環境保全型農業レポート > No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要

     環境保全型農業レポート「No.81.農林水産省が基礎GAPを公表」のなかでEUREPGAPに若干触れたが,その概要をEUREPGAPのホームページとそこから入手できる資料によって紹介する。

    ●EUREPGAPの歴史

     EU(欧州連合)の加盟国は,国によって差はあるが,食料の輸出と輸入の双方を活発に行なっている。1990年代にBSE,農薬問題,遺伝子組換え作物の急速な導入などの問題が相次いで起き,消費者の食品の安全性に対する不安が高まった。

     こうした背景の下に,EUREP(ユーレップ)(Euro-Retailer Produce Working Group:欧州小売業者農産物作業グループ)は,イギリスの小売業者と欧州大陸のスーパーマーケットとが中心になって,小売業者が販売する農産物の安全性に自ら責任を持つために,農産物を生産する過程での優良農業規範(GAP:Good Agricultural Practice)の必要性を指摘した。他方,多くの農業者もバラバラでなく一本化した規範の必要性を痛感していた。こうした経緯から,1997年にEUREPは,適正な化学肥料と化学農薬を使用した慣行農業によって農産物を生産する共通の基準と手続きを定めた優良農業規範であるEUREPGAP(ユーレップギャップ)を策定した。

    ●EUREPGAPの目的

     EUREPGAPは,EUに限らず,世界中で取り引きされる農産物の安全性と生産過程における労働安全,環境保全,動物福祉の確保を図って,消費者の信頼回復と,安全な農産物の国際貿易の促進を目的にしている。しかし,出発時の経緯からみて,また現在の実態からみて,EU内で生産されてEU内で消費される農産物と,外国からEUに輸出される農産物が主たる対象となっている。

    ●EUREPGAPの組織

     EUREPGAPは民間団体で,ドイツのケルンにある非営利の株式会社の「フードプラス」(FoodPLUS)を本部としている。

     会員は,小売業者会員,生産者会員と準会員(認証組織,コンサルタント会社,農薬・肥料会社と,これらの団体・協会,大学など)に区分されている。EUREPGAPの認証を受けている生産者が自動的に会員になるのではなく,EUREPGAPに登録している生産者のうち,EUREPGAPの内容や遵守に強い関心を持つ生産者が申請して会員となる。正会員は小売業者と生産者だが,両者が対等な会員であることを強調している。なお,日本のAEON(イオン)が果実・野菜で小売業者会員となっている。

     小売業者会員と生産者会員から選出された者によって,最高決定機関である理事会が構成されている。理事会の下に,小売業者会員と生産者会員から選出された委員によって構成された作目別の「セクター別委員会」が置かれ,各種基準を技術的側面から検討する。そして,会員になっている認証組織から選出された委員によって構成された「認証組織委員会」が,「セクター別委員会」の規定した基準の解釈の仕方を調整している。

     しかし,こうした組織構成だけだと,会員の構成からみて,農業の仕方が世界中で大きく異なるのにヨーロッパ中心の基準になりやすい。この点を防止するために,各国に専門家によって構成された「国別技術作業グループ」を設け,各国の農業条件や法律を踏まえて,国の条件に合った基準の解釈を提案している。提案された解釈案は「セクター別委員会」での承認を経てから当該国に適用される。また,「国別技術作業グループ」はEUREPGAP本部が当該国と連絡をとるときの最初のコンタクトポイントとなっている。

     EUREPGAPの認証を受けて農産物を生産したいと希望する生産者は,世界各地に存在するEUREPGAPの承認を受けた認証組織に登録を申請する。果実・野菜で承認された認証組織は,2007年4月現在(暫定を含む)で,欧州に88(ドイツ18,スペイン18,イタリア12,ギリシャ7,フランス6,ベルギー6,オランダ5,スイス4,イギリス3,オーストリア3,ポルトガル2,デンマーク・アイルランド・スウェーデン・マケドニア各1),アメリカ大陸に14(アルゼンチン5,ブラジル5,コスタリカ・コロンビア・ウルグアイ・アメリカ各1),その他に11(オーストラリア3,ニュージーランド2,南アフリカ2,エジプト2,インド・トルコ各1),計113存在する。認証組織が,申請してきた生産者の適格性を基準に照らして書類審査し,適格であれば登録を認め,生産者が規範を守って生産しているかをチェックして,守っていれば,EUREPGAP農産物として認証する。

