環境保全型農業レポート > No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス

    ●最新の「OECD農業環境指標」公表までの経緯

     ウルグアイ・ラウンド農業交渉で農業と環境の関係について,次の点が合意された。

     ▽政府が補助金を出して農産物の生産を強化し,余分になった農産物を輸出したり,政府が設定した保証価格よりも安価な輸入農産物には差額分を関税として課したりするといった,政府が国内農業を刺激・保護する補助金は,公正な自由貿易を歪曲させる。

     ▽これと同時に,政府が国内農業を刺激・保護する補助金は,農業者による農薬,肥料,灌漑水などの潤沢な使用を助長して,環境を汚染している。

     ▽このため,生産刺激・保護的な政府の農業補助金を削減するが,環境汚染を減らし農業のもつ多面的機能を発揮するための政府の補助金は,削減対象から除外する。

     そこで,問題になるのが,ある国が環境保全的だと主張あるいは理解しながら,実際には環境を汚染しつつ,生産力向上を図る農業政策を実施するケースがありうることである。そうした誤った政策が実施されないように,加盟国の政策立案者が政策実施にともなう環境状態の変化を予測できるようにする,農業環境指標の策定の必要性が痛感された。このため,先進30か国で構成されているOECD(経済協力開発機構)は,環境と経済の両立した持続可能な開発の推進に役立つ環境指標セットの策定作業を1993年から開始した。

     その作業の成果として,農業環境指標の考え方や,加盟国における指標の状態などが順次本として出版された。その中で最も関心を集めたのは,加盟国の環境状態を指標によって計測した結果をまとめた本であった(OECD (2001) Environmental Indicators for Agriculture. Vol. 3: Methods and Results. 409p. OECD Publication, Paris)(この要約版(全53頁)はOECDのホームページで読むことができる)。

     この本では1990〜92年の3か年の平均値が集約された。それから10数年が経過し,OECDは2002〜04年の平均値を本として刊行した(OECD (2008) Environmental Performance of Agriculture in OECD Countries Since 1990. 575p. OECD Publication, Paris)。この一部は,境指標の具体的図表部分を含めてOECDのホームページからから読むことができる。なお,本の価格は1万円(PDF版付き)。PDF版だけなら6,960円。PDF版には,図表の下部にその図表作成の基にしたExcelのファイルを入手するためのリンクがあるので,図示された個々の具体的数値も入手できるようになっている。

    ●農業環境指標

     OECDの農業環境指標は,政策立案者が環境と調和した農業政策を企画するのに役立つことを意図し,各国が比較的容易に入手できるデータから計算できるものを目指している。政策立案者の視点に立つと,(1)農業にかかわる環境状態には,それを変化させている政策などの原因(駆動力: Driving force)があり,(2)その原因によって環境の状態(State)が変化し,(3)環境状態の変化に消費者,農業者,流通・販売業などが応答(Response)して,必要な政策変更などがなされる。そして,変更された政策が環境状態を変化させる原因となり,(1)〜(3)がくり返し行われることになる。こうしたプロセスで環境状態が変化してゆく関係をDSRモデル(Driving Force-State-Response model)とよび,OECDは策定した指標がこのモデルのどこに位置するかを明確にしている。

     これまでにOECDは,

     駆動力に関係する指標:(1)農業生産,(2)土地利用,(3)養分使用,(4)農薬使用,(5)エネルギー消費,(6)水使用

     環境状態に関係する指標:(7)土壌の質,(8)水質,(9)大気の質,(10)生物多様性,(11)農薬リスク

     応答に関係する指標:(12)農場管理

    といった指標を策定している。

     指標の内容を詳細に説明する余裕はないが,例えば,養分使用や農薬使用の指標は概略次のようなものである。

     養分使用についてみると,国の農地全体に,肥料,家畜ふん尿,降雨,微生物による窒素固定,種苗による持ち込みなどによって持ち込まれる窒素とリンの全量(インプット量)を計算する。そして,耕種作物,果樹や茶樹,飼料作物によって吸収されて圃場外に搬出される窒素とリンの全量(アウトプット量)を計算する。次にインプット量とアウトプット量の差を「養分バランス」として,その国全体での総量や農地面積ha当たりの養分量kgで表示する。

     農薬使用量は,いろいろな種類の農薬原体(有効成分)を合計した総量で表示する。農薬の使用量は作物や有効成分の種類によって大きく異なるので,OECDは,農地面積当たりの原体使用量を表示せず,その国全体での原体使用総量を指標としている。

