環境保全型農業レポート > No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響

    ●はじめに

     有機物から製造した輸送用燃料はバイオ燃料と呼ばれ,現在はエタノールやディーゼルが話題の中心になっている。そして,燃料製造のために,一部作物の使用量が増加して,食料や飼料の価格上昇を引き起こしているといった問題が話題になっている。この問題の概要を,主に次の資料を基にして紹介する。

     (1) OECD-FAO (2007) OECD-FAO Agricultural Outlook 2007-2016. (立ち読み版)229p.

     (2) European Commission (2007) Communication from the Commission to the Council and the European Parliament. Biofuels progress report: Report on the progress made in the use of biofuels and other renewable fuels in the Member States of the European Union. COM(2006) 845 final. 16p.

     (3) Paul C. Westcott (2007) Ethanol expansion in the United States: How will the agricultural sector adjust? ERS Outlook Report. No. (FDS-07D-01) 20 p.

     (4) USDA (2007) USDA Agricultural Projections to 2016. 110p.

    ●バイオ燃料のタイプと原料

     現在の一般的なバイオ燃料は,バイオディーゼル(植物性オイルから製造)とバイオエタノール(砂糖作物やデンプン作物から製造)である。これらは食用作物から製造されたもので,第一世代のバイオ燃料と呼ばれている。そして,食用作物以外の木質,草,その他の廃棄物から製造したバイオ燃料は第二世代のバイオ燃料と呼ばれている。

     バイオエタノールの原料として,ブラジルはサトウキビ,アメリカはトウモロコシ,カナダはトウモロコシとコムギ,EUはコムギとトウモロコシを使用している。アメリカはバイオディーゼルの原料の油糧作物の価格が高くて,バイオエタノールよりも収益性が低いために,バイオディーゼルには力を入れていない。しかし,EUはこれまで過剰生産だったナタネなどの油糧作物からのバイオディーゼル製造に力点を置いてきた。そして,今後はバイオエタノールの製造も強化する。

     石油代替輸送用燃料として電気,水素などが開発途上にあるが,今日,バイオ燃料が積極的に推進されているのは,バイオ燃料なら現在走行している通常の自動車エンジンで使用でき,混合率が低い場合は変更不要で,混合率を高くする場合でも安価な改良で対応できるからである。

    ●バイオ燃料の経済性

     OECDが2005年時点で整理した結果によると(OECD-FAO (2006) Agricultural Outlook 2006-2015. p.50-51. ),ブラジルが実施しているサトウキビを原料にしたエタノールの製造コストは,他の作物を原料にしている他国よりもはるかに低い。この原因は,原料作物の価格の安さに加えて,トウモロコシやコムギなどのデンプンを原料にした場合は,酵母がエタノール発酵を開始する前に,デンプンを糖化するプロセスが余計に必要だが,ショ糖(砂糖)絞り液を原料にすれば,直ぐに酵母がエタノール発酵を開始できるからである。

     2004年の原油の優勢価格は1バレル約39 USドルであったが,この原油価格に太刀打ちできる形でエタノールを製造できるのはブラジルだけであった。他の国ではいろいろな形で政府がエネルギー作物の生産,エタノールの製造・流通に公的支援を行なっている。OECDは,アメリカのトウモロコシからのエタノール製造は,原油価格が44 USドルよりも高ければ,また,他の国のいろいろな原料を使用したエタノールやバイオディーゼルは65〜145 USドルよりも高ければ太刀打ちできると推定した(資料1)。また,EUは,バイオディーゼルとバイオエタノールの経済的境界点はそれぞれ69〜76ユーロと63〜85ユーロとしている(資料2)。2007年10月には原油先物相場が高騰して90 USドルを突破し,11月には95USドルを突破した。こうした状況のなかで,バイオ燃料が原油に太刀打ちできる可能性が高まっている。

     木材,ワラや草などのセルロースを原料にした第二世代のバイオエタノール製造は,現在ではコスト的に太刀打ちできない。しかし,先進国は将来に備えて技術開発に取り組んでおり,原油価格の急騰によって,第二世代のバイオ燃料の実用化に向けた努力が世界的に加速されよう。EUは,第二世代のバイオ燃料が2010年と2015年の間に市販化されると予測している(資料2)。

    ●バイオ燃料推進の政策的ねらい

     バイオ燃料を推進している国の政策的ねらいとして,OECD-FAOは次の3点(資料1)を指摘しているが,その比重の置き方は国によって異なる。

     第一は,将来逼迫する原油供給下での原油の安定確保である。特にEUはエネルギー源を多様化して原油依存度を下げることを重視して,各種の再生可能エネルギーの利用を推進している。仮に2020年までに輸送用燃料の14%をバイオ燃料で代替できたとすると,その分の原油を政情不安定な産油国から輸入しないようにするとともに,原油備蓄量を減らして,原油供給確保の安定性を向上させることができることを強調している(資料2)。

