環境保全型農業レポート > No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点

    ●国の農地,森林の除染方針

     内閣府の原子力災害対策本部は,2011年8月26日に「除染に関する緊急実施基本方針」を出し,これを踏まえて9月30日付けで「農地の除染の適当な方法等の公表について」と「森林の除染の適切な方法等の公表について」を通知した。

     除染対象とする農地や森林は,推定年間被曝線量が20 mSv(ミリシーベルト)を下回っている地域にあるものであり,2年後までに被曝量を50%減少,長期的には1 mSv以下になる程度に空間線量率を引き下げることを目標としている。したがって,年間被曝量が20 mSvを超える地域にある農地や森林は,除染の対象外となる。

     原子力災害対策本部は,対象とする汚染農地については,土壌中の放射性セシウム低減現地試験の結果を踏まえて,農林水産省から提案された農地土壌除染技術の適用の考え方を採用して,表土削り取り,水による土壌撹拌・除去,反転耕を選択して行なうことが適当とした(環境保全型農業レポート.No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表)。

     森林では放射性物質の多くが枝葉や落葉などに付着している。樹種別では,原子力発電所からの放射性物質の放出が3 月に集中していたため,その時点で新葉が展開していなかった落葉広葉樹林においては,放射性物質が林床へ降下し,落葉などの堆積物に付着している傾向がある。このため,落葉広葉樹林では一回の除去作業による除染効果が高いと見込まれる。他方,葉が茂っていた常緑針葉樹林では,放射性物質が枝葉に付着している割合が高い。常緑針葉樹の葉は通常3〜4年程度かけて落葉することから,一度の除染作業だけでなく,汚染された葉が落葉し終わる3〜4年にわたって継続的な落葉等の除去が必要である。そして,落葉などの除去は,森林近隣の住居などにおける空間線量率(対象とする空間における単位時間当たりの放射線量。通常は地面から1 mの高さで計測することが多い)にもよるが,林縁から20 m程度の範囲を目安に行なうことが効果的・効率的であるとしている。

    ●福島県の農林地等除染基本方針の概要

     福島県は国の除染方針などを踏まえて,2011年12月5日付けで福島県農林地等除染基本方針(農用地編)と同(森林編)を公表した。

     これらの方針は,県内で実施される農用地や森林の除染についての福島県の基本的な考え方をまとめたもので,市町村の除染実施計画策定と除染の実施の目安とするものである。その概要は下記のとおりである。

    (1)水田・畑地

    (a) コメを作付けした市町村または地域

     玄米のモニタリングで放射性セシウムが検出されたところは,放射性物質吸着資材(以下「吸着資材」:ゼオライトやバーミキュライトなど)を施用して反転耕または深耕を実施する。玄米のモニタリングで放射性セシウムが検出されなかったところは,吸着資材を施用して30 cm程度の深耕または反転耕を実施する(注:放射性セシウムが検出されたところは反転耕,検出されなかったとことは深耕をまず推奨)。

    (b) コメを作付けしなかった市町村または地域

     今年耕起していないところは,除草を行なった後,表土の削り取り,または吸着資材を施用して,反転耕・深耕を実施する(水田の場合,水による土壌攪拌・除去も可能)。今年耕起しているところは,吸着資材を施用して反転耕または深耕を実施する。

