環境保全型農業レポート > No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産

    ●加工用リンゴ生産は減少したが,特に有機の生食用リンゴは増加

     アメリカでは1990年代以降,加工用リンゴの中国などからの輸入(主にジュース用)が増加したため,アメリカのリンゴ全体の生産量は1994年をピークに減少している(図1)。そして,リンゴ生産はワシン トン州,ニューヨーク州,ミシガン州とその他のいくつかの州に集中し続けている。  そうしたなかにあって,生食用リンゴの需要は,新しいリンゴ品種(ガラ,ふじ,レッドデリシャス)を中心に増加しており,有機リンゴに対する需要はさらに急速に高まっている。ちなみに,有機食品の販売額は,最近の経済下降期にあっても食品販売額全体を上回る成長を続け,2桁の成長を続けている。有機リンゴは,有機食品消費者の購入する果実の上位3つに入っている。

    ●植物生育調節剤(ダミノザイド)事件

     植物生育調節剤のダミノザイド(アメリカでの商品名はエイラー,”Ala”)は,かつて果実の成熟を促進し,着色を向上させるために,果樹に散布されていた。しかし,1970年代中頃から,この薬剤は分解すると,発ガン性の非対称性ジメチルヒドラジンを生ずることが問題になった。1980年にアメリカの環境保護庁(EPA)はこの問題の検討委員会を開催し,1985年に農薬製剤と非対称性ジメチルヒドラジンの双方が発ガン作物用を持つ可能性が高いとの結論を出した。しかし,販売禁止にしなかったため,引き続いて使用された。そして,ダミノザイドや非対称性ジメチルヒドラジンがリンゴのソースやジュースからたびたび検出された。1989年2月にマスメディアがこのことを報じ,問題を知った消費者ユニオンがその使用禁止を強く求めて,大きな社会問題になった。

     メディアが報道した後にリンゴ価格は急速に低下し,当該シーズンのリンゴの収益は1億4000万ドル減少したと推定されている。EPAは,1989年5月に全ての食料品に対してダミノザイドを使用することを取り消す提案を行ない,メーカは翌月から食料品に対するダミノザイドの販売と配送を自主的に中止した。これを受けて,アメリカのリンゴ価格と収益は翌年から急速に回復した。この事件はアメリカの農薬取締に関する法的規制が不十分であるとして,アメリカが農薬規制を強化するきっかけの一つとなった。また,この事件は有機リンゴへの消費者の関心を高めることにつながった。

    ●農務省の農業資源管理調査

     農務省の全米農業統計局 (National Agricultural Statistics Service: NASS)が農業関係の統計を調査しているが,毎年詳しい調査を実施することができない。そこで,全米農業統計局と経済研究局(Economic Research Service: ERS)は,共同で,毎年対象を変え,圃場レベルでの農業生産の方法,農場運営の経理,農場の家族構成などについてより詳しいデータを収集する農業資源管理調査(Agricultural Resource Management Survey: ARMS)を実施している。この調査と毎年の統計調査を重ねることによって,アメリカの農業実態の様々な側面を詳しく解析できる。

     2007年にリンゴが農業資源管理調査の対象となり,慣行のリンゴ生産に加えて,毎年の調査では対象外の有機のリンゴ生産も対象にして,農場の概要,家族の特徴,リンゴの具体的な栽培方法,出荷方法などを,現地での聞き取り,アンケート,記録提供依頼などによって調査した。

     この調査結果を分析し,「アメリカの慣行および有機のリンゴ生産の特徴」として,経済研究局が2011年7月に刊行した。その概要を下記に紹介する。

     Edward Slattery, Michael Livingston, Catherine Greene, and Karen Klonsky (2011) Characteristics of Conventional and Organic Apple Production in the United States. Outlook Report No. (FTS-347-01) Economic Research Service/USDA. 27 pp.

