環境保全型農業レポート > No.151 イギリスの有機質資材の施用実態
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態

    ●肥料施用実態調査

     イギリスは,化学肥料を中心に,毎年,イングランド・ウェールズとスコットランド(北アイルランドを除く)における,農家による肥料の使用実態調査を実施している。そのなかで,2003作物年度(2002年秋から2003年秋まで)からは,化学肥料に加えて,家畜ふん尿などの有機物資材の使用実態の調査も行なっている。ただし,調査農場数は多くなく,2009年度で1,373農場であった。2010年3月に,2009年度の肥料使用実態調査結果(DEFRA (2010) The British Survey of Fertiliser Practice. Fertiliser Use on Farm Crops for Crop Year 2009. 87p. )が公表されたが,そのなかの有機質資材の使用実態を記した章(p.69〜83)の概要を紹介する。

    ●「有機質資材」の意味

     ここで「有機質資材」と訳した原語は,オーガニックマニュア(organic manure)である。この用語の定義をまず説明しておく。

     オーガニックマニュアは,日本語では,しばしば「有機質肥料」とか「きゅう肥」と訳されている。しかし,日本では「肥料取締法」によって,肥料は特殊肥料と普通肥料に区分され,有機質肥料は,普通肥料のなかの油粕粉末などの有機質肥料の意味で,堆肥やきゅう肥は特殊肥料に位置づけられている。このため,オーガニックマニュアを「有機質肥料」と訳すと,日本では普通肥料の有機質肥料と誤解されやすい。

     イギリスは窒素肥料を図1のように分類している(DEFRA (2008) Guidance for Farmers in Nitrate Vulnerable Zones (Leaflet 2)〜Implementing the rules–scope, timing and enforcement.)。

     図から分かるように,オーガニックマニュアには家畜ふん尿由来のものに加え,様々な有機質資材も含まれている。このことから,オーガニックマニュアを「きゅう肥」と訳したのでは範囲が狭すぎる。そして,普通肥料の有機質肥料との混同を回避するためにも,オーガニックマニュアを「有機質資材」と訳すのが妥当であろう。  なお,図の中の「その他の畜種の固形/わらベースのふん尿資材」の例として,「家畜ふん堆肥」が記されている。この「家畜ふん堆肥」の原語はファームヤードマニュア(farmyard manure)である。日本語ではファームヤードマニュアは家畜ふん尿由来の堆肥とスラリーを合わせた堆きゅう肥と解釈されることも多い。しかし,図1の定義では家畜ふん尿由来のものを,「液状のスラリー」,もともと水分の少ない固形の「家禽ふん」と,「その他の畜種の固形ないしわらをベースにした固形の資材」に分けている。ファームヤードマニュアは,この最後の項の例として示されており,「家畜ふん堆肥」と訳すのが妥当であろう。

    ●牛スラリーと牛ふん堆肥を最も多く使用

     調査結果によると,2/3の農場が1つ以上の有機質資材を使用している一方,1/3の農場が有機質資材を使用していなかった(表1)。有機質資材で使用量が最も多かったのは,発生量の最も多い牛ふんのスラリーや堆肥で,両者で全体の使用量の約90%を占めた。そして,その他の畜種のスラリーや堆肥の使用量はわずかであった。また,家畜ふんスラリーを嫌気消化して,メタンガスを発生させた残渣が3%を占めていたことが注目される。なお,農場外有機質資材は下水汚泥,製紙廃液や醸造廃棄物の処理物などである。

     使用された総量で最も多かったのは牛ふんスラリーで,全体の47%を占めたが,牛ふんスラリーを使用している農場は全体の17%に過ぎなかった。他方,牛ふん堆肥の総使用量は全体の42%であったが,使用農家は全体の53%に達していた。牛を飼養している農場で,硝酸脆弱地帯内の農場は,「硝酸指令」に基づく還元可能上限量以内に,また硝酸脆弱地帯の外の農場は優良農業規範の還元可能上限以内に,ふん尿還元量を抑えなければならない(環境保全型農業レポート.「No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行」)。これらを超える余剰なふん尿を生産している農場などは,牛ふん堆肥や牛ふんスラリーを農場外に搬出しているはずである。調査結果から,牛生産農場から搬出された牛ふん堆肥の総量は80万トン,牛ふんスラリーは50万m3と推定された。そして,搬出した農場は,牛ふん堆肥を平均612トン(イギリスの平均的値で乾物153トンに相当),牛ふんスラリーを平均1,651 m3(乾物99トンに相当)を搬出したと計算された。ただし,調査を行なったイングランド・ウェールズとスコットランドの牛飼養農場数(牛と作物の複合経営を含む)は合計5.5万なので,牛飼養農場のうち,牛ふん堆肥を搬出した農場は2.3%,牛ふんスラリーを搬出した農場は0.6%と全体のごく一部にすぎなかった。

    ●スラリーの施用方法

     スラリーを土壌表面に散布したままにしておくと,スラリーからアンモニアが揮散し,アンモニアは大気中で光化学反応によって硝酸に酸化されて,酸性雨の原因にもなる。このため,EUではスラリーからのアンモニア揮散の抑制に取り組んでいる。揮散を防止し,かつ,窒素を作物に有効利用させるためには,スラリーを土壌表面に散布した場合はできるだけ早く土壌に混和し,インジェクターで注入した場合でも土壌を混和する必要がある。

