No.15 水田の汚濁物質排出量
●代かき後の強制落水による汚濁物質の排出
水田は高い水質浄化能力を持つとされているが,代かき後移植前の強制落水時に多量の窒素,リンなどの汚濁物質を排出し,水系を汚染している。大規模営農で知られる秋田県の八郎潟干拓地水田でも,強制落水時に汚濁物質が排出されて問題になっている。秋田県農業試験場・生産環境部・環境調和担当は,八郎潟干拓地でこの点の実態調査を行った(原田久富美ら (2004) 農家水田実態調査に基づく水稲移植前落水時に発生する水質汚濁物質排出量の推定。秋田県平成15年度「実用化できる試験研究成果」 p.95-96 )。
60の水田圃場について汚濁物質(全窒素,全リン,懸濁物質,全有機態炭素)の排出量を調査した結果,移植前落水時の全窒素排出量は0(落水なし)〜47.3 kg/haにわたった。排出量は土性によって異なり,重埴土(粘土含量が45%以上)では他の土壌よりも排出量が非常に多かった。全窒素の平均排出量は,重埴土で4.3 kg/ha,その他の土壌で0.6 kg/haであった。
●湛水深を6 cm以下に
調査結果から,汚濁物質の排出量が湛水深によって大きく異なることが示された。代かきから移植までにおおむね1週間が置かれ,この間に代かきによって巻き上げられた土壌粒子を沈降させている。しかし,当該地方の5月は,4日に1度は風速6 m以上の強風が吹き,この風によって土壌粒子が巻き上げられて田面水中の汚濁物質濃度が上昇する。しかし,湛水深が6cm以下の場合に着目すると,強風による巻き上げが少なく,田面水中の汚濁物質の濃度を低く抑えることができた(図1)。(原田久富美ら (2005a) 水稲移植前落水時の湛水深を60mm以下にすると水質汚濁負荷が半減する。秋田県平成16年度「実用化できる試験研究成果」)
湛水深を浅くすることは風による土壌粒子の巻き上げを減らすだけではない。湛水すれば土壌から電解質が田面水に溶け出してくるが,湛水深を浅くすると,水量が少ない分だけ田面水の電気伝導度が上昇する。そのため,土壌粒子が凝集しやすくなって沈降し,土壌粒子に吸着した汚濁物質の濃度が低下する(図2)(原田久富美ら (2005b) 移植前湛水深を抑制するとECが高まり懸濁された土壌粒子が沈降しやすくなる。農業環境研究成果情報 21: 72-73 )。
これらの結果から,現状では八郎潟中央干拓地の9,380 haの水田から落水にともなって,33.4トンの全窒素が排出されているが,代かき時の湛水深を6 cm以下にすること(落水改善)によって,全窒素排出量を約6割削減できると推定された。そして,不耕起栽培や無代かきを導入すれば,さらに削減量を上積みできると推定された(表1)。
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