    (2)樹園地

     土壌と樹体に付着した放射性物質を,下記の除染技術を組み合わせて実施する。

    (a) 福島県の開発した粗皮削りおよび高圧洗浄機による樹皮の洗浄。

    (b) 大型化した側枝の間引きや側枝の更新,混み合った園地の縮・間伐,放射性物質が直接付着した旧枝の剪除。

    (c) 必要に応じて除草を行なった後,樹体を傷つけない範囲での表土の削り取り。

    (d) 上記の(a)〜(c)の対策を実施しても空間線量率が低下しない園地では,計画的な改植(同時に表土除去を実施)。

    (e) 老朽化園においては,改植(同時に表土除去を実施)を前倒して実施。

    (3)牧草地

    (a) 牧草のモニタリングで飼料中の暫定許容値300 Bq(ベクレル)/kgを上回った地域

    ・牧草の剥ぎ取り(リター(枯葉などの残さ物)層とルートマット(牧草の根が絡み合った層)を含む),または吸着資材を施用して反転耕・深耕を行い,草地更新を実施する。

    ・中山間地域などで,表土が浅く反転耕や深耕ができない地域では,牧草の剥ぎ取り,必要に応じて客土を行ったうえで,草地更新を実施する。

    (b) 牧草のモニタリングで飼料中の暫定許容値300 Bq/kgを下回った地域

     吸着資材を施用しての反転耕または深耕を行ない,草地更新を実施する。なお,土壌の放射性セシウム濃度に応じ,牧草の剥ぎ取りを行なうことは有効。

    (4)畦畔など

     畦畔などの除草や必要に応じて用排水路の底質土の除去,周辺施設などの洗浄等を実施。

    (5)森林

    (a) 生活圏の除染に寄与するための森林などの除染(森林公園を含む)

     除染方法は,農林水産省が9月30日に公表した「住居等近隣の森林における除染のポイント」に基づくこととし,生活圏と接する森林の林縁部について次を実施する。

     - 落葉など堆積有機物の除去

     - スギなど常緑樹については,3〜4年程度にわたり継続的な落葉などを除去し,落葉樹については,1回の除去作業による除染効果が高いと見込まれる。

     - 落葉などの除去は,林縁から20 m程度の範囲を目安とするが,作業実施後の空間線量率の低減状況を確認しつつ,その範囲を決定して行なう。

     - スギなどの常緑樹で,落葉などの除去で十分な除染効果が得られない場合は,立木の生長を著しく損なわない範囲で,枝葉などの除去による除染をあせて行なう。

    (b) 生活圏以外の森林の除染

    ・次の森林については空間線量率を勘案し,地域の意向を尊重して,除染の優先順位を決める。

     - 生活環境保全林,森林レクリエーション施設など保健休養のための森林

     - 人工林,有用広葉樹林など林業生産のための森林

     - 水源となる森林

     - 局所的に線量率の高い森林

    ・除染方法は,土砂流出防止などの森林の持つ多面的機能に及ぼす影響を十分考慮する必要がある。そのことから,落葉などの堆積有機物の除去および枝葉の除去のほか,林外搬出を前提とした下刈り,除伐,間伐などによる効果的・効率的な方法について,試験研究や実証試験を実施しているところであり,これらの状況を踏まえつつ,利用目的及び樹種を勘案して総合的に検討することとする。

    (c) 林産物への放射性セシウムによる影響の低減

     木材やキノコ,薪,木炭,漆,タケノコなどへの影響低減については,現在,国や研究機関等とともに,実態の把握と低減技術の開発に取り組んでおり,効果が確認された技術については,市町村や関係団体とも連携し,林業者等に対して速やかな普及を図る。なお,キノコ栽培を行なうほだ場では,キノコへの放射性セシウムの付着を防止するため,必要に応じて落葉および枝葉さらには表土の除去などを行なう。

    ●福島県の農地除染基本方針の問題点

     国の農地の除染方針が,表土削り取り,水による土壌撹拌・除去,反転耕を軸にしたものであったのに対して,福島県の除染方針は,水田・畑地については,これらに加えて吸着資材の施用を取り込んでいる点で,若干の前進を示しているといえる。しかし,それでも直面している重要な問題に向き合っていないと指摘せざるをえない。その一つは,土壌中の放射性セシウムの玄米への移行率を0.1に設定していることにともなう事態への対応,もう一つは,山辺の谷津田で暫定基準値を超えたセシウム濃度の玄米が相次いで検出されたことへの対応である。

    (1)土壌中の放射性セシウムの玄米への移行率を0.1に設定していることにともなう事態への対応

     来日したIAEA調査団は「農地のレメディエーションについて,調査団は,次の作付期に向けて,IAEAの出版したデータや係数および現地実証試験で得られた結果を踏まえて,慎重な保守的姿勢をある程度弱めるべき余地があると考える(土壌から作物への放射性セシウムの移行を求める係数などで)。IAEAは,日本が新たなより適切な基準を検討するのを支援する用意がある。」とアドバイスしている(環境保全型農業レポート.No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書)。

     これは,日本が土壌中の放射性セシウムの玄米への移行率を0.1に設定したが,移行率の値が大きすぎ,はるかに小さい値で良い,必要なら設定し直しをIAEAがお手伝いしますよという意味である。