     2007年の調査では,7つの州(カリフォルニア,ミシガン,ニューヨーク,ノースカロライナ,オレゴン,ペンシルバニア,ワシントンの各州)から回答があった1,060人の有機および慣行のリンゴ生産者について調査を行なった。これらの州の生産者は2007年におけるアメリカのリンゴ収穫面積の81%,リンゴ生産量の87%を占めた。

    ●州別の慣行と有機のリンゴ生産

     調査した7つの州がアメリカにおいてリンゴを生産している主要な州である。西海岸のカナダ国境に接するワシントン州が,現在全米の国内生産リンゴの半分超を生産し,1920年代初期からリンゴ生産のリーディング州となっている。図2は,2007年の農業資源管理調査で調べた7つの州でのリンゴ生産量を図化したもので,7州の慣行と有機を合わせたリンゴ総生産量(408.1万トン)の59.7%がワシントン州で生産されていた。そして,7州の慣行リンゴ(生食用と加工用の和)ではワシントン州が58.5%を占めていた。ワシントン州の慣行リンゴの大部分は生食用であり,加工用リンゴは,生食用には出荷しにくいものを加工用と出荷したものである。これに対して,東部および中西部の生産者は,当初から加工市場を対象にして生食・加工兼用品種または加工用品種を栽培しており,ワシントン州に比べて加工用品種の生産量の割合が高かった(図2)。

     7つの州における2007年における有機リンゴの生産量は,総計でも20.2万トン(生食用19.1万トン,加工用1.1万トン)で,リンゴの総生産量の約5%を占めるだけであった。有機リンゴ生産量のうち,ワシントン州が91%,カリフォルニアが8%を占め,東部および中西部での有機リンゴの生産量は合わせても全体の1%にすぎなかった。

     ワシントン州は寒冷・乾燥気候で,気象的にリンゴ生産に有利だが,乾燥気候のために,病害虫が東部などの湿潤気候のように病害虫が蔓延しにくいために,合成農薬を使用しない有機栽培に有利となっている。

     アメリカのリンゴ生産ではコドリンガ(coddling moth)の防除が大切である。コドリンガは,シンクイガの一種で,リンゴやモモなどにつく大害虫で,熟していないくだものの実や葉っぱに卵を産み,ふ化した幼虫は中身を食べる。日本以外の温帯気候地域に生息する。日本では法律により「輸入禁止対象病害虫」に指定されている。ワシントン州のような寒冷気候下では年間に1世代しかすごせないが,温暖気候下では2〜3世代を過ごすので,合成農薬がないと,甚大な被害が生じやすい。

     また,スモモゾウムシはリンゴの若い実の表面をかじって傷をつけ,産卵し,幼虫が果実内部に穴を開け,未成熟果実が落下する場合もあり,さらに,晩夏から秋に成虫が成熟した果実をかじり,摂食部分に大きな傷やこぶを作って,大きな被害を与える。スモモゾウムシはロッキー山脈の東側に生息していて,東部や中西部に甚大な被害を与えているが,ワシントン州には生息していない。この点でもワシントン州が有利となっている。

     その上,過去10年間にわたってワシントン州の研究センター,企業や個人が有機のリンゴ生産システムについて集中的に研究を行ない,有機のリンゴの味や外観を大幅に向上させてきた。こうした結果,ワシントン州の慣行および有機のリンゴ生産が,アメリカでぬきんでるようになった。

    ●リンゴ園の概要

     A.経営期間

     2007年において7つの州のリンゴ生産者は,慣行リンゴで平均19年間リンゴ園を経営していた。そして,有機リンゴで平均17年間経営し,有機としての認証機関は平均9年間であった。大部分の有機の生産者(63%)は有機認証をえる前に果樹園を慣行で5年間かそれ未満しか経営しておらず,慣行方法で20年超も経営していた生産者は一部(13%)にすぎなかった。

     アメリカの多くの有機リンゴ生産者は慣行栽培と併存しながら,全面有機生産までゆっくりと移行してきた。しかし,2007年では調査した州の認証有機リンゴ生産者の大部分は全面的有機となり,有機リンゴ面積の16%だけが,慣行リンゴ生産と併存していた。