     養分や農薬の使用量,これらの圃場外への流出量,その地下水中の濃度などは,栽培する作物の種類,気温,降水量などの要因によって相違し,これらの要因の状態は国によって大きく異なる。このため,OECDでは養分使用や農薬使用といった指標では,国全体における余剰総量あるいは使用総量の増減を重視し,総量が何%増減したかを問題にする。

     以下,いくつかの「OECD農業環境指標」の内容を見ていくことにしよう。

    ●投入資材全体の概要

     ▽1990-92年に比べて2002-04年には,OECD国全体で,無機リン酸肥料の使用量が10%,農薬使用量が5%減少したが,無機窒素肥料の使用量が3%,水の使用量が3%,農業用エネルギー消費量が3%増加した。しかし,これらの資材投入量の増加よりも収穫量がより増加したことから,資材の利用効率が向上し,その分だけ環境負荷は抑えられたといえる。

     ▽1990-92年に比べて多くのOECD国ではこれらの資材投入量が減少したが,一部の国では資材投入総量が増加した(オーストラリア,カナダ,ギリシャ,アイルランド,ニュージーランド,ポルトガル,スペイン,トルコ)。

     ▽OECD国全体では,農業所得の約30%が政府補助金であり,その大方が生産にリンクした補助金となっている。生産にリンクした補助金によって農業者の資材投入量が増加し,農地の農業利用が継続されやすくなり,補助金がない場合よりも,環境負荷が増えることが多いのが通常である。しかし,近年では生産にリンクした補助金が減って,環境向上を意図した補助金が増えてきている。特に水質,水利用,アンモニア揮散量,温室効果ガス排出量,生物多様性にかかわる国および国際的な環境政策が,農業政策に影響を及ぼしてきている。

    ●養分使用の概要

     ▽OECD国全体では窒素とリンの余剰養分量が減少し,土・水・大気への負荷が減少した。しかし,1990-92年に比べて,1/3弱のOECD国では余剰養分量が増加した。肥料窒素の使用量の伸びが多くの国で抑えられており,この余剰窒素量の増加は,集約的な家畜生産に起因しているのが一般的である。

     余剰窒素量

     ▽1990-92年に農地ha当たりの余剰窒素レベルが特に高い国は,オランダ 345 kg,ベルギー 255 kg,ルクセンブルク 229 kg,韓国 213 kg,日本 180 kg,デンマーク 178 kgであった。2002-04年にはこれらの国の余剰窒素量は減少したが,韓国だけはさらに増加し,ha当たりの余剰窒素量が最も多い国となった。多い順に並べると,韓国 240 kg,オランダ 229,ベルギー 184 kg,日本 171 kg,ルクセンブルク 129 kg,デンマーク127 kgとなる(図1)。

    余剰リン酸量

     ▽1990-92年に農地ha当たりの余剰リン量が特に高い国は,日本 65 kg,ルクセンブルク 48 kg,韓国 47 kg,ベルギー 41 kg,オランダ 38 kgであった。2002-04年にはこれらの国のうち,特にEUの国々が余剰リン量を減少させたが,韓国だけはさらに増加させ,日本と韓国のha当たりの余剰リン量が世界的に突出している。多い順に並べると,日本 51 kg,韓国 48 kg,ベルギー 23 kg,オランダ 19 kg となる(図2)。

     ▽余剰リン酸量は減少してきているが,農地土壌のリン酸蓄積レベルは高まっており,リン酸が土壌からゆっくり流出し,水系のリン酸濃度は今後も上昇し続けるであろう。

     ▽余剰養分量が減少した国の多くは,ha当たりの養分使用レベルが高い国であり,なお減少させうる余地があると期待できる。

    ●農薬使用の概要

     ▽OECD国全体では農薬使用量は減少傾向を示したが,1/3のOECD国では,1990-92年に比べて2001-03年に農薬使用量(有効成分量)が増加した。

     ▽農薬の使用量は,作物や有効成分の種類によって大きく異なる。そのため,OECDは,農地面積当たりの原体使用量を表示していない。しかし,国によって農地面積は大きく異なるので,農薬の使用総量だけでは具体的イメージを持ちにくい。農薬の大部分が使用されているのは耕地なので,OECD国の農薬使用総量を耕地面積(永年作物地面積を除く)で除して,耕地ha当たりの農薬使用量を計算した(図3)。

     ▽全体として,高緯度で夏期冷涼な国ではha当たりの農薬使用量が少なく,低緯度の夏期高温の国,日本や韓国のように夏期高温多湿の国ではha当たりの農薬使用量が多い傾向がうかがえる。

    ●土壌侵食の概要

     ▽OECD国全体では,不耕起/低耕起や冬期の作物被覆が拡大し,侵食を受けやすい脆弱農地で生産から撤退した農地が増えたりして,土壌侵食が減少ないし安定化してきている。

