環境保全型農業レポート > No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
    以前の記事一覧

  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要

    ●背景

     アメリカにおける有機農業者への公的支援については,環境保全型農業レポート「No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢」や,「No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題」でEUとの対比で,その概要を紹介した。

     EUは,有機農業者に公的支援を行なう論拠を,次としている。

     有機農業は環境汚染の軽減,生物多様性の向上,農村景観の保全などの重要な便益(多面的機能)を社会に提供しているが,農業者はこうした社会的便益を意識しておらず,その対価も受け取っていない。そこで,慣行農業に比べて収量の低い有機農業に転換したり,実施したりすることによって生じた収益減を補償し,社会的便益に対する対価を支給するとしている。

     これに対して,アメリカは,有機農業が環境にプラスの便益を与えていることを認識しつつも,有機農業を,消費者に差別商品の有機食品を提供する農業と見なしてきた。そのため,農業生産全体が停滞しているなかで,拡大している有機農産物マーケットを一層発展させるために行なう有機農業者に対する支援は,生産者が認証に要する経費の負担や,有機農業技術の指導などにとどめていた。

     だがアメリカは,2008年農業法において連邦政府は政策方向を変更し,それまでの支援に加えて,有機農業に転換する農業者に財政的支援を与える条項を作った。すなわち,連邦政府がこれまで環境保全を図る農業者に財政支援を行なってきた様々な事業のうち,その中の一つである既存の「環境質インセンティブプログラム」(Environmental Quality Incentives Program: EQIP) に,2008年から有機農業転換支援条項を新設したのである。有機農業も環境保全的であるがゆえに,有機農業に転換する農業者に,年間2万ドル,1件当たり8万ドルを上限に6年間,個人または法人に支給することを可能にした。そして,2008年農業法で,従来から実施していた,有機農業者が認証に要するコストを支援する予算や,研究基金を大幅に増額した。

     他方,環境保全型農業レポート「No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要」に,EUが有機農業者に対して行なっている公的支援の概要を紹介した。今回は公的支援についてのアメリカでの状況をより詳しく紹介する。

     ベースにした資料は,USDA (2012) Organic Resource Guide 2012: Your Guide to Organic and Organic-Related USDA. 44p. である。この資料は,アメリカの農務省(USDA)が行なっている有機農業者に対する支援の概要を記しており,各支援の詳細については当該支援へのリンクを張っている。このため,支援を希望する者などは,インターネットによって詳細な情報をえられるようになっている。そこで,この資料をベースにして,必要に応じて,そこで張られているリンクを利用してえた情報を補完して,紹介する。

    ●有機認証コスト分担プログラム

     全米レベルで有機食品の生産・加工・流通を規定している「全米有機プログラム規則」(7 CFR part 205 National Organic Program:NOP規則) を所管しているのが,農務省の農業マーケティング局(Agricultural Marketing Service)である。同局のなかに「NOP規則」に関する事務を行なうNOP事務局が置かれている。

     NOP事務局が,有機農業者への直接支援プログラムの「有機認証コスト分担プログラム」(Organic Certification Cost-Share Program) を2002年度から所管している。

     その内容は次のようなものである

     ○ 有機の生産者や流通・販売を行なっている取扱業者は,NOP規則を遵守していることについて,有機認証組織の認証検査を受けなければならない。その有機認証コストは一部の人達には法外に高額なことがあり,そうした人達が認証を受けやすくするために,有資格の生産者や取扱者に対して,有機認証に要した経費の一部を,後刻,公的資金で払い戻しする。これによって,有機経営体が追加的な保全努力,事業拡大や予測できない事態への対応を可能にすることを目的にしている。

     ○ 対象の有資格者は,認証組織から認証または認証の更新を受けた生産者と取扱業者。

     ○ このプログラムは,州組織(通常は州の農業省)と農務省とで共同管理されている。申請者が必要書類を州組織に提出すると,州組織が申請手続を処理し,農務省が払い戻しを行なう。年間750ドル(1ドル80円として6万円)を上限として,認証コストの75%を申請者に払い戻す。資金はなくなるまで早い者勝ちで提供されている。

