環境保全型農業レポート > No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測

    福井農試がホームページで予測量や基肥施用量の目安などを提供

    ●地力窒素発現量予測の重要性

     施肥基準で化学肥料の施用量を決めるには,まず目標収量を設定して,その収量を上げるのに必要な作物体の吸収すべき養分量を計算する。そして,その必要養分吸収量から,土壌,灌漑水や降雨などから供給された天然養分の吸収量を差し引き,不足する養分量を算出する。不足養分量は化学肥料で施用するが,その量は化学肥料養分のうちの作物に吸収される養分の割合(利用率)で不足養分量を除して決定している(次式を参照)。

    【化学肥料養分の施用量】=(【必要養分吸収量】−【天然養分吸収量】)× 100/【化学肥料養分の利用率%】

     三要素の中で,通常,作物の生育を最も強く制限していて,かつ無機態と有機態の形態変化が激しく起きる窒素がまず問題になる。水稲では目標収量を上げるだけでなく,食味も問題になることから,過繁茂が起きず,頴花数と稔実歩合,さらに食味も適正に保たれる最適窒素保有量が,必要窒素吸収量の代わりに使用されることが多い。

     こうした施肥量決定過程から分かるように,土壌や灌漑水から供給される天然養分の吸収量を知り,それによって化学肥料の施用量を変えることが大切である。では,天然養分吸収量をどのように測定するのか。

     天然養分吸収量は通常,無肥料か,当該養分だけを無施用にした試験区の養分吸収量で測定している。この測定は作物を栽培して行うため,数か月を要する。そこで短時間で測定するために,土壌を一定温度で培養したときに放出される養分量または土壌から一定の方法で抽出される養分量と,圃場で測定した天然養分吸収量との関係を調べておいて,分析した養分量から天然養分吸収量を推定している。

     多くの都道府県の施肥基準は,天然養分吸収量として平年の気象条件での値を採用している。しかし,天然養分のうちの土壌から無機化されてくる地力窒素量は,気象条件などによって異なってくる。そこで,地温の推移に対応して地力窒素供給量を予測する方法として,温度変換日数法が考案されている(金野隆光(1990)地力窒素発現予測法.農業技術大系.土壌施肥編 第4巻.p.基本272-6〜272-15.農文協)。この方法は堆肥を施用していない水田ではかなり高い予測精度を持っているものの,地温データがアメダスなどで提供されていないために,農業者が直接利用するわけにはゆかない。また,北陸地方や東北地方の日本海側の水田では,温度だけでなく,春先の土壌の乾燥状態が地力窒素の放出量に大きく影響するが,温度変換日数法はこの問題を考慮していない。この点を踏まえた土壌からの無機態窒素放出量を予測する研究もあるが,測定に手間がかかる(鳥山和伸・関矢信一郎・宮森康雄(1988)湛水前の土壌乾燥が土壌窒素の無機化量に及ぼす影響の定量的把握.日本土壌肥料学雑誌.59: 531-537)。

    ●福井農試の地力窒素供給量予測の出発点

     福井農業試験場は,精度が多少落ちるとしても,多数の現地水田での地力窒素放出量を予測する方法を考案した。その端緒になった研究は,10年間にわたって,毎年4月20日頃に試験場の水田から土壌を採取して直ちにガラスビンに入れ,湛水・密閉状態で30℃に4週間保温静置して,放出される無機態窒素量を測定した研究である。採取した水田は化学肥料のみを施用した区と,毎年秋にワラを全量還元して化学肥料を施用した区であった。2つの系列の水田土壌でともに,30℃・4週間に放出される無機態窒素量は毎年異なった。

     10年分の無機態窒素放出量のデータをまとめると,毎年3月21日〜4月20日の日射量と雨量を変数にした関数式によって,当該年度に採取した土壌を30℃・4週間保温静置したときに放出される無機態窒素量が概算できることが確認された。これは4月20日に採取した土壌からの無機態窒素放出量は,採取時の土壌の乾土効果(乾燥にともなう無機態窒素の放出促進)の程度によって毎年異なり,3月21日〜4月20日の日射量と雨量の値を使うことによって乾土効果を反映した相関式を得ることができたと理解できる(平井?一・伊森博志・田中英典・森川峰幸・中島健一・川端顕子 (1997) 水田土壌における土壌窒素無機化量の年次変動と気象要素による予測.福井県農業試験場研究報告.34:49-57)。

     ちなみに水田土壌からの無機態窒素の放出は,気温が15℃以下ではごくわずかだけである。15℃を超える温度と日数の積を有効積算気温と呼んでいるが,30℃・4週間は有効積算気温で420℃・日となる。土壌を採取した4月20日を起点にすると,福井県では圃場の有効積算気温が420℃・日になるのは7月上旬で,コシヒカリの幼穂形成期に相当する。

    ●福井農試の地力窒素供給量の予測方式

     上記の研究を踏まえて,福井県内の代表的水田地帯の水田132地点と試験場圃場について,2000年〜2004年の5年間,毎年4月上旬に土壌を採取して,30℃・4週間保持したときの無機態窒素放出量を測定した。そして,5年間の無機態窒素放出量のデータに適合するように次の予測式にあるa,b,cの圃場固有の3つの係数を各圃場について計算した。

