環境保全型農業レポート > No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価

    ●「バイオベースのプラスチック」とは

     プラスチックといえば,これまで石油を原料として製造されたものがほとんどであった。しかし,近年,バイオプラスチックと呼ばれる,光合成などの生物学的プロセスをへて再生可能な二酸化炭素から合成された有機素材を原料としたプラスチックが注目を集めている。ただ,バイオプラスチックと呼ばれてはいても,現在は,前述のように光合成などの生物学的プロセスをへて再生可能な二酸化炭素から合成された有機素材だけを使って製造されたプラスチックとは限らず,実際には今日市場に出ている大部分のバイオプラスチックは,石油から合成された素材との混合物となっている。このため,バイオ素材だけから合成されたバイオプラスチックと,バイオ由来の素材と石油由来の素材との混合物から合成されたプラスチックとを包含して,「バイオベースのプラスチック」と呼んでいる。これに対して,石油由来の素材だけから合成されたプラスチックは「石油ベースのプラスチック」と呼ばれている。

    ●バイオベースのプラスチックが持続可能な製品とは限らない

     プラスチックは現代社会に不可欠な素材であるが,主体となっている石油ベースのプラスチックは,次の大きな問題を抱えている。

     (1) 化石資源の石油を原料にしているために,非再生可能資源の枯渇を促進し,その燃焼によって地球温暖化に寄与している。

     (2) 微生物分解や堆肥化のできないものが多いために,使用済みプラスチックの埋め立てや焼却に広大な面積,労力やコストを要して,廃棄物処理を難しくしている。

     これらの問題点を解決するものとして,バイオベースのプラスチックへの期待が高まっている。しかし,実際には今日市場に出ている大部分のバイオベースのプラスチックは,石油ベースのものとの混合物となっている。このため,バイオベースの素材を使った分だけ石油の使用量を減らしており,二酸化炭素排出だけに注目したライフサイクルアセスメントでは,多少は,地球温暖化に貢献するものと評価される(ライフサイクルアセスメントについては,環境保全型農業レポート.No.149 有機栽培水稲のLCAの試み参照)。しかし,バイオベースのプラスチックであっても,その大部分は,微生物によってたいして分解されるわけではない。そのため,微生物分解が可能な資材や,分解する能力の高い菌の事例が,数少ないが注目されている(環境保全型農業レポート.No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌参照)。

     その上,第3の問題として,

     (3) 製造時,使用時および廃棄時の人体や環境に対する安全性の視点からの,素材や添加物の毒性の問題がある。

     例えば,塩化ビニールのような,塩素と芳香族化合物が含まれる廃棄物を焼却処分する際に,不完全燃焼になると,ダイオキシン類が発生するといった問題がある。また,バイオ素材の原料となるトウモロコシを栽培する際に,遺伝子組換えトウモロコシや化学農薬を多用して生態系に影響を及ぼす可能性もある。このため,バイオベースのプラスチックといっても,持続可能なプラスチックとは限らない。

     こうした背景を踏まえて,下記の論文は,既往の文献を整理して,バイオベースのプラスチックの持続可能性を評価する手法を研究した。その概要を紹介する。

     Clara Rosalía Álvarez-Chávez, Sally Edwards, Rafael Moure-Eraso, Kenneth Geiser (2012) Sustainability of bio-based plastics: general comparative analysis and recommendations for improvement. Journal of Cleaner Production 23: 47 - 56

    ●持続可能なバイオベースのプラスチックとは

     バイオベースのプラスチックとは,USDA(アメリカ農務省)のバイオベースの製品の定義( USDA, 2004 )を踏まえれば,「その全てまたはかなりの部分が,野生の生物または栽培・飼育された農産物や林産物の素材によって構成されているプラスチック」と定義できる。そして,著者らは,「持続可能に製造されたバイオベースの素材とは,遺伝子組換え生物,危険な農薬を用いずに栽培し,土壌および生態系にとって持続可能と認証され,堆肥化できて,食用作物に健全で安全な養分を供給するもの」と定義した。つまり,持続可能な要素として,資源の持続可能性だけでなく,健康や環境に対して悪影響ができるだけ少ないことが要求される。

     例え話をすれば,地球温暖化防止の観点だけからいえば,原子力発電は温室効果ガス発生量の削減効果が高いので,その範囲で持続可能な発電と評価されることも多かった。しかし,事故が起きて放射能が空中に揮散して環境や人間の健康に悪影響を与えたことを踏まえて,温室効果ガスの削減と同時に,環境や人間の健康に悪影響を与えないものでないと,持続可能な発電といえないというのと同じことを提起しているのである。

