環境保全型農業レポート > No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
    以前の記事一覧

  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行

    ●IPM(アイ・ピー・エム)とは

     IPM(integrated pest management:総合的病害虫・雑草管理)は,初めに害虫分野で発展した。

     殺虫剤散布は劇的な害虫防除効果を示した。しかし,使い続けられるうちに,有機塩素系殺虫剤の長期残留物による人体や生態系への害作用が問題になり,さらに,殺虫剤散布による天敵の減少や殺虫剤抵抗性害虫の出現によって,害虫被害がかえって甚大化するケースも生じた。このため,殺虫剤の使用を必要最小限に抑え,他の防除方法も併用して,人体に対するリスクと環境への負荷を軽減し,消費者に信頼される農作物の安定生産に貢献しようというIPMが害虫分野で発展したのである。

     こうした問題意識は害虫から病原菌や雑草にも拡大した。農林水産省消費・安全局は「総合的病害虫管理(IPM)検討会」を開催して,IPMの具体的実践指針をまとめた。その際,IPMを,雑草の管理を含め、総合的病害虫・雑草管理と定義した。また,同検討会は主要品目について,具体的なIPM実践モデルを提示している(環境保全型農業レポート.No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案)。

    ●総合的雑草管理マニュアル

     最少量の除草剤を使用しつつ,他の防除方法と組み合わせて行なう総合的雑草管理(integrated weed management: IWM)は,成功事例もあるが,難防除雑草については,草種の異なる広域で確実に使えるとは限らない。このため,(独)中央農業総合研究センター(中央農研)が中核になり,全国の独立行政法人や都道府県の農業研究所が共同して,2007年からプロジェクト研究「難防除雑草の埋土種子診断と個体群動態−経済性評価統合モデルに基づく総合的雑草管理の検証」を実施した。その成果のなかから,中央農業総合研究センター (2011) 総合的雑草管理マニュアル.64p. がまとめられた。

     その構成は,

     第一部:現地実証試験において有効性が実証でき,かつ,当該技術を継続使用した場合に,雑草量の削減や作物単収の確保を持続できることがシミュレーションモデルで予測でき,コスト計算を行なって生産コストを削減できるか,作物単収が向上して収益が向上することが確認でき,生産現場での普及に移せると判断されたIWM体系

     第二部:現地での持続性評価に至らなかったものの,現場でIWMの要素技術として活用できると考えられる技術

     第三部:IWM 体系の評価手法の解説や,評価手法に基づくIWM 体系成功のための提言

     からなる。

     ここではこのうち,第一部にまとめられた,普及に移せる3つのIWM体系を紹介する。

    ●夏季石灰窒素・小麦晩播不耕起栽培によるネズミムギの被害軽減

     ネズミムギはイタリアンライグラスと同じ種名で,雑草化した野生集団がネズミムギ,牧草利用されている系統がイタリアンライグラスと呼ばれている。

     ネズミムギの種子は連続2か月の湛水で死滅するため,水稲が毎年栽培されていれば問題なかったが,水稲なしでダイズとコムギを連作している転換畑で大きな問題となってきている。ネズミムギは,コムギと同じ期間に生育して,ひどい場合にはコムギ収量を80%以上減収させる被害を起こしており,被害が本州以南のコムギ作で年々広がっているという。なお,静岡農林技術研究所の石田義樹氏の補足によると,静岡県で問題となっているネズミムギの生育特性は,主力牧草品種とは明らかに異なる別物で,飼料には使えないものとのこと。侵入経路としては,法面緑化に使用された安価な資材が繁殖したのではないかと考えられるとのことである。

     田畑輪換ができないダイズ−コムギ連作圃場におけるネズミムギIWMとして,静岡県の現地圃場で下記のことが確認できた。

     (1) コムギ収穫後,なるべく早い時期に石灰窒素を50 kg/10aを目安に施用し,直ぐに耕起せずに,地表面のネズミムギ種子の死滅を促進させる。なお,石灰窒素施用後にコムギ残渣を焼却すると,ネズミムギ種子死滅効果が大幅に減ずるので,残渣の焼却は行なわない。