    【無機態窒素放出予測量(mg N/100g乾土)】=a×【3月21日〜4月20日の日射量(MJ/m2)】 +b×【3月21日〜4月20日の降水量(mm)】+c

     30℃・4週間の保温静置で放出された無機態窒素の実測値あるいは予測値はmg N/100g乾土で表示されるが,仮比重を1.0として,mg値に作土深(cm)を乗じて10で割れば,kg N/10aに換算できる。このkg/10aに換算した無機態窒素放出量を幼穂形成期までの「地力窒素発現量」とした。

     福井県ではコシヒカリについて幼穂形成期の目標窒素吸収量を4.5 kg/10aとしている。「地力窒素発現量」のうちコシヒカリに吸収される窒素の利用率を,福井県では土壌型によって60〜80%としている。したがって,「地力窒素発現量」に地力窒素利用率を乗ずれば,コシヒカリに吸収された地力窒素量が計算できる。そして,目標窒素吸収量の4.5 kg/10aと地力窒素吸収量の差を基肥の化学肥料窒素で施用するが,基肥化学肥料窒素の利用率は土壌型で30〜40%なので,不足窒素量を化学肥料窒素利用率で割れば,基肥量が計算できる(福井県農業試験場・生産環境部・土壌・環境研究グループ (2006) コシヒカリ基肥量診断システム.平成18年度普及に移した技術)。

    ●ホームページで提供

     福井県農業試験場はこうした計算結果を2006年からホームページで提供し始めた。

     対象水田は堆肥を施用しておらず,小麦ワラを全量還元している水田である。福井県の7地域を示す地図がまず表示される。その地図の目的地域をクリックすると,132のモニタリング水田のうち当該地域内に存在する水田の所在地の地図が表示される(図1)。そのどれかをクリックすると,当該水田の所在する町名,土壌型,作土深,幼穂形成期までの地力窒素発現量の平年値(2000年〜2004年の5年間の平均値),本年の予測値とその平年比,地力窒素と基肥化学肥料窒素の利用率,基肥化学肥料窒素施用量の目安,注意事項が表示される(図2)。

    ●今後の課題

     施肥基準は,地力窒素の供給量とその水稲による吸収量として平年値を採用している。しかし,これらの値は年次によって異なるので,毎年度これらを田植え前に予測して基肥量を調節できるようにすることは水稲への適正施肥を確保する上で大切であり,農業者に直接こうした情報を提供するようにした福井農業試験場の試みは画期的といえる。

     しかし,その予測方式は理論的な面でいくつかの弱点を有している。  第1は,30℃・4週間に放出された無機態窒素量を,幼穂形成期までの地力窒素発現量としたことの妥当性である。水田土壌を湛水状態で保温静置したときに,乾土効果などによって直ぐに無機化されてくる窒素と,その後徐々に長期にわたって無機化されてくる窒素に区別され,有効積算温度に比例して放出されてくるのは後者である(鬼鞍 豊・吉野 喬・前田乾一 (1975) 稲作期における土壌窒素の有効化過程.日本土壌肥料学雑誌.46: 255-259)。福井農試の予測式では,有効積算温度の420℃・日がコシヒカリの幼穂形成期に相当するとしているが,有効積算温度に比例した無機化が生ずるのは,30℃・2週間の保温静置の後に放出される無機態窒素であり,通常は10週間の保温静置によって測定している。したがって,30℃・4週間の保温静置での窒素無機化量を幼穂形成期までの地力窒素発現量としたことの妥当性を示すことが必要である。

     第二は,放出された地力窒素が水稲に吸収される割合(利用率)の妥当性である。通常は地力窒素の利用率を強いて必要とせずに,無肥料で栽培した水稲が実際に吸収した窒素量を測定している。福井農試では水稲が実際に吸収した地力窒素量を測定せずに,利用率によって計算したわけである。化学肥料窒素の利用率は他の多くの研究と比べて妥当な値だが,地力窒素の利用率はいささか高すぎると思える。稲ワラ堆肥から放出された無機態窒素の水稲による全生育期間での利用率は,北海道50%,東北40%,関東以西33.3%とされている(志賀一一・大山信雄・鈴木正昭・前田乾一・鈴木弘吾 (1985) 水田における有機物管理が土壌の有機物集積,窒素供給能,水稲生育におよぼす影響.農業研究センター研究報告.5: 21-38)。また,山形県のササニシキでは地力窒素の利用率が6月30日まで(幼穂形成期よりも2週間前)30%,7月1日以降60%としている(上野正夫 (1994) 山形県における良質米(水稲ササニシキ)の安定生産のための生育と窒素吸収パターン並びに地力窒素を生かした窒素施肥法の開発.山形県立農業試験場特別研究報告.22: 1-86)。こうした研究と比較すると,福井農試で幼穂形成期までの地力窒素利用率を60〜80%にしたのは高すぎると思える。

     勝手な憶測だが,第一の問題は過小評価だが,第二の問題では過大評価となり,両者の積は適正な概算値になった可能性も考えられる。

     理論的に弱点があっても,農業者に地力窒素の発現量についての情報を田植え前に提供するようにしたことは画期的である。今後,予測式の理論的な練り上げが期待される。

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