     B.他の果樹との混合経営

     2007年に調査した慣行および有機のリンゴ生産者の半分強はリンゴだけを栽培していたが,リンゴ生産者の約36%はリンゴに加えて1つまたは2つの別の果実または木の実を栽培していた。ミシガン,ノースカロライナ,ニューヨーク,ペンシルバニアではリンゴに加えてモモ,オレゴンではナシ,ワシントン州ではブドウを栽培しているケースが多かった。

     C.品種

     2007年に調査した7つの州を合わせると,慣行栽培で使われていたリンゴ品種は,レッドデリシャス22%>ゴールデンデリシャス14%>ガラ12%>ふじ11%>グラニースミス10%などであった。

     有機栽培でも使われている品種は類似していたが,順位に違いがあり,ガラ22%>ふじ16%>レッドデリシャス14%>ゴールデンデリシャス11%>グラニースミス7%>ピンクレディ7%などであった。

     このうち,レッドデリシャス,ガラ,ふじは生食用だが,ゴールデンデリシャス,グラニースミスは生食用と加工用の兼用種であり,有機栽培は生食用をターゲットにし,慣行栽培では生食用と加工用の双方をターゲットにしていることが品種からもうかがえる。

     ちなみに,リンゴ品種が育成された国は,レッドデリシャスとゴールデンデリシャスがアメリカ,ふじが日本,ガラがニュージーランド,グラニースミスとピンクレディがオーストラリアである。

     D.栽植密度と単収

     慣行と有機の双方とも,矮性台木に接ぎ木した半矮性樹が全体の半分を占め,平均の栽植密度は1,100本/haであった。

     調査した7つの州の慣行リンゴの平均単収は,気候的な条件もあって,州によってかなり異なり,単収が最も高いワシントン州の37 t/haから最も低いノースカロライナ州の10.1 t/haまでの幅がある。ちなみに2010年の日本のリンゴの平均単収は20.6 t/haなので,ワシントン州の単収の高さはぬきんでている。

     慣行栽培と有機栽培の平均リンゴ単収は,ワシントン州で慣行の37.0 t/haに対して有機で30.3 t/ha,カリフォルニア州で慣行の31.4 t/haに対して有機で20.2 t/haであった。慣行を100としたときの有機の単収は,ワシントン州で82%,カリフォルニア州で64%であった。

     E.有機認証料金

     有機認証の料金は,認証面積からの販売額または認証面積数のいずれかに基づいて設定されている。2007年におけるリンゴ生産者が支払った平均認証費用は,エーカー当たり,ワシントン州とカリフォルニア州で30ドル(74ドル/ha),オレゴン州で約70ドル(173ドル/ha)であった。アメリカ農務省は2002年から全米コスト分担認証プログラムを施行し,有機生産者に認証料金の最大75%または750ドルまでを払い戻している。

     F.価格プレミアム

     有機リンゴは主に生食用として販売されている。2007年における調査した7州の生食用リンゴの平均価格は,有機で1.21ドル/kg,慣行で0.55ドル/kgで,有機の慣行に対する価格プレミアムは120%であった。

    ●有機栽培における病害虫管理用資材の使用

     アメリカでは1996年に承認された「食品品質保護法」によって,EPA(環境保護庁)は食品中の残留農薬の新しい耐容基準を設定することが求められ,特に発ガン物質と分類されたカーバメート系,有機塩素系,有機リン系などの農薬の使用が厳しく規制された。これを受けて,慣行のリンゴ生産でもこれらの化学農薬の使用量が減らされるとともに,有機生産で使用の認められている資材の使用が増えている。そして,こうした化学合成農薬の使用規制強化が,有機栽培が増えた背景の1つとなっている。

     2007年に調査した7つ州で,法律で有機での使用が承認された資材のうち,有機リンゴ面積の半分超で使用されたものは3つで,害虫防除用の園芸用機械油,病害防除用の多硫化カルシウムと生物農薬であった(表1)。その他には,土壌生物への蓄積を防止するという条件付で使用の認められているイオウ剤と銅剤の使用面積割合が高かった。なお,園芸用機械油,銅剤,イオウ剤,多硫化カルシウムは発ガン物質とはみなされず,EPAはこれらを食品中の残留農薬の耐容性基準の適用対象外とした。

