環境保全型農業レポート > No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか

    ●地下水の水質調査

     「水質汚濁防止法」で,都道府県知事は,地下水の水質の汚濁の状況を常時監視し,その結果を環境大臣に報告することが義務づけられている。そして,都道府県は,1989年の環境庁水質保全局長通知「水質汚濁防止法の一部を改正する法律の施行について」とその別紙をガイドラインとして,地下水の水質調査を毎年実施している。

     地下水調査は3つのカテゴリーで実施されている。

     (1) 基本になる調査は,地域の地下水水質の全体的な状況を把握するために実施する「概況調査」である。すなわち,都道府県の市町村を市街地では1〜2 km,その周辺地域では4〜5 kmを目安としてブロックに分割し,そこを代表する井戸を選定して,井戸水の水質を年1回以上分析する。毎年全ブロックを調査するのには多大な負担が必要なので,4年ないし5年以内に全ブロックを一巡するローリング方式で調査されているケースが多い。

     (2) 概況調査によって新たに発見された,または事業者からの報告などによって新たに明らかになった汚染については,その汚染源から500 m程度の範囲内にある井戸を調査して汚染範囲を確認するとともに,汚染原因の究明に資するためには,「汚染井戸周辺地区調査」を実施する。この調査は土壌汚染が判明した場合にも実施している。

     (3) 汚染地域については継続的監視を行なうために,「継続監視調査」が行なわれている。

     測定結果は,都道府県がインターネットなどで公表している。上記の環境庁水質保全局長通知には,公表に際しては「関係者の正当な利益の保護との関連も考慮し」と記されていて,その考慮の仕方の違いから,公表の仕方は都道府県で異なる。測定地点の位置とその測定値を公表している例が多いものの,個々の測定地点の位置と測定値を記載せずに,全測定地点数と測定結果の範囲だけを示している例もある。

    ●都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか

     我が国でも野菜,果樹,茶樹,家畜などを集約生産している農村地帯では,地下水の硝酸性窒素汚染が深刻なケースが多い(環境保全型農業レポート「No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要」,「No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例」)。ところが,大都市内の農地面積率は農村部よりも小さい上に,大都市では上水道が完備していて,地下水を飲料水に利用しているケースが極めて少ないために,都市農業による地下水の硝酸性窒素汚染については関心が低い。しかし,実際にはその可能性はどうなのだろうか。東京都の地下水についてこの問題を論議してみる。

     東京都は区市町村を268のブロックに分けて,4年1巡で地下水の水質を調査し,その結果を公表している。その2005〜08年度の概況調査結果のうち,硝酸性+亜硝酸性窒素濃度をブロックの分布図に重ね合わせて,「東京都の地下水の硝酸性+亜硝酸性窒素濃度の分布図」を作成した(図1)。なお,一部のブロックについては2つの測定結果が記載されていた例が存在したが,そのうちの高い濃度を用いて分布図を作成した。また,水質汚濁法の地下水の環境基準および水道法の水質基準は,硝酸性+亜硝酸窒素濃度を10 mg/L以下としているので,10.0 mg N/Lは基準超過でなく適法であるが,図では10.0 mg N/L以上を最も高い濃度範囲とした点に注意していただきたい。

     地下水の硝酸性+亜硝酸性窒素濃度(以下「硝酸性窒素濃度」と略記する)の分布は,全体として,東側の低地を主体とした区部(足立区,荒川区,江戸川区,墨田区,江東区,台東区,中央区,千代田区,港区,渋谷区)では,硝酸性窒素濃度が1 mg/L未満と極めて低かった。また,西側の丘陵・山間部の奥多摩町,檜原村,青梅市,日の出町,あきる野市では,大方のブロックが5 mg/L未満であった。そして,中央部の台地上の区や市には硝酸性窒素濃度の高いブックが多く,練馬区,板橋区,世田谷区,清瀬市,西東京市,日野市,町田市には硝酸性窒素濃度が10 mg/L以上のブロックが存在した。

     この硝酸性窒素濃度の分布パターンは一見東京都の区市町村の農地面積率の分布とおおむね重なる。図2は,環境保全型農業レポート「No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策」に示した2005年における区市町村別の農地面積率をマップ化したものである。図2に示すように,東側の低地の区部には農地がほとんどなく,西側の丘陵・山間部では森林面積率が高くて,農地はあるものの市町村の農地面積率は低い。そして,中央部の台地には農地面積率が比較的高い区や市が多く存在している。

     このように東京都における区市町村の農地面積率と地下水の硝酸性窒素濃度の分布図とが類似した傾向を示している。

    ●東京都の地下水の窒素汚染を調べた既往の研究の概要

     (1)東側の低地の区部では下水管の漏水が主原因

     東京都の地下水の汚染状況とその原因を調べた既往の研究をみると,東側の低地の区部では,硝酸性窒素濃度が低いものの,その代わりに,硝酸性窒素よりもアンモニア性窒素が卓越し,しかも,アンモニア性窒素濃度がかなり高いケースが少なくなかった。この原因として,下水管からの漏水が推定されている。すなわち,東側の低地には古い下水管が少なくなく,しかも,砂質の沖積層で,地震で大きく揺れやすい地域も多く,そうした場所で窒素濃度が高いことから,下水の漏水が汚染源であり,かつ,地下水が還元状態にあって,アンモニア性窒素が卓越していると推定されている(黒田啓介・福士哲雄・滝沢智・愛知正温・林武司・徳永朋祥 (2006) 東京都区部の地下水汚染の特徴と汚染源の推定.用水と廃水.48: 769〜777;黒田啓介・片山浩之 (2007) 都市域における地下水汚染と汚染源の推定法.日本水環境学会誌.30: 497〜501)。

