環境保全型農業レポート > No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
    以前の記事一覧

  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針

    ●関係法律におけるコメのカドミウム規制基準の改正〜「食品衛生法」と「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」

     数年前まで食品中のカドミウム濃度の規制値がコーデックス委員会で論議された。特にコメのカドミウム濃度については論議が重ねられたが,最終的に2006年7月の第29回コーデックス委員会総会で精米・玄米については上限値0.4 mg/kgで決着した(環境保全型農業レポート.No.50 食品のカドミウム規制に終止符!)。

     A.食品衛生法

     一方,コーデックス委員会での議論に呼応して,厚生労働省は2003年7月に食品安全委員会に対して,食品からのカドミウム摂取に係る食品健康影響評価を諮問していた。食品安全委員会は,新たに実施した食品健康影響評価の実験結果も踏まえて,2008年7月に,食品を通じて一生涯摂取し続けても健康に悪影響が出ないカドミウムの摂取量(耐容摂取量)を1週間当たり体重1 kg当たり7 μgと評価した。同評価を受け,厚生労働省は,薬事・食品衛生審議会において,基準値の見直しを審議し,コメのカドミウムの食品衛生法における規格基準を,玄米1 mg/kgから,2010年4月に「玄米及び精米で0.4 ppm以下」(1kgの玄米及び精米中に0.4mg以下)に改正した。施行は2011年2月末日。

     B.農用地の土壌の汚染防止等に関する法律

     コメのカドミウム濃度は,「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」の施行令にも関係している。同法による農用地土壌汚染対策地域の指定要件などが,農用地において生産されるコメに含まれるカドミウムの量が,コメ1 kgにつき0.4 mgを超えると認められる地域とすることなどが,2010年6月に改正・施行された。これにともない,従来は玄米1 kg当たり1 mgを超えるカドミウムを含有するコメを生産すると認められる水田は,農用地土壌汚染対策地域に指定することができ,指定された地域では土壌改善対策が実施された。しかし,今回の改正による法律施行後は,カドミウムの濃度が精米ないし玄米1 kgにつき0.4 mgを超えると認められる地域となり,従来は対象でなかったが,新たに対象となる水田が出てくることが考えられる。

    ●コメのカドミウム濃度低減のための実施指針の経緯

     2011年3月1日から玄米・精米のカドミウム濃度が0.4 mg/kg以下に改正されることになったことを受け,農林水産省消費・安全局は,この基準を超えないように2011年度からの水稲生産を実施するために,農家に営農指導する立場にある者(普及指導員,行政担当者,営農指導員などに向けた,「コメのカドミウム濃度低減のための実施指針(案)」を作成した。そして,この案について2011年1月28日にパブリックコメントで意見を募集した(「コメのカドミウム濃度低減のための実施指針」案についての意見・情報の募集について)。

     マイナーな修正を行なった上で,実施指針が2011年8月に公表された(農林水産省消費・安全局(2011年8月)コメ中のカドミウム濃度低減のための実施指針.全22頁.)。正規版の公表は8月になったが,実際には案に基づいて,営農指導がなされたと推察される。

    ●カドミウム濃度低減対策の概要

     カドミウム濃度低減対策として下記を提言している。

     A.対策を実施する範囲の絞込み

     土壌中のカドミウムの水稲への移行は,土壌の酸化還元電位やpH などに左右される。それゆえ,同じ水田であっても,気象状況や水管理などの栽培管理状態の違いによって,生産されたコメ中のカドミウム濃度は年によって変動する。このため,土壌中のカドミウム濃度から推定したコメのカドミウム濃度にはかなり大きな変動幅が存在する。したがって,過去に実施したコメのカドミウム濃度の調査データを整理し,低減対策が必要な地域や圃場を特定する。その際,コメのカドミウム濃度は年次によって振れるので,単年度だけのデータでなく,過去の累年データによって,0.4 mg/kgを超えたデータが生じた地域や圃場を特定する。土壌とコメのカドミウム濃度とを比較した過去のデータがある場合には,土壌中のカドミウム濃度を分析し,その濃度から,新たに生産したコメのカドミウム濃度の平均値と上限値を推定するなどによって,低減対策を実施する範囲を絞り込む。

     コメ中のカドミウム濃度を低減するには,

     (1) 水稲による土壌からのカドミウム吸収を抑制するように水稲の栽培方法を改善する

     (2) 土壌中のカドミウム濃度を下げる

     のいずれか,あるいは両者の対策を講じる。

     B.湛水管理を中心とする吸収抑制対策

     湛水管理は,原則として出穂 3 週間前から出穂3 週間後までは,常に水が張られた状態を保ち,土壌を還元状態にすることである。これによって,土壌中のカドミウムを水に溶解しにくい化学的状態に変化させ,水稲が根からカドミウムを吸収することを抑制する。落水時期は原則として出穂から 3 週間後以降とする。