     EUREPGAP本部は,公平な権限執行を維持するために,特別の場合を除いて生産者と直接接触したり,生産者が規範を守っているかをチェックしたりしない。認証組織の承認もEUREPGAPが直接行なうのではない。EUREPGAPの承認した認定組織が認証組織の承認を行なっている。

    ●EUREPGAPの認証の仕方

     EUREPGAPは,生産された農産物の安全性をポストハーベスト段階で保証するのではない。EUREPGAPは,農場が農産物の安全性と環境保全,労働安全,動物福祉の確保を図って生産していることを,農場から出荷されるまでの段階で保証するものある。農場で生産された農産物を小売業者などが購入して販売する際には,EUREPGAP認証を受けた農産物を他の農産物と区別して流通・販売することが,販売業者に課せられている。ただし,加工品は原則としてEUREPGAPの対象外となっている。

    (1)対象作目

    EUREPGAPの対象としている作目は,コンバイン収穫作物(穀物,豆類,イモ類など),果実・野菜,コーヒー(緑色豆),チャ,花き・観賞用植物,家畜(牛,羊,豚,家禽),養殖魚で,要請が高まれば随時対象作目を拡大するとしている。

    (2)登 録

     各作目の生産基準など関係規則は全てホームページで公開されている。EUREPGAPの認証を受けたい生産者(個人またはグループ)は,EUREPGAPから承認を受けた,どれかの認証組織に,生産物を特定して登録を申請する。適格と判断されれば,登録される。日本でEUREPGAPに登録された生産者は,果実で青森県の農業生産法人片山りんご有限会社(環境保全型農業レポート「No.26.フードチェーン・アプローチ」参照)と,野菜で千葉県の農事組合法人の和郷園の2つとなっている。

     ☆片山りんご有限会社の取組は「農業技術大系果樹編」精農家事例にも収録されています → 目次を見る

    (3)生産の規定

     EUREPGAPは各種の規定を設けているが,2007年3月から新しい規定に切り替えられた。主要な規定は3種類ある。

     第一は「総則」である。その名称は「総合農場保証:総則」(General Regulations Integrated Farm Assurance)となっている。総則は,EUREPGAPの目的,組織とその運営の仕方,会員,生産者の登録,認証の仕方,違反に対する罰則などの規則を定めている。

     第二は「総合農場保証:管理ポイントと遵守基準」(Control Points and Compliance Criteria Integrated Farm Assurance)で,EUREPGAP農産物として認証されるために,生産時に守るべきポイントと,それを遵守するのに必要な最低要件をまとめたものである。

     「管理ポイントと遵守基準」は,モジュール(あるいはカセット)方式で分割されている。つまり,登録した全ての生産者はまず,「全農場基本モジュール」に記載された管理ポイントを守らなければならない。そして,作物を生産する場合には,「全作物基本モジュール」に加えて,登録作物に応じて,「コンバイン収穫作物モジュール」,「果実・野菜モジュール」,「コーヒーモジュール」,「チャモジュール」,「花き・観賞用植物モジュール」に記載された管理ポイントを守らなければならない。家畜を生産する場合には,「全家畜基本モジュール」に加えて,登録畜種に応じて,「牛・羊モジュール」,「酪農モジュール」,「豚モジュール」,「家禽モジュール」に記載された管理ポイントを守らなければならない。なお,乳牛を生産する場合には,「牛・羊モジュール」と「酪農モジュール」の双方を守らなければならない。養殖魚を生産する場合には,「養殖魚モジュール」に記載された管理ポイントを守らなければならない。複合経営を行なっていて,多数の作目を登録した場合には,該当するモジュールが増えることになる。「管理ポイントと遵守基準」については後述する。

     第三は「チェックリスト」で,上記の「管理ポイントと遵守基準」の項目をリストアップした表である。生産者はこのチェックリストによって自分の作業を自己点検し,認証組織は生産者の作業を検査する。

