環境保全型農業レポート > No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中

    ●不耕起栽培とその意義

     通常の栽培では,作物が生長しやすいように土壌を整えたり雑草を防除したりするために,作物の播種・定植前に土壌を耕起し,さらに生育途中に雑草防除のために中耕するなど,年間に数回は土壌を耕起している(慣行耕起Conventional tillage)。これに対して,耕起の深さや回数を減らして,作物残渣を土壌表面に放置したまま作物を播種して栽培する方法は,トラクタの石油消費量を減らす,土壌侵食を減らす,土壌有機物蓄積量を増やすなどの効果をもっている。こうした耕起方法は,節減耕起(Reduced tillage) あるいは広い意味で不耕起と呼ばれ,省エネの視点からミニマム耕起(ティレッジ)(Minimum tillage)とか,環境保全の視点から保全耕起(Conservation tillage)とも呼ばれている。これらは,多くのメリットをもっている反面,デメリットも有しており,圃場とそこで栽培する作物の特性を踏まえて,メリットを生かせるように活用することが大切である。

     アメリカではミニマム耕起や保全耕起を次のように分類している(USDA (2004) Conservation Effects Assessment Project (CEAP) 2004 Farmer Survey: Interviewer’s Manual, p. C-5027〜5028 )。

     (1) 無耕起/溝切り耕起/直接播種

     「無耕起」(no till)は,作物残渣を土壌表面に一年中残し,施肥や播種に必要な最小限の耕起だけを行なう栽培方法(注:不耕起は耕起強度を減らした節減耕起と同義語としても使われることがあるため,no tillを「無耕起」と表記することにする)。

     「溝切り耕起」(strip till)は,播種の前または播種作業と同時に,ナイフ様装置を使って,土壌に切り込みを入れて作った残渣のない溝(幅15 cmまたは畦幅の1/3程度,深さ10〜20 cm)を作る耕起方法。溝切り時に,溝中の膨軟化した土壌が盛り上がって高さ8〜10 cmの畦様の段を形成し,播種時には高さ3〜5 cmに沈下する。溝切りは土の温めや乾燥させる効果も持っている。畦間の作物残渣を無撹乱で放置するので,不耕起に入れている。肥料は溝切り時に混和することが多く,種子は溝中の柔らかくなった土壌に播く。

     「直接播種」(direct seed)は,一部地域で使われている無耕起の別称。

     (2) 畦立て耕起(ridge till)

     畦に畦幅の1/3までの幅の溝を切って施肥や播種を行なうが,通常,それ以外は土壌を耕起しない。畦で作物栽培を完結させた後,畦の最上層の土壌を削って除き,作物残渣は畦間の土壌表面に一年中残す。栽培期間中に畦間の土を持ち上げて,畦を同じ高さに戻すように再構築しておき,同じ畦で作物の栽培をくり返す耕起方法。

     (3) マルチ耕起(mulch till)

     播種前に圃場全体を耕起して作物を栽培して,中耕を省略し,収穫後,作物の残渣を土壌表面に一年中残して土壌撹乱作業を減らす耕起方法で,様々なやり方がある。不耕起や畦立て耕起ではなく,農業者がミニマム耕起や保全耕起といっているものはマルチ耕起に分類されるケースが多い。

     USDA(アメリカ合衆国農務省)の経済研究局(Economic Research Service)は,節減耕起によって作物残渣中の炭素の土壌蓄積量が増えて,土壌に長期に貯留される炭素量が増えることから,耕地での節減耕起を増やしてアメリカの温室効果ガス削減に寄与させることをもくろんでいる。そのために,まず耕地での節減耕起が現在どのような状況にあるかを調べ,その報告書を2010年11月に刊行した。その概要を紹介する。John Horowitz, Robert Ebel and Kohei Ueda (2010) “No-Till” Farming Is a Growing Practice. USDA Economic Research Service. Economic Information Bulletin Number 70. 22p.

    ●耕起方法の調査方法

     全米の農地における耕起の実施状況は,USDAの経済研究局と全米農業統計局(NASS: National Agricultural Statistics Service)が共同で行なっている「農業資源管理調査」(Agricultural Resource Management Survey: ARMS)という統計調査で,その概略が把握されている。この調査は,トウモロコシ,コムギ,ダイズ,ワタなどの主要作物8種類を対象に,毎年1つか2つの作物を対象にして行なっている調査である。報告書ではまず「農業資源管理調査」によって,アメリカの耕起方法の実施状況の把握を解析している。この調査では上記のミニマム耕起や保全耕起のいずれを実践しているかを圃場別に農業者に質問し,それを記載している。

     この調査時には,どのような機械を使った作業を行なったかを圃場別に質問している。著者らは,「農業資源管理調査」データを吟味し,作付履歴や作業データから,当年の作物栽培後に圃場に残っている前作由来の作物残渣の土壌被覆面積割合を推定した。そして,作物残渣の土壌被覆面積割合が30%を超える圃場を「保全耕起」,そのうち,機械耕起作業を行なった記録がない圃場を「無耕起」とした。さらに,機械耕起作業を行なった記録がなく,作物残渣の土壌被覆面積割合が15〜30%の圃場を「節減耕起」,また,機械耕起作業を行なって,残渣被覆面積が15%未満の場合を「慣行耕起」に分類した。ただし,農業者の回答のなかには,耕起作業についての記録がないケースもあるため,「農業資源管理調査」の「無耕起」と,こうした吟味での「無耕起」の数値には若干の違いが存在する。

