環境保全型農業レポート > No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 |
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No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針
●関係法律におけるコメのカドミウム規制基準の改正〜「食品衛生法」と「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」数年前まで食品中のカドミウム濃度の規制値がコーデックス委員会で論議された。特にコメのカドミウム濃度については論議が重ねられたが,最終的に2006年7月の第29回コーデックス委員会総会で精米・玄米については上限値0.4 mg/kgで決着した(環境保全型農業レポート.No.50 食品のカドミウム規制に終止符!)。 A.食品衛生法 一方,コーデックス委員会での議論に呼応して,厚生労働省は2003年7月に食品安全委員会に対して,食品からのカドミウム摂取に係る食品健康影響評価を諮問していた。食品安全委員会は,新たに実施した食品健康影響評価の実験結果も踏まえて,2008年7月に,食品を通じて一生涯摂取し続けても健康に悪影響が出ないカドミウムの摂取量(耐容摂取量)を1週間当たり体重1 kg当たり7 μgと評価した。同評価を受け,厚生労働省は,薬事・食品衛生審議会において,基準値の見直しを審議し,コメのカドミウムの食品衛生法における規格基準を,玄米1 mg/kgから,2010年4月に「玄米及び精米で0.4 ppm以下」(1kgの玄米及び精米中に0.4mg以下)に改正した。施行は2011年2月末日。 B.農用地の土壌の汚染防止等に関する法律 コメのカドミウム濃度は,「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」の施行令にも関係している。同法による農用地土壌汚染対策地域の指定要件などが,農用地において生産されるコメに含まれるカドミウムの量が,コメ1 kgにつき0.4 mgを超えると認められる地域とすることなどが,2010年6月に改正・施行された。これにともない,従来は玄米1 kg当たり1 mgを超えるカドミウムを含有するコメを生産すると認められる水田は,農用地土壌汚染対策地域に指定することができ,指定された地域では土壌改善対策が実施された。しかし,今回の改正による法律施行後は,カドミウムの濃度が精米ないし玄米1 kgにつき0.4 mgを超えると認められる地域となり,従来は対象でなかったが,新たに対象となる水田が出てくることが考えられる。
●コメのカドミウム濃度低減のための実施指針の経緯2011年3月1日から玄米・精米のカドミウム濃度が0.4 mg/kg以下に改正されることになったことを受け,農林水産省消費・安全局は,この基準を超えないように2011年度からの水稲生産を実施するために,農家に営農指導する立場にある者(普及指導員,行政担当者,営農指導員などに向けた,「コメのカドミウム濃度低減のための実施指針(案)」を作成した。そして,この案について2011年1月28日にパブリックコメントで意見を募集した(「コメのカドミウム濃度低減のための実施指針」案についての意見・情報の募集について)。 マイナーな修正を行なった上で,実施指針が2011年8月に公表された(農林水産省消費・安全局(2011年8月)コメ中のカドミウム濃度低減のための実施指針.全22頁.)。正規版の公表は8月になったが,実際には案に基づいて,営農指導がなされたと推察される。
●カドミウム濃度低減対策の概要カドミウム濃度低減対策として下記を提言している。 A.対策を実施する範囲の絞込み 土壌中のカドミウムの水稲への移行は,土壌の酸化還元電位やpH などに左右される。それゆえ,同じ水田であっても,気象状況や水管理などの栽培管理状態の違いによって,生産されたコメ中のカドミウム濃度は年によって変動する。このため,土壌中のカドミウム濃度から推定したコメのカドミウム濃度にはかなり大きな変動幅が存在する。したがって,過去に実施したコメのカドミウム濃度の調査データを整理し,低減対策が必要な地域や圃場を特定する。その際,コメのカドミウム濃度は年次によって振れるので,単年度だけのデータでなく,過去の累年データによって,0.4 mg/kgを超えたデータが生じた地域や圃場を特定する。土壌とコメのカドミウム濃度とを比較した過去のデータがある場合には,土壌中のカドミウム濃度を分析し,その濃度から,新たに生産したコメのカドミウム濃度の平均値と上限値を推定するなどによって,低減対策を実施する範囲を絞り込む。 コメ中のカドミウム濃度を低減するには, (1) 水稲による土壌からのカドミウム吸収を抑制するように水稲の栽培方法を改善する (2) 土壌中のカドミウム濃度を下げる のいずれか,あるいは両者の対策を講じる。 