     ○ 資金は概ね過去の州・準州の実績と認証組織数に応じて配分され,資金総額は,2011会計年度で州・準州あたり5000ドルから105万ドル(40万〜8400万円)。

    ●転換インセンティブプログラム

     アメリカでは,耕作による土壌侵食が深刻である(環境保全型農業レポート「No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態」参照)。このため, 1985年から,侵食を起こしやすい耕地を生産から撤退させ,その耕地に牧草地や林地を造成し,牧草地や林地を10から15年間維持し続ける農業者に,公的支援を行なう「保全留保プログラム」Conservation Reserve Program (CRP)を設けている。その背景に,アメリカの余剰農産物生産があることはもちろんであろう。

     この「保全留保プログラム」では,農務省が,この期間,耕地を農業者から借り受ける形式をとる(担当は,農家サービス局Farm Service Agency: FSAと農産物信用公社Commodity Credit Corporation: CCC)。このため,農務省が借地料と牧草地や林地の造成コストの50%までを支払う。借地料は,農家間での実勢借地料よりも高いので,農業者から歓迎されている。因みに,2012年になされた第43回の契約では,全米での平均借地料は51.24ドル/エーカー(1.01万円/ha),幅はワイオミング州25.20〜アイオワ州161.51ドル/エーカー(0.50万円〜3.19万円)であった(USDA: The Conservation Reserve Program: 43rd Signup Results )。

     生産から撤退させた耕地を作物生産に戻すなら,「保全留保プログラム」の契約は終了となる。有機農業を推進するために,農家サービス局は,転換インセンティブプログラムTransition Incentives Program (TIP) を実施している。つまり,保全留保プログラに参加して生産から撤退していた耕地を,家族以外の者で,新規参入者か社会的に不利な農業者や牧畜者に販売ないしリースし,当該撤退耕地の全部または一部で,有機農業を含む,持続可能な放牧または作物生産の方法で農業生産に戻すならば,保全留保プログラム契約が終わっても,当該農地の農業者に,追加的に2年間,保全留保プログラムの借地料を支給する。これにより,新たに有機農業に転換する場合なら,保全留保プログラムの借地料を2年間もらいながら,有機農業への転換を行なうことができる。

    ●保全貸付金プログラム

     自らの農地で保全的方法を必要として実践しようとしている農業者に,そのための資金の貸付を行なう,保全貸付金プログラムConservation Loan Program を,農家サービス局が担当している。従来から農家サービス局の貸付金プログラムは,小規模で財政的確立が十分でない農業者をターゲットにしていたのに対して,保全貸付金プログラムはターゲットを拡大して,大規模で財政的にも強固な農業者への支援も行なっている。

     ○ 自然資源保全局Natural Resources and Conservation Service (NRCS)によって承認された,(1)土壌侵食の削減,(2)水質の向上,(3)持続可能農業および有機農業の推進のような保全的農業方法を実施するのに使用できる。

     ○ 具体的な保全的農業方法には,次のようなものがある。(1)保全的構造物の設置,(2)森林被覆の造成,(3)水保全方法の設置,(4)永年放牧地の造成ないし改良,(5)有機生産への転換,(6)家畜ふん尿消化システムを含む家畜ふん尿管理システム,(7)その他の保全方法,テクニックや技術の採用。

     ○ 申請者は,事前に自然資源保全局の地方事務所のスタッフと相談して,保全プランを策定し承認を得ておかなければならない。

     ○ 貸付金限度額は121.4万ドル(1ドル80円として約9700万円:インフレに応じて限度額は調整)とし,農家サービス局と業務提携を行なっている金融機関と一緒に申請する。返済能力を有する者にしか貸付を行わないが,認められれば,農家サービス局が返済保証をする。