     第二は,地球温暖化の原因物質の一つである二酸化炭素排出量増加の抑制である。

     第三は,農産物輸出国が,農産物の新需要を開拓することによって農産物価格を上昇させて,農業者の収入増を図ろうとしていることである。例えば,過去の例だが,アメリカでは低迷していた農産物価格が上向いたことを背景に,農業者への補助金を減らした「1996年農業法」を成立させた。しかし,成立したとたんに農産物価格が下落した(図1)。このため,農業者の収入が激減して,「1996年農業法」で減らすはずだった農業者への補助金をいろいろな名目で実施して,WTO交渉でEUから批判を浴びた。農産物輸出国のアメリカとしては,トウモロコシの一部をバイオエタノール製造にふり向けて,トウモロコシに対する需要が増えることによって,トウモロコシとこれに関連した農産物の価格が上昇して,農業者の所得が増えることを強く期待している。

     EUは4つ目の問題として,雇用とGDPの増加をねらっている(資料2)。仮に2020年までにバイオ燃料のシェアが14%に達すると,農業部門やバイオ燃料の製造・流通部門などを中心にEU全体で雇用が正味で14.4万人増え,GDPが0.23%増えると予想している。

    ●バイオ燃料拡大にともなう農産物価格変化の予測

     2006年に穀物価格が急騰した。例えば,図1に示したアメリカのトウモロコシの相対価格(1990年を100とした値)は2006年に140に急騰した。この原因としてバイオ燃料製造のために穀物が消費されたことがいわれている。しかし,2006年には天候不順によって,北アメリカ,ヨーロッパ,オーストラリアで穀物供給量が6000万トン減少したことが主因であった。この年にこれらの国々でエタノール製造に使用された穀物は1700万トンで,天候不順の減収量の方が4倍も多かった。このことから,2006年の穀物急騰の主因は天候不順で,バイオ燃料生産拡大の影響はわずかであったと理解されている(資料1)。

     しかし,今後は大規模な天候不順による減収が起きなかったとしても,バイオ燃料製造の拡大によって,いよいよ農産物価格の上昇が顕在化してくると予測されている。OECD-FAOの2016年までの予測は,EUのエタノールとバイオディーゼルの製造およびブラジルのエタノール製造は2007年以降もほぼ一定の比率で増加し続けるのに対して,特にアメリカとカナダのエタノール製造は2007年〜2009年に一気に飛躍的に増加し,2010年以降は緩慢に増加するとしている。このため,特に2007〜2009年にはエタノール製造用穀物の消費量が急激に増加して,他用途向けにふり向けられる穀物が逼迫して,価格が上昇する。その後,穀物の栽培面積が増えて,他用途向けの穀物の生産量も増えて,急激な価格上昇は止まるものの,価格が現在よりも高止まりになると予測されている(図2)。

     砂糖の生産はブラジルやオーストラリアなどで強化されるので,エタノール製造に使用されるサトウキビが増えても,砂糖の価格は今後とも安定的に推移すると予測されている(資料1)。

    ●アメリカでのエタノール製造拡大にともなう飼料用トウモロコシとダイズの減少

     アメリカでは,コーンベルト地帯でトウモロコシとダイズが栽培されている。これまでは両者の収益性に大きな差がなかったが,トウモロコシ価格が上昇して,栽培面積当たりの純益がトウモロコシの方で有利になれば,農業者はダイズを減らしてトウモロコシの栽培面積を増やすことになる。USDAの予測では,2005/06年におけるha当たりの農家純益は,トウモロコシ326ドルに対してダイズ378ドルで,ダイズの方が若干有利だが,2010/11年や2016/17年にはトウモロコシの方がダイズよりもそれぞれ1.8倍や1.6倍高くなり,トウモロコシのほうがはるかに有利になると予測されている(表1,表2)。

     この結果,200/06年に比べて2010/11年と2016/17年には,トウモロコシ栽培面積がそれぞれ1,300万haと4,200万ha増加し,トウモロコシの生産量が増加する。しかし,特に2007/08〜09/10年にはエタノール製造に振り向けられるトウモロコシ量が一気に増加するので,2010/11年には飼料・その他用と輸出に振り向けられるトウモロコシ量が,2005/06年に比べてそれぞれ1,000万トンと600万トン減少する。その後,トウモロコシ栽培面積が増えるので,2016/17年には飼料用や輸出用のトウモロコシ量がかなり回復する(表1)。

     こうしたことから,2010年頃まではアメリカ国内の飼料や輸出に仕向けられるトウモロコシ量が減少して,畜産物価格の上昇が顕著になると予測されている。そして,飼料用トウモロコシの代替品としてエタノール蒸留粕を利用するケースが増加すると予測され,アメリカではトウモロコシのデンプンからエタノールを蒸留した後の粕の飼料利用の研究が実施されている(資料3)。EUではナタネなどの油糧作物からのバイオディーゼル生産が拡大するが,そこで生ずる油の絞り粕が家畜飼料のタンパク源として今後重要な位置を占めると予測されている(資料1)。