     ▽しかし,約1/3のOECD国では,農地の20%強が,土壌侵食量11トン/ha/年の水食を受けやすい農地となっている。

    ●農業用水使用の概要

     ▽1/3のOECD国では農業用水使用量が減少したが,OECD国全体では1990-92年に比べて,2001-03年には,工業用や生活用も含めた全体の水使用量は変わらなかったものの,灌漑農地面積が6%増えたために,農業用水使用量が6%増加した。

     ▽一部の地域では過剰取水した結果,河川や湿地の水流が減って生態系が損なわれている。また,涵養速度以上に地下水を灌漑用水のために取水して,農業の経済的基盤がおびやかされている地域もある。

     ▽地下水くみ上げ補助金など,多くの国が灌漑補助金を支給しており,水の効率的使用の妨害となっている。とはいえ,OECD国全体の平均ではha当たりの灌水量は,1990-92年に比べて2001-03年には9%減少した。特にオーストラリアで減少し,それよりは少ないが,イタリア,メキシコ,アメリカでも減少した。しかし,ギリシャ,ポルトガル,トルコでは増加した。

    ●水質汚染の概要

     ▽1990-92年に比べて,余剰養分量や農薬使用量が減少し,OECD国全体では農業起因の水質汚染程度が減少した。しかし,約半分のOECD国では,農業地帯のモニタリングサイトで表流水や地下水の養分および農薬の濃度が,飲料水の水質基準を超過している。

     ▽汚染からの自然による回復に多大な時間を要すること,汚染のレベルが高い地域が多いこと,工業や都市からの排水に起因した汚染が減って農業由来の比重が急速に上昇している(表1)ため,水質汚染のなかでも地下水汚染が特に問題になっている。多くの国で,飲料水用の浄水のために,養分および農薬の除去コストや水環境の改善が問題になっている。

    ●農場管理の概要

     ▽OECD国では,消費者や食品加工・販売業者の関心に応える民間主導の自主的イニシアティブや,法律で規定されたり,支払のなされる政府のイニシアティブに参加したりする形で,環境保全的な農法を採用する農業者が増えてきている。有機農業を除き,農家による環境保全的な農法の採用状況を定期的にモニタリングしているOECD国は,全体の1/3から1/2にすぎない。

     ▽養分を適正に管理する農法を採用するOECD国は増えてきており,約半分の国が農家の養分を適正に管理する農法の採用状況をモニタリングしている。そうした農法を採択している農家の割合が高い国(ベルギー,チェコ,デンマーク,フィンランド,ドイツ,オランダ,ノルウェー,スウェーデン,スイス)では余剰養分量が減少した。しかし,養分を適正に管理する農法の採択率が低い国(カナダ,アイルランド,日本,韓国,ニュージーランド)では,余剰養分量が増えているか,OECD国の平均値よりも多くなっている(表2)。

     ▽IPM(総合的有害生物管理)の採択はOECD国で増えているが,まだ採択率は高くない。しかし,IPMの採択率が高い国や有機農業の増加率が高い国では,農薬使用量が減少している(オーストリア,チェコ,デンマーク,フィンランド,ドイツ,ノルウェー,スウェーデン,スイス,イギリス,アメリカ)(表2)。

     ▽土壌保全に有効な農法の実施された農地面積はこの10年間変わっていないが,約1/3のOECD国が農家の土壌保全農法の採択状況をモニタリングしている。土壌保全農法の採択率が高い国(カナダ,アメリカ)では,土壌侵食リスクが減少し,採択率が低い国(ハンガリー,イタリア,韓国,スロバキア,トルコ)では土壌劣化問題が残されている。

     ▽OECD国の有機農業面積はこの10年間に大幅に増えたとはいえ,2002-04年における有機農業面積率は全体で2%弱にすぎない。しかし,6%かそれよりも高いオーストリア,デンマーク,フィンランド,イタリア,スウェーデン,スイスといったEU国がある反面,非EU国のカナダ,日本,韓国,メキシコ,ニュージーランド,アメリカでは1%未満にすぎない。

     ★技術大系に収録された記事「世界の有機農業と日本の有機農産物の現状」→ 調べる

    ●おわりに

     膨大な文書であるため,その全体を紹介することはできない。しかし,ここで紹介したように,環境保全的な農法や技術があっても,それを農家がどれだけ実施するかは,農家の努力に期待するだけでなく,消費者の食の安全や環境の保全に対する要求に応えて,国が環境保全的な農法を事業として実施したり,民間の流通・販売部門が認証農産物の提供を行なったり,農家を支援する態勢が重要な役割をはたしていることが痛感される。

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