環境保全型農業レポート > No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点

    ●飼料用稲=飼料イネ+エサ米

     飼料用稲は家畜飼料用の稲で,その品種は食用稲とは異なる。飼料として稲は,穀実,穀実を収穫した残りのワラ,青刈りした茎葉全体(ホールクロップサイレージ:WCSとして)が利用されている。飼料用稲は穀実を利用する「エサ米」ないし「飼料米」と,ホールクロップサイレージ利用する「飼料イネ」ないし「稲発酵粗飼料用イネ」とに区別されている。なお,ワラは食用品種のものが通常給餌されており,家畜飼料用ワラ生産に特化した稲品種はない。

     穀実利用を意図したエサ米の品種育成が1980年代に行なわれて,食味の点で食用には適さないが,収量が非常に高い品種が7つ育成された。しかし,食味が良食味米よりは劣るとはいえ,カレーなどには適したものもあり,食用として流通した場合の価格では家畜飼料として高すぎる。このため,米価の高い日本では,食用の古々米がエサ用に安価に売却される場合がときどきあるものの,エサ米用品種で生産した穀実が飼料になれる展望はない。現在では,穀実が登熟しきらないうち,収穫した茎葉全体をサイレージとして利用する飼料イネが育種や栽培の対象になっている。

    ●飼料イネ品種と栽培面積

     飼料イネは,通常,黄熟期に地上部全体を収穫してサイレージにする。飼料イネ品種に求められる特性は,牛の消化できる炭水化物,タンパク質および脂肪の合計養分量(可消化養分総量)が多収であること(茎葉の乾物収量が多く,かつ,可消化養分濃度が高いこと)が基本である。それに加えて,省力的に,安全で高品質なサイレージを生産しやすいように,耐倒伏性,耐病虫性,脱粒性,耐肥性が高く,直播栽培では低温出芽性が良いことが求められている(稲発酵粗飼料推進協議会ら (2002) 稲発酵粗飼料生産・給与技術マニュアル.76p)。

     現在開発されている飼料イネ品種の栽培適地を図1に示す。収量は品種や栽培条件によって異なるが,クサホナミやリーフスターの標準的地上部乾物収量は2.14トン/10aに達する。図1に示す品種の可消化養分濃度は食用品種に比べて5〜20%高いが,育種目標としては,2010年までに10a当たりの可消化養分総量収量を,北海道〜東北で0.9〜1.0トン,関東〜九州で1.1トンを目指している(農林水産技術会議事務局 (2006) イネで牛を育てる.農林水産研究開発レポートNo.15. 18p)。

    ●飼料イネ栽培による物質循環促進への期待

     輸入飼料に大きく依存した我が国の家畜生産では,飼料としての穀類の生産はほとんど見られなくなり,牛の粗飼料が国内で生産されているだけである。このため,排泄された家畜ふん尿は,牛を除くと他の畜種では飼料作物生産に再利用されていないうえに,かつて100万haを超えていた牛用の飼料作物の栽培面積も,1991年をピークに減少し続けている(図2)。このため,家畜ふん尿過剰問題が一段と深刻化しており,家畜ふん尿を再利用した飼料イネの栽培は,少なくとも牛について物質循環を強化しうる点で,その拡大に期待が寄せられている。

     飼料イネの栽培面積は,1995年の23 haが2000年の502 haを経て,2001年に2,378 haに急増した後,徐々に増えて2006年に5,182 haに達した。そして,2008年には7,500haが目標面積に設定されている(農林水産省生産局畜産部畜産振興課 (2007) 自給飼料増産をめぐる情勢について.12p)。

     飼料イネ栽培面積の拡大は緩慢ではあるが,今後の拡大次第では,牛生産における物質循環の促進に貢献することが期待できる。その主たる理由は,食用稲品種に比べて飼料イネ品種には多肥を行なえることにある。食用稲品種では,良食味米を生産するために窒素を少なめにして,多肥にはしない。ましてコシヒカリのように,草丈の高い,古いタイプの品種ではそうである。

     コシヒカリへの化学肥料による窒素施用量は3〜6 kg/10aであるが,飼料イネ(夢あおば,クサユタカ)には9〜10 kg/10a施用する(松村修 (2005) ホールクロップサイレージ用飼料イネの栽培技術(北陸).農業技術大系.畜産編.第7巻.飼料作物.p.基384-6〜384-11)。化学肥料を用いて飼料イネ(ほそおもてとクサホナミ)を栽培するには,窒素施肥量を食用品種の1.5〜2倍が良いとされている(斎藤稔・袖山栄次・中澤伸夫・細井淳・酒井長雄・土屋学 (2004) 飼料イネ「ほそおもて」「クサホナミ」の窒素施肥量は食用品種栽培の1.5〜2倍程度がよい.平成15年度関東東海北陸農業研究成果情報.)。

