環境保全型農業レポート > No.14 北海道「遺伝子組換え」条例
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例

    北海道が「遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」を公布

    ●遺伝子組換え体の農業利用を巡る問題

     遺伝子組換え生物を野外で生産したときに,導入遺伝子が他の生物に非意図的に移って野生生物の遺伝子を変化させたり,導入遺伝子から作られた毒性物質が野生生物に影響を与えたりする可能性が問題になっている。こうした遺伝子組換え生物の野外利用にともなう野生生物への影響を防止するカルタヘナ議定書が2003年9月に発効した。これに対応して,2003年6月に日本は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」を施行して,遺伝子組換え体の第一種使用(野外/開放系使用)と第二種(施設内/閉鎖系使用)に関する手続を法的に整備した(関連情報掲載サイト)。第一種使用には,部外者の立入を禁止した隔離圃場において組換え体の生態系影響を調べる実験のための使用と,その実験結果に基づいて生態系影響のないことが確認された組換え体の一般圃場での生産がある。農業利用の組換え体の第一種使用については,主務大臣である農林水産大臣に必要なデータ等を添付して申請して承認を受けることになっている。

     ところで,有機農業は遺伝子組換え作物や家畜の生産を排除している。有機農業者が遺伝子組換え作物を栽培していなくても,別のところで栽培された組換え体の導入遺伝子が花粉の飛散によって有機生産圃場に混入して,遺伝子の交雑が起きると,有機農産物としての純粋性が疑われてしまう。JAS法の有機農産物加工食品の日本農林規格では,5%未満の非有機農産物の混入であれば,法的には有機農産物として認められる。しかし,遺伝子組換え体に対する消費者の嫌悪感が強い現状では,5%未満であっても混入が起きれば,有機農産物としての健全性が損なわれたと受け取られる恐れが高い。事実,アメリカにおいて飼料用に認可された組換えトウモロコシ品種のスターリンクの遺伝子を含んだ種子が1%未満だが,一般のトウモロコシに混入し,それが日本に輸入されていることがわかって大きな問題になった。こうしたことから,「食の安全・安心条例」で有機農業をクリーン農業とともに推進する際には,組換え体の野外での生産が関係してくる。

     北海道は,2004年3月に「北海道における遺伝子組換え作物の栽培に関するガイドライン」を定めた。その理由として,「道民はもとより全国の消費者が,遺伝子組換え食品に強い不安感を抱いており,また,遺伝子組換え作物の花粉の飛散による一般作物との交雑などが懸念される。こうした状況の中で,道内において,開放系で遺伝子組換え作物の栽培が行われることは,道産食品に対する風評被害や本道農業の著しいイメージダウンにつながる恐れがある。」という基本認識を示している。これは有機農産物への導入遺伝子の混入だけでなく,北海道内で組換え体が野外で生産されることになれば,クリーン農産物にも導入遺伝子が混入しているとの風評が立って,道産農産物の売れ行きが大幅に凋落することを警戒していることを示している。

    ●「北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」

     国で定めた上記「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」では,国の承認を受けるだけで,隔離圃場での実験や一般圃場での生産を行うことができる。しかし,北海道の条例は2005年3月31日に公布され,道内で第一種使用を行おうとする場合には,国の許可に加えて,知事の承認を求めることを義務化した。知事は承認に際して,「食の安全・安心委員会」の意見を聴取する(下図)。条例は2006年1月1日から施行されるが,それ以前に遺伝子組換え体の第一種使用を新たに行う者や研究機関の申請は2005年10月1日から受け付ける。また,現在,隔離圃場などで行っている研究機関の第一種使用については,2006年12月31日まで本条例を適用しない。

