環境保全型農業レポート > No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は?
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は?

    ●ダブルローのナタネ品種

     日本ではナタネ油が古くから食用に使用されてきた。しかし,古い品種で製造したナタネ油には,人間や家畜の健康に害を及ぼす恐れのある成分が含まれていた。一つは,心臓障害を起こす危険のある不飽和脂肪酸(エルシン酸。エルカ酸ともいう)残基で,もう一つはイソチオシアネートの前駆体(グルコシノレート)から油を絞る際に生ずる分解産物で,甲状腺障害を起こす危険がある。このため,食用油の摂取量の多いアメリカは,ナタネ油の食用使用を禁止していた。他方,カナダは,エルシン酸を含まないと同時に,グルコシノレートも削減した品種を育成した。こうした品種はエルシン酸とグルコシレートの双方がないか低いので,「ダブルロー」の品種と呼ばれている。これが流通するようになって,アメリカも1985年からナタネ油の食用使用を認可した。

     ちなみに,ナタネ油は英語でrape oilだが,この名称は別の意味を持つrapeを連想させ,消費者に積極的に宣伝できる名称とはいいがたい。このため,Canada oilの意味を持つcanola(キャノーラまたはカノーラ)と呼んでいる。

    ●バイオマスからのバイオ燃料の製造

     サトウキビやトウモロコシからのバイオエタノール生産が,ブラジルやアメリカなどで本格化している。特にブラジルのサトウキビからのバイオエタノール価格はガソリンよりも安価で,生産が本格化している(環境保全型農業レポート.No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘)。他方,EU(欧州連合)はナタネの過剰生産を抱えていた。このため,ドイツなどではナタネからバイオディーゼルの製造が取り組まれている。しかし,バイオディーゼルの生産コストはバイオエタノールよりも高く,さらに最近のナタネ価格の上昇によって競争力が低下している。そして,バイオディーゼルとバイオエタノールの経済的な境界点が,それぞれ,バレル当たりの原油価格が69〜76ユーロ,63〜85ユーロと試算されている(EU (2007) COM (2006) 845 final. Communication from the Commission to the Council and the European Parliament Biofuels Progress Report: Report on the progress made in the use of biofuels and other renewable fuels in the Member States of the European Union. 16p. )。この原油価格は2007年の平均為替レートで換算すると,バイオディーゼルで94〜104ドル,バイオエタノールで86〜116ドルになる。2008年8月には原油の先物価格が約145ドル/バレルにまで上昇したが,こうした事態の下ではバイオ燃料は原油と競争できることになる。

    ●日本におけるナタネの栽培状況

     わが国では,戦争で減少したナタネ生産が終戦後に復活し,1957年に作付面積が25.9万haのピークに達した。しかし,選択的拡大の方針の下で,コメを除く穀物,ダイズ,油糧作物種子は輸入に切り換えられて,その後にナタネ生産は急激に減少し,2001年には全国でわずか301 haが栽培されるだけとなった(図1)。そして,2002年からはナタネは作物統計の対象でなくなり,農林水産省生産局が個別の県に問い合わせて集約している。

     ナタネ種子の国内生産量は2001年で650トンしかない。そのなかで,主たる生産県は青森県,北海道,福島県,鹿児島県である。そして,農林水産省の油糧生産実績統計によると,2005〜2007年に,国産ナタネ種子467〜629トンを処理して,ナタネ油原油172〜234トンと油粕256〜352トンを生産し,輸入ナタネ種子217〜227万トンを処理して,原油93〜97万トンと油粕122〜129万トンを生産した。なお,ナタネ種子は重量で40%の油を含有し(比重0.9),油を絞ると種子重量の約70%の重量の油粕が生産されるとされている。

     ナタネの栽培には次の注意が要求される。(1) 種子が小さいため,覆土が厚くなりすぎないように,圃場の砕土・整備を十分に行なう,(2) 発芽〜幼苗時期は湿害にとくに弱いため,圃場に明渠を切るなどの排水対策を施す,(3) 通常,秋に播種するが,適期に播種して,越冬前の生育量を確保する,(4) 収穫は梅雨期になるため,穂発芽が起きないように迅速に収穫する,(5) 汎用コンバイン収穫では,裂莢による収穫ロスを小さくする(山守 誠 (2008) ナタネ栽培の現状と活用の広がり.農業技術大系.作物編 第7巻 ナタネ p.基10-2〜10-7.農文協) 。

