環境保全型農業レポート > No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版

    ●NOPのプログラムハンドブックとは

     アメリカで有機食品の生産・加工・流通を全米レベルで規制している基本の法律は,1990年公布の「有機食品生産法」 (Organic Foods Production Act of 1990) である。その施行規則が「全米有機プログラム規則」(7 CFR part 205 National Organic Program:NOP規則) で,これを所管しているのが,USDA(アメリカ農務省)の農業マーケティング局(Agricultural Marketing Service)である。同局のなかに「NOP規則」に関する事務を行なうNOP事務局が置かれている。

     「NOP規則」が関係者に正しく理解されて,施行にともなう混乱が少なくなるように,NOP事務局が参考となる文書をまとめたのがプログラムハンドブックである。

     プログラムハンドブックには,認証組織や有機認証を受けた生産・加工・販売などの経営体に向けた,次の3種類の文書が集められている。

     (1) ガイダンス:「NOP規則」で法的に求められている要件の説明や,複雑で論議の多い問題(技術的問題を含む)に対する,統一的な解釈や対処方法などを明記した指導書。ガイダンスを確定する前に,案の段階で官報(Federal Register)やNOP事務局のホームページで公開されて,意見が公募され,それを踏まえて最終版が作られている。

     (2) 指示:認定や認証を受ける,あるいは受けた組織や経営体に,認定や認証を受ける手続や,「NOP規則」を遵守するための手続の優良規範を通知する文書。

     (3) 方針メモ:規則の特定問題についてNOP事務局の考え方を通知する文書。

     これらの文書自体は法的拘束力を有するものではない。むしろ,「有機食品生産法」とその施行規則が如何に運用されているかを説明し,有機の関係者が法的に外れないのを助けるものである。

     プログラムハンドブックの2010年秋版の一端を既に紹介したが(環境保全型農業レポート「No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行」),2012年版(2012年10月24日付け)を紹介する。

    ●ガイダンスの概要

     2012年版には下記のガイダンスが収録されている(括弧内はNOPガイダンス番号)。

     (1) 有機作物生産における,加熱処理家畜ふん尿(NOP 5006)

     (2) 再評価済み不活性成分(NOP 5008)

     (3) 有機生産における,液体肥料の承認(NOP 5012)

     (4) 有機酵母の認証(NOP 5014)(注:食品や飼料の加工に使用する有機酵母の規格)

     (5) 有機生産システムにおける,グリーン廃棄物の許容(NOP 5016)

     (6) 放牧地における,家畜の乾物摂取量の計算(NOP 5017-1〜5017-7)

     (7) 有機作物生産における,堆肥とミミズ堆肥(NOP 5021)

     (8) 野生作物の収穫(NOP 5022)

     (9) 有機の生産およびハンドリングにおける,混合および汚染の防止(NOP 5025)

     (10) 有機の生産およびハンドリングにおける,塩素資材の使用(NOP 5026)

     これらのガイダンスのいくつかの概要を紹介する。なお,これらのうち,2010年秋版に既にあって,2012年版で新たに追加されたガイダンスは,上記リストの(7)〜(10)の4つである。

    ●有機作物生産における加熱処理家畜ふん尿(NOP 5006)

     このガイダンスの最初の版は2007年7月に刊行されたが,2011年7月から新しい版が発効した。内容は変わらないが,ガイダンスのスタイルを新たな項目建てに統一し,それにともない文章を多少変更した。

     このガイダンスのポイントは下記のとおりである。

     「NOP規則」は,堆肥化していない家畜ふん尿を施す際には,葉菜類や果菜類のように可食部が土壌と接触していない作物では,少なくとも収穫の90日前までに,根菜類のように可食部が土壌と接触している食用作物では,少なくとも収穫の120日前までに施用することを規定している(セクション205.203)(環境保全型農業レポート「No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行」参照)。このように,堆肥化していない家畜ふん尿を収穫日のかなり前に施用することを規定しているのは,家畜ふん尿中の病原生物が土壌中で死滅せずに,作物に移行して収穫物を汚染する可能性を排除するためである。

     加熱処理家畜ふん(Processed Animal Manures)は堆肥化せずに,生家畜ふん尿を高温のボイラー内を通過させるなどによって,高温と乾燥によって,病原生物の死滅を図ったものである。しかしこれまでの「NOP規則」では加熱処理家畜ふんについて論及していないため,堆肥化していない生家畜ふん尿と同様に扱われて,加熱処理家畜ふんも収穫日よりも70日とか90日前までに施用しななければならなくなっている。

     2012年版ガイダンスによって,次の条件を満たした加熱処理家畜ふんは,規則にしたがった家畜ふん堆肥と同様に,病原生物による汚染の心配がないとして,いつでも食用作物に施用することが認められた。

