環境保全型農業レポート > No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術

    ●コーデックス委員会の食品のカドミウム濃度に関するガイドライン

     環境保全型農業レポートのNo.42No.50に紹介したが,コーデックス委員会によって,食品中に許されるカドミウムの上限濃度のガイドラインとして,精米0.4 mg/kg,小麦0.2 mg/kg,その他の穀類(ソバを除く)0.1 mg/kg,豆類(乾燥した大豆子実を除く)0.1 mg/kg,葉菜0.2 mg/kg,その他の野菜(鱗茎類,アブラナ科野菜,ウリ科果菜,その他の果菜)0.05 mg/kgなどが決定されている。これを踏まえて,日本は食品中のカドミウム濃度の規制値について,必要な法律改正や制定を行なうべく作業を進めている。

    ●我が国における土壌および農産物のカドミウム汚染の状況

     日本では江戸時代から金銀銅などの金属の採掘が活発に行なわれたが,金属を抽出した後の鉱滓の山から,目的金属以外の重金属類が溶け出して,河川を経て,とく水田を汚染しているケースが少なくない。このため,「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」によって,カドミウム,銅,ヒ素に強く汚染された田について,汚染土壌対策事業が実施されている。

     基準値以上の3つの重金属類が検出された田は,134 地域,7,487ha(このうち,カドミウム汚染田は96 地域,6,945ha)で,2007年度末で対策事業が完了したのは,7,487ha のうちの87.4 %,6,544haとなっている。しかし,カドミウム汚染については,21地域,406 haで対策事業が未着手となっている(環境省 (2008) 平成19年度農用地土壌汚染防止法の施行状況について)。

     農林水産省は2004年にコーデックス委員会でのカドミウムのガイドラインを巡る論議の参考として,日本の農産物のカドミウム濃度の実態調査結果を提出した(穀物・豆類野菜)。その中で,コーデックス委員会の最終案が採択された場合,コメで0.3%,コムギで3.1%,ホウレンソウ3.0%,タマネギ1.0%,ナス7.3%などの生産物割合が,ガイドライン値を超えるようになると試算していた。

     生産物割合ではわずかだが,ガイドラインを超える濃度のカドミウム汚染農産物を生産した地域では,農業が深刻な事態にならざるをえない。カドミウム汚染のために水稲を栽培せずに,水田を畑地化し,転換畑として畑作物を生産している地域もあろう。しかし,畑作物にもカドミウム規制値が法的に適用されると,事実上,生産できる作物がなくなる恐れもでてこよう。

    ●これまでのカドミウム汚染軽減対策

     これまでカドミウム汚染軽減対策は,主に客土,水管理,土壌・施肥管理で行なわれてきた。その概要は,(独)農業環境技術研究所の「情報:農業と環境」のNo.30 とNo.56 に書かれている(水稲のカドミウム吸収抑制のための対策技術ダイズのカドミウム吸収抑制のための対策技術)。

     例えば,

     (1) 耕種的な対策による吸収抑制では十分な効果を上げられない場合は,極度に汚染された土壌を排除するか,排除しなくても済む場合には,汚染土壌の上に非汚染土壌を客土する。

     (2) 水田では土壌の湛水期間を長くして還元状態を発達させ,土壌で生ずる硫化水素によってカドミウムを難溶性の硫化カドミウムに変化させて,水稲に吸収されにくくする。

     (3) 水田で排水を行う際には水田土壌が酸化的に戻るのを抑えるように水管理を行なう。

     (4) 土壌にアルカリ資材を添加して,土壌pHを上げて,土壌中のカドミウムを難溶性にして,作物に吸収されにくくする。

     (5) 過リン酸石灰などのカドミウム濃度が相対的に高いリン酸肥料を使用せずに,カドミウム濃度の低い熔成リン肥などを使用する。

     その後,(6) 汚染された水田土壌に塩化第二鉄を加えて,カドミウムを溶出して洗浄する方法や, (7) 畑状態にした土壌でカドミウム高吸収稲品種を栽培して土壌中のカドミウム濃度を低下させる方法;M. Murakami, N. Ae, S. Ishikawa, T. Ibaraki and M. Ito (2008) Phytoextraction by a high-Cd-accumulating rice: Reduction of Cd content of soybean seeds. Environmental Science and Technology. 42 (16), p.6167–6172)といった新しい技術も作られている。

     しかし,対策技術を実施しても,農産物中のカドミウム濃度が高すぎるケースや,土壌や作物の種類によっては,既存の対策技術を実施できないケースもある。そうした場合に,期待できる別の新しい技術が作られてきた。