     家畜ふん堆肥を施用する場合には,食用稲品種では家畜ふん尿堆肥を1 t/10a程度に抑えるが,飼料イネではこれよりも増やせる。飼料イネでは地上部を全て系外に搬出してしまうので,土壌肥沃度維持のためにも,地力の低い圃場には2 t/10aの家畜ふん堆肥の施用が必要であると栽培指針にも記されている(稲発酵粗飼料推進協議会ら,2002:前出)。そして,窒素を多肥しても,湛水された水田では,畑のように硝酸が土壌に蓄積することがなく,イネ茎葉の硝酸濃度が高くなる心配はない。

    ●環境保全の必要性

     耕種農家が豚や鶏のふん尿を飼料イネの生産に利用してくれるケースもありうるが,飼料イネのサイレージが豚や鶏の餌になるわけではないので,飼料イネ生産に利用される家畜ふん尿は牛のものが中心になろう。その場合,(1)養牛農家が固液分離した分離尿を液肥として飼料イネに施用する場合(固体部分から製造した堆肥は耕種農家に販売),(2)養牛農家が分離尿と堆肥の両者を施用して飼料イネを栽培する場合,(3)耕種農家が牛ふん堆肥を飼料イネの生産に利用する場合などが想定される。

     分離尿は,通常,牛のふんと尿を混合ないし接触させた後に分離したものなので,ふんの水溶性成分が溶けていて,暗褐色で粘性を持ち,悪臭を発する。このため,新鮮な分離尿を施用すると,悪臭が生ずるだけでなく,流動性が低くて,田面水にスムースに拡散せず,養分の分布が不均一になって,イネに生育ムラが生じやすい。このため,爆気して有機物を微生物に好気的に分解させて,悪臭と粘性を減らしてから,液肥として水口から施用し,水流を利用して圃場内にできるだけ均一に分布させる(図3)。

     分離尿や堆肥を利用して飼料イネを生産する場合には,イネの多収と生育の均一性を確保すると同時に,環境を保全することが大切である。環境も考慮した家畜ふん尿利用による飼料イネへの施肥技術に関する最近の研究として次がある。

    ●牛尿液肥の施用による飼料イネの生産

     牛の尿液肥によって飼料イネを栽培した研究の例として,群馬県畜産試験場の研究がある。飼料イネのクサホナミを条播湛水直播し,牛と豚の液肥を施用して,乳熟後期に収穫した(須藤和久・福田博文 (2003) 牛・豚尿液肥の水田水口施用による稲発酵粗飼料用イネの生産特性.平成14年度関東東海北陸農業研究成果情報)。高い粘性を持ったスラリー状の豚の液肥では大きな生育ムラが生じたが,牛の液肥では生育の均一性を確保できた。牛液肥中の窒素の94.7%はアンモニア性窒素であり,大部分が化学肥料と同様に無機養分であった。液肥を基肥と追肥に分けて,窒素として合計約30 kg/10aを施用したときに,地上部乾物重が1.9 t/10a,可消化養分総量が0.99 t/10aの多収を実現できた(表1)。

     表1の試験において,須藤・福田(2003)は,尿液肥の施用後4〜5日は,畦畔で尿由来の弱い臭気が感じられたが,5 m以上離れると感じられなくなったと報告している。そして,地域住民からの苦情が寄せられることを気づかって,

     (1)爆気など行って臭気や粘性を低めたものを液肥として使用し,

     (2)尿液肥の運搬・施用は,イメージや作業性からバキュームカーではなく大型ポリタンクで行ない,

     (3) 水田外への流出防止のために,基肥施用は代かき時ではなく幼苗活着後とし,

     (4)尿液肥の均等拡散を図るため施用後,数日間は湛水深を維持し,

     (5)運搬・施肥にともなって生活環境の保全上の苦情が生じないよう措置し,

     (6)自耕作地または協議会等の地域内で施用して近隣に民家がある圃場では施用を控えることを指摘している。

    ●尿液肥施用水田における窒素収支と田面水中の窒素濃度

     尿液肥と堆肥を施用して飼料イネ(「はまさり」)を移植栽培している栃木県北部の酪農家の水田について,畜産草地研究所(2005)が窒素収支と田面水中の窒素濃度の推移などを調査した(寶示戸雅之・松波寿弥 (2005) 栃木県北部水田二毛作地帯の水田酪農における飼料イネ生産・利用技術とその定着条件解明.畜産草地研究所技術リポート5号.p.25-29)。

