No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス
●はじめに
OECD(経済開発協力機構)は2008年に加盟国の農業環境指標の状態を刊行した(OECD (2008) Environmental Performance of Agriculture in OECD Countries Since 1990. 575p. OECD Publication, Paris)。この一部は環境保全型農業レポート「No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス」に紹介した。それに続き,今回は,同書のエネルギー消費に関する指標の状態を紹介する。
●OECDのエネルギー消費指標
OECDは,農業の一次生産での直接エネルギー消費量(動力,空調,発電,乾燥,灌漑,家畜飼養などに要した石油,電力,天然ガスなどのエネルギー。ただし,肥料,農薬,機械などの製造に要した間接エネルギーを除く)の加盟国別総量を指標にしている。なお,加盟国によって,農業での消費量と林・水産業での消費量との区別や,農家の家庭生活での消費量との区別がまちまちであり,国間の比較ではこの点を留意しておくことが必要である。エネルギー量は石油に換算し,石油のトン数で表示している。
2002-04年における加盟国の全エネルギー消費量に占める農業での直接エネルギー消費量の割合をみると,OECD加盟国全体の平均では2%だが,全産業の中で農業の比重が高い国では,アイスランド13%,ポーランド8%,オランダとギリシャ6%,デンマークとトルコ5%などが突出している。1990-92年に対するエネルギー消費量の増減をみると,2002-04年にはOECD全体では全部門のエネルギー消費総量が19%増加したが,農業での直接エネルギー消費量は3%増加と,増加率は相対的に小さかった。
一般に,農業環境指標の値の大小が環境状態に影響する程度は国の条件によって異なる。そのためOECDは,国ごとに1990-92年の平均値と2002-04年の平均値を比較し,環境負荷につながる指標の値が減少したら,他の国とは改善効果が異なるものの,環境改善の方向で先進したと評価している。そして,農業でのエネルギー消費量の増加が特に顕著な国は,オーストラリア,韓国,メキシコ,ニュージーランド,ポーランド,スペイン,トルコであった(図1)。その原因は,農業生産の拡大,機械化の進展,農業機械の馬力増加などによるが,これらの寄与の程度は国によって異なるはずである。そして,この間の増減でいえば,日本では4.9 %減少した。このことだけをみれば,日本農業はエネルギー消費について何の問題もないようにみえる。
●OECD国のエネルギー消費レベル
図1の増減だけでは,加盟国の農業におけるエネルギー消費量のレベルが分からない。そこで,加盟国別の1990-92年と2002-04年のエネルギー消費量をみると,直接エネルギー消費量が突出しているのはアメリカの1,538万トン(石油換算量)だが,2位は日本の663万トンであった(図2)。日本の値が高いのは,耕地面積当たりの農業機械の台数が多く,灌漑用水消費量,施設園芸多いことなどに起因すると推察される。
この図で,加盟国の農業生産額を考慮すると,日本はエネルギー効率の点で極めて劣悪な農業を営んでいることが推察される。
●FAOの農業生産指数
各国が公表している農業生産額の統計を比較するのは,通貨や物価の違いなどもあって,難しいのであるが,FAO(国連食糧農業機関)は,FAOの「農業生産指数」による農業生産額の統計値を公表している。
農業生産額は農産物の生産量に農産物の単位価格を乗じて計算するが,このFAOの指数では,年によって変動する農産物価格を採用するのではなく,1999-2001年の平均国際農産物価格を基準価格として固定単位価格としている。対象農産物は,種子と飼料作物を除く一次生産した作物と家畜で,加工品は対象外にしている。
国による物価の違いは物価指数作成のラスパイレス算式によって補正し,国民勘定集計量の多国間比較を行なうGK法(ギアリー・カーミス法)によって農産物の基準価格を計算している。基準価格なので,例えば,コムギ1トンは世界中で同一価格となる。単位は「国際ドル」で,これは基準価格を計算したときのUSドルのレートを用いている。各国の通貨のドルに対する為替レートは当然現在変動しているが,そうした変動は無視して,基準価格を使い続ける。このため,各国の農産物の生産額は為替レートで計算した額とは異なってくる。例えば,中国の1999-2001年の穀物生産額は当時の公的為替レートを使えば548億USドルだが,物価の違いなどを考慮した国際農産物価格を用いると710億国際ドルとなる。この用語の概念についてはFAOのホームページを参照願いたい。
●OECD国の農業のエネルギー効率
FAOの農業生産指数の農業全体の総(粗)生産額指数(単位:国際ドル)を用いて,OECD国が2002-04年に農業の直接エネルギーとして消費したエネルギー量の石油相当量1トン当たりの農業生産額を計算した(図3)。
図が示すように,日本農業は直接エネルギーをたくさん投入しているのに,農業生産額が非常に少なく,エネルギー効率の悪い農業を行なっている。この内容を詳しく分析し,問題点とその改善方策を検討することが大切であろう。
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