    ●玄米のカドミウム濃度の低い水稲品種の検索

     玄米のカドミウム濃度の低い水稲系統の育種に向けて,(独)農業環境技術研究所の土壌環境研究領域は,まず遺伝的に玄米のカドミウム濃度の低いイネ品種を検索した。手始めに,いろいろな国で育成された49のイネ品種を,カドミウム汚染土壌を充填したプランターで湛水栽培して,品種によって玄米のカドミウム濃度が大きく異なることを確認した。そして,「日本晴」,「コシヒカリ」は玄米濃度の低い品種グループに属したが,そのなかでも,西アフリカのリベリアで育成された品種の「LAC23」の玄米のカドミウム濃度が特に低いことを認めていた(T. Arao and N. Ae (2003) Genotypic variations in cadmium levels of rice grain. Soil Science and Plant Nutrition. 49(4) 473-479)。

     また,(独)農業生物資源研究所が既に育成していた,遺伝的背景が「コシヒカリ」で,インド型品種「カサラス」の染色体断片がそれぞれ1か所のみ大きく置換された39系統群を,カドミウム汚染土壌を詰めたポットで栽培した。そして,玄米のカドミウム濃度を比較して解析した結果,玄米のカドミウム濃度を低くする遺伝子が存在し,その遺伝子座は第3および第8染色体上に位置していることを確認した。

     これは遺伝的背景がコシヒカリである系統での結果だが,このことから「LAC23」にも玄米カドミウム濃度を低くする遺伝子が存在することの確信がさらに強化された(石川覚・阿江教治・矢野昌裕・杉山恵・村上政治・阿部薫 (2005) 玄米のカドミウム濃度に係わる遺伝子座の検索.農業環境研究成果情報.第21集.;S. Ishikawa, N. Ae, and M. Yano (2005) Chromosomal regions with quantitative trait loci controlling cadmium concentration in brown rice (Oryza sativa). New Phytologist. 168, 345-350)。

    ●玄米のカドミウム濃度の低い水稲系統の育成

     こうした研究蓄積のうえで,農業環境技術研究所の土壌環境研究領域は,(独)農業・食品産業技術総合研究機構の東北農業研究センターの低コスト稲育種研究東北サブチームに,玄米のカドミウム濃度の低い水稲系統の育成を要請し,共同で育成に成功した(農業環境技術研究所・東北農業研究センター (2008) プレスリリース:稲のカドミウム吸収に品種間差異があることを明らかにし,玄米カドミウム濃度が低い系統を開発;山口誠之(2006)カドミウム低吸収性・高吸収性イネ品種の育成.農林水産技術研究ジャーナル.29(10): 11-14)。

     「LAC23」はジャバニカ(熱帯ジャポニカ)の陸稲で,草丈が高く(写真1),収量も低く,東北で栽培すると,出穂が9月中旬の晩生種で,年によっては登熟できない。そこで,日本の水稲品種で,草姿良好な安定多収品種の「ふくひびき」と交配した。ちなみに,「ふくひびき」は超多収品種で,福島県会津で5年連続して900kg/10a以上の収量を記録しており,酒造用掛米や米菓加工用としての適正に優れている。

     米のカドミウム濃度の低い系統を確実に選抜するために,土壌のカドミウム濃度を比較的高くし(0.1 M 塩酸抽出で3 mg Cd/kg),7月上旬以降節水栽培して,あえてカドミウムを吸収しやすい条件で,自殖第3世代(F3)から第5世代(F5)の126系統を栽培した。そして,玄米カドミウム濃度が比較的安定して低く,栽培特性が向上した5系統を選抜し,育成地(東北農業研究センター)の系統番号「羽系1118」〜「羽系1122」をつけた(表1)。これらの系統の玄米カドミウム濃度は,カドミウムを吸収しやすい条件でも,国際ガイドライン基準値の 0.4 mg/kg前後で,「ふくひびき」や「ひとめぼれ」に比べて40〜50 %程度低く,玄米の粒形はやや細長が多いものの,「LAC23」に比べて出穂が早く,草丈も比較的短くなっている。

     カドミウムは,人の健康に必要な銅,鉄,マンガン,亜鉛といった重金属と,化学的な性質が似ており,玄米カドミウム濃度の低いコメでは,これら必須重金属濃度も低い可能性が考えられる。しかし,これら5系統の玄米の必須重金属濃度は,「ふくひびき」や「ひとめぼれ」とほぼ同等で,カドミウムのみ減らした系統が育成できた。