     さらに,

     (2) 土中のネズミムギ種子をできるだけ多く発芽させて非選択性除草剤の処理効果を高め,かつ,ネズミムギの出芽数を減らすために,コムギを晩播する(現地試験を実施した静岡県では12月が限界)。その際,播種の少し前に非選択性で移行性の除草剤(グリホサートカリウム塩液剤など)を散布してから耕起する。そして,播種後にジフェニカン・トリフルラリン乳剤などの効果の高い土壌処理剤を散布する。

     (3) 通常の播種量で晩播すると,コムギ収量が減少する。しかし,播種量を1.5 倍以上にすることで,12 月播種であっても収量を通常の11月播種よりも若干高くすることができる。

     この技術については下記も参照されたい。

     浅井元朗・渡邊寛明・澁谷知子・與語靖洋 (2008) 麦収穫後の石灰窒素施用はカラスムギ、ネズミムギの出芽パターンを変える.平成19年度共通基盤研究成果情報

     稲垣栄洋・木田揚一・石田義樹・鈴木智子・足立有右・市原実・山下雅幸・澤田均 (2008) 小麦作におけるネズミムギ被害の達観調査指標.平成19年度関東東海北陸農業研究成果情報

     なお,本技術は水田に戻せないケースでの対策であり,夏期に湛水できる畑であれば,ネズミムギ種子は50日間程度の常時湛水条件で約90%死滅させることができる。

     木田揚一・石田義樹 (2006) 夏期湛水による麦作難防除雑草カラスムギおよびネズミムギの防除効果.平成17年度関東東海北陸農業研究成果情報

    ●ムギのリビングマルチによるダイズ栽培における除草剤の削減

     ダイズと同時に播種した秋播き性の高いムギ類品種を,生きたマルチ(リビングマルチ)として活用し,生育初期の雑草を防除する。ムギ類は低温に遭遇しないので,夏に出穂することなく枯死して自然に倒れ,その茎葉が地表面を被覆し,生育後期ではワラマルチとして雑草を防除する。

     現地試験を実施した南東北の場合,6月初めにダイズとリビングマルチ用オオムギ(てまいらず,シンジュボシ,べんけいむぎ),あるいはコムギ(ゆきちから,ナンブコムギ)を播種する。播種量は,ダイズは通常と同じで2〜3 kg/10a,ムギは8〜10 kg/10a。播種方式は,ムギ類とダイズともに条播とする方式のほか,ダイズを条播,ムギ類を散播とする方式,ダイズとムギ類ともに散播して土壌に浅く混和する方式などがある。

     播種後しばらくは被蔭が存在しないため,その間の雑草の出芽抑制効果はない。このため,雑草発生が少ないことが分かっている畑以外では,播種時に土壌処理除草剤を散布する。ムギ類が十分に生育すれば,雑草の最大繁茂期の乾物重を80%程度抑草する効果が期待できる。ただし,リビングマルチの抑草効果には草種間差があり,シロザ,ヒユ類など種子が小さな広葉雑草に対しては効果が高く,タデ類やノビエ類など種子が大きな雑草には劣る傾向がある。スギナ,ギシギシ類などの多年生雑草には抑草効果は期待できない。

     ダイズ収量は,黒ボク土の圃場で減収する場合があるが,沖積土では慣行栽培と差のない収量がえられた。

     ムギのリビングマルチを成功させるには,ムギ類の播種後60日間の地上部生育量を150 g/m2以上確保することが必要であり,そのためには播種後60日間の平均気温が20〜21℃程度よりも低いことが必要であり,福島県福島市辺りが南限になる。  この技術については下記も参照されたい。

     東北農業研究センター・中央農業総合研究センター (2010) 麦類をリビングマルチに用いる大豆栽培技術マニュアル.

     三浦重典・小林浩幸・長谷川浩・小柳敦史 (2003) 大麦をリビングマルチとする大豆の無中耕・無除草剤栽培技術の開発.平成14年度東北農業研究成果情報.

     小林浩幸・好野奈美子・敖 敏・内田智子・山下伸夫・村上敏文 (2010) 麦類をリビングマルチに用いる大豆栽培技術.平成21年度 東北農業研究成果情報.