     EUREPGAPの遵守基準よりも,生産国や輸入国がより厳しい要件を法律などで課している場合には,EUREPGAPよりもそれを優先して守らなければならない。

    (4)遵守レベル

     「管理ポイントと遵守基準」の各項目には遵守レベルとして,「必須」(Major Must),「必要」(Minor Must)と「推奨」(Recommendations)の3段階のレベルが指定されている。

     「必須」項目は100%守ることが要件で,1つでも守っていない項目があると,認証されない。「必要」項目は,モジュールごとにその総計の95%を守ることが認証の要件となる。ただし,自分の農場に該当しない項目を除外した「必要」項目総数の95%を守ることが要件になるが,このとき遵守パーセント値の小数点以下は切り捨てて計算する。「必要」項目の遵守率が95%に若干届かなかった場合には,検査後に是正措置を講じて,95%以上に達したと判定されれば,その後に認証される。また,「推奨」項目には何パーセント守らなければならないという規定がない。

     全ての管理ポイントについて,守っていない項目がある場合には,その理由をチェックリストのコメント欄に記入しておくことが要求されている。このため,「推奨」項目を1つも守らなくても認証を受けることは可能だが,その後,認証組織によって検査されて,守らなかった理由を踏まえて,その遵守を勧告される。翌年の検査の際に改善努力がないと,より強い勧告を受けることになると理解される。

    ●他の農業規範の同等扱い

     EUREPGAP以外にも,世界中でいろいろな農業規範が実施されている。他の農業規範の責任者がEUREPGAPに申請して,EUREPGAPと同等の作業管理と認証手続きなどの厳しさを持っていると判定されれば,EUREPGAP同等と認められる。これをベンチマーキングと称している。農業者が自国に以前からある農業規範に参加して,その認証を受けていた場合,その規範がEUREPGAPと同等との承認を受ければ,改めてEUREPGAPに登録して認証を受け直す必要がなくなる。

     環境保全型農業レポートの「No.52.イギリスの食品保証制度」に紹介したイギリスの「保証農産物」(Assured Produce)も,「果実・野菜」でEUREPGAPと同等との承認を2004年に受けている。また,日本では日本GAP協会(JGAP) が「果実・野菜」で同等性の承認を申請しており,中国が「総合農場保証」で同等性の承認を申請しているが,双方ともまだ承認されていない。

    ●認証組織による検査

     生産者の登録が認められると,契約した認証組織によって,第一回目の現地検査が,原則として,登録期日後に行われる最初の収穫時に行われる。これは収穫時には大部分の生産工程を終えて,チェックすべき要件の記録がおおむねそろっているはずであることと,収穫時には農産物の安全性確保のための取扱を目視で確認すべき項目が多いが,その検査を行なえるからである。現地検査はチェックリストをベースに行われるが,「管理ポイントと遵守基準」で,守ったことを示す証拠の提示が必ず要求されているので,各種の記録や伝票をしっかり用意していなければならない。

     第一回目の現地検査を収穫時に行なえない特別の事情があれば,それ以外の時期にずらすことができる。ただし,収穫前に現地検査が行なわれた場合には,収穫時に目視で検査すべき項目などについては,証拠写真を追加要求される。また,現地検査が収穫後になった場合も,収穫時のポイントになる証拠写真などを提出することが求められる。いずれにせよ,「管理ポイントと遵守基準」に記された全ての項目のチェックが終了してから,上述の「(4)遵守レベル」にしたがって判定して,EUREPGAPに準拠したとの認証(有効期間は原則として12か月間)が発行される。このため,収穫したら直ちに出荷する生鮮物の場合には,検査が間に合わず,最初の年の生産物には認証の発行されないうちに出荷するものもありうる。

     認証組織への登録や検査の経費は,公開されている料金表によって生産者が負担する。

     検査の結果,EUREPGAPに準拠した生産を行ったと認証された生産者は「認証保持者」となる。

     こうした契約認証組織による検査に加えて,検査を受けた生産者全体の10%が,無通告で抜き打ち検査を受ける。検査は契約した認証組織ではなく,EUREPGAPの監査員が,「必須」項目と「必要」項目について検査する。これには認証組織の監査の意味もある。

