環境保全型農業レポート > No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況

    〜家畜ふん尿の肥料およびエネルギー利用に関する議会報告書〜

    ●背景

     アメリカは,原則4年ごとに政策や予算配分を決めた農業法を改正している。現在の2008年農業法は,正式には「2008年食料・保全・エネルギー法」(Food, Conservation, and Energy Act of 2008)と呼ばれ,2008年6月18日に公布され,2012年度末まで適用される。

     2008年農業法は,その一部として,農務長官に対して,家畜ふん尿の養分やエネルギーなどの資源としての役割について,下記を中心に調査することを命じている(農業法の第XI章家畜生産,セクション11014)。

     (1) 家畜生産経営体のタイプや規模別の余剰な家畜ふん尿量の評価。

     (2) 養分源としての家畜ふん尿の利用を制限することによって生ずる,家畜生産経営体ならびに消費者へのインパクトの評価。

     (3) エネルギー利用にともなう,家畜ふん尿の養分源利用との競合による作物生産への影響の評価。

     そもそもこうした調査を命じた背景には,日本の水質汚濁法に相当する「クリーンウォータ法」の強化と,化石燃料削減のためのバイオエネルギーへの関心の高まりがあった。

     「クリーンウォータ法」は,船の航行可能な表流水(河川,湖沼,河口,沿岸海域など)へのポイントソース(特定汚染源)からの汚染物質の排出を規制する,連邦政府の最も重要な法律である。家畜生産経営体には,長い間,同法の適用が除外されていたが,2003年4月14日から適用対象となった。適用対象となった家畜生産経営体は,高密度家畜飼養経営体(concentrated animal feeding operations : CAFO)と呼ばれている経営体である(表1)。

     CAFOと認定された家畜生産経営体には,家畜ふん尿による環境負荷を軽減する義務が課せられる。アメリカではふん尿や畜舎排水はスラリーとしてラグーン(貯留池)に貯められた後に,飼料生産圃場などに散布されることが多い。その際,(1)ラグーンから大雨による溢水や表流水への直接漏出が起きないようにし,(2)表流水から30 m以内にふん尿を散布せず,(3)化学肥料と家畜ふん尿を合わせて,作物要求量を超える養分を施用しないように養分管理プランを作成して,その記録を保存し,(4)作物要求量を超える家畜ふん尿は他人に譲渡したり,エネルギー利用など農地還元以外の方法で処理・利用したりすることが課せられている(西尾道徳 (2005) アメリカの大規模舎飼家畜飼養経営体からの排出規制.農業技術大系.土壌施肥編 第3巻.p. 土壌と活用? 8の19の12〜15.農文協)。

     こうしたCAFOの家畜ふん尿管理規制が強化されたことによって,アメリカの家畜生産経営体でどれだけの家畜ふん尿量が余剰になっているのか,余剰ふん尿はどのように処理・利用されているのか,処理・利用のために家畜生産経営体にはどの程度のコスト負担が生じているのか,そのために畜産物価格が上昇したとすると,消費者にはどの程度の影響がでるのか,温室効果ガス削減の意味もあって家畜ふん尿のエネルギー利用への関心が高まっているが,エネルギー利用の展望はどうかなどの問題を,農務省のERS(経済研究局Economic Research Service)が調査して連邦議会に報告した (ERS (James M. MacDonald, Marc O. Ribaudo, Michael J. Livingston, Jayson Beckman, and Wen Huang) (June, 2009) Manure Use for Fertilizer and for Energy 〜 Report to Congress. 53 pp. )。その概要を紹介する。

    ●主要畜産地帯における家畜の生産とふん尿の作物利用の状況

     アメリカの家畜生産経営体は,ますます作物生産との複合経営を減らし,特定の畜種に特化して規模拡大を進めており,家畜生産の集中した地域が生じている。南東部(家禽とブタ),ロッキー山脈東側に近い高地平原地帯(肥育肉牛,乳牛,ブタ),西部(乳牛)などがその代表で,これらの地帯では家畜の養分排泄量が作物の養分必要量を上回っている。