     この水田では標準として,基肥として水田の荒起こしの前に,牛ふん堆肥3.33 t/10a,分離尿2.5 t/10aと化学肥料(ペースト肥料)窒素2 kg/10aを施用している。2002年から2004年まで3年間試験を行なったが,標準区に加えて年次によって施肥条件の異なるいくつかの処理区を設けた。2004年には,当年に新たに設置した標準区に加えて,2002年から継続している2倍区(化学肥料窒素量を変えず,堆肥と尿の施用量を標準区の2倍にした)と,尿追肥区(基肥に加えて,8月4日に尿1.66 t/10aを水口から注入した)を設けた。

     飼料イネ栽培水田における窒素収支を概算すると,例えば,2004年の結果が示すように,標準区での可給態窒素のインプット量と飼料イネによる窒素のアウトプット量はほぼ均衡し,余剰な可給態窒素量は0.7 kg/10aのみと計算された(表2)。他方,堆肥と尿の施用量を2倍に増やした区では,窒素供給量が過剰となり,飼料イネの収量が減少,飼料イネによる窒素アウトプット量が減少した。

     堆肥を連用していると,前年までに施用した堆肥残渣から放出される可給態窒素量が加算されてくる。このため,標準量の堆肥は短期的には適正であっても,連用しているとやがて窒素過剰を引き起こすはずであり,施用している2 kg/10aの化学肥料窒素を減らすことが必要になろう。

     田面水中の平均窒素濃度は,3年間の結果を概観すると,標準区ではいずれの年でも比較的速やかに減少して用水の窒素濃度のレベルにまで低下した(図4)。しかし,2003年の倍量区では窒素濃度の減少が緩慢で,7月中旬まで用水のレベルよりも高く維持された(図を省略)。栃木県の食用水稲の作況指数は,2002年が104,2003年が92,2004年が107で,2003年は「やや不良」であった。このため,2003年には飼料イネでも生育と窒素の吸収が遅れて,倍量区の田面水中の窒素濃度の低下が遅れたと推定される。

     こうした結果から,幼苗活着後に尿液肥を施用し,尿液肥の均等拡散を図るために,平年気象の年なら5月末まで落水せずに湛水深を維持すれば,牛ふん堆肥3.33 t/10a,尿液肥2.5 t/10aと化学肥料窒素2 kg/10aの標準施用で,飼料イネの収量確保と排水による周辺への窒排出を最少にすることが可能といえよう。ただし,幼苗活着後の液肥投入直後に,湛水深が苗を水没させるほどの大雨が降った場合は落水して窒素を排出することになってしまうので,注意が必要になる。

    ●未熟家畜ふん堆肥施用による環境負荷の増大

     耕種農家の場合には,尿液肥を施用せずに,家畜ふん堆肥を施用して飼料イネを栽培するケースが多いであろう。飼料イネに多量の家畜ふん堆肥を施用する場合,完熟堆肥でなく,未熟堆肥を施用すると,水田から排出される窒素とリン酸の量が増え,温室効果ガスのメタンの発生量が増えることが東北農業研究センターによって示された(関矢博幸・加藤直人・西田瑞彦・金田吉弘・服部浩之 (2007) 飼料イネ栽培における未熟な家畜ふん堆肥の多投は環境への負荷を増加させる.平成18年度東北農業研究成果情報)。

     使用した堆肥は,牛6:豚3:鶏1の割合で混合した家畜ふんを解放直線型堆肥化処理装置(ロータリ撹拌式)で5日間一次発酵させただけの未熟堆肥と,同装置で25日間一次発酵させた後に3か月間二次発酵させた完熟堆肥である。未熟堆肥は完熟堆肥に比べて,C/N比が大きく,窒素やリン酸の濃度が低く,アンモニウム濃度が高くて,硝酸はまだ検出されず,易分解性有機物が多量に残っているために,微生物による酸素吸収と二酸化炭素放出の速度が高かった(表3)。

     ライシメータ水田に春に未熟および完熟の家畜ふん堆肥を現物3 t/10aずつ施用した後,化学肥料でNを10 kg/10a,Pを2.62 kg/10aずつ施用して,飼料イネ「べこあおば」を移植し,黄熟期まで栽培した。減水深を1 cm/日にして,深さ60 cmの位置から採取した浸透水と表面排水中のNとP,ならびにメタン発生量を測定した(図5)。