     家畜ふんの全ての部分について,燃焼させることなく,最低温度を少なくとも1時間66℃,または,短時間の場合は74℃に達せさせ,最大水分含量を12%までに乾燥させたものであって,最終製品1グラム当たりのふん便性大腸菌が1×103 MPN(Most Probable Number:最確値:統計的に最も確率の高い菌数)を超えず,かつ,製品4グラム当たり3 MPNを超えて含んでいないものであるならば,いつで食用作物に施用してもよい。

    ●再評価済み不活性成分(NOP 5008)

     農薬製品中の補助剤などの有効成分以外の成分のうち,EPA(アメリカ環境庁)が認めている人間の健康や環境に悪影響を与えない成分のリストにある不活性成分のうち,再評価によって不活性と確認されたものは,有機産物から検出されても支障がない。

    ●有機生産における液体肥料の承認(NOP 5012)

     窒素含有率が3%を超える販売用有機液体肥料を,認証組織が有機農業用に適正であると承認する手順をまとめたガイダンスである。

     液体肥料の製造者が,「NOP規則」に準拠した原料を使っていて,その原料や製品の記録を保持し,製造プロセスなどの情報を整備・記録し,液体肥料の製造や貯蔵の施設や機械などが,非有機のものと混じり合わないように管理していることなどを,認証組織が確認するとともに,投入した原料の量と製造された製品の量の収支分析を行なって,バランスを確認することなどの手順を記している。

    ●有機生産システムにおけるグリーン廃棄物の許容(NOP 5016)

     「NOP規則」のセクション205.203(c)で,「生産者は,植物養分,病原生物,重金属ないし残留禁止物質によって,作物,土壌あるいは水の汚染が生じないように,土壌有機物含量を維持ないし向上させるべく,植物性および動物性資材を管理しなければならない。」と規定されている。

     グリーン廃棄物(green waste)は,刈り取った草や花,生垣の剪定枝のような庭や公園の廃棄物に加えて,家庭や商売での食品廃棄物など,堆肥化できる生分解性廃棄物と定義されている。グリーン廃棄物には,都市の道路脇収集作業や民間の会社のコントラクター事業によって収集されるものも多い。このため,農薬散布を行なった街路樹や,公園の剪定枝や,落ち葉から製造した堆肥から農薬が検出される危険がある。事実,2009年にカリフォルニア州で,3つの市販のグリーン廃棄物堆肥サンプルから, NOP規則では禁止されている,合成ピレスロイド殺虫剤のビフェントリンが検出されて問題になった。

     このため,有機作物生産での使用が許されている合成物質のリストに含まれていない合成物質を含む廃棄物を使用することは許されない。ただし,直接散布を受けなかったものであっても,バックグランドレベル(平常賦存レベル)の合成農薬が存在しているケースは当然予測される。

     しかし,「NOP規則」は生産プロセスに基づくもので,意図的に散布していないなら,原料中の残留合成農薬をゼロとすることを命じていない。上記にリストアップしたグリーン廃棄物原料から生産された堆肥で,そのなかにバックグランドレベルの残留農薬が存在したとしても,その濃度が作物,土壌や水の汚染に寄与しないなら,有機生産で使用して良いことを,ガイダンスで認めた。

    ●有機作物生産における堆肥とミミズ堆肥(NOP 5021)

     NOP規則のセクション205.203の「土壌肥沃度および作物養分管理方法基準」の(c)(2)に,堆肥化方法が下記のように規定されている。

    (2) 次のプロセスによって堆肥化した植物質および動物質材料(は有機栽培に使用して良い)(括弧内は筆者加筆)。

     (i) 堆肥化出発時のC:N比を25:1と40:1の間にする。(筆者注 C:N比が低すぎるとアンモニア揮散による悪臭が発生し,C:N比が高すぎると有機物分解が遅れる。これらを防止するためにC:N比を調整)

     (ii) 密閉型通気堆肥化装置や通気堆積システムを用いて,温度を55〜77℃に3日間維持する。

     (iii) 通気装置のない大規模堆積堆肥化システム(ウインドロウ堆肥化システム)の場合は,材料を最低5回切り返して,温度を55〜77℃に15日間維持する。

     しかし,これはアメリカの農場が最も多く使用している大規模な堆肥製造方法について規定しているのであって,使用して良い全ての方法を記載しているわけではない。小規模な堆積による堆肥化(コンポスターなどを使用したものを含む)やミミズ堆肥についての基準を含んでいない。なかでもミミズ堆肥は,セクション205.203(c)(2)に示された55℃を超える温度を確保することを絶対の条件にすると,有機栽培で使用できないことになってしまうため,NOP事務局も,下記のようなミミズ堆肥製造に関する規定を設けている。