     アメリカ全体の2006年における作物栽培面積の総和は1億2780万haだが,家畜ふん尿が施用された総面積は639万haで,全体の5%だけであったと推定されている。そのうちの463万ha (72%) は穀物類(トウモロコシ,オオムギ,ワタ,エンバク,ラッカセイ,ソルガム,ダイズ,コムギ)だが,そのうちの368万ha (58%) はトウモロコシで,乾草と牧草は170万ha (27%) と推定されている。トウモロコシは,飼料用として多くの酪農経営体や養豚経営体で栽培されている。この結果は,ふん尿を施用しているのは家畜生産経営体が中心であって,家畜ふん尿を受け入れている耕種経営体はまだわずかにすぎないことを示している。

     家畜ふん尿を施用された463万haの穀物類栽培面積のうち,ふん尿の畜種別割合は,2006年において乳牛56%,肉牛22%,豚12%,家禽8%,その他2%と推定されている。

     家畜生産経営体について,ふん尿が余剰になっている経営体数などの分析が,酪農経営体と養豚経営体についてなされている。

     (1)酪農経営体
    

     牛乳生産は,現在,西部で急速に拡大し,カリフォルニア州,アイダホ州,ニューメキシコ州が主要生産地帯になっているが,ワシントン州,アリゾナ州,テキサス州でもかなりの生産がなされている。西部には作物生産を行っていない酪農経営体も少なくなく,アメリカの全酪農経営体の16%は作物生産を行なっていない。

     アメリカでは,搾乳牛1頭のふん尿生産量を年間約25トン,その中の窒素を150 kg ,リンを25 kg ,カリを16 kg を標準にしている。酪農経営体はトウモロコシを栽培することが多いが,トウモロコシは窒素の吸収力が高い。アメリカでのトウモロコシへの化学肥料窒素施用量の平均値は140 kg/ha程度だが,この量の窒素をふん尿で施用するなら,ふん尿からの窒素の揮散がないとして,乳牛1頭当たり約1 haのトウモロコシの栽培が必要になる。この比率を参考にすると,酪農経営体の頭数と栽培面積から,不足する面積が推定でき,過剰なふん尿を搬出しなければならなくなる。

     2000年時点で全酪農経営体の92%は200頭未満で,1%未満の経営体が1,000頭以上の乳牛を有しているが,全米の総頭数の19%強を占め,生産量の23%を占めている。 養分施用では,家畜ふん尿や化学肥料などを合わせた養分,特に窒素とリンの施用量が作物要求量を上回らない養分管理プランを作成して守ることが必要である。畜産経営体の圃場にはふん尿由来のリンの集積が進んでいるケースが多い。このため,生産された家畜ふん尿を自作地に施用した際,窒素に比べて,リンが過剰になるケースが多い。大部分の小規模酪農経営体は,作物生産のための適正な窒素施用量の範囲でふん尿を施用している(表2)。しかし,大部分の中規模および大規模経営体は,自らの家畜ふん尿の全てを自作地に施用すると,窒素施用が過剰になってしまうため,ふん尿を受け入れる農地面積を増やすか,ふん尿の一部を農場外に搬出しなければならない。リンについては,増やすべき農地面積や農場外に搬出すべきふん尿量がさらに増加する経営体数が,これまで以上に増えることになってしまう。

     (2)養豚経営体

     西部コーンベルトが豚生産の中心地になっているが,ノースカロライナ州,オクラホマ州,ユタ州でも活発な生産が行なわれている。これらの州の豚生産者の多くは豚生産に特化しており,作物生産との複合経営体の数は少ない。アメリカ全体でみても,肥育豚の22%が作物栽培を行なっていない経営体で生産されている。

     今日では,肥育だけを行なっている経営体のなかには,養豚の全過程を統括して豚を所有しているインテグレータと契約し,インテグレータから子豚と飼料の提供を受け,出荷重量にまで成長させたことに対して支払いを受けているケースが多い。中西部の養豚経営体にはインテグレータから肥育の報酬を受けるのに加えて,作物(トウモロコシ,ダイズ,コムギが最も一般的)も生産しているケースが多い。こうしたケースでは豚のふん尿を低コストな養分として作物生産に活用している。