     移行率0.1に固執していると,2012年のコメの作付で大変な問題が生ずることが予想される。それは,福島第1原発事故の沈静化が見通せる状況になったことを受けて,厚生労働省が,非常時の食品の暫定規制値に代わって,平常時の食品の新しい規制値を検討していることに関係する。暫定規制値は食品からの許容線量を5 mSv/年として設定されたが,新しい規制値は,平常時の食品からの許容線量を1 mSv/年にすることとしている(小宮山厚生労働大臣2011年10月28日記者会見)。

     新聞報道によると,新基準の検討は厚生労働省の薬事・食品衛生審議会で進められており,「一般食品」「乳児用食品」「牛乳」「飲料水」の4種類の食品群についてセシウムだけの基準値を定め,2011年内に基準値案をまとめる模様である。

     この基準が公布されるまでは暫定基準に準拠することになる。暫定基準では,穀類の放射性セシウムの規制値は500 Bq/kgであり,土壌中のセシウムの玄米への移行率を0.1としたために,土壌の放射性セシウム濃度が5000 Bq/kg以下の水田でのイネの作付を認めた。新しい基準は未定だが,食品からの許容線量を,暫定基準の1/5(1 mSv/年)に変更するとしたら,穀類の放射性セシウムの規制値は暫定基準500 Bq/kgの1/5にあたる100 Bq/kg,あるいはそれに近いに値になることが推定できる。仮に100 Bq/kgになったとして,セシウムの玄米への移行率を0.1のままにしていると,コメを作付できる水田は,土壌の放射性セシウムが1000 Bq/kg以下となる。

     農林水産省が行なった農地土壌の放射性物質濃度分布調査によると,2011年6月14日に補正した農地の放射能セシウム濃度(Cs-134とCs-137の合計値)は,福島県の浜通と中通では5000 Bq/kg以下だが,1000 Bq/kgを超えている事例が非常に多い(農地土壌中の放射性セシウムの分析値)。

     2011年の作付に先立って,水稲の作付可能水田を5000 Bq/kg以下の土壌の水田としたが,移行率を0.1にしたまま同じ論法を使うと,2012年の水稲作付可能地の放射線セシウム濃度は1000 Bq/kg以下となってしまい,浜通や中通では水稲栽培可能水田が激減してしまう。

    (2)山辺の谷津田で暫定基準値を超えたセシウム濃度の玄米が相次いで検出されたことへの対応

     福島県では2011年産米の放射性セシウム濃度は,本調査結果(10月12日終了)では食品の暫定規制値の500 Bq/kgを超過せず,コメの安全宣言を行なった。しかし,その後,調査対象外の自給的農家が,我が家のコメは安全だろうかと,独自に調査をしたコメから暫定基準を超える放射性セシウム濃度が検出された。これを契機に福島県が緊急調査を行なったところ,11月16日から12月8日の間に,福島市(旧小国村)の1戸から630 Bq/kg;11月28日,伊達市(旧小国村と旧月舘町)の3戸から580〜1,050 Bq/kg;12月2日,福島市渡利地区の3戸から510〜590 Bq/kg;12月7日に二本松市(旧渋川村)の1戸から780 Bq/kg;12月8日,二本松市(旧富成村と旧柱沢村)の各1戸から1240と580 Bq/kgが検出された(新聞報道による)。汚染されたコメは,一部販売されたが,大部分は生産した農家などに保管されていて,出荷されていないようだが,これらの地区の農家にはコメの出荷を差し控えるよう要請が出されている。

     これらの地区の水田で暫定規制値を超える汚染米が生じた原因はまだ解明されていないようで,公表されていない。マスコミ報道では,谷津田の上部に位置している森林に蓄積していたセシウムが雨で流し出されて,水田に流入したことが原因と推定されているようである。福島県の農地除染基本方針は,こうした山あいの谷津田での放射性セシウム汚染軽減に対して,具体的な方針を出していない。

    ●おわりに

     福島県の農地除染基本方針は,上記の問題点に積極的に立ち向かう姿勢を示していないと指摘したが,国としての対応の不備に起因している部分も大きい。

     放射性セシウムの玄米への移行率を0.1に設定したために,2012年の水稲作付可能地をどのような論理で設定するのかの説明づけは,国の責務である。また,山あいの谷津田での対策は,原因が解明されてからでないと打ち出せないし,国との事前協議も行なってからでないと明示できないという問題もあろう。

     とはいえ,福島県が抱えている問題に,もっと積極的に取り組む姿勢が読み取れる方針が望まれた。

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