     日本のナタネの平均単収は増加傾向にあり,最近では約250 kg/10aに達しているが,年によっては単収が大きく落ち込んでいる(図1)。これは播種期や収穫期の多雨といった天候不順が原因と推察される。

    ●生産コスト

     2つの研究からナタネの栽培コストについて表1を作成した。  小野ら(2007)は,調べた事例で,耕起・播種・施肥・除草・収穫調製における物財コストには大差がないものの,単収が大きく違うために,作業効率が異なって,減価償却費や労賃に大きな差が生じているとしている。

     生産コストは単収レベルによって大きく異なってくるが,2007年におけるドイツのナタネ栽培面積は154.8万ha,平均単収は344 kg/10aとなっている。ただし,日本でも2007年産の北海道滝川市では寒地に適した‘キザキノナタネ’を栽培して,平均単収340 kg/10aという多収事例をあげている(山守,2008)。こうした高い単収を上げられれば,生産コストを引き下げることができるはずである。

    ●二酸化炭素排出量の削減に向けたシナリオ

     二酸化炭素排出量を削減するという面から考えたとき,ナタネ種子を搾った新しい油(バージンオイル)から直接バイオディーゼル燃料を製造するのは妥当なのだろうか?

     小野ら(2007)は,ナタネを栽培・収穫して,搾油し,油をエステル化してバイオディーゼルを生産するプロセスにおけるLCA(ライフサイクルアセスメント)を,産業関連分析法で推計した二酸化炭素の排出量で行なった。その際,前提として,10 haの団地でナタネを栽培し,種子からの油の抽出は圧搾法(搾油率は30%)とし,生産に要する物財費や減価償却費ならびに収量をもとに,現状水準と,技術進歩がみられた2つのレベルの,計3つのシナリオを想定した(シナリオは表2を参照)。

     いずれのシナリオであっても,バージンオイルをエステル化してバイオディーゼルを生産する場合には,栽培プロセスで二酸化炭素が生ずるのに加えて,ナタネ油をバイオディーゼル化する過程で電力を要するなどのために,多量の二酸化炭素が発生する。このため,石油から製造した軽油を燃料にする場合よりも,二酸化炭素の発生量が多くなるとの結果がえられた。すなわち,シナリオ1(表1の小野ら(2008)の山形県金山町を想定した現状水準)では,軽油を燃料にした場合よりも,二酸化炭素の排出量が3倍以上も多かった。そして,シナリオ1に対して単収が2.5倍に高まって,物財費と減価償却費がそれぞれ5割削減された場合(シナリオ3)でも,軽油を燃料にする場合より,4割程度も二酸化炭素の排出量が多いと計算された。

     この結果は,ナタネを栽培して抽出した新鮮なナタネ油からバイオディーゼルを製造する場合には,単収を現在水準よりもはるかに高くするか,油のエステル化に要するエネルギー使用量を大幅に減らす技術が作れないと,軽油を使用する場合よりも二酸化炭素排出量を減らすことができず,したがって,バイオ燃料なら環境にやさしいとは一概にいえないことを示している。

     バイオディーゼルは,バージンオイルからだけでなく,天ぷらなどに使用した廃食油をエステル化して製造することもできる。そこで,小野ら(2007)は,ナタネを栽培・搾油した農家が,ナタネ油を天ぷらなどに利用した後に,バイオディーゼルに変換し,かつ,ナタネ油粕を肥料として利用する場合のLCA分析を二酸化炭素排出量で行なった。想定したシナリオは上述した3つであるが,バイオディーゼルに変換可能な廃食油の利用可能率を,シナリオ1で85%,シナリオ2で90%,シナリオ3で100%と仮定した。

     ナタネ油をいったん食用に利用してから,その廃食油をバイオディーゼルに変換する場合には,バージンオイルを変換する場合よりも,現状水準(シナリオ1)では二酸化炭素排出量がプラスになるが,シナリオ2ではほぼゼロになり,シナリオ3で排出量が減少すると計算された(表2)。したがって,ナタネを栽培して製造した油を食用に使った後に,廃食油をバイオディーゼルに変換するのであれば,システムトータルとして二酸化炭素排出量をマイナスとするのも不可能でない。

