環境保全型農業レポート > No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正

    ●これまでの土・水・大気の優良農業規範

     イングランドは様々な農作業について農業者が守るべき優良農業規範を作成している。土・水・大気を保全する農作業については,(1)土壌保護のための規範 (Codes of Good Agricultural Practice for the Protection of Soil)(1993年策定,1998年改定:66頁),(2)水の保護のための規範(Codes of Good Agricultural Practice for the Protection of Water)(1991年策定,1998年改定:97頁)と,(3)大気の保護に関する規範(Codes of Good Agricultural Practice for the Protection of Air)(1992年策定,1998年改定:80頁)の3冊の規範を刊行していた。

     これらの規範は,農業者に対するアドバイスであって,硝酸脆弱地帯の外の全ての農業者が自主的に守るべきマナーで,規範を守らないと直ちに違法行為になるわけではない。ただし,イングランドの法律と関係する部分については,法律を遵守した農作業の仕方を記載しており,法律に対する違法行為が発覚すれば,裁判沙汰になるとの警告がなされている。

     特に水の保護のための規範では,硝酸指令に基づく硝酸脆弱地帯での家畜ふん尿や施肥に関する部分もあり,そうした部分はshouldやmustで記載されていて,守らなければ法律違反になる。つまり,硝酸脆弱地帯では硝酸汚染防止規則,有機農業ではイギリスの有機農業基準など関連法規の規則が,優良農業規範に上積みされて課せられている。そして,農業環境プログラムなどに参加して所得補償を得るには,優良農業規範を守ることが条件の一つとなっており,国から補助金を得ようとするなら,優良農業規範を守ることが事実上義務になっている。

    ●土・水・大気の優良農業規範の改正

     これまでの土・水・大気の優良農業規範は,家畜ふん尿窒素の年間施用量を,硝酸脆弱地帯外の全ての農地で250 kg/ha,硝酸脆弱地帯内の草地で250 kg/ha,耕地で170 kg/haを超えてはならないとのイングランドの独自の規定に基づいて作成されていた。しかし,環境保全型農業レポート「No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行」に記したように,硝酸脆弱地帯内の全ての農地で家畜ふん尿窒素の年間施用量が,EUの硝酸指令に則して,一律170 kg/haに改正され,対象農地も大幅に拡大された。また,EUの国別排出上限指令を踏まえたイングランドのアンモニアの排出上限規則が2002年に施行された。こうした新たな規制を踏まえて,優良農業規範を改正する必要が生じた。そして,施用した家畜ふん尿や化学肥料の窒素は土壌中でアンモニアや硝酸になって,大気に揮散したり,水系に流入したりするため,これまでの3つの規範を一本化した改正案が作成されたのである。

     土・水・大気の優良農業規範の改正案は2007年8月に公表されて意見公募がなされ,その集約結果に基づいた政府の対応も2008年1月に公表されていた。しかし,その最終承認は硝酸汚染防止規則の成立を待って行なうことになっていた。

     硝酸汚染防止規則が2009年1月1日に施行されたのをうけて,新しい土・水・大気保護のための優良農業規範(DEFRA (2009) Protecting our Water, Soil and Air; A Code of Good Agricultural Practice for farmers, growers and land managers. 118p.)が2009年1月13日に刊行された。なお,新しい版が刊行された現在では,旧い3冊の規範がDEFRA(環境・食料・農村開発省)のホームページから削除されて入手できなくなってしまった。

    ●土・水・大気保護のための優良農業規範

     新版は次の構成となっている。

     第1章「緒言」では,農業活動が如何に環境を汚染しうるかなど,農業と環境の一般的な関係,農業環境保護に関する法律の概要,農業環境事業の概要や,環境保護に対する農業者の責任などを述べている。

     第2章「土壌肥沃度と作物養分」では,土壌肥沃度の維持,窒素・リンの管理,土壌汚染,養分の水系への排出や大気への揮散などの問題を取り上げている。

     第3章「管理計画」では,リスク評価を行なって,ふん尿管理計画,養分管理計画,土壌管理計画,作物保護管理計画を如何に策定するかを述べている。

     第4章「農場建築物と構造物」では,建築物・構造物を使って行なう農作業として,サイレージ貯蔵と排液の取扱,家畜ふん尿と汚水の収集・貯留・処理,羊の洗液と洗浄,農薬・肥料・燃料の貯蔵と取扱,畜舎とその管理などの問題を取り上げている。

     第5章「圃場作業」では,土壌管理と栽培,泥炭土の管理,家畜ふん尿・汚水の施用,有機廃棄物の施用,石灰・化学肥料の施用,農薬の散布,家畜管理,芝の生産の問題を取り上げている。