    ●罰 則

     初年目の検査と2年目以降の検査で,守っていない「必須」項目があったり,95%の「必要」項目を守っていなかったりすると,認証組織によって,生産者,あるいは複数の農産物を登録している生産者には一部の農産物に対して警告が発せられ,是正措置を講ずべき期間が提示される(守っていない項目によって最大28日間まで)。この期間内に是正措置を講じたと判定されれば,初年目の認証が発行され,2年目以降なら認証保持者の資格が継続する。しかし,是正措置が講じられなかった場合や,講じても満足できるものでなかった場合には,初年目の認証は発行されず,認証保持者としての資格が最大6か月間一時停止される。この間に是正措置を講じて,是正されたと判定された後に,認証が発行され,資格が復活する。しかし,是正措置を講じなかったり,満足できるものでなかったりした場合には,初年目の者では登録は抹消され,2年目以降の者では認証保持者の資格が取り消される。抹消あるいは取り消されると,12か月を経過した後にならないと,EUREPGAPに再登録の申請を行なえない。

     こうしたやりとりを生産者と認証組織で行なって,生産者が認証組織の判定に不服な場合は,認証組織に抗議することができる。

    ●EUREPGAPのロゴは消費者に見えない

     EUREPGAPは,生産者と小売業者間など,事業者間の基準である。このため,EUREPGAPの登録商標を印刷したラベルは,EUREPGAPの認証を受けた農産物を他の農産物と区別するために,パレット(フォークリフトなどで格納・輸送するとき貨物・商品を載せるスノコ状の荷台)などに張ることが許されている。そして,EUREPGAPのロゴを,ビジネス間の連絡に使用する便箋,名刺,宣伝広報などに印刷することも許されている。しかし,登録商標やロゴを,消費者が購入する農産物に張ることは許されていない。

     EUREPGAPなどの民間基準の運用によって,EUにおける農産物販売は大きな影響を受けている。民間基準の中には,ロゴが消費者に見えないで,世界規模で運用されているEUREPGAPタイプのものと,ロゴを消費者に見えるように張る,国または地域別の基準とがある。最近では後者の方式が増えてきている(Fatma Handan Giray (2007) Types of schemes operating in the EU. Overlap or synergy? )。

     EUREPGAPと同等性が認められている上述したイギリスの「保証農産物」(Assured Produce)は,独自のロゴ(レッドトラクタ)を農産物などに張って,消費者の目に見えるようにしている。

     こうしたことから,EUの小売業者には,輸入農産物については,その安全性確保のためにEUREPGAP認証農産物を販売すると同時に,自国産農産物については,EUREPGAPと同等性の認められている自国の農産物保証制度のものを,そのロゴを張って販売している業者が多いと推察される。

    ●「管理ポイントと遵守基準」の概要

     EUREPGAPの守るべき管理ポイントは多数あり,かつ多岐にわたっている。例えば,農林水産省の露地野菜についての生産者用「基礎GAP」で示された項目数は合計20だけである。これに対して,EUREPGAPで露地野菜を生産する場合は,「全農場基本モジュール」,「作物基本モジュール」と「果実・野菜モジュール」の3つを合わせて,合計191の項目数に達する(表1)。このうち,「必須」項目64と,「必要」項目95の95%の91を合わせた155の項目を守ることが認証を受けるのに必要である(品目や栽培方式によっては一部項目が適用対象外となって遵守項目数がこれよりも少ないケースもある)。

     管理ポイントは疑問形で書かれており,その遵守基準が説明されている。例として,「全農場基本モジュール」の「作業者の健康・安全・厚生」のなかの1つの項目を示す。

     「作業者(下請け作業者を含む)用に,法的要件や公的機関の指示にしたがって,適切な保護服を装備しているか?」という管理ポイントがある。そして,この項目の遵守基準は,「法的要件や公的機関の指示にしたがって,保護服の完全セット(ゴム長靴,防水服,保護用オーバーオール,ゴム手袋,顔面保護マスクなど)が利用でき,良好な状態で修繕・維持されていること。必要な場合には,呼吸器・耳・目の保護具やライフジャケットも用意する。」と記載されている。この項目は,農薬などの化学薬剤から作業者の健康を守るためのものであり,「遵守レベル」は「必須」となっている。

