No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は,2006年9月26日に,加盟国が土壌保護を図るEU共通の枠組を定めた土壌保護・改良のための法律案(「土壌保護戦略指令案」)を提案した(環境保全型農業レポート.No.60.EUが「土壌保護戦略指令案」を提案/libnews/nishio/nishio060.htm)。
この法律案は,土壌保護について,次のような画期的な行動を加盟国に要求している。
第一に,各種の開発に際して,土壌の持つ機能【(1)農業および林業を含むバイオマス生産,(2)養分,物質および水の貯蔵,ろ過および変換,(3)生息地,種および遺伝子などの生物多様性プール,(4)人間および人間活動のための物理および文化的環境,(5)原材料の供給源,(6)炭素プール,(7)地理および考古学的遺産の保管庫】が開発によって受ける影響を事前評価して,必要な場合には,予防措置を講ずる。
第二に,国内の土壌の状態を調べて,土壌が危険な状態【(1)水食と風食,(2)土壌有機物の減耗,(3)土壌の圧密(仮比重の増加と土壌孔隙率の減少),(4)塩類集積,(5)土砂崩壊】になっている「リスク地域」を指定し,必要な対策を講ずる。
第三に,汚染された土壌サイトを明確にして,そのデータベースを作成し,計画的に土壌を修復する。
第四に,人間および生態系の生存に対する土壌の重要性について国民の認識を向上させる。
欧州委員会の環境総局に置かれた「環境諮問委員会」(Environment Council)は,他の問題とともに,「土壌保護戦略指令案」について論議を重ねていたが,2007年12月20日に合意を得られなかったとの結論に達した。一部加盟国が,土壌についてはEUレベルでの統一行動は必要ではないとか,法律施行にともなう経費負担が大きすぎるとして,強く反対したためである(EU Press Release (2007) Environment: Commission welcomes Council agreement on aviation, regrets failure on soil. )。今後,「土壌保護戦略指令案」の見直しが図られると考えられる。
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