     第6章「特殊園芸」では,施設園芸で行なう養液栽培,苗生産,キノコ栽培などでの廃液処理問題などを取り上げている。

     第7章「廃棄物」では,廃棄物を最小化させる必要性,廃棄物の貯蔵・回収・廃棄,希薄廃液・廃油の処分,家畜死体の処分などを取り上げている。

     第8章「農場への水供給」では,農場の水の取水の仕方,水の使用と環境問題とのかかわりなどの問題を取り上げている。

     各章の主要問題ごとに,(a)なぜこの問題が大切かの説明,(b)この問題で守るべき主なアドバイス,(c)この問題に関する法的義務があれば,それを満たすために実施しなければならない作業や行為の概要,(d) 環境への悪影響を最小にして農場管理全体を改善するために採用を考慮すべき行為や作業(優良農業行為)の概要を記述した後,(c)や(d)でより具体的に説明する必要な問題が記述されている。旧版に比べて,問題別に関連する様々な事項をまとめて説明しているので分かりやすい。

    ●リンの管理

     例としてリンの管理の概要を紹介する。

     (1) なぜリンの管理が大切か

     ▽農地から排出されたリンが,表流水の水質悪化の原因になっている。リンの排出量は「水枠組指令」(環境保全型農業レポート「No.34 欧州の水系汚染対策」参照(未施行))の目標値以内に抑えなければならない。肥料やスラリーなどの有機質資材でリンを過剰施用しなければ,リスクを減らすことができる。

     ▽施用する有機質資材中のリン量を考慮して,必要なだけのリン肥料を施用すればコスト削減も可能になる。

     (2) リンの管理で守るべき主なアドバイス

     ▽肥料や有機質資材の効率的使用を確保するために,養分管理計画を守る。

     ▽表面流去を起こしやすい条件のときや場所には有機質資材を散布しない。

     ▽土壌侵食や表面流去を防止する。

     ▽飼料中のリン量を家畜の要求量に合わせる。

     (3) リンの環境インパクト

     リンは淡水の富栄養化の原因となっており,農地は河川に流入するリン量の約25%を占めている。リンは農地から下記のいろいろなルートで河川に流入するが,どのルートによるかは河川の集水域によって異なる。

     ▽土壌侵食による,リンを吸着させた土壌粒子の流出

     ▽散布したスラリーや肥料が土壌表面に残っている場合には,特にトラクタの走行路に沿った表面流去水による流出

     ▽スラリーの亀裂から排水路への流入

     ▽浸透水に溶解したリン,または浸透水に懸濁した微小粒子に吸着したリンの排出

     (4) 優良行為

     家畜飼料 飼料中のリン量を家畜の要求量に合わせて無駄に給餌しない。これによって土壌に還元するふん尿中のリン量を最小にでき,ひいては農地から水系へのリンロスのリスクを低くできる。農業コンサルタントや飼料会社の技術者からアドバイスを得ることができる。

     有機質資材と肥料 土壌侵食,表面流去水や排水によってロスされるリン量は土壌中のリンレベルによって異なる。ロスを減らすには,化学肥料や有機質資材によって施肥基準を超える量のリンを施用してはならない。大方の作物では,土壌の可給態リン指数が4以上(オルセンリンで46 mg P2O5/L以上)ならリンを施用する必要はない。土壌の可給態リン指数が3以上(オルセンリンで26 mg P2O5/L以上)で,有機質資材で養分を供給したいなら,輪作体系で施用するリンの総量が,作物が吸収して搬出するリン量を超えないようにしなければならない。これによって土壌のリン貯蔵量を作物生産に必要なレベル以上に上がるのを防止できる。土壌を3ないし5年ごとに土壌を採取して分析しなければならない。

     表面流去水 ふん尿資材および化学肥料からのリンが表流水に流入するリスクは,それぞれふん尿管理計画と養分管理計画に記したアドバイスに従って最小にする。裸地または刈り株状態の耕地では,ふん尿資材や肥料を施用した直後か24時間以内に土壌に混和すれば,表面流去水によってリンが流出するリスクを減らすことができる。土壌管理計画に従って,表流水に流入する土壌の侵食量と土壌に吸着したリンならびに顆粒状のリンの量を減らす。

    ●日本との比較

     日本では,基礎GAP(環境保全型農業レポート「No.81 農林水産省が基礎GAPを公表」)が公表されている。しかし,基礎GAPはあまりにも限られた事項を束ねて記述していて,具体性に乏しい。それに比べて,イングランドの優良農業規範は,前述のように具体的に記述している。そして,上記に例示したリンについても,その削減の必要性が研究サイドから指摘されながら,日本では過剰施用が恒常化しているのに比べて,イングランドでは農業現場においてリン施用を削減しようとする努力がうかがえる。

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