     管理ポイントでは「適切な保護服」を用意するとしか書かれていないが,「遵守基準」では,具体的に用意すべき保護服のセット内容が記載されており,認証組織はこれらの装備が用意されているか否かを確認することになる。ただし,「法的要件や公的機関の指示」を前提にしているので,その範囲で用意していれば良いと理解される。日本でも農薬のラベルにマスク,メガネ,手袋,防除用衣服の着用などの注意喚起マークが付されているので,当然作業者はこれを守って作業しなければならない。しかし,農林水産省の「基本GAP」には保護服の点が記載されておらず,農業者が必要と思えば,追加する項目となっている。

     以下にいくつかの管理ポイントと遵守基準の概要を紹介する。

    (1)農薬に関する管理ポイントと遵守基準

     農薬については,次のように管理ポイントとその遵守基準を細かく定めている。

     (1) 当該国で登録されている農薬だけを使用していることを証明できること。

     (2) EUに生産物を輸出する場合には,EUで禁止されている農薬を使用しないようにチェックしていることの証拠を示すこと。

     (3) 農薬ラベルの注意事項にしたがって,対象有害生物に適正な農薬を散布していることを証明できること。

     (4) 農薬購入伝票を示すこと。

     (5) 12か月以内に使用した農薬のリスト(商品名,有効成分組成,防除対象生物名)を示すこと。

     (6) アドバイザーの指示によって農薬を選定した場合には,アドバイザーの資質を資格証明証や農薬研修の参加証などによって示すこと。

     (7) 生産者が自ら農薬を選定した場合には,生産者の所有する農薬に関する技術文献,農薬研修参加証などによって,生産者の経験を補完すること。                

     そして,農薬の散布記録を作って検査のときに提示しなければならないが,散布記録には次を記録することを要求している。

     (1) 散布した作物と品種(農薬別に記録)

     (2) 散布した圃場・温室の名称

     (3) 散布した年月日

     (4) 農薬の商品名(製剤形態を含む),有効成分名とその対象生物名

     (5) 散布したオペレータの氏名

     (6) 防除しようした有害生物名を記した散布理由

     (7) 農薬選定に技術的責任を有する者の氏名

     (8) 農薬の散布量(使用した農薬量と希釈液量ならびに濃度)

     (9) 農薬散布機のタイプ

     (10) 散布した期日の収穫前日数

     注目すべきは,生産者またはその生産物の顧客(卸売り業者や小売業者)が,自国および輸出相手国の残留農薬の最大許容濃度に関する情報を把握していることに加え,残留農薬分析を行なうことを要求していることである。生産者が自ら行なわなくとも,顧客が行なっても良い。しかも,最大許容濃度を超えた農産物が生じた場合に取るべき措置を,事前に用意しておくことも求めている。

     散布後に残った農薬希釈液やタンク洗浄液の処分については,農薬を散布していない作物に規定施用量を超えない範囲で散布するか,または,法的に認められている場合,指定された休閑地に散布し,これらの記録を保持していることを求めている。

     農薬の保管については,法令を遵守すること,保管施設については,しっかりした構造で,耐火性建材で作られていること,施錠していること,極端な温度にならず,換気が良いこと,ラベルを読むのに十分な照明が確保されていること,肥料など他の資材から離れた別の空間に保管されていること,棚は金属やプラスチックなどの非吸収性素材で作られていること,液体の農薬が漏れ出るのを防止するために,保管している液剤の110%の容量の受けタンクまたは堰堤を設置していること,こぼれた農薬を回収するために非吸収性の砂を入れた容器,ほうきとちりとり,プラスチック袋を備えていること,作物用農薬とそれ以外の農薬は区別して保管すること,ラベルを付けた元々の容器で保管すること,棚に置く場合は液剤を粉剤よりも上に置かないことなど,具体的な条件を指摘している。