    ●カオリン噴霧による害虫防除

     表1において,有機リンゴ面積の約13%で害虫管理のためにカオリン粘土の噴霧が実施されていたことが注目される。

     カオリンは,加工食品や歯磨きなどで凝固防止剤として長年使用されている食品添加物としても認められている鉱物である。農薬成分の分散や安定化のために,粘土を使用するケースは少なくないが,この方法では農薬成分は全くなく,カオリンだけを噴霧する。農務省農業研究局の研究所の研究者が噴霧器開発を行なった民間企業との共同研究によって,約10年前に害虫防除のために開発した手法である。カオリン噴霧についてはSlattery (2011)の報告書はあまり詳しくないので,T. Hinman and G. Ames (2011) Apples: Organic Production Guide. 38p. National Center for Appropriate Technology. IP020 (PDF Download) 有料 ($5.95). から若干補足する。

     この方法では,カオリンの懸濁液をリンゴなどの果樹全体に噴霧する。水が蒸発すると,幹,枝,葉,果実の全ての表面が微小なカオリン粒子の薄いフィルムによって被覆される。カオリンフィルムはいくつかのメカニズムで有効であると考えられている。(1) カオリン被覆後に飛来した害虫にカオリン粒子が付着し,害虫は困惑してよそへ飛び去る,(2) カオリンが付着しなくても,害虫はカオリンに被覆された樹体や果実を食べたり産卵したりするのを嫌う,(3) 白く反射する樹体を宿主として認識しにくくなる,といったことが推定されている。

     スモモゾウムシや第1世代のコドリンガを防除するには,花弁が落下したときから侵入が終わるまで,6〜7週にわたって毎週カオリンを噴霧し,風雨でカオリンフィルムがなくなった場合には,噴霧し直す。スモモゾウムシによって20〜30%の果実に被害がでたリンゴ園でカオリン噴霧を行なった区画では,被害が0.5〜1%に減少したなどの例がある。リンゴミバエを防除するために,全生育期間にわたってカオリンを噴霧する場合には,収穫した生食用果実に付着しているカオリンを拭き取るか洗浄して除く。

    ●有機栽培におけるその他の有害生物管理方法

     慣行栽培ではこまめに圃場を監視しなくても,化学農薬の使用によって容易に有害生物を管理できる。しかし,有機栽培では丹念に圃場を観察して,有害生物発生の兆候を把握して,速やかに手をうつことが必要である。このため,有機面積の84%がこまめに監視されていた(表2)。そして,有害生物を検出する土壌や作物体の分析は30%だけであまり高い割合ではなかった。また,気象データの把握とその活用を行なっているのは,慣行栽培では87%で,有機栽培の68%よりも高かった。これは,慣行栽培では農薬散布のタイミングを決めるのに気象要素が重要なので,より高頻度で考慮されているためと理解されている。

     慣行栽培では雑草が様々な化学除草剤で管理されているのに対して,有機栽培では他の方法が用いられ,なかでもリンゴ栽培面積の77%で樹間が耕耘されていたことが注目される(表2)。しかし,Hinman and Ames (2011)(前出)によると,耕耘は土壌表面に近い根を傷める。このため,耕耘とマルチ(草生栽培によるリビングマルチと,作物残渣,木質チップなどの植物遺体マルチ)を組み合わせているケースが多いとされている。表2の「土地被覆,物理的障害」の77%の多くは雑草抑制のためのマルチであると理解される。また,有機面積の26%で火炎銃が使用されていた。

     その反面,病害虫防除の点では,病害虫の汚染源になるとして,「作物残渣,落ち葉,剪定枝の除去」が有機栽培面積の58%で行なわれていた。その上,病害虫防除では「フェロモンおよびおとり植物」が有機面積の81%,生物農薬が79%で使用されていた。また,有害生物管理のために,定期的灌漑,計画的排水,保持水処理といった水管理が実施され,その実施面積割合は,慣行よりも有機栽培で高かった。そのほか,抵抗性品種の使用,病害や雑草種子の伝播防止のための作業機の洗浄があった。