     その結果,土壌からのメタン発生量が,無堆肥を100とすると,完熟堆肥で167,未熟堆肥で386となり,未熟堆肥では完熟堆肥の2.3倍と顕著に増加した(図5)。微生物が容易に分解できる炭水化物などの易分解性有機物の多い未熟有機物を水田土壌に施用すると,土壌微生物によって有機酸が蓄積すると同時に,土壌の酸素濃度が激減して,還元状態が発達する。土壌の酸化還元状態の指標である酸化還元電位が-200ミリボルト以下に下がって,有機酸が存在していると,メタン細菌によってメタンが生成する。このため,ワラをすき込んだ場合には,ワラを堆肥に加工してから施用した場合よりも,メタン生成量が多くなることは広く知られている。未熟な家畜ふん堆肥も多量の易分解性有機物を含んでいるために,完熟堆肥よりもメタン生成を促進することになる。メタンは二酸化炭素の21倍の温室効果を持つため,その排出抑制が強く求められており,地球環境保全の観点から未熟堆肥の多量施用は好ましくないことになる。

     また,表面排水と地下浸透を合わせた窒素流出量は,無堆肥を100とすると,完熟堆肥で144(投入窒素量の2.7%),未熟堆肥で191(投入窒素量の9.7%)となり,未熟堆肥では完熟堆肥に比べて32%増加した。また,リン流出量は,無堆肥を100とすると,完熟堆肥で126(投入リン量の0.6%),未熟堆肥で150(投入リン量の2.1%)となり,未熟堆肥では完熟堆肥に比べて18%増加した(図5)。調査例数が少ないこともあって,窒素とリンの排出量の差の有意性を統計的に確認できなかったが,排出量が未熟堆肥でより多い傾向は安定して認められる現象であろう。

     供試した家畜ふん堆肥に当初含まれていた無機態窒素量を計算すると,現物3 t/10a当たり,完熟堆肥の0.96 kgに対して,未熟堆肥が4.94 kgで,未熟堆肥は約3 kg/10aも多く無機態窒素を含んでいたことになる。春に堆肥を施用した後に代かきを行って落水したときに,土壌粒子に吸着したアンモニウムが土壌粒子ごと排出されたり,移植直後の苗がまだ小さい段階では無機態窒素の一部が苗に吸収されずに,硝酸に酸化されて,まだ還元状態が十分発達していない初期段階で地下浸透や表面排水されたりして,未熟堆肥で窒素の排出量が増えたと推定される。また,リンについては,地下浸透による排出量には未熟堆肥と完熟堆肥で差がなく,表面排出量に差が認められたことから,土壌粒子に吸着したリンが代かき後の懸濁によって,排出されたと推定される。このとき,未熟家畜ふん堆肥のリンには無機態リンが多く,土壌粒子に吸着するリン量が完熟堆肥よりも多く,落水にともなってより多くのリンが土壌粒子とともに排出されたと推定される。

    ●望まれる飼料イネによる物質循環の強化

     日本全体では,乳牛と肉用牛から年間合計約30万トンの窒素が排出されている。そのうちの約6万トンの窒素はアンモニアなどで大気に揮散していると推定されるので,残りの約24万トンの窒素が液肥や堆肥に含まれていると概算される。

     上記の関矢らの例では,10a当たり現物3トンの完熟堆肥を施用して,その中に21.2 kgの窒素が含有されていた。2008年の飼料イネの目標栽培面積7,500 haに関矢らの割合で牛ふん堆肥が施用されたとして,合計1,590トンの牛ふん堆肥窒素が施用されるだけにすぎず,現状の栽培面積では飼料イネによる物質循環はごくわずかにすぎない。飼料イネの栽培面積が5万haに拡大したとして,やっと約1万トンのふん尿窒素が循環利用されると計算される。

     今後,アメリカなどにおけるトウモロコシからのバイオエタノール生産拡大にともなって,輸入飼料価格が上昇することが予測されている(環境保全型農業レポート.No.91.バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響)。今後の飼料価格の上昇程度次第では,国内での飼料イネ生産の拡大がこれまでよりも加速されることも考えられる。また,国内におけるイネ茎葉からのバイオエタノール生産が政策的に誘導されて軌道に乗れば,そこでも家畜ふん堆肥の施用拡大が期待できよう。

     日本では河川に沿った低地が水田として利用されており,そうした水田では食用に限らず,多様な用途のイネが生産できることが望ましい。今後,飼料イネがどの程度拡大されるかは今後の日本の農業に大変重要な意味を持っている。

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