     また,pH 調整は,ケイ酸カルシウムや熔成リン肥などの施用によって,土壌のpH を中性に近づけることである。これによって土壌中のカドミウムを水に溶解しにくい化学的状態に変化させて,水稲が根からカドミウムを吸収するのを抑制する。ただし,pH 調整単独では十分な効果は期待できないため,湛水管理と組み合わせて実施することが望ましい。

     吸収抑制対策の実施によって,玄米中のカドミウム濃度を60〜90%程度引き下げることが可能である。

     なお,以前に吸収抑制対策を実施したことがない地域では,3 年程度にわたって吸収抑制対策を実施した後,低減効果を検証することが望ましい。吸収抑制対策のみでは効果が不十分と判断された場合,食用品種の作付けを中断するとともに,他の土壌浄化対策である植物浄化又は客土を実施する。また,農業用水の不足等の問題から,物理的に湛水状態の維持が困難な事態が生じた場合も,効果不十分と判断された場合と同様に対応する。

     C.植物浄化による土壌のカドミウム低減対策

     植物浄化は,カドミウム吸収能が高い「浄化植物」を栽培し,土壌中のカドミウムを吸収した植物を収穫し,カドミウムを回収可能な施設で焼却処理することによって,農地を浄化する対策である。カドミウム吸収量の大きい稲品種の長香穀かIR-8を用いた技術体系が存在する。

     独立行政法人農業環境技術研究所を中心とした研究や各地での技術評価の結果から,適切に栽培管理を行なえば,1 回の作付で土壌中のカドミウム濃度(0.1mol/L 塩酸抽出)を10%程度,2年間の作付で35%程度低下させることが示されている。

     D.客土による土壌のカドミウム低減対策

     客土は,汚染された農地に非汚染土壌で盛り土を行なうなどによって,土壌から農産物へのカドミウムの移行を抑制する対策である。汚染土壌の扱いや非汚染土壌の盛り土の有無によって様々な工法が存在する。

     通常,水稲根の大部分は地表から20cm 以内に存在する。このため,非汚染土壌を盛り土する工法の場合,高濃度に汚染された土壌であっても,20〜40 cm 程度の盛り土で確実に水稲の作土層のカドミウム濃度を非汚染レベルにすることが可能である。

     客土対策は,他の対策に比べて非常にコストが高く,短期間に大面積を実施することが難しい。また,非汚染土壌を外部から搬入する場合には,土壌採取地の環境に対する影響への配慮が必要である。

     E.土壌洗浄法による土壌のカドミウム低減対策

     土壌洗浄法は土壌に塩化第二鉄を加えて,カドミウムを水中に溶出させた後,溶出したカドミウムを回収して,残りの水を排水することによって,土壌中カドミウムを除去する技術である。具体的には,以下の工程で実施する。

     (1) 水田に農業用水と塩化第二鉄を入れ,作業深度を調節可能なロータリを装着したトラクタを用いて塩化第二鉄を含む水と土壌を混合する。

     (2) 水に溶出したカドミウムを処理装置で回収した上で排水する。

     (3) 農業用水のみを水田に入れて,工程(1)と同様に水と土壌を混合し,水に溶出したカドミウムを回収した後に排水する(本工程を2〜3 回繰り返す)。

     なお,対策に要する期間は,必要な機材の設置,撤去を含め2 ha 規模で90 日間程度である。土壌と水を混合する際の水深を45 cm 以上とすることで、土壌中のカドミウム濃度を60〜80%程度低減することが可能である。

    ●農環研が「農作物中カドミウム低減対策技術集」を刊行

     上記の対策のうち,植物浄化と土壌洗浄法とによる土壌のカドミウム低減対策は(独)農業環境技術研究所の研究によるものである。農業環境技術研究所がカドミウム対策として,従来技術とは違った新しい技術を開発している。その概要を,環境保全型農業レポート.No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 に紹介した。

     農業環境技術研究所は,2011年3月に「農作物中カドミウム低減対策技術集」,55頁.を刊行した。その中で,上記実施指針に採用されている,「カドミウム高吸収イネ品種による浄化技術」と「土壌の化学洗浄による浄化技術」に加えて,「低カドミウムイネ品種の育成」,「水稲におけるカドミウムとヒ素の吸収について」,「畑作物のカドミウム吸収低減対策」,「有機性廃棄物を原料とする肥料の施用と作物のカドミウム濃度」も詳しく解説している。上記実施指針と合わせて利用されることが望まれる。

    (c) Rural Culture Association All Rights Reserved.