    ●代表的バイオベースのプラスチックの健康影響

    1.ポリヒドロキシアルカノエート(PHAs:polyhydroxyalkanoates)

     蔗糖,植物性の油や脂肪酸のような再生可能原料の発酵によって生産される脂肪族ポリエステルで,最近ではエタノール生産で残された廃棄物のトウモロコシ茎葉からの生産も実験的に試みられている。

     ポリヒドロキシアルカノエートの物理的抽出には,クロロフォルム,塩化メチレン,1,2-ディクロロエタンを含むハロゲン化した溶剤が使用される。これらの化学物質は強力な発ガン物質と見なされている。この他にも,ピリジン,メタノール,ヘキサン,ディエチルエーテルが使用されている。

     ピリジンは可燃性で,目を刺激し,頭痛,不安感,めまい,不眠,吐き気,食欲不振,皮膚炎,肝臓や腎臓のダメージを引き起こす。メタノールは可燃性で,目,皮膚,上部呼吸器系を刺激し,頭痛,眠気,めまい,吐き気,嘔吐,視覚かく乱,視神経ダメージ(失明),皮膚炎を引き起こす。

     ヘキサンは可燃性で,目や鼻の刺激,吐き気,頭痛,末梢神経障害(手足のしびれ,筋肉のおとろえ),皮膚炎,めまい,化学肺炎(嚥下液)を引き起こす。

     ディエチルエーテルは可燃性で,貯蔵状態下で酸素と接触すると爆発性の過酸化物を生成することがあり,目,皮膚,上部呼吸器系を刺激し,めまい,眠気,頭痛,昏睡,吐き気,嘔吐を引き起こす。高濃度のディエチルエーテルの吸入は人事不省や昏睡状態を引き起こす。

     ポリヒドロキシアルカノエートの化学的消化では,次亜塩素酸ナトリウム,メタノール,ディエチルエーテル使用される。次亜塩素酸ナトリウムは激しい刺激作用をもち,皮膚や目に激烈なやけどを引き起こす。発生する有毒な塩素ガスは呼吸器の通路を腐食し,口,鼻,喉を刺激する。次亜塩素酸ナトリウムを吸い込むと,やけど,腹部のけいれん,吐き気,嘔吐,低血圧,下痢,ショック症状,昏睡,死亡を引き起こす。

     化学的消化でなく,酵素による加水分解方法なら,有毒化学物質を使用せず,作業者にとって最も安全な方法である。

    2.ポリ乳酸樹脂(PLA:polylactic acid,polylactide)と純粋熱可塑性でん粉プラスチック(TPS:pure thermoplastic starch)

     ポリ乳酸樹脂は,コーンスターチや蔗糖を微生物発酵して得られた乳酸を重合させて得られる,熱可塑性脂肪族ポリエステルである。純粋熱可塑性でん粉は,トウモロコシ,ジャガイモ,コメ,タピオカやコムギのでん粉から発酵せずに押出成形かブレンドするか,または化学処理して生成する。

     ポリ乳酸樹脂やでん粉の製造での健康ハザードは,収量やでん粉特性改良のために遺伝子組換え生物(GMO)が使用されることへの不安である。2008年にアメリカの栽培面積の85%は遺伝子組換えトウモロコシとなっている。でん粉からのプラスチック製造に使用されている遺伝子組換え微生物は,GMOの悪影響が十分には理解されていないために懸念を抱かれている。GMOにかかわる人間の健康へのハザードとして,アレルギー反応,異常遺伝子とその生産物の毒性,代謝経路の変化などがありうる。ポリ乳酸樹脂はグルコースの発酵過程でGMOを使用することもありうる。

     でん粉の微粉末は大気に浮遊し,爆発を起こしうるので,作業者は安全面での危険性を有している。ポリ乳酸樹脂製造では発酵培養液から乳酸を回収する過程で硫酸を,重合化触媒システムで有機スズを使用する。腐食性の強い硫酸や有機スズを含む触媒は,作業者の健康や安全性の問題になっている。有機スズ化合物は動物に神経毒,人間や動物に細胞毒性を示し,性分化に影響して,雌の雄性化や雌の水生動物に不妊を起こす。

     グリセロールや尿素も可塑剤として純粋熱可塑性でん粉プラスチックに使用されている。グリセロールの危険性は低いと考えられている。尿素曝露によって,皮膚や目の赤色化や刺激,頭痛,吐き気,嘔吐,方向感覚の喪失や一時的錯乱が生じる。

    3.バイオウレタン(Bio-urethanes:BURs),セルロース系プラスチック,リグニン系プラスチックおよびポリトリメチレンテレフタレート(Polytrimethylene terephthalate:PTT)