     アンモニア揮散防止のためには,表面散布よりも,注入のほうが確実だが,イギリスでは全面散布(ブロードキャスト)が最も広く採用されている(表2)。そして,散布したスラリーをできるだけ早く混和することが望ましいが,1日後のケースが過半を占め,7日を超えてから混和しているケースも少なくない。意外に遅いケースが多いことが注目された。

    ●有機質資材の平均施用量

     作目を冬作物,夏作物と牧草に大別して,それぞれの作目への有機質資材の平均施用量がまとめられている(表3)。牛ふん堆肥や牛ふんスラリーは,施用面積と平均施用量とも,牧草にもっとも多く施用されていることから,牛を飼養している農場内で主に利用され,一部が牛を飼養していない耕種農場に搬出されていると考えられる。他方,農場外起源の下水汚泥やその他の資材は,冬播き耕種作物で好まれているようである。

    ●有機質資材施用にともなう化学肥料の減肥

     イングランド・ウェールズでは「2008年硝酸汚染防止規則」(環境保全型農業レポート.「No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行」)によって,作物の種類ごとに化学肥料と有機質資材から供給される可給態窒素量の上限値が定められている。その値は収量レベルや土壌条件などによって異なるが,有機質資材を施用した場合には,化学肥料窒素を減らす必要があり,窒素に加えて,リン酸やカリも減らすことが必要になる。

     また,「2008年硝酸汚染防止規則」では2012年1月1日以前に施用する資材については,牛ふんスラリーと家畜ふん堆肥から,栽培期間中に可給化される窒素量は,全窒素量のそれぞれ20%と10%と規定している。

     今回の調査結果として,主要作物について,有機質資材施用の有無による化学肥料成分の施用量の違いがまとめられている(表4)。牛ふんスラリーや牛ふん堆肥の平均施用量は25 t/m3/ha前後(表3)だが,このなかの標準的な全窒素量は,牛ふんスラリーで67.5 kg,牛ふん堆肥で150 kgとなり,その標準的な可給態窒素量は,それぞれ13.5 kgと15 kgとなる。

     表4をみると,有機質資材施用のないときの化学肥料窒素の施用量は「2008年硝酸汚染防止規則」の施用上限値未満であり,有機質資材施用時の化学肥料窒素施用量に有機質資材からの平均的な可給態窒素量を加算しても,上限値には達しないので,平均値でみる限り,法律は遵守されていると理解できる。

     牛ふんスラリーや牛ふん堆肥を施用した場合には,平均で化学肥料窒素の施用量が13.5〜15 kg/ha程度減肥されてよいはずである。表4の多くの作物ではこの程度の減肥はなされており,ジャガイモでは30 kg/haもの減肥がなされていた。ただし,調査事例が少ないので,一般的というには不確かだが,家畜用インゲン類では有機質資材を施用した場合のほうが化学肥料窒素の施用量がかえって増えていた。

     リン酸やカリも多くの場合,有機質資材を施用した場合には,減肥されていた。しかし,春播オオムギでは,有機質資材施用圃場で無施用圃場よりもリン酸施用量が多かった。リン酸については,イングランドでは法律で規制していないが,過剰なリン酸の施用の抑制を優良農業規範で指導している。その点からすると,調査事例の少ないインゲン類と異なって,春播オオムギの調査事例数はそれなりにある。

     報告書は,「調査では有機質資材施用にともなって化学肥料施用量を変えているかの理由を収集していない。圃場によっては養分状態を望ましいものにするように管理されていて,特定の養分を通常よりも多くまたは少なく施用するといった戦略がとられている可能性が考えられる。調査事例が少ない場合には,そうした戦略が全体像にバイアスを与えることになる。」と記述している。つまり,リン酸レベルが低く,意識的にリン酸レベルを高くするようにしている圃場がいくつか含まれているために,こうしたイレギュラーが起きていると解釈している。イギリスでは,最近,有機質資材を施用したときに,化学肥料投入量を調節するように農業者に対してくり返し広報している。そうした状況下で有機質資材施用した方が,化学肥料成分施用量が多いというのでは,当局は困るので,こうした無理な解釈をしているのであろう。

    ●施肥機の調節

     施肥機からの肥料の落下量をきちんとチェックして調節することが,適正な施肥管理に不可欠である。2009年度において,年1回は,受け皿を使って落下する肥料量を確認した農業者が36%,これよりも高頻度でチェックした者は15%,5%は肥料を変えるたびに行なっていた。他方,30%の農業者は散布機の精度チェックを一度も行なっていなかった。

    ●施肥記録の保持

     「2008年硝酸汚染防止規則」で,施肥記録をつけて保持することが規定されている。化学肥料と有機質資材について,施肥記録の保持の仕方を調べた結果によると,化学肥料では95%の農業者が記録保持を行なっているが,有機質資材では無回答と「記録保持せず」をあわせると,30%近くに達し,記録保持率は化学肥料よりも低かった(表5)。

     記録の付け方は紙への記帳が主力で,コンピュータ利用はまだ高くなかった。

    ●終わりに

     イギリスでは環境保全を配慮した施肥を強力に推進している。そうした状況下で農業者は規定されたことをどの程度遵守しているのかが,気になっていた。この調査報告書から,平均値でみた範囲では,農業者は全体として規定を遵守しているものの,まだ改善すべき余地があることがうかがえた。

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