     有益生物(昆虫,ネマトーダ,カビなど)の生物農薬の散布ないし放飼に加えて,土着の有益生物(フクロウ,コウモリ,テントウムシなど)の保護や生息地の維持も高い割合で実施されていた(表2)。

     有機生産者は自分の経営体内の有機栽培面積と慣行栽培面積との間に緩衝帯を設け,隣接する慣行栽培の経営体との間に境界帯を維持することが要求されている。このため,緩衝帯や境界帯が慣行よりも有機面積ではるかに高い割合で維持されていた。

    ●有機栽培における養分管理

     アメリカの肥料統計では,肥料施用面積割合が通常記載されている。2007年のリンゴ栽培に関する調査でも,3要素の施用面積割合が集約されている。慣行栽培では化学肥料および市販堆肥によって,窒素は栽培面積の約2/3(71%)に窒素,約1/3にリンとカリ(24%にリン,35%にカリ)が施用され,窒素に比べてリンやカリを施用した面積割合が小さかった。有機栽培でも,市販堆肥で3要素を施用した面積割合は慣行栽培と同程度で,窒素は栽培面積の約2/3(57%)に窒素,約1/3にリンとカリ(26%にリン,26%にカリ)であった。そして,非販売(自家製造)の堆肥および新鮮きゅう肥の施用は,有機栽培で堆肥が49%,きゅう肥が8%に施用していたのに対して,慣行栽培で堆肥が3%,新鮮きゅう肥が4%にすぎなかった。なお,新鮮きゅう肥の多くは家禽ふんであった。

     なお,ここでの堆肥(compost)は,全米有機プログラム規則にしたがったもので,植物ないし動物起源の有機物を好気的分解が起きるように管理して温度を上昇させ,病原生物をできるだけ減らしつつ,土壌改良資材としての物理的および養分的性質を向上させるプロセスによって製造した生産物のことである(環境保全型農業レポート.No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行)。また,新鮮きゅう肥(manure)は,未堆肥化家畜排泄物などで,堆肥化してない家畜のふん,尿,その他の排泄物,ふん尿の付着した敷料のことである。有機栽培で新鮮きゅう肥の施用が少ないのは,人畜共通の病原生物による農産物の汚染を防止するために,全米有機プログラム規則によって,新鮮きゅう肥の施用が制限されているためである。すなわち,可食部分が土壌と接触している生産物を収穫の120日よりも前に施用する場合,または,可食部分が土壌と接触していない場合には収穫の90日よりも施用する場合を除き,新鮮きゅう肥を有機栽培で使用することが禁止されている。その場合には,作物生産で使用する前に堆肥化することを規定されている。

     有機栽培では,養分状態の土壌診断が慣行栽培よりも高い頻度で実施されていた。報告書によると,2007年において,窒素診断は有機面積の86%,慣行面積の43%で実施され,リン+窒素の土壌診断は有機リンゴ面積の83%,慣行面積の31%で実施された。これらに加え,養分欠乏を診断する植物組織または葉の分析は,有機面積で71%と高く,慣行では28%にすぎなかった。土壌または栄養診断の結果に基づいて窒素を施用したのが,有機面積の76%,慣行面積の40%であった。作物コンサルタントの勧告に基づいて窒素施用決定がなされたのは,有機面積の67%,慣行面積の33%であった。このように有機栽培では土壌・栄養診断に基づいた施肥が慣行栽培でよりも多くの面積で実施されていた。

    ●終わりに

     日本では、青森県の木村秋則さんが自然農法によって,特段の購入資材を使用しないでリンゴを生産し,大きな注目を集めている。まさにまだ奇跡であり,他者が追随できないでいる。そのメカニズムを解明して,再現可能にできることが望まれる。

     アメリカのリンゴの有機栽培は,木村さんのような自然農法によるものではなく,法律で認められた適切な資材を使い,有害生物管理では土着の有益生物の保護・生息地保護を含めた総合的な有害生物管理(IPM)を行ない,養分管理では土壌診断や作物診断を積極的に行なったものであることが伺える。

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