    ●採算性改善に向けた方策

     では,採算の面からはどうなるだろうか? 鍵を握るのがナタネ油粕の扱いである。

     日本は輸入したナタネ種子から多量の油を生産しており,その副産物であるナタネ油粕を有機質肥料や家畜飼料として利用している。ところが,ナタネ油からバイオディーゼルを製造する研究は,これまで副産物のナタネ油粕の利用をほとんど注意してこなかった。野中(2009)は,ナタネ油粕を有機農家に販売できれば,ナタネ栽培に要する物財費かなりの部分を回収することができることに注目した。

     飼料用のナタネ油粕は35〜40円/kgで販売され,非遺伝子組換えのナタネ由来のものはそれよりも5円/kg高くなっている。ただし,国内でダブルロー品質の品種として‘キラリボシ’と‘タヤサオスパン’が栽培されているが,その作付面積はまだ多くなく,大部分はエルシン酸ローだけで,健康への危険性を秘めたもう一つの物資グルコシノレートを含んだ品種が多い。このため,国産ナタネ油粕を飼料よりも有機質肥料として利用したほうが安全である。

     ナタネ油粕の価格は有機質肥料としても飼料としても同じとして,野中(2009)は,国産の非遺伝子組換えナタネであれば,肥料用に50円/kgで売れると想定した。そして,油の比重は0.9だが,1.0とするなど,計算を単純化して,ナタネ60 kgから油粕が42 kgと油18 kgが生産できるとした。油粕が50円/kgで有機栽培農家に販売できたとすると,ナタネ生産に要する物財費のかなりの部分を回収でき,物財費の残りが,表1の山形県金山町では1,875円に圧縮できる(60kg当たり物財費3,975円−油粕販売2,100円)。この額は油1リットル当たりに換算すると104円となる。そして,ナタネ油をエステル化してバイオディーゼルに変換する資材費と電気代を加算すると,バイオディーゼルの生産コストはリットル当たり128円となる。これは2008年7月の軽油価格(120円/リットル)とほぼ同じとなる。したがって,油粕を有機栽培農家に販売できれば,ナタネ生産農家は,自らナタネ油を加工するなら,軽油に近い価格でバイオディーゼルを生産できることになる。

     なお,野中(2009)の研究の概要は,野中章久 (2009) 油かすの有機農家への販売は産地搾油ナタネの採算性を大きく改善する.平成20年度東北農業研究成果情報にも掲載されている。

    ●非遺伝子組換えナタネ油粕の入手の難しさ

     有機農産物の日本農林規格では,ナタネ油粕などの肥料や土壌改良資材は,製造工程において化学的に合成された物質が添加されていないもの,および,その原材料の生産段階において組換えDAN技術が用いられていないものに限って使用できることを規定している。しかし,経過措置として,そうした資材の入手が困難である場合には,当分の間,該当しない資材を使用することができるとしている。

    (1)拡大する遺伝子組換えナタネの栽培

     有機農業では,原則として遺伝子組換え生物やそれを材料にした資材を使用することができない。それなのに,有機農産物の日本農林規格で,当分の間,遺伝子組換え作物由来の油粕などを認めるのは,非遺伝子組換えナタネの入手が実際には難しいからにほかならない。因みに,農林水産省消費・安全局の表示・規格課が作成した「有機農産物及び有機加工食品のJAS規格のQ&A」には,「当分の間」とは,有機農産物のJAS規格の次回の定期見直しの改正までの4年間を指すと記述されている。定期見直しは2011年度と考えられるが,そのときには非遺伝子組換えナタネの入手は一層難しくなっていると予想される。

     日本は多量のナタネを輸入しているが,その8割をカナダ,2割をオーストラリアから輸入している。カナダでは既に,ナタネの約9割が除草剤耐性遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え体である。オーストラリアは2007年11月まで遺伝子組換えナタネの栽培を禁止していたが,2008年から解除して,遺伝子組換えナタネの栽培が開始されることになった。ただし,キャノーラ種子が少なく,干ばつの問題もあるので,一気にキャノーラに置き換わるとは考えられないし,西オーストラリア州はなお遺伝子組換えナタネの栽培を禁止している(ロイター,2008年3月14日)。