     仕上げ段階の豚は,毎年,545 kgのふん尿を排泄し,その中には4.5 kgの窒素,0.77 kgのリン,2.0 kgのカリウムが含まれている。このため,6000頭を毎年肥育している経営体では,トウモロコシに窒素140 kg/haを施用するとして,窒素の揮散がないとすると,193 haの耕地が必要になる。

     全米の養豚経営体の平均値でみると,小規模農場は,窒素基準を満たして過剰な窒素施用を回避するのに十分な農地を有している(表2)。しかし,中規模と大規模の経営体はふん尿量に比して農地面積が不足している。窒素基準を守るために,中規模経営体は,平均で,家畜ふん尿を施用する農地面積を33%増やし,大規模経営体は,平均で農地面積を114%増やさなければならないと推定された。リンの基準を守るためには,農地をさらに大幅に増やし,大規模経営体では平均で405 haの農地を増やす必要があると推定された。

    ●家畜ふん尿施用規制が家畜生産経営体に及ぼすインパクト

     窒素やリンを過剰施用しないように家畜ふん尿の施用量を制限するために,経営体は農地の拡大,ふん尿の農外輸送,養分の排泄量を減らす給餌の改善などを行なうことが必要になる。そのために要する追加コストは,当該経営体が自ら十分な農地を有しているか否か,または,どの程度の量の家畜ふん尿を農場外に搬出しなければならないのか,農場外に搬出させる場合には,近隣の耕種経営体のどの程度の割合が家畜ふん尿を使用する意向を持っているのか,あるいは家畜ふん尿をどこまで運搬するのかによって大きく異なってくる。大規模家畜生産経営体ほど,この問題が深刻である。

     この点について,主要家畜生産地帯において経営規模および畜種別に追加コスト上昇分を予測した結果が紹介されている。近隣の耕種経営体のふん尿受け入れ意向が低いなら,家畜生産者はさらに遠くまで余剰家畜ふん尿を輸送することが必要になってしまう。そこで,近隣の耕種経営体による家畜ふん尿受け入れ意向の割合を10%から80%まで変えて予測を行なっている。ふん尿が余剰になっている地域では,家畜生産経営体が無料でふん尿を耕種経営体に引き取ってもらっているケースも少なくない。しかし,アンケート調査で,耕種経営体が家畜ふん尿受け入れる場合,家畜ふん尿に対して,1トン当たりの平均価格で,乳牛で6.2ドル,豚で4.8ドル,ブロイラーで4.4ドルの対価を支払ってくれるとの結果が得られ,この結果を使って予測を行なっている。そして,受け入れ意向割合が高いほど,輸送コストが安くなり,かつ,大量の家畜ふん尿を販売できる大規模経営体ではふん尿販売による純益が上がることになる。お近隣の耕種経営体のふん尿受け入れ意向が多少ある場合(20%とする),大規模経営体では,地域の差は多少あるものの,家畜ふん尿管理を含め,生産コストが2.5〜3.5%上昇すると推定された。この程度の上昇なら,大規模経営体は小規模経営体よりもコスト面でなおかなりの有利性を有しており,家畜生産の現在の構造が変わるとは思えないとしている。

     また,この程度の生産コスト上昇では,生産量や消費量に大幅な減少が生ずるとは思えない。肉や牛乳に対する小売段階での需要は比較的価格変化に鈍感であるのに加え,小売価格の上昇率は生産コストの上昇率よりも低くなると考えられる。その結果,養分管理プランによる規制強化は,家畜ふん尿の耕種経営体での利用を拡大させながら,家畜生産経営体の規模構造にはあまり影響を与えないであろうと結論している。

    ●家畜ふん尿のエネルギー変換利用が作物生産に与えるインパクト

     家畜ふん尿をエネルギーに変換するには,スラリー状のふん尿を嫌気消化して,メタン発酵によって生じたメタンを燃焼させて火力や電気をえるか,または,水分の少ない肉牛のふんや家禽ふんを直接燃焼させて火力や電気をえる方法が一般的である。 アメリカでは,現在,家畜ふん尿のエネルギー変換はあまり実行されていない。