     今後,系統の特性をさらに改良して育種母本として配布できるようにする。そして,各地域で主力品種と交配して,地域に適した実用品種が作られることが期待される。

    ●稲ワラのカドミウム濃度

     ところで,育成5系統とその片親の「LAC23」では,稲体全体のカドミウムの吸収量が減少しているのではない。これらの玄米のカドミウム濃度は低いものの,稲ワラのカドミウム濃度は,「ふくひびき」や「こしひかり」とほぼ同レベルで,高濃度のカドミウム汚染土壌でポット栽培すると10 mg/kg前後に達している。茎葉のどこかの部分にカドミウムをろ過する機能が存在すると考えられる。

     飼料の安全性は「飼料安全法」(飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律)で規制されているが,飼料中のカドミウムは,1988年10月14日付け農林水産省畜産局長通知63畜B第2050号で,配合飼料・乾牧草等で1.0 mg/kg,魚粉・肉粉・肉骨粉で2.5 mg/kgと定められ,2008年1月31日に改正されて,配合飼料・乾牧草で1.0 mg/kg,稲わらで1.0 mg/kg,魚粉・肉粉・肉骨粉で2.5 mg/kgと,稲ワラについての規制値が特記された。

     上述した農業環境技術研究所のデータをみると,今回育成した系統や既存品種の稲ワラのカドミウム濃度は10 mg/kg前後かそれよりも高い。これらのカドミウム濃度は飼料の安全基準の約10倍以上である。飼料イネの利用拡大を図るには,稲自体がカドミウムを吸収しにくいか,吸収しても根でろ過して茎葉に移行させない品種の開発も課題である。

    ●台木によるナスのカドミウム濃度の低減

     ナスなどの果菜類に対するコーデックス委員会によるカドミウムの上限値のガイドラインは0.05 mg/kgで,上述したように,日本ではナスの7.3%がこの値を超えると試算されている。ナスでは台木が広く利用されており,台木にカドミウムを吸収しにくいか,地上部に移行させにくいものがあれば,ナス果実のカドミウム濃度を低くする期待がもてる。この問題を農業環境技術研究所の土壌環境研究領域が中心となって検討した(荒尾知人・竹田宏行・佐藤淳・西原英治・大崎佳徳・飯田佳代 (2008) 農業環境研究成果情報.第24集.スズメノナスビを台木としてナス果実中カドミウム濃度を低減;竹田宏行・佐藤淳・西原英治・荒尾知人 (2007) スズメノナスビ(Solanum torvum)を台木とした接ぎ木栽培によるナス果実中カドミウムの低減技術.日本土壌肥料学雑誌.78: 581-586;T. Arao, H. Takeda and E. Nishihara (2008) Reduction of cadmium translocation from roots to shoots in eggplant (Solanum melongena) by grafting onto Solanum torvum root stock. Soil Science and Plant Nutrition. 54: 555-559)(注:和名はスズメナスビが正しく,本文では以下そのように記す)。

     ナス(Solanum melongena)の台木としては,栽培ナスにごく近縁なヒラナス(アカナス),栽培ナスと近縁種(ヒラナスなど)との一代雑種(「耐病VF」など),ナス近縁種固定品種(スズメナスビ(S. torvum)など),栽培ナス品種(「台太郎」)といったものが使用されている。このうち,スズメナスビはプエルトリコから導入したものだが,台木品種として「トルバム・ビガー」,「トレロ」,「トナシム」が登録されて利用されている(吉田建実 (2000) 台木の種類・品種と耐病性, 生育特性.農業技術大系.野菜編 第5巻ナス p.基199〜202.農文協)。

     いろいろなタイプの台木に,「千両二号」を穂木にして接ぎ木したナス苗をカドミウム汚染土壌でポットと圃場で栽培して,果実のカドミウム濃度を比較した。その結果,スズメナスビを台木にして接ぎ木した場合には,土壌の種類(褐色低地土,灰色低地土,黒ボク土),作型(6月定植7〜9月収穫,9月定植10〜5月収穫),穂木の種類(千両二号他3種類)によらず,自根栽培およびその他の台木(ヒラナス、台太郎、カレヘン、耐病VF、ミート、アシスト)に接木した場合に比較して,果実のカドミウム濃度を約1/2〜1/4のレベルに低減できた(図1,図2)。

     こうした結果から,スズメナスビを台木にすることによってナス果実のカドミウム濃度を低減できることが示された。ただし,コーデックス委員会のガイドラインの0.05 mg/kg以下にできていないケースも存在したことから,この技術の適用条件を明確にすることが望まれる。

     また,カドミウムを添加した水耕栽培での結果から,スズメナスビを台木にした場合,果実だけでなく,地上部(穂木の茎葉,台木の茎)のカドミウム濃度が低くなるものの,根のカドミウム濃度には差がないことが示された。これらのことから、スズメナスビの根には地上部へのカドミウムの移行を特異的に抑制する何らかの機能が備わっていると推定されている。

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