    ●畦畔管理と収穫後の耕起による水稲乾田直播栽培でのイボクサ防除

     イボクサはツユクサ科の一年生雑草で,ツユクサを小型で細くしたような植物である。平均気温が8℃となる3 月中旬頃から出芽を始め,開花開始時期は9 月下旬頃,開花後約15日で発芽能力のある種子を形成する。種子の寿命は5〜6 年と比較的短く,1 年後の生存率は約10%である。イボクサによる雑草害は水稲収量への影響だけでなく,収穫作業のときにコンバインの歯に絡まったりして障害となったり,高水分の茎が籾に混入し乾燥機にエラーが生じるなどの問題もある。

     水稲乾田直播栽培における慣行の除草体系として,イネ出芽前までのグリホサート剤散布,入水前のシハロホップブチル・ベンタゾン液剤散布,および,入水後の初中期一発剤散布による除草剤3 回体系が実施されている。

     しかし,刈り払いなどで管理されている水田畦畔を発生源とするイボクサが水田に侵入するケースが少なくない。さらに,8 月下旬頃に水稲が収穫される早期栽培地帯では,稲収穫後にイボクサが再生し,種子が生産されて翌年以降の発生源となっている。

     そこで,次の技術を組み合わせたイボクサの総合管理を策定した。

     (1) 水田内の管理:入水前処理の除草剤としてビスピリバックナトリウム塩2%液剤(商品名:ノミニー液剤)を使用する。

     (2)畦畔管理:ビスピリバックナトリウム塩3%液剤(商品名:グラスショート液剤)など除草剤を使用する。抑草剤であるビスピリパックナトリウム塩3%液剤を使用する場合は,5 月上旬に一度刈り払い後,雑草再生期の5 月中旬頃(入水前)に処理する。

     (3)水稲収穫後の管理:水稲収穫後,すみやかに圃場を耕起して,イボクサの再生・種子生産を防ぎ,翌年以降の発生量を減らす。

     ビスピリバックナトリウム塩液剤は,キシュウスズメノヒエやオオクサキビなどには除草効果が小さいので,注意が必要である。そうした場合には,イネ出芽前のグリホサート液剤処理が適している。イボクサが4葉程度と小さい場合には極めて有効である。

     この技術については下記も参照されたい。

     川名義明・牛木純・児嶋清 (2004) 水田雑草イボクサの初期生育と除草剤の効果に及ぼす水深の影響.平成15年度 関東東海北陸農業研究成果情報

    ●その他の技術

     詳細は省略するが,本マニュアルの第二部では,次の技術を紹介している。

     (1) ダイズ不作付け期間の不耕起・短期湛水による雑草の発生抑制

    ダイズ播種前に耕起管理や短期湛水管理を行なうことで,地表面の雑草種子を損耗させるとともに,ダイズ播種前の雑草の出芽を促進させる。その結果,大豆播種後の雑草の出芽も斉一化し,土壌処理除草剤などの防除効果が向上するので,ダイズ生育期の雑草が減少する。

     (2) 水稲不作付け期間における湛水やカバークロップ利用による畑雑草の埋土種子の削減

     冬期湛水+夏期水稲栽培を3年程度継続すると,シロザ類やヒユ類の埋土種子量を約80%低減できる。また,冬期にヘアリーベッチを栽培し,春期に1 か月程度の湛水処理を行なうと,ダイズ栽培期間中のヒエ類の発生量を抑制できる。

     (3) 中期深水管理により水稲湛水直播栽培の雑草被害を軽減する

     過酸化カルシウムコーティング種子湛水土中条播栽培で,イネ生育中期に深水管理を行なうと,雑草の発生・生育が抑制でき,雑草被害を軽減できる。また,深水管理がイネの茎数を抑制し,有効茎歩合を高められる。

     (4) ハイブリッド除草機によるダイズ作、ムギ作での除草剤使用量の削減

     機械除草は作物条間を効率的に除草できるが,株間および株元の除草は機械では難しいケースが多い。そこで,条間を機械除草し,株間や株元にのみ除草剤を散布するハイブリッド除草を開発して,ダイズやムギなどの除草を,慣行の除草方式と比較して,同等の抑草効果を保ちつつ,除草剤施用量を50%程度削減することができる。

     また,第三部では,研究者向けに,(a) 総合的雑草管理の経済性評価の手順,(b) 埋土種子の許容限界,(c) 雑草種子の増減に関与する種子食昆虫,(d) 雑草の個体群動態を予測するモデルなどを解説している。

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