No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰
環境保全型農業レポート「No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず」で紹介したように,環境問題を始めEUのあらゆる活動に土壌の重要性を配慮することを規定する法律案として,EU加盟国間で「土壌枠組指令案」の検討が重ねられてきた。この「土壌枠組指令案」は「土壌保護戦略」に基づいたものである。しかし,2007年12月20日に開催された加盟国の環境大臣などで構成される「環境審議会」(Environmental Council)で,この法律案は,イギリス,オーストリア,フランス,ドイツ,オランダの反対によって流産した。反対理由の詳細は不明だが,イギリスの場合,土壌保護の重要性を認識して「土壌保護戦略」に賛成したが,「土壌枠組指令案」は土壌保護の観点から不十分であり,かつ,加盟国の経済負担が大きいことから反対しているようである(UK DEFRA: EU Thematic Strategy for Soil Protection, including proposals for a Soil Framework Directive)。
EUの環境総局は「土壌枠組指令」の成立に向けて,これら5か国との協議を重ねているが,土壌の重要性を再確認してもらうために,2008年6月12日にブリュッセルで「土壌と気候変動に関する高級レベル会合」を主宰した。
地球上で炭素の最大の貯留庫は海洋だが,2番目に大きな貯留庫が土壌である。EUでみれば,炭素の年間排出量15億トンに対して,土壌には700億トンの有機態炭素が蓄積されている。土壌の有機態炭素量は土壌管理の仕方によって大きく増減し,有機物資材を施用せずに化学肥料だけを使用することなどによって,大きく減少する。イギリスでは過去25年間に毎年1,300トンの炭素が失われたと試算されている。土壌からの失われた炭素は二酸化炭素となって揮散するので,工業や生活などで行なった二酸化炭素削減の努力が大きく減額されてしまう。例えば,多量の植物遺体から生成された泥炭土を干拓すれば,有機物が急激に分解されて,二酸化炭素の非出量が増加する。このため,泥炭地の維持・復元などが大切となる。
環境総局は,気候変動と関連させて土壌の重要性の理解を重ねて,「土壌枠組指令」を成立させる努力をさらに行なう予定である。
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