     ふん尿から嫌気消化装置で発生するガスは,メタン,二酸化炭素,その他の微量ガスを含み,農場のボイラー,ヒーター,クーラーや発電機の燃料として利用できるが,洗浄して調製すれば(97%メタン),天然ガスパイプラインに入れて販売することもできる。嫌気消化システムは一部の酪農や養豚の農場や,いくつかのコミュニティで運転されているものの,計画中や建設中を含め,酪農で3%未満(建設済みが91経営体,建設・設計・計画が64経営体),養豚(建設済みが17経営体,建設・設計・計画が6経営体)で1%未満の経営体で実施されているに過ぎない。

     家畜ふんを燃焼させるプラントは,アメリカでは,最初,1987年に肥育牛ふんを利用したプラントがカリフォルニア州で運転されたが,現在は休止されている(2009年に再開予定)。七面鳥ふんを原料にしたプラントが2007年にミネソタ州で稼働し始め,ミネソタ州の七面鳥の約40%(アメリカの七面鳥の6.6%に相当)の生産したふんが燃焼されている。また,コネチカット(採卵鶏ふんを利用)やテキサス(牛ふんを利用)でも建設中である。

     家畜ふん尿をエネルギーに変換すれば,農業者は電気代金の節約や電力販売で収益を増やせるはずだが,目下の段階では,支出に見合う十分な節約を実現できた者はほとんどいない。しかし,家畜ふん尿のエネルギー変換は,化石燃料の消費や温室効果ガスのメタン発生の削減によって,社会に便益をもたらすことができる。このため,家畜ふん尿のエネルギー変換装置の建設に対して,補助金や奨励金をする提案を行っている州もある。こうした支援が強化されれば,エネルギー変換施設建設の申請がかなり増加しよう。

     とはいえ,エネルギー変換利用が,家畜ふん尿の肥料利用を制約することはないであろう。理由の第一は,エネルギー変換を行なっても作物養分があまり減らないことである。つまり,嫌気消化を行なっても,作物養分の窒素,リン,カリの多くは排出液に保持されている。燃焼した場合には,家畜ふん中の窒素はなくなるが,リンとカリウムは灰に残り,濃縮されて,輸送コストが少なくてすむ。第二に,家畜ふん尿のエネルギーによって得られるエネルギーと肥料の双方が市場で機能し,家畜ふん尿入手コストが最も安い地域で経済的に成立できよう。しかし,エネルギー変換の普及には,温室効果ガス削減といった環境便益の視点からの公的支援が必要である。

    ●おわりに

     EUも家畜ふん尿の施用の量,時期,場所などを規制しているが,アメリカも,施用量の上限設定の仕方は異なるが,類似の規制を行なっている。これに対して,日本は農地への施用であれば,家畜ふん尿の施用の量,時期,場所などに何らの規制を設けていない。

     また,日本では水質汚濁防止法で,閉鎖性海域(東京湾,伊勢湾,瀬戸内海)と指定湖沼(琵琶湖など11の湖沼)の集水域に所在する畜産事業所(房総面積が,豚で50 m2,牛で200 m2,馬で500 m2以上で,鶏は規制対象外)の畜舎から公共用水域と地下水に排出される排水を規制している。畜産事業所からの無機態窒素(アンモニア,アンモニウム化合物,亜硝酸化合物および硝酸化合物の和)とリンについては,2008年9月30日まで一般基準よりも緩やかな暫定基準を適用していたが,同年10月1日からは牛と馬については一般基準(無機態窒素120mg,リン16 mg/L)が適用され,豚についてはなお暫定基準(無機態窒素190 mg,リン30 mg/L)が適用されている(環境保全型農業レポート.No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化)。しかし,日本では畜舎排水は規制していても,上述したように,家畜ふん尿の農地還元量については何らの規制もしていない。環境を保全しつつ,農業生産を発展させる視点に立った政策展開が望まれる。

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