No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度
〜魚介類のダイオキシン蓄積量実態調査結果から〜
魚は水産物で農産物ではないが,ウーマンズフォーラム魚事務局の情報誌「おさかな通信・gyo!」2005年5月号(p.18〜19)に,(独)水産総合研究センターの小松正之理事(前水産庁漁場資源課長)が,「海洋の環境状況報告−魚介類へのダイオキシンの蓄積」を寄稿している。そこに等閑視できないデータが掲載されている。
●輸入した蓄養マグロのダイオキシン類濃度が高い
小松は水産庁が行った「魚介類のダイオキシン蓄積量実態調査結果(平成11年度〜平成14年度)からの抜粋の形で表1を記している。
日本人のダイオキシン類の1日当たりの耐容摂取量は「ダイオキシン特別措置法」で体重1 kg当たり4 pg TEQ【毒性等価量:「環境保全型農業レポート」2004年10月22日号参照】とされているが,日本人の平均摂取量は1.53 pg TEQで,耐容摂取量以下である。ただし,平均摂取量1.53 pg TEQのうちの約8割は魚介類から摂取されている。陸上から排出されたダイオキシン類は最終的に水系の底泥に蓄積し,そこから食物連鎖を経て魚介類の体に蓄積するので,魚介類のダイオキシン類濃度が一般に農産物より高いことが不可避となっている。それでも,魚介類のダイオキシン類濃度が日本人の健康を損なうレベルにはなっていない。しかし,ダイオキシン類濃度の低い魚介類が望ましいことに変わりはない。
表1をみると,天然のカツオ,クロマグロ,ミナミマグロのダイオキシン類濃度に比べて,イタリアやオーストラリアなどで,捕獲後に海中の囲みの中で餌を与えて畜養したクロマグロやミナミマグロのダイオキシン類濃度(合計値)が,天然のものに比べて,前者で平均3.1倍,後者で12.0倍も高いことが注目される。おそらく畜養の過程で与えた稚魚のダイオキシン類が蓄積して,高くなったと推定される。
●輸入した養殖サケのダイオキシン類濃度が高い
小松の記事にはないが,水産庁の調査結果をみると,ノルウェー産の養殖サケ(アトランティックサーモン)のダイオキシン類濃度は,国産と輸入を問わず,天然のシロザケ,ベニザケなどよりも18倍高い(表2)。
●国産でも天然に比べて養殖ブリではダイオキシン類濃度が高い
輸入した畜養や養殖した魚のダイオキシン類濃度が高いなら,国産の養殖魚でも同様ではないかとの疑問がでてくる。水産庁の報告書をみると,マダイのように天然と養殖で明確な違いのみえないものもあるが,ブリでは養殖したものが天然に比べて平均で約3.2倍の高いダイオキシン類濃度であることがうかがえる(表3)。
●ドジョウは問題?
水産庁の報告書にはドジョウの分析値が2例記載されている。天然ものだが,2例とも非常に高いダイオキシン類濃度となっている(表4)。報告書には脚注として,「ドジョウについては,内蔵を含んでいるため,検体に底泥等が含まれている可能性がある」と記されている。
分析されたドジョウの採取地が水田とは記されていない。しかし,「環境保全型農業レポート」2004年10月22日号の「ダイオキシンの汚染源は除草剤か焼却炉か?」に記したように,水田土壌中のダイオキシン類の主な起源は,1960〜1970年代はPCP製剤とCNP製剤と推定されている。そして,両製剤の登録が失効したのは,PCPで1990年,CNPで1996年であり,過去にこれらの除草剤を連用した水田やその近辺の河川などで繁殖したドジョウではダイオキシン類濃度が高い可能性が考えられる。
除草剤中のダイオキシン類が水田から灌漑水を経て,河川や沿岸の底泥に蓄積していることは否定できず,農業のあり方と魚介類のダイオキシン類濃度はつながっている。
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