     スポンジ,充填剤,防音材,塗料などに広範囲に使用されているポリウレタンは,ポリオールとイソシアネートを混合・反応させて製造するが,バイオウレタンは,ヒマシ油,ダイズ油,ヒマワリ油,アマニ油のような植物油の二価アルコール基や多価アルコールと,イソシアネートを反応させて製造する。セルロース系プラスチックやリグニン系プラスチックは,ワタの短い繊維から得られる天然セルロースやリグニンを化学的に修正して製造する。補強のためにプラスチックに天然繊維が添加されている。PTTは,1,1プロパンジオールと,テトラフタレン酸やジメチルテレフタレートのようなジカルボン酸とを反応させて生産した,芳香環を持った直鎖型のポリエステルである。1,1プロパンジオールは,トウモロコシでん粉由来のグルコースから微生物発酵で得ることができる。テトラフタレン酸やジメチルテレフタレートは,石油ベースの原料である。

     これらのプラスチックにはいろいろなタイプがあって,その生産プロセスの危険性を全て記載することは難しいが,その製造プロセスで危険な化学物質を使用している。

     バイオウレタンの製造には,労働基準法で疾病化学物質に指定されているのを始め,多くの法律で危険な物質として指定されているイソシアネートを使用する。その1つのトルエンジイソシアネートは揮発性の非常に高い液体で,目や呼吸器管の粘膜を強く刺激し,急性毒性として,陶酔感,運動失調,精神異常を起こす。トルエンジイソシアネート曝露後にごくわずかに吸引するだけで,作業者にぜんそくが生ずる。多量に吸引すると,胸が締め付けられ,咳き込み,無呼吸,つばが溜まって気管支炎,非心臓性の肺水腫が生ずる。トルエンジイソシアネートは,人体に発ガン性の可能性があると分類されている。このため,トルエンジイソシアネートの代わりにメチレンヂフェニールイソシアネートが使われることが多い。この化合物も皮膚,目や呼吸器管を刺激し,長期被曝すると,皮膚や呼吸器管が敏感になって,ぜんそくが生ずる。様々な多価アルコールやイソシアネートとの反応には,通常スズ誘導体を触媒として使用する(スズの危険性はポリ乳酸樹脂の節に述べた)。

     木材のクラフトパルプからセルロースを生産する通常の方法では,高温,高圧で,硫化ナトリウムや水酸化ナトリウムを用いて過激な化学処理を行なっている。このプロセスの副産物としてリグニンが生ずる。硫化ナトリウムや水酸化ナトリウムは腐食性の強い物質である。反応によって,悪臭で可燃性の強い,硫化水素やメチルメルカプタン,2硫化ジメチル,その他の揮発性イオウ化合物が大気に排出され,作業者に危険である。

     酢酸セルロースは,セルロースを酢酸と反応させて製造する。酢酸酪酸セルロースは,繊維状のセルロースを硫酸の存在下で,酪酸,無水酪酸,酢酸と無水酪酸で処理して製造する。酢酸プロピオン酸セルロースは,硫酸の存在下で,プロピオン酸,酢酸とこれらの無水物で処理して製造する。硝酸セルロースは繊維状セルロース素材を硝酸と硫酸の混合物で処理して製造する。これらの化学物質は全て,皮膚,目や呼吸器官に軽度ないし重度の損傷を与える。天然繊維から製造されたこれらのバイオプラスチックは生分解性である。

     ポリトリメチレンテレフタレートの重合化反応に使用するテトラフタレン酸は,人体に軽い健康リスクを及ぼす。テトラフタレン酸の代替物として,ジメチルテレフタレートも使用される。これは少し揮発性のため,作業場で軽度の危険性を有している。しかし,皮膚が偶然接触して,溶融した液体(融点141℃)によってやけどをする可能性が問題になっている。

    4.トウモロコシやダイズ由来の蛋白質系プラスチック

     蛋白質はアミノ酸で構成された天然ポリマーだが,蛋白質を可塑剤や他の高分子と作用させて,押出成形プロセスによってプラスチックに変換する。この製造プロセスで使用する化合物は,次の健康リスクを有している。ホルムアルデヒドは発ガン性。グルタールアルデヒドは慢性曝露によって皮膚炎,目,鼻や喘息などの敏感皮膚を生ずる。なお,グリセロールは危険性の低い化学物質で,蛋白質の可塑剤として使用できる。

