No.34 欧州の水系汚染対策
●EUの「水枠組指令」
EUは表流水,地下水,沿岸水などの水系の汚染について,原因や地域別に汚染防止の多数の法律を作って,水質改善を図ってきている。そして,さらなる改善を図るには,地域や原因別に対策を講ずるだけでなく,集水域単位に全ての水系や汚染原因に対して包括的な取組を行うことが必要だとして,2000年に「水枠組指令」(「共同体の水政策の行動に関する枠組を定める指令」(Directive 2000/60/EC)を施行した。この法律は加盟国に次を課している。すなわち,
- 2003年に河川を中心とした集水域管理区を設定し,管理区ごとに管理所管組織を指定する。
- 2004年に集水域管理区内の水質状況や汚染原因の把握と経済分析に着手する。
- 2006年にモニタリングネットワークを設置し,遅くとも2006年中に関係情報と見解を開示して住民を含む関係者の意見を求める。
- 2008年に集水域管理区ごとに管理プラン案を策定し,2009年に管理プランを確定する。
- 経済分析と汚染者負担原則を踏まえて,水質浄化・維持に要するコストを回収できる水利用価格を2010年までに導入する。
- 遅くとも2012年までに2021年までの第1期対策プログラムを実施する。この中で表流水については2015年までに目標を達成する。
- 目標が達成できない場合には,2027年を最終達成期限とする第2期対策プログラムを実施する。
●イングランドの「脆弱集水域農業対策事業」
水質汚染は飲料水のみならず,水生生態系の生物多様性やレクリエーションなどにも影響を与えているが,農業は余剰養分,散布農薬,土壌などを水系に排出して,水系汚染の主因の一つとなっている。イングランドでは水系に排出される窒素の70%,リンの40〜50%,沈積土壌の大部分は農業に由来すると推定されている。
イングランドはこれまでにも農業由来の汚染を軽減する各種の対策事業を実施している。しかし,2004年からの共通農業政策の改正で,農業補助金の支給条件として環境保全的農法の遵守(クロスコンプライアンス)が強化されたことと,「水枠組指令」に対処するために,イングランドは農業汚染対策事業を集水域単位で総合化する方針を打ち出して,2004年に「脆弱集水域農業促進対策の構築」(Developing Measures to Promote Catchment-Sensitive Farming)と題する政策文書についてパブリックコメントを求めた。そして,2004年12月に寄せられた意見を集約して,同政策に沿って今後,農業者に対する支援方策などを具体化した「脆弱集水域農業促進対策事業」を策定して実施することが表明された。この「脆弱集水域農業促進対策プログラム」は2012年までに導入される第1期対策プログラムに先駆けて実施するもので,第1期対策プログラムのような強制力を持っていない。早期に実施するほど,第1期対策プログラムでの農業者の負担が少なくなると説明されている。
イングランドのDEFRA(環境・食料・農村問題省)は2005年12月19日に「脆弱集水域農業促進対策事業」を優先的に実施する40の集水域管理区を公表した(地図参照)。そして,集水域内の農業者が環境にやさしい農地管理方法に転換することを助長するために,2007年7月までの最初の予算として2500万ポンド(約50億円)を用意した。優先実施対象の集水域管理区には,専属の流域重視農業担当官(複数)が配置される。担当官は,行政官,農業コンサルタント,自然保護団体,水道企業,農業者組織などの代表で構成される「流域運営グループ」の協力を得て,流域内の対策活動の調整,農業者に対する啓蒙活動,農場訪問による技術・経営相談とアドバイス,データ収集,モニタリングなどを行う。
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