     ○ 金利は変動するが,金融機関が農業者顧客に課している金利の平均値を超えない。貸付期間は担保によって変わるが,20年間を超えない。

    ●環境質インセンティブプログラムの有機イニシアティブ

     農地や林地などにある,土,水,大気,植物,動物などの資源を保全して,農地の生産力を高めつつ,環境をより健全にする農業方法を採用しようと農業者に,金銭的および技術的な支援を与えるのが,冒頭にも述べた環境質インセンティブプログラムEnvironmental Quality Incentives Program (EQIP) である。2002年農業法によって開始され,自然資源保全局Natural Resources Conservation Service (NRCS)の管轄で実施されている。プログラムへの参加は農業者の自主判断により,契約は最大10年間である。

     2008年農業法で,EQIPに有機農業転換支援条項が追加され,有機経営体が,環境的に持続可能になれるようにする保全方法を計画し実施するのを金銭的および技術的に支援するEQIP有機イニシアティブEQIP Organic Initiative が開始された。

     ○ 対象者は認証を受けた有機生産者と転換中の生産者で,生産物販売額が年間5000ドル未満の生産者。

     ○ 支援上限額は年2万ドル(1ドル80円として160万円),6年間8万ドル(640万円)。

     ○ 有機農業規則を守りつつ,下記に例示する環境保全方法を実施することが必要。

    ・保全プランの策定

    ・有機農業への転換プランの策定

    ・境界および緩衝帯の設置

    ・侵食を最小化しつつ,土壌の質と有機物の向上

    ・病害虫管理の改善

    ・放牧プランの策定と放牧資源の向上

    ・廃棄物利用と堆肥化の向上

    ・灌漑効率の向上

    ・作付システムと養分管理の向上

     ○ EQIP有機イニシアティブで支援対象とする保全的農業方法の内容や支援額は州によって異なる。アイオワ州における有機イニシアティブでの2012年度の支援額の例を,Organic Initiative Iowa Environmental Quality Incentives Program (EQIP): List of Eligible Practices and Payment Schedule FY 2012, January, 2012 から抜粋して,表1に示す。

    ●保全スチュワードシッププログラム

     保全スチュワードシッププログラムConservation Stewardship Program (CSP) は,農業者が既に実施している資源保全の農業方法に加えて,新たな保全方法を追加して,資源問題への関心をより高めるためのプログラムである。ただし,経営体の全ての農地と林地を契約することが必要。

     慣行農法のケースが多いが,このプログラムに参加して支援金をえつつ,有機農業への転換を開始することもできる。

     例えば,有機農業に転換するために,(1)土壌侵食を防止する輪作を導入する,(2)マメ科植物,家畜ふん尿や堆肥によって作物の窒素要求量を90%以上満たす,(3)授粉昆虫など益虫の生息地を造成する,(4)不耕起の有機システムを導入する,(5)カバークロップを導入する,(6)深根性作物を導入して土壌圧密層を打破させる,(7)耕地を有機の放牧システムに転換する,(8)有機農業のために総合的有害生物防除を導入する,(9)水辺に草生の緩衝帯を造成する,(10)栄養診断などを導入して窒素施肥管理を改善するなど。

     支払は年間支払と補足支払。年間支払は新たな保全方法の導入とその維持に対してなされ,これと同時に自然保全的作物輪作を採用すると,補足支払がなされる。5年契約。支払額上限は年間4万ドル,5年間で20万ドル。

    ●有機農産物保険

     リスク管理庁Risk Management Agency (RMA)の監督の下に,その外郭組織の連邦収穫物保険公社Federal Crop Insurance Corporation (FCIC)が,各種の連邦農産物保険Federal crop insuranceを管理している。ただし,実際の保険業務は提携した民間保険会社が行なっている。

     連邦農産物保険Federal crop insuranceは直訳すると,連邦作物保険となるが,対象品目は,リンゴ,養蜂,アボガド,オオムギ,柑橘類,二枚貝,トウモロコシ,ワタ,アサ,フロリダの果樹,青刈り飼料作物,実採りソルガム,サヤエンドウ,家畜,マカダミアナッツ,マカダミアの樹木,ミレット,ハッカ,苗,有機作物,ジャガイモ,牧野,コメ,ライ,ベニバナ,ダイズ,シュガービート,サトウキビ,ヒマワリ,コムギなど,作物以外の多岐の農産物にわたっており,作物保険では誤解を与えやすい。

