでは,のイメージが損なわれかねない。

    ●コンニャク根腐病とは

     コンニャク根腐病は,乾腐病,腐敗病,葉枯病とともに,コンニャクの重要な土壌病害の一つとなっている。群馬県では本病は1962年から発生し,一時700 haで発生したが,土壌消毒と殺菌剤の普及によって減少したものの,1995年以降再び増加し,新たな対策が必要となっている(柴田 聡 (2000) 群馬県・コンニャク産地−乾腐病,根腐病,腐敗病,葉枯病.農業技術大系 土壌施肥編 第5-2巻 p.畑 313-327)。

     病原菌は下等なカビのピシウム(Pythium aristosporum Vanterpool)で,出芽時から芽腐れや葉柄基部に黒色壊死や水浸状の褐色腐敗を生じる。土壌水分が高いと発病が多くなるため,降水量の多い年や排水不良の圃場では二次伝染の速度が速く,被害が大きい。発病の最適温度は30℃前後で,25〜33℃の地温で発病が甚だしくなり,低温年には発生が少ない(林宣夫・柴田聡:コンニャク根腐病.CD-ROM版 病害虫・雑草の診断と防除2005)。

    ●輪作と被覆栽培による根腐病の防除

     これまでにも,コンニャク根腐病の軽減には,イネ科作物との輪作や,夏作期間中にコンニャクの畦上にムギを散播する被覆栽培が有効なことが認められていた。群馬県農業技術センターのこんにゃく特産研究センターは,輪作と被覆栽培の効果を体系的に検討し,次の結果を得た(加藤 晃・柴田 聡・内田秀司・斉藤幸雄・斉藤泰亮 (2002) 輪作および被覆栽培によるコンニャク根腐病の発病抑制効果.群馬県農業試験場研究報告.7: 11-20)。

    (1) 夏作ギニアグラス+冬作ライムギ,秋ソバ+冬作ムギ類(ライムギ+コムギ)とコンニャクとの輪作は,クロルピクリンによる土壌消毒を行ったコンニャク連作と同等の根腐病発病抑制効果を示し,収量と品質にも遜色がなかった。

    (2) 土壌消毒を行わずに,コンニャク植え付け時に殺菌剤を株元に施用するだけにして,畦および畦間に,ライムギ,コムギ,ライコムギを全面散播して被覆栽培すると,畦上にだけオオムギを条播する間作栽培に比べて,根腐病が有意に抑制された。 注)オオムギは,アブラムシの吸汁によるウイルスによるえそ萎縮病の蔓延防止を目的に間作。

    (3) 7月初旬からギニアグラス(「ナツカゼ」)を無肥料で栽培して10月初旬に鍬込み,翌年春に土壌消毒や薬剤施用を行わずにコンニャクを植え付け,ライムギ,コムギ,ライコムギを全面散播して,輪作と被覆栽培を組み合わせると,根腐病が劇的に減少した(表)。

    (4) 農家圃場において実規模で栽培したところ,土壌消毒を行ってオオムギを間作した慣行栽培区では圃場周辺部で根腐病がわずかに認められたが,前年にギニアグラスを栽培した後にコムギを散播被覆栽培した区では根腐病が全く認められず,収量が5%増加した。この結果から,輪作+被覆栽培が根腐病の防除に土壌消毒+殺菌剤施用と同程度の効果を有することが確認された。

    (5) ムギ類は,早期に出穂すると,コンニャクの葉を痛め,長く旺盛な生育を示すと,コンニャクの収穫作業を妨害する。出穂しにくく,夏期に自然枯死するものが作業面から望ましく,播性程度?以上のコムギが適していると考えられる。ただし,コムギの草丈が40 cm前後になるので,コムギの被覆栽培は,葉柄長が40 cm以上となる2年生および3年生の圃場に限定して行うことが必要である。

    (6) 散播被覆栽培によって,間作に比べて7月〜9月初旬の日最高地温の平均値が1℃下がることと,被覆作物による水分吸収によって土壌水分含量が低下すること,並びに,土壌の全炭素と全窒素含量が増加することが,根腐病軽減の一因と推定される。

     以上の結果の概要は,平成10年度関東東海農業研究成果情報(生産環境部会)にも収録されている(「ギニアグラス、そばと冬作麦との輪作はこんにゃく栽培の土壌消毒剤に代替可能」,「ギニアグラス輪作と麦類混作の組合せによるこんにゃく根腐病の発病抑制効果」)。

    ●その後の研究展開

     輪作+被覆栽培による根腐病防除の研究は上記の研究論文以降も展開し,次の結果が得られている。

    (1) ギニアグラスを栽培・鍬込み後,翌年土壌消毒剤を使用しないでシラネコムギを被覆栽培して,コンニャクを栽培する。この輪作で3%の収量増加を見込むことができ,借地によって行う場合には,収量増加分によって借地料を充分カバーできる(平成11年度関東東海農業研究成果情報(水田・畑作物部会)「緑肥と小麦被覆栽培によるこんにゃく輪作の土壌消毒代替効果と経済性」)。

    (2) 圃場全面にムギ類を散播すると,ムギ類による養分吸収のために,コンニャクの収量がオオムギ畝上条播に比べて10〜30%低下する。これをカバーするには,被覆作物の播種量を6 kg/10aとして,窒素施用量を慣行の12 kg/10aよりも,コムギ(シラネコムギ)で4〜8 kg、ライムギ(春香)で4 kg/10a程度増肥する必要がある(「ムギ類によるコンニャク全面被覆栽培に適した施肥」.ぐんま農業研究ニュース 第14号.2003年4月)。

    (3) コンニャク畑では,ペンディメタリン乳剤などの除草剤が効きにくい広葉雑草が蔓延してきている上に,ムギ類全面被覆栽培を行う際には,既登録除草剤にはムギを枯死させるものが多い。それを防ぐためには,コンニャクの出芽前に,ピラフルフェンエチル水和剤をムギ類全面被覆栽培で使用するとよい。一時的にムギ類に軽い薬害を出すが,その後回復して生育に影響はなく,薬剤散布の翌日には広葉雑草が枯死して,高い除草効果が得られる。ピラフルフェンエチル水和剤は2003年8月にコンニャクに登録拡大され、コンニャクの出芽前までの散布が可能となっている(「コンニャクのムギ類全面被覆栽培に適した新除草剤」.ぐんま農業研究ニュース 第18号.2004年4月)

    ●輪作・被覆栽培による根腐病軽減の普及プロジェクト化

     こうした研究成果を踏まえて,群馬県は輪作・被覆栽培による根腐病軽減を普及プロジェクトにすることを2006年5月8日に報道発表した。県内6か所に実証圃場を設けて,7月に現地研究会を開催し,秋に収穫調査を行って,2007年3月に成績検討会を行う予定である。輪作・被覆栽培を今の時点で現地に普及させようとするようになったのは,土壌消毒に対する批判が厳しくなり,現地が土壌消毒代替技術を求めるようになったことなどが契機になっているようである。  なお,コンニャクの栽培から加工・販売については,群馬県特作技術研究会編「コンニャク」(新特産シリーズ.204頁)(2006年2月)(農文協)が刊行されており,その中で輪作・被覆栽培による根腐防除も言及されている。
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