    (2)土壌管理と施肥に関する管理ポイントと遵守基準

     土壌管理については,圃場ごとの土壌図を用意し,1年生作物を輪作することを推奨している。また,大型機械の走行で問題になる土壌の圧密・物理性の悪化や侵食を防止する対策を講じていることをチェックしている。そして,土壌くん蒸を行なう場合は,その正当性を示す論拠や詳細な使用記録を求めている。

     EUREPGAPでは肥料を無機質肥料と有機質肥料に区分しているが,定義をみると,有機質肥料は,動物起源のきゅう肥,堆肥や消化汚泥などとされており,魚粕,油粕などの通常の意味の有機質肥料とは理解しにくい。おそらく通常の有機質肥料はEUではろくに使用されていないためと推定される。このため,ここではEUREPGAPの有機質肥料を「堆きゅう肥等」と表現することにする。

     施肥は,作物の養分要求量,土壌,堆きゅう肥等や作物残渣からの養分供給などを考慮し,養分ロスや汚染を最小にするものとしている。このため,施肥設計が作物の養分要求量,土壌肥沃度,農場の残渣養分を考慮してなされたことを証明することを要求している。これは存外に難しいが,アドバイザーに施肥設計してもらった場合には,アドバイザーの資格証明を求めている。生産者が自ら施肥設計を行なった場合には,生産者の所有する肥料資材に関する技術的文献,施肥法などに関するトレーニング参加証や,土壌分析器具や土壌診断ソフトの使用状況などによって,生産者の経験を補完することを求めている。

     また,施肥記録には,土壌と葉面に与えた無機質肥料と堆きゅう肥等の記録を求めている。施用した圃場や温室ごとに,施用年月日,肥料タイプ(商品名,3要素濃度),施用量,施用方法(施肥機のタイプや方法),オペレータの氏名を記録する。

     堆きゅう肥等については,人間のし尿やその汚泥を使用しないこと,潜在リスク(病気の感染,雑草種子含量,重金属含量など)を評価したことを証明する文書があること,3要素含量を分析して養分供給量を考慮したことの証明を求めている。

     無機質肥料については,12か月以内に使用した購入肥料の養分や,重金属の含量を示す添付文書を保存していることを求めている。

    (3)収穫作業における衛生管理に関する管理ポイントと遵守基準

     野菜などでは収穫物を生で食べる場合もあるため,収穫作業時の衛生管理について多数の管理ポイントを設定している。その管理ポイントと遵守基準の一部を紹介するが,ほとんどの項目が「必須」となっている。

     (1) 作業過程における物理的・化学的・微生物学的汚染リスクの起きやすさを事前に評価していること。

     (2) 衛生管理責任者を指名していること。

     (3) 収穫作業者に基本的な衛生管理のトレーニング(手洗い,作業着の着用,指の爪の長さと洗浄,作業中の喫煙・唾棄の禁止など)を行なっていること。

     (4) 収穫物の包装作業者に衛生管理のトレーニング(生産物を物理的(カタツムリ,石,昆虫,ナイフ,果物残渣,時計,携帯電話など),微生物学的および化学的な混入物によって汚染しない)を行なっていること。

     (5) くり返し使用する収穫用コンテナ,収穫用器具(鋏,ナイフ,剪定鋏など)や収穫機械を清潔に維持し,洗浄・消毒計画を実施していること。

     (6) 収穫物を運搬する車両で,他の目的にも使用する車両は,きれいに維持し,生産物が土壌,ほこり,堆きゅう肥などで汚染するのを防止する清掃計画を実施していること。

     (7) 作業者が,固定または移動式の手の洗浄・消毒装置にアクセスできること。

     (8) 圃場汚染を防止できる固定または移動式トイレに500 m以内にアクセスでき,トイレが良好な衛生状態にあること(作業者がバラバラに働いている場合,作業者に移動手段を提供しているなら,500 m以内でなくても良い)。

     (9) 生産物コンテナは生産物専用であること。他目的のトレーラ,自動車などを生産物コンテナに使用している場合は,使用の前にきれいにすること。

     (10) 収穫物の洗浄に使用する水は,少なくとも12か月以内の分析で公的機関によって飲料水として適正と認められているか,WHO基準内か食品産業用水の基準内にあること。