     有機農産物を対象にした保険も用意されている。すなわち,(1)認証を受けている有機農地,(2)転換農地,(3)緩衝地帯農地を対象にして,有機農業方法を使って育てられた収穫物のみが対象になっている。

     対象とする災害は,干ばつ,過湿,凍結,ひょう・あられ,虫害,病害,雑草害などで,承認された有機農業方法で効果的なコントロールができず,損害を生じた災害である。そして,収量が控除免責金額未満の収量よりも十分下回る場合が対象となる。

    ●研究,データ,技術情報などの支援

     連邦政府の様々な部局が,金銭以外の多様な支援を有機農業に対して行なっている。その一端を紹介する。

    1.農業研究局における自然科学研究

     農務省の農業研究局Agricultural Research Service (ARS) は,2200人の研究者とポスドクで,18の全米研究プログラムで,合計800の自然科学の研究プロジェクトを実施している。有機農業に関する研究は,「農業システムの競争力と持続可能性」という全米研究プログラムのなかで主に行われているが,他のプログラムのなかでも関連課題が研究されている。

    2.経済研究局における社会科学研究

     農務省の経済研究局Economic Research Service は,社会科学を研究している部局で,有機の農産物生産・流通に関する各種動向や問題点の社会科学的解析を行なっている。

    3.全米農業ライブラリー

     全米農業ライブラリーNational Agricultural Library (NAL)は,農業研究局(ARS)に属し,世界最大の農業関係情報を収蔵し,州立大学とUSDAの地方図書館をつなぐネットワークの中核になっている。

     全米農業ライブラリーは,代替農業システム情報センターを設けており,そこに有機農業のホームページを設け,農務省関係の有機農業に関する各種資料にアクセスできるようにしている。

    4.マーケットニュース

     農務省の農業マーケティング局Agricultural Marketing Service (AMS)が,農産物の価格,量,質,状態,その他の市場データを「マーケットニュース」で定期的に提供している。その中で,有機データについては,果実・野菜,家畜と穀物,家禽,酪農,ワタのカテゴリーの200超品目について提供している。

    5.有機農業統計

     農務省の全米農業統計局National Agricultural Statistics Service (NASS)は,そのホームページに有機生産のページを設けている。全米農業統計局が初めて全米レベルで有機農業の統計調査を実施したのは2008年であった。その後の最新版は2011年に実施された,2011 Certified Organic Production Survey, October 2012 である。

     また,有機農産物の外国との輸出入や海外有機農業の統計などは海外農業局Foreign Agricultural Service (FAS) が行なっている。

    6.研究・教育・普及機関への有機農業に関する資金提供

     農務省の全米食料農業研究協会National Institute of Food and Agriculture (NIFA) は,自ら研究する機関ではなく,研究・教育・普及を行なっている州立農科大学とそれと連携している組織に,経常的な資金とは別に,州や地方自治体レベルでの食料および農業の振興のための資金を競争的応募によって提供している。そのなかで,有機の生産・加工・流通に関する様々な試みに資金を提供している。

    7.有機食品のマーケティング強化資金の提供

     農務省の農業マーケティング局Agricultural Marketing Service (AMS)は,州の機関や民間機関による食品のマーケティング力を強化するための調査や開発プロジェクトに競争的資金を提供している。そのために,(1)連邦・州マーケティング改善プログラム,(2) 特殊作物包括的補助金プログラム,(3) 直売所推進プログラムなどを実施している。その中で有機食品に関するものも対象にしている。

    8.農村インフラ向上支援

     農務省の農村開発局Rural Development (RD) は,農村居住者の経済機会を高め,住宅,コミュニティ施設,電気・ガス・水道などの供給を改善するなど,農村ビジネスや協同組合に貸付金,補助金,技術支援を提供して,農村居住者の生活の質を向上させている。その中で有機農業を軸にしたプロジェクトなどにも様々な支援を行なっている。

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