     また,200/06年に比べて,2010/11年と2016/17年には,ダイズ栽培面積はそれぞれ120万haと130万ha減少すると予測されている。これによってダイズの生産量が減少するのに加えて,アメリカ国内でのダイズ製油量が増えるので,ダイズ輸出量が300〜400万トン減少し,期末在庫量も600万トン減少すると予測されている(表2)。

     ただ,トウモロコシにしてもダイズにしても,アルゼンチン,ブラジル,南アフリカなどで生産増加がなされて,輸出量が増えると予測されている。とはいえ,2010年頃まではバイオ燃料拡大にともなった,新たな需給バランスに落ち着くまでの移行プロセスで,トウモロコシ,ダイズ,畜産物などの価格の上昇が大きな話題になると考えられる。そして,その後でも在庫量が少なくなるので,天候不順などによる生産減少によって激しく価格変動が起きることが予想される。

    ●バイオ燃料拡大が環境に及ぼす影響

     バイオ燃料は,地球に貯留されていた石油や石炭といった化石燃料と違って,植物に由来する燃料であるため,燃焼で生じた二酸化炭素が再び植物に吸収されて,地球温暖化の原因にならないと解釈されている。しかし,作物を生産するプロセス次第では,バイオ燃料製造は温暖化に貢献しかねない。例えば,森林を伐採・焼却して造成した畑で作物を栽培した場合には,樹木と土壌に貯留されていた多量の炭素が二酸化炭素として放出される。また,湿地や干潟を干拓して造成した畑で作物を栽培した場合には,酸素不足で土壌に貯留されていた多量の炭素が二酸化炭素として放出される。

     例えば,国連環境計画(UNEP)の会議で,パプアニューギニアでのバイオディーゼル原料にするアブラヤシのプランテーションを森林の焼き払いによって造成することが,温室効果ガスの発生や野生生物多様性の低下などの環境問題を引き起こすことが指摘されている。したがって,新規に農地を造成して生産した作物からのバイオ燃料製造は温暖化を加速することになりかねない。

     既耕地で栽培した作物からバイオ燃料を製造する場合には,造成にともなう二酸化炭素の放出がないので,温暖化への貢献は少なくなる。過剰施肥などをせずに適正な方法で栽培した場合,慣行燃料に比べて温室効果ガスの排出量を,ブラジルのサトウキビからのエタノールは約90%,ヤシ油やダイズ油からのバイオディーゼルはそれぞれ50%と30%,ヨーロッパの油糧作物やトウモロコシなどからのバイオディーゼルやエタノールは35〜50%節減するとされている(資料2)。輸送用燃料が全てバイオ燃料になることは期待できず,輸送用燃料の10%がバイオ燃料になったとしたら,上記の温室効果ガス削減率の10%分の温室効果ガスの排出が減ることになる。

     しかし,農地を新規造成するのでなく,既耕地栽培した作物からバイオ燃料を製造する場合でも,実際には既耕地でどの作物の代わりに何の作物を栽培するのか,どれだけ施肥をするのか,どのような耕耘方法を採用するかなどによって,温室効果ガスの発生量と,作物や土壌への二酸化炭素の固定量が違ってくる。

     また,既耕地での作物転換は,硝酸による河川や地下水の汚染や土壌侵食などの他の環境問題ともかかわってくる。例えば,アメリカのコーンベルト地帯では,施肥量の少ないダイズの代わりに,施肥量の多いトウモロコシを栽培する面積が増えることが予測されている。これによって,硝酸による水質汚染が助長されると推定される。また,アメリカは,土壌侵食などが起きやすい地帯の畑を10〜15年間作物生産から撤退させて,その畑に牧草や樹木を栽培する「保全留保プログラム」(CRP)を実施し,参加農業者にはかなり高いレベルの補償金を支払っている。USDAは,CRP契約を終了した畑の一部がCRP契約を継続せずに,トウモロコシを栽培するケースが2009年まで増加し,その後はCRP契約が再び増加すると予測している(資料4)。CRP契約を解除してトウモロコシを栽培する面積が増えることによって,土壌侵食や硝酸による水質汚染がひどくなると推測される。

     EUはバイオ燃料指令(Directive 2003/30/EC of the European Parliament and of the Council of 8 May 2003 on the promotion of the use of biofuels or other renewable fuels for transport) を2003年に公布して,2010年末までに輸送用燃料の5.75%をバイオ燃料にすることを目標に設定した。この目標達成が現状では無理と判断されたことから,目標の再設定を含めて,指令の改訂を検討している。その検討に際して,現在,生産から撤退して牧草などを栽培している休閑(セットアサイド)農地で,多肥によってトウモロコシやコムギを栽培して,環境負荷や野生生物の多様性低下などを引き起こさないように,目下,バイオ燃料製造のための作物生産条件についても規定を新たに盛り込むか否かも検討している。

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