    (4)環境保全に関する管理ポイントと遵守基準

     EUREPGAPは,生物多様性の保全を中心に,環境保全に関する管理ポイントと遵守基準を設定している。農場が,農場内に野生動植物の生息地を増やし,農薬の使用削減を図る総合的有害生物管理(IPM)や作物養分の適正施用を行なって,生物多様性を高めることを目的にした環境保全計画を持っていることを「必要」項目としており,国や地方自治体の生物多様性保全に関する農業環境事業に参加していても良い。

     そして,以下は「推奨」項目だが,環境保全計画は,農場における動植物の現在のレベル,場所,状態などを調査・把握するベースライン調査を行なっているか,その実施を委託する契約を行なっていることを求めている。環境保全計画には,農場内の動植物の生息地を向上させるための具体的行動とその優先度を明確にリストアップし,生息地を破壊・劣化させる作業とその修復対策をリストアップすることを求めている。

     EUREPGAPで求めている環境保全計画は,農業生産と両立させつつ,環境インパクトを最小にするものである。このため,過剰生産を減らすために,農地を生産から撤退させて,環境保全目的に活用することを主眼としたEUの農業環境対策事業(環境保全型農業レポート「No.30.EUの農業環境支払事務の会計監査」)に比べれば,環境保全項目は少ないし,その多くは「推奨」項目となっている。

     既に紹介した農薬の適正散布,養分の適正施用,土壌侵食の防止なども環境保全に関係する項目である。また,EUREPGAPは生産国の法律にしたがった遺伝子組換え作物の栽培を認めているが,非組換え作物との遺伝子汚染リスクを最小にするために,種子を確実に区分して管理することも求めている。

    ●ますます重要になる優良農業規範

     EUREPGAPは,EUの消費者の関心の高い環境保全などとともに,消費者の食品の安全性に対する信頼を回復することを目的にして出発した。現在EUREPGAPはEUに限らず,世界全体で貿易される農産物の安全性確保を標榜している。EU以外の国でEUREPGAPの認証を受けている生産者の多くはEUに輸出するために認証を受けたと理解される。このため,EUREPGAPは実質的にはEUの輸入する農産物の安全性バリアーとして機能しているといえよう。それと同時に,農産物の国際貿易が活発化するなかで,EUREPGAPと同等性を持つEU各国の優良農業規範が,独自のロゴを生産物に張って,自国農業を維持する上で重要になっていると理解される。

     食品の安全性を確保するために,国際的に認められる範囲で食品の基準を高くすることは,自国農業の保護に役立つ。農薬のポジティブリスト制度(環境保全型農業レポート.「No.31.残留農薬ポジティブリスト制度の導入」)の導入によって,不適正な農薬散布を行っていた中国産などの農産物の輸入量が大幅に減少した。野菜価格の上昇には消費者の反発もあろうが,この措置によって国内の野菜生産は元気を与えられた。

     農薬のポジティブリスト制度はポストハーベスト段階でのチェックだが,優良農業規範に基づいた生産は,生産段階でのチェックであり,農薬以外にも,守るべき項目を多くすれば,厳しい基準になりうる。自国農業者も守れないほど厳しくしすぎては意味がないが,国際的に認められたEUREPGAP並みの厳しさを持った農業規範を日本で早く普及させることが,日本農業の維持に役立つはずである。

     日本の高い品質の農産物輸出を試みる政策が実施されているが,輸入国側が優良農業規範の遵守によって品質が保証されていることを求めてくるケースも当然ありうる。

     農林水産省の「基本GAP」は「基本のき」の段階にすぎず,認証システムも機能していないので,国際的に信用されるものではない。国際水準の農業規範の策定とその遵守をチェックする認証システムを早く普及することによって,日本の消費者に安全性の高い農産物を提供し,相手国にも納得してもらえる農産物を輸出するとともに,安全性の疑わしい農産物の輸入を排除して,日本の農業を守ることが望まれる。国内で農業生産を行う際には,生産物の品質だけが確保されれば良いのではすまされない。生産にともなう環境負荷をできるだけ少なくして,環境保全と両立する農業規範でなければ,国民に信頼される農業とはなりえない。

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