     条例は,国の法律に上積みして次を規定している。(1)知事が交雑混入防止措置に関する基準を定める。このため,申請に要するデータは,国の法律とその施行規則などで求めているものと基本的には変わらないものの,道の基準次第では,同じデータに基づくとしても,国の承認と違った結論を導くことがあり得る。(2)条例は,承認を受けた後に第一種使用が行われて,当初予想できなかった遺伝子の交雑や遺伝子組換え体の一般圃場への混入が生じた場合は,必要な措置を講じて,直ちに知事に報告して指示に従うことを規定している。(3)承認後に,科学的知見が集積して,交雑や混入が圃場で実際に生じていないものの,その起きる危険が予測される場合には,承認を取り消すことを規定している。(4)独立行政法人の研究機関が開放系で組換え体を栽培するときは,これまでも地元住民に説明会を開催しているが,本条例ではすべての第一種使用者に説明会を義務化することを規定している。

     関係文書は <http://www.pref.hokkaido.jp/nousei/ns-rtsak/shokuan/conf.html>から入手できる。

    「遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」の概要(北海道農政部:「遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」の概要より)

    ●条例の課題

     2004年2月に,国の研究所(独立行政法人)が行う第一種使用で,組換え作物からの花粉の飛散による遺伝子交雑を防止するための規定として,「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針」が作られている。このなかで,遺伝子組換え作物と当該一般作物との間に置くべき最低の距離として,イネ20m,ダイズ10m,トウモロコシ600m(防風林がある場合は300m),西洋ナタネ600m(花粉および訪花昆虫のトラップとし,栽培実験対象作物の周囲に,1.5m幅の非組換え西洋ナタネを開花期間が重複するように作付けた場合は400m)が規定されている。ただし,イネについては,2005年4月12日に,最近の実験結果に基づいて26mとし,出穂期を2週間以上ずらすように植え付け時期を調整するように改訂された。

     ただし,この指針は独立行政法人にしか適用されていない。民間研究所などには敷地面積の狭い隔離圃場もあり,作物の種類によっては,自己の圃場内においてこれだけの距離を確保できないところもあるからである。独自の条例を交付した北海道は,交雑混入防止措置に関する基準で,この点をどのように設定するかが一つの問題点となる。というのは,日本ではイネを除くと,この安全距離に関するデータの集積が乏しく,上記指針も欧米のデータに基づく。交雑率を明記していないが,恐らく交雑率を0.1%未満としていよう。安全距離は交雑率を何%に設定するかで大きく異なる。北海道が交雑率をどれくらいに設定するかによって安全距離も大きく異なってくる。知事が承認に際して意見を聴取する「安全・安心委員会」の委員がもしも,交雑率はゼロでなければならないという結論をだしたとしたら,組換え作物の野外栽培は事実上一切できなくなる。この点の基準を科学的にどのように設定するかが注目される。

    ●組換え作物の生態系影響に関する今後の課題

     植物の遺伝子が他の植物に移ることは自然界では日常的なことで,遺伝子が移ること自体が問題なのではない。問題は,自然界での交配では生じない遺伝子の生物間移動がバイオテクノロジーによって可能になったために,本来植物になかった遺伝子が植物に組みこまれ,それが花粉の飛散によって他の植物に拡散して,野生植物の遺伝子構成が知らないうちに大きく変わってしまう危険性である。そして,その遺伝子が生物に有害な物質を生成する場合には,問題がさらに大きくなる。

     現在,組換え作物に導入されている遺伝子は,非植物由来で,Bt毒素や除草剤といった昆虫や植物に有害な物質の生成やそれに対する耐性にかかわるものである。それゆえ,これらの遺伝子が組換え植物から他の植物に移って行くとすれば問題になる。だが,植物に元々存在し,有害物質に関係せず,植物の光合成などを高める遺伝子であったら,どうであろうか。こうした遺伝子が植物間を移動しても問題は少ないだろう。また,花粉による遺伝子の移動距離は,自家受粉植物と他家受粉植物で異なる。植物と遺伝子の種類によって,遺伝子の飛散距離や,遺伝子が移ったことにともなう環境や人間の健康にかかわるリスクが異なる。そうしたリスクを評価して,より安全な植物と遺伝子の組合せと危険の高い組合せを整理することが必要である。そして,より安全な組合せについては規制をゆるめ,より危険の高い組合せについては規制を強化することが今後必要である。一律に遺伝子組換えに反対したり,賛同したりする姿勢は科学的ではなかろう。

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