     (2)中央部の台地では畑からの肥料が原因のケースが多い

     では中央部の台地で硝酸性窒素濃度が高い原因は農業であろうか。多摩地域の地下水水質を調べた研究によると,多摩地区には硝酸性窒素濃度が基準値の10 mg /Lを超えた井戸が少なくなく,特に多摩北部には高濃度の井戸が多く存在し,硝酸性窒素濃度が持続的に高い井戸は,ほとんどの場合,畑などに隣接しており,汚染原因として施肥の影響が大きいと推定されている(宇佐美美穂子・鈴木俊也・楠くみ子・稲葉美佐子・岡本寛・石上武・矢口久美子 (2009) 東京都多摩地域飲用井戸水における水質検査結果.水環境学会誌.32: 505〜511)。

     (3)安定同位体比を用いた汚染源の推定

     汚染源をもう少し直接的に推定する方法として,安定同位体比を用いる方法がある。窒素の場合,自然界に存在する窒素元素の大部分は,放射能を持たない質量14のもの(14N)だが,ごく少量だが,やはり放射能を持たないが質量15の同位体(安定同位体)(15N)も存在する。この質量の異なる窒素の2つ安定同位体比(15N/14N)はサンプルによって異なる。大気中の窒素ガスの安定同位体比を基準にして,サンプルの安定同位体比がどれだけ大きいか小さいかによって,サンプル中の窒素が,主に降雨,化学肥料,家畜ふん尿,生活排水のいずれに由来するかを推定することができる。

     この手法を用いて,東京都の青梅市や瑞穂町に隣接する埼玉県の入間市,所沢市と狭山市の地下水の硝酸性窒素汚染源を推定した研究によると,(1)下水道が整備されていて,上流部に茶畑があって,安定同位体比が比較的低く,化学肥料の影響の強い地域,(2)畑作地帯が多く,人口密集地には下水道が整備されていて,安定同位体比が多少高めであり,化学肥料の影響を受けながら,そこに存在した硝酸イオンが脱窒を受けて,安定同位体比が多少高くなっている地域,(3)下水道が整備されておらず,安定同位体比が高く,生活排水によって高い安定同位体比が生じている地域を分類している(小川祐美・田瀬則雄・檜山哲哉・嶋田純 (1998) 埼玉県金子台地付近における不圧地下水の硝酸性窒素の起源に関する 一考察.日本水文科学会誌.28: 125〜134安定同位体比 )。

     東京23区(低地側の12区と台地側の11区)から採取した地下水サンプルについて,アンモニア性窒素の窒素安定同位体比を調べた結果によると,アンモニア性窒素が高いほど窒素の安定同位体比が高い傾向があり,低地側では下水管からの漏水が主因と推定された。そして,硝酸性窒素の窒素安定同位体比を調べた結果,硝酸性窒素濃度の高い地点のなかでも,窒素安定同位体比の低かった地点が目黒区や練馬区などでみられた一方,窒素安定同位体比の高かった地点が文京区や渋谷区などでみられた。世田谷区や杉並区などでは,あまり硝酸性窒素濃度が高くなかったのに,窒素安定同位体比が高い地点も見られた。これらのうち,硝酸性窒素の窒素安定同位体比が高い地点では少量の下水の漏水が考えられ,窒素安定同位体比が低い地点では肥料や地質由来のものが主要因となっていて,一部下水の漏水が含まれる可能性があると推定された(福士哲雄 (2008) 安定同位体比を用いた東京の地下水水質影響因子の解析.東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士論文概要)。

    ●おわりに

     都市農業は緑の空間を作って,都市住民にやすらぎや災害時の避難場所を提供するなど,プラスの公益的機能を発揮している。しかし,環境保全型農業レポート「No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策」に述べたように,春先に風食を起こして都市住民に嫌われるケースが多いが,それに加えて,地下水の硝酸性窒素汚染を起こしているケースも少なくない。大都市では地下水を飲用水に使用しているケースは極めて少ないと冒頭部分で述べたが,宇佐美ら(2009)(前出)によると,1997年の調査だが,多摩地区で約3000か所の井戸が飲用に利用され,そのうちの15.8%(500か所弱)では水道が布設されてなく,唯一の飲用水源として利用されているし,事業所や病院などには井戸水を利用する傾向が増えてきているという。こうした面からも,都市農業でも正しい施肥管理を行なって,地下水の硝酸性窒素を起こさないことが,農業が地域住民から支持されるために不可欠であろう。

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