    5.ナノバイオ混合素材

     ナノバイオ混合素材とは,バイオベースの高分子と,添加物としてセルロースやリグニンのような天然繊維のナノ粒子を少量含む混合素材である。

     ナノ粒子の製造過程における安定性に関する知見は乏しく,かつ,使用過程での分解や移動にともなって潜在的毒性が懸念されている。毒物学者は,ナノ粒子は呼吸器系から脳や他の器官に移動し,生物の通常の防御システムではナノ粒子を検出できず,その小さなサイズが蛋白質の構造を変化させうると仮定している。

     また,セルロースやリグニンの繊維はクラフトパルプ方法で製造し,その性質補強のためにイソシアネートやアルカリで処理している(これらの危険性は「3」に述べた)。

    ●代表的バイオベースのプラスチックの環境影響

     バイオベースのプラスチックに共通している問題は,バイオベースの原料の作物が一般に集約的に栽培されるため,かなりの量の農薬や化学肥料が使用され,それによって水や土壌が汚染され,野生生物の生息地にインパクトを与えるのではないかと懸念されることである。また,作物生産ではGMOの使用が増えており,また,作物成分から高分子素材への変換を行なわせる微生物や酵素に,GMOを使用することもある。GMOの環境懸念としては,BT毒素(鱗翅目昆虫などの神経毒)生成遺伝子や除草剤耐性遺伝子を導入した作物を栽培する際に生ずるBT毒素耐性害虫の増加や,雑草の雑草剤抵抗性の発達,遺伝的多様性の減少などが指摘されている。

     ポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)は,原料から酵素方法を用いて分離・純化すれば,危険な化学物質なしで製造できる。PHA製造に必要な化石エネルギー量は,PHA製造業者によれば,慣行プラスチックの3.5%のみとしている。生分解性が高い。

     PLA(ポリ乳酸樹脂)の製造では,乳酸の高分子化過程で有機スズと1-オクタノールを使用する。PLA製品中には微小な有機スズ残留物が存在するが,これは脂質親和性で,水生生物や植物に取り込まれうるし,人体組織からも検出されている。1-オクタノールは水生生物に若干有毒である。2003年のライフサイクルアセスメントによると,石油ベースのプラスチックに比べて,PLA製造に使用する化石エネルギーが30〜50%少なく,二酸化炭素の排出量が50〜70%少なくなるとの結果もある。最近の研究では,2003年のデータよりも,二酸化炭素排出量は85%少なく,化石燃料の使用量は50%少ないことが示されている。

     PLA,熱可塑性でん粉プラスチック,PHA,ゼイン(トウモロコシ蛋白質)系やダイズ蛋白質系のプラスチックは,生分解性で堆肥化できる。なお,バイオウレタンの堆肥化可能性についてのデータはなかった。熱可塑性でん粉プラスチックは,石油ベースの当該プラスチックに比べて化石エネルギー使用量が68%少ない。

     ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)製造には,石油ベースの該当物(ナイロン6とナイロン66)よりも,エネルギー使用量が26〜50%少なく,温室効果ガスの発生量が44%少なく,化学添加物はなく,再生可能な天然素材を37%(重量で)必要とし,危険性のない廃棄物と分類され,通常埋め立てや焼却されている。また,石油由来のポリエチレンテトラフタレート廃棄物をリサイクルして回収されるテトラフタール酸やジメチルテトラフタレートを原料として使用することもある。

     セルロースやリグニンのナノ粒子とバイオポリマーとで作ったナノバイオ混合物は,ナノ繊維がクラフト方法で作られ,機能を高めるために,危険な化学物質が使用されている。完全に生分解性であるが,燃焼,堆肥化やリサイクリングの過程におけるナノ粒子の潜在的毒性問題についての知見が不足している。

    ●結論

     生分解性プラスチックは,化石燃料使用量の節減に加え,環境や健康への悪影響を減らし,非分解性プラスチック廃棄物の大量発生を避けられる可能性をもっている。しかし,生分解性プラスチックは,そのライフサイクルのなかで環境および労働衛生上の問題も有しており,これらの問題を軽減する研究が必要である。また,エタノールのような工業製品用の作物を栽培するために農地を使用することは,世界の食料供給を圧迫する。このため,農業副産物(トウモロコシ茎葉,草)や木材のような,食料生産と競合しない非食用資源から第2世代のバイオベースのプラスチックを開発する研究が緊要である。

     環境にやさしく安全なプラスチックを製造し,バイオベースのプラスチック工業の持続可能性を取り巻く一連の問題に対処するのに必要なインフラや新しい政策を創出するには,より多くの研究が必要である。

     こうした問題を踏まえて,著者らはバイオベースのプラスチックの持続可能性のランクづけを行なって,特に製造時の労働安全性と環境影響の2つの面について,表1のまとめを行なった。

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