     ミミズ堆肥は,概略次のように製造する。

     原料の植物や動物起源の有機物を,事前に水に漬けて十分に柔らかくしておく。好気的条件を維持して微生物とミミズに有機物を分解させるが,温度がミミズを殺してしまう35℃を超えるのを避けるために,有機物を薄い層状に1〜3日間隔で定期的に添加し,水分含量を70〜90%,温度を18〜30℃に維持する。病原生物は使用する技術によって異なるが,この条件下で7〜10日間で除かれる。

     ミミズ堆肥化方法には,屋外でのウインドロウ堆肥化システム(通常6〜12か月),屋内の静置容器システム(通常2〜4か月),連続流動反応容器(通常30〜60日)などがある。屋外のウインドロウ堆積では,プロセスが完了したことの指標は,ミミズが堆肥から出てくることであり,典型的な場合,温暖条件で6か月,寒冷条件で12か月である。ミミズが有機廃棄物を細かく裁断し,低いC/N比の破片にばらした後,微生物が高い活性で分解する。窒素は大部分硝酸態で,カリとリンは可溶性である。大方の有機廃棄物は,元の原料の姿を肉眼的には判別できなくなる。

     このため,NOP規則のセクション205.203の(c)(2)以外の堆肥化についても,次の条件をつけて認めることとした。

    (1) 有機生産者は,製造した堆肥やミミズ堆肥の原料,製造方法や製造過程での温度の記録などを,事前に有機システムプランに記述する。認証組織がこれらをチェックして全ての要件が満たされていることが確認できれば,有機栽培での使用を認める。有機生産者は,温度,時間,水分含量,化学組成や生物活性を測定しておけば,堆肥要件を遵守していることを実証しやすくなる。

    (2) セクション205.203の(c)(2)以外の堆肥化方法であっても,禁止されていない原料で製造された堆肥であって,全ての原料が少なくとも3日間最低55℃に加熱されたものであれば良い。この温度条件が確保されたことを証明するために,堆肥堆積物の混合時期や方法に加え,温度のモニタリング結果を有機システムプランに記入し,認証組織の現地調査時に確認を受ける。

    (3) 次のミミズ堆肥は有機生産での使用が認められる。使用が認められている原料を用い,堆積物に定期的に有機物を層状に添加し,撹拌や強制パイプで通気して,水分含量を70〜90%に維持しつつ,好気的条件を維持して堆肥化を行ない,作物,土壌や水を,病原性生物や有害物質で汚染しない製品であれば良い。

    ●有機の生産およびハンドリングにおける混合および汚染の防止(NOP 5025)

     有機として販売する産物は,農場生産から加工・運搬・販売といったハンドリングの全ての段階で,非有機産物と混合したり,禁止物質によって汚染されたりして,有機としての完全性が失われてはならない。有機としての完全性が失われやすい作業箇所を有機管理ポイントと呼ぶが,2012年版ガイダンスは,有機の生産およびハンドリングの経営体が注意すべき有機管理ポイントをまとめて,有機としての完全性が失われないように注意喚起している。

     有機管理ポイントとして,有機産物だけを生産している経営体では,自己の経営体におけるポイントだけでなく,隣接する農場が非有機の場合には,隣接農場の栽培作物(遺伝子組換え作物など),使用農薬とその散布の仕方,それらの飛散を防止する緩衝帯などにも注意する。

     有機産物と非有機産物の両者を生産したりハンドリングしたりしている経営体では,経営体内部における有機用と非有機用の資材,容器,機械,装置,施設などの十分な清掃や,洗浄なしで利用することのないよう注意することを喚起している。

    ●有機の生産およびハンドリングにおける塩素資材の使用(NOP 5026)

     有機生産では原則として塩素消毒は禁止だが,「安全飲料水法」(Safe Drinking Water Act)で規定されている4mg Cl2/L未満の塩素で消毒した水であるならば,有機作物の洗浄や灌漑,家畜の飼養や器具の洗浄,有機食品のハンドリング過程での洗浄などへの使用を例外として認める。

    筆者注:日本の水道法では消毒に使用する塩素濃度ではなく,消毒後に残っている残留塩素濃度で規定しており,遊離残留塩素が0.1mg/L以上,結合残留塩素の場合は0.4mg/L以上,確保されることが定められている。

    ●おわりに

     アメリカの「NOP規則」は,堆肥化過程での当初C:N比の範囲,堆肥化方法別の堆積温度とその持続期間など,日本の「有機農産物の日本農林規格」などよりも,はるかに具体的な規定を行なっている。そのうえ,「NOP規則」が規定していない問題や,規定内容があいまいな問題については,プログラムハンドブックによって,できるだけ具体化して,一人たりとも間違えた理解をしないよう,誤解を防ぐ努力を行なっている。日本では「有機農産物の日本農林規格」には具体性の乏しい規定が多い。例えば,堆肥化とはどのような条件を満たすことが必要かといった問題も明示されていないために,堆肥とはいえない未熟なものも堆肥として流通していることも多い。日本でも,国が有機農業についてのかなり具体的なガイダンスを作ることが望まれる。

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