     「農業資源管理調査」は,特定作物についてみれば数年に1回の調査で,各作物で毎年のデータがそろっているわけではない。

     そこで,複数年にわたる不耕起の連続実施状況を知るために,特定地域だが,コーンベルトを中心とするミシシッピー川上流流域地帯(イリノイ,インディアナ,アイオワ,ミシガン,ミネソタ,ミズーリ,ウィスコンシン,サウスダコタにまたがる地帯)について行なわれている「全米資源インベントリ−保全影響評価プロジェクトの耕地調査」(National Resources Inventory- Conservation Effects Assessment Project (NRI-CEAP) Cropland Survey)のデータも使用して,解析を加えている。この調査は2003-06年に総計3,703のサンプル圃場について,調査年とその前2年の作物と農作業を農業者に聞き取り調査したものである(前2年は農業者の記憶による)。  

    ●主な結果

     「農業資源管理調査」では毎年次のデータがそろっているわけではないが,データのある8大作物(2009年には全栽培面積の94%を占有)のうち,無耕起の傾向を統計解析するのに十分な数のデータがそろっているのは,トウモロコシ,ワタ,ダイズ,コメの4作物である。

     (1) これらのうち,全米での無耕起栽培面積割合が最も高かったのはダイズ(2006年に45.3%)で,最も低かったのはコメ(2006年に11.8%)であった(表1)。ただし,州によって無耕起栽培の割合はかなり異なった。

     (2) 無耕起栽培割合の傾向を解析できるトウモロコシ,ワタ,ダイズ,コメの4作物で,2回の調査年次の間に無耕起栽培割合が増加した年当たりの増加率を計算すると,コメで1.08%ポイント,ワタで1.37%ポイント,トウモロコシで1.86%,ダイズで2.59%ポイントであった(表1)。これらの中央値は年1.5%ポイントの増加であった。

     (3) 8大作物のいずれにおいても無耕起栽培面積割合が年1.5%ポイント増加すると仮定し,各作物の直近のデータがその後毎年この率で増加するとして計算すると,2009年の無耕起栽培面積割合は8大作物全体で35.5%となり,ダイズでは49.8%,コメでは16.3%に増加したと推定された(表1)。

     (4) ミシシッピー川上流流域地帯(トウモロコシとダイズの輪作が主な作付体系)では,無耕起を1年だけ実施した圃場は全耕地面積の16%だったが,2年および3年継続した無耕起を行なった圃場はそれぞれ12%と13%であった。これは無耕起を開始すると,この地帯では継続して無耕起を行なうケースが多いことを示唆している(表2)。

    ●温暖化防止対策としての無耕起

     環境保全型農業レポート「No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法」に,耕耘の削減によって,EUは年間0.15〜0.70 CO2相当t/haの炭素を土壌に長期貯留できるとのまとめを行なっていることを紹介した。他方,USDAの経済研究局の本報告書の著者は,アメリカのコーンベルトでの研究で,慣行耕起を節減耕起に切り替えると,20年間にわたって年間ha当たり0.82トンのCO2を余分に隔離でき,慣行耕起をより節減した無耕起に切り替えると,年間ha当たり1.58トンのCO2を余分に隔離できるとの推定を引用している。年間ha当たり1.58トンCO2の長期貯留は過大評価かもしれないが,この係数を使うと,2009年のアメリカにおける8大作物の栽培面積は約1億haもあるので,8大作物を全て無耕起栽培にすれば,20年間にわたって毎年1.6億トンのCO2を土壌に長期貯留できることになる。因みに2008年のアメリカの温室効果ガスの総排出量はCO2換算で69億5700万トン (EPA: 2010 U.S. Greenhouse Gas Inventory Report) なので,総排出量の約2.3%を無耕起で長期固定できる計算になる。一方,日本の2008年度の温室効果ガス総排出量はCO2換算で12億8200万トンlである。日本の2009年の耕地面積は460万haだが,仮に耕地の全てを無耕起にしても,730万トンCO2しか土壌に長期貯留分を増やせない。これは総排出量のわずか0.56%にすぎない。

     アメリカは気候変動枠組条約も批准していないが,今後,温室効果ガス削減に本格的に取り組む場合,農業者が二酸化炭素を長期貯留できる無耕起を採用した場合,排出量の多い他産業がその長期貯留量を買い取り,その代金を農業者に支払うといった,農業支援策も考えられる。経済研究局は,無耕起を経済と結びつけた農業政策を今後展開させるための研究を意図している。

     なお,無耕起を毎年続けても土壌有機物として土壌に長期貯留される炭素量が無限に増え続けることはない。与えられた条件によって異なるが,やがて上限量に達し,1年間に土壌に投入された炭素量がその年のうちに全て二酸化炭素として放出されるようになる。それゆえ,無耕起は期間限定の対策であって,無期限に使える手段ではないことを頭の隅に入れておくことが必要である。

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