     したがって,遺伝子組換えナタネの栽培が広がってきているとはいえ,非遺伝子組換え体のナタネを輸入できないわけではない。日本には非遺伝子組換えのナタネ油粕を販売している業者の数は少ないが存在する(福岡県の平田産業有限会社埼玉県の米澤製油株式会)。こうした業者から非遺伝子組換えのナタネ油粕を購入できる。

     ところが,遺伝子組換え食品に反対している消費者は非常に多いにも関わらず,実際には,日本ではカナダなどから遺伝子組換えしたナタネ種子を多量に輸入して,国内でナタネ油を生産している。キャノーラ油は体に良いという宣伝が行き届いているのか,消費者に歓迎されているのが現実である。

    (2)国内での非遺伝子組換えナタネ栽培の意外な難しさ

     上述したように,野中(2009)は,非遺伝子組換えナタネを国内で栽培して,油からバイオディーゼルを生産し,油粕を有機栽培農家に販売して,バイオディーゼルの生産コストを引き下げることを提案した。ところが,国内で非遺伝子組換えのナタネを栽培するのは意外に難しいケースが存在する。

     青森県は1990年から無エルシン酸の新しいナタネ品種を栽培し始めたが,10年近く経過した1998年時点で,エルシン酸を含んでいなかったナタネのサンプルは6%のみで,ほとんどのサンプルにエルシン酸が含まれ,5%を超えるエルシン酸を含んでいるサンプルが8%存在した。販売上5%以下のエルシン酸の混入は許されるので,残る92%のナタネは販売できるため,油の販売に致命的な影響を与えるものではない。しかし,普通コンバイン収穫では10%程度の収穫ロスが起き,収穫時に落下する種子量が播種量よりも多くなるケースが少なくない。このため,古い品種を栽培していた圃場で引き続いて新しい品種を播種しても,圃場にこぼれていた多量の種子から育った古い品種の個体が共存することになる。ナタネは自家和合性だが,虫媒や風媒によって,10〜30%の自然交雑が起きるとのことである(柳野利哉・長谷川夏子・熊谷憲治 (1999) 無エルシン酸ナタネ生産現場におけるエルシン酸混入の実態.育種学研究.1: 221-222)。

     このため,新しい品種を栽培する際,これまでナタネを栽培していなかった圃場で栽培するなら問題ない。しかし,ナタネ栽培農家は,古い品種を栽培していたのと同じ圃場で新しいナタネ品種を栽培するケースが多いであろう。そうした場合,古い品種を生やさないようにするには,除草剤耐性のナタネ品種を播種し,除草剤散布によって古い品種を駆除することが考えられる。しかし,これでは有機栽培農家からは歓迎されない。薬剤によらない方法で,畑に埋蔵されている種子を殺してから,ダブルローのナタネ品種を栽培することが必要になる。

    ●ナタネ栽培の環境保全的意義

     ナタネを栽培して製造したバイオディーゼルを使うことの環境保全的意義として,化石エネルギー消費量を減らして,二酸化炭素排出量を削減することが強調されている。しかし,わが国ではナタネの栽培面積が激減してしまっていて,どの程度回復できるかには疑問がある。

     ナタネ栽培面積の大幅な回復が難しいとすれば,輸入種子から抽出したナタネ油を食用利用して,その廃油をバイオディーゼル化して利用するだけでも,軽油使用量の削減に貢献する。あえてナタネを栽培しなくても,廃油利用だけでもかなりの効果があろう。

     ナタネを栽培することの環境保全的意義を考えるなら,ナタネを冬作物の一つとして,冬作物の環境保全効果を強調すべきであろう。露地野菜畑などでは冬期が裸地になっていて,秋の収穫後に残っていた硝酸などの養分が梅雨期の雨によって,地下に浸透して,地下水汚染を起こしている。また,早春の春一番で激しい風食が起きて,近隣住民から苦情を受けている。水田よりも畑でナタネやムギ類といった冬作物を栽培することによって,水質保全や風食防止といった環境改善効果が高い。こうした環境保全的意義を重視して,冬作物栽培に補助金を出す仕組みが望まれる。

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