B.湛水管理を中心とする吸収抑制対策 湛水管理は,原則として出穂 3 週間前から出穂3 週間後までは,常に水が張られた状態を保ち,土壌を還元状態にすることである。これによって,土壌中のカドミウムを水に溶解しにくい化学的状態に変化させ,水稲が根からカドミウムを吸収することを抑制する。落水時期は原則として出穂から 3 週間後以降とする。 また,pH 調整は,ケイ酸カルシウムや熔成リン肥などの施用によって,土壌のpH を中性に近づけることである。これによって土壌中のカドミウムを水に溶解しにくい化学的状態に変化させて,水稲が根からカドミウムを吸収するのを抑制する。ただし,pH 調整単独では十分な効果は期待できないため,湛水管理と組み合わせて実施することが望ましい。 吸収抑制対策の実施によって,玄米中のカドミウム濃度を60〜90%程度引き下げることが可能である。 なお,以前に吸収抑制対策を実施したことがない地域では,3 年程度にわたって吸収抑制対策を実施した後,低減効果を検証することが望ましい。吸収抑制対策のみでは効果が不十分と判断された場合,食用品種の作付けを中断するとともに,他の土壌浄化対策である植物浄化又は客土を実施する。また,農業用水の不足等の問題から,物理的に湛水状態の維持が困難な事態が生じた場合も,効果不十分と判断された場合と同様に対応する。 C.植物浄化による土壌のカドミウム低減対策 植物浄化は,カドミウム吸収能が高い「浄化植物」を栽培し,土壌中のカドミウムを吸収した植物を収穫し,カドミウムを回収可能な施設で焼却処理することによって,農地を浄化する対策である。カドミウム吸収量の大きい稲品種の長香穀かIR-8を用いた技術体系が存在する。 独立行政法人農業環境技術研究所を中心とした研究や各地での技術評価の結果から,適切に栽培管理を行なえば,1 回の作付で土壌中のカドミウム濃度(0.1mol/L 塩酸抽出)を10%程度,2年間の作付で35%程度低下させることが示されている。 D.客土による土壌のカドミウム低減対策 客土は,汚染された農地に非汚染土壌で盛り土を行なうなどによって,土壌から農産物へのカドミウムの移行を抑制する対策である。汚染土壌の扱いや非汚染土壌の盛り土の有無によって様々な工法が存在する。 通常,水稲根の大部分は地表から20cm 以内に存在する。このため,非汚染土壌を盛り土する工法の場合,高濃度に汚染された土壌であっても,20〜40 cm 程度の盛り土で確実に水稲の作土層のカドミウム濃度を非汚染レベルにすることが可能である。 客土対策は,他の対策に比べて非常にコストが高く,短期間に大面積を実施することが難しい。また,非汚染土壌を外部から搬入する場合には,土壌採取地の環境に対する影響への配慮が必要である。 E.土壌洗浄法による土壌のカドミウム低減対策 土壌洗浄法は土壌に塩化第二鉄を加えて,カドミウムを水中に溶出させた後,溶出したカドミウムを回収して,残りの水を排水することによって,土壌中カドミウムを除去する技術である。具体的には,以下の工程で実施する。 (1) 水田に農業用水と塩化第二鉄を入れ,作業深度を調節可能なロータリを装着したトラクタを用いて塩化第二鉄を含む水と土壌を混合する。 (2) 水に溶出したカドミウムを処理装置で回収した上で排水する。 (3) 農業用水のみを水田に入れて,工程(1)と同様に水と土壌を混合し,水に溶出したカドミウムを回収した後に排水する(本工程を2〜3 回繰り返す)。 なお,対策に要する期間は,必要な機材の設置,撤去を含め2 ha 規模で90 日間程度である。土壌と水を混合する際の水深を45 cm 以上とすることで、土壌中のカドミウム濃度を60〜80%程度低減することが可能である。
●農環研が「農作物中カドミウム低減対策技術集」を刊行上記の対策のうち,植物浄化と土壌洗浄法とによる土壌のカドミウム低減対策は(独)農業環境技術研究所の研究によるものである。農業環境技術研究所がカドミウム対策として,従来技術とは違った新しい技術を開発している。その概要を,環境保全型農業レポート.No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 に紹介した。 農業環境技術研究所は,2011年3月に「農作物中カドミウム低減対策技術集」,55頁.を刊行した。その中で,上記実施指針に採用されている,「カドミウム高吸収イネ品種による浄化技術」と「土壌の化学洗浄による浄化技術」に加えて,「低カドミウムイネ品種の育成」,「水稲におけるカドミウムとヒ素の吸収について」,「畑作物のカドミウム吸収低減対策」,「有機性廃棄物を原料とする肥料の施用と作物のカドミウム濃度」も詳しく解説している。上記実施指針と合わせて利用されることが望まれる。
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