環境保全型農業レポート > No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
    以前の記事一覧

  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表

    ●経緯

     福島第1原発事故で汚染された農地土壌の放射性セシウムの除染技術を開発するために,農林水産省農林水産技術会議事務局は,農林水産省所管独立行政法人(農研機構,農環研),経済産業省所管独立行政法人(産総研),文部科学省所管独立行政法人(物材機構,原子力機構),福島県農業総合センターなど,7独立行政法人,11大学,6県の農業試験場,1財団法人,3民間企業の参加した農地土壌の除染技術を開発するプロジェクト研究を,福島県の飯舘村および川俣町の現地圃場などにおいて実施した。

     技術としては,表土の削り取り,水による水田土壌の撹拌・除去,反転耕による汚染土壌の下層への埋め込み,高吸収植物による除染などの技術の実証試験に加えて,除染にともなって生じる汚染土壌や植物体の処理・保管技術を検討した。2011年6〜8月を基礎技術の開発期間とし,8月までに成果を報告し,それを踏まえて,本格的な浄化対策は,2011年度第2次補正予算案に盛り込むことを目指すこととした。その開始時点での構想は新聞報道された(日本農業新聞,2011年6月14日)。

     農林水産省は,このプロジェクト研究で得られた成果をとりまとめ,地目や放射性セシウム濃度に応じた農地土壌除染の技術的な考え方を整理して,2011年9月14日に公表した。

    ●土壌中の放射性セシウム低減現地試験の概要

    (A)表土の削り取り

     実証試験を行なった飯舘村伊丹沢の水田では,放射性セシウムは表面から2.5 ?の深さに95%が存在した。そこで,(1) 基本的な削り取り,(2) 固化剤を用いた削り取り,(3) 芝・牧草のはぎ取りの3つの方式を検討した。

     (1) 基本的な削り取り

     トラクタに取り付けたバーチカルハローで,圃場表面を浅く(約4 cm)砕土して膨軟にした後,トラクタに取り付けたリアブレード(排土板)によって砕いた表土を削り取り,5〜10 mごとに集積した。トラクタのフロントローダで,集積した表土をダンプトラックに積み込み,圃場外へ搬出し,バックホーなどで土嚢袋に詰めた。

     土壌の放射性セシウム濃度は10,370 Bq/kgが2,599 Bq/kgに減少した(除去率75%)。廃土量は約40トン/10 a。

     (2) 固化剤を用いた削り取り

     土壌を砕土して削り取る際に,汚染された表土が分散して回収効率が低下してしまう。そこで,水に懸濁させたマグネシウム系固化剤を圃場に吹き付けて表層土壌に浸透させ,十分に固化(晴天時7〜10 日)させた。その後,油圧ショベルのアームを押し付けながら表層土壌(厚さ約3 cm)を削り取り,バキュームカーで排土を収集し,フレコンバッグに移し替えて,所定の場所に仮置きした。

     土壌の放射性セシウムの濃度は,9,090 Bq/kg から1,671 Bq/kg に低減した(除去率82%)。廃土量は約30トン/10 a。

     (3) 芝・牧草のはぎ取り

     芝や牧草の根は,表層2〜5 cmの深さに,土壌を抱え込んだ形でマット状に絡み合ったルートマットを形成する。ルートマット層にターフスライサーで幅90 cm程度で深さ3または5 cmの切り込みを入れ,フロントローダではぎ取って搬出した。深さ3 cmの削り取りで,土壌のセシウム濃度は,13,600 Bq/kgから327 Bq/kgに低減した(除去率97%)。草を含む廃土量は約40トン/10 a。

     (B)水による水田土壌の撹拌・除去

     水田の表層土壌を浅く撹拌(代かき)した後,細かい土粒子が懸濁している濁水をポンプで沈砂地に強制排水し,凝集剤を投入して固液分離を行ない,上澄み液の放射性セシウム濃度を確認した後,分離した土壌のみを廃土として,乾燥した後にフレコンバッグに移し替え、決められた場所に仮置きした。

     予備試験では,土壌の放射性セシウム濃度の除去率は,土壌によって29〜71%と異なり,粘土含量の少ない土壌では高い効果が期待できないことがわかった。土壌の放射性セシウムの濃度は,15,254 Bq/kg から9,689 Bq/kg へ低減した(除去率36%)。廃土量は1.2〜1.5トン/10a。分離した上澄み液の放射性セシウムは検出限界以下であった。

     (C)反転耕

     吸着材(バーミキュライトなど)を水田土壌表面に散布した後,反転プラウ耕(耕深30,45,60 cm)を行ない,放射性セシウムで汚染された表層土と下層土とを反転させて,土壌表面の空間線量率を低下させるとともに,作物の土壌からの吸収量を低下させた。反転耕では,廃土を生じない利点がある。

     汚染表土は,耕深30 cmの反転耕で15〜20 cm層,耕深45cmで25〜40cm層,耕深60cmで40〜60cm層に埋没された。圃場表面の線量率は,不耕起で0.66 μSv/hだったが,ロータリ耕で0.40 μSv/h,耕深30 cmのプラウ耕で0.30 μSv/hに減少した。

     廃土を生じない利点があるが,次の点に注意する必要がある。

     (1) 放射性物質を除去する方法ではないので,比較的軽度の汚染農地向きで,高度汚染農地への適用にはリスクが大きい。

     (2) 事前に簡易ボーリングによる地下水位調査と土壌の放射性セシウム溶出試験を実施し,地下水汚染リスク評価が必要。

     (3) 反転深度が深いほど,地表面の空間線量率の低下効果等は高いが,水田の耕盤を壊す恐れがある。水田には30cm タイプが適する。

     (4) 反転耕によってやせた下層土が上層になって作物生育を低下させる場合には,堆肥や土壌改良資材の施用による地力向上対策が必要。

     ((D)植物による除染

     放射性セシウム吸収能力が高いと考えられている植物による,土壌からのセシウム回収効率を確認・実証することを目的として,現地や研究所内圃場で,ヒマワリ,アマランサス,ケナフ,キノア,ソルガム,キビ,ヒエを栽培した。

     飯舘村二枚橋現地圃場(土壌の放射性セシウム濃度:7,715 Bq/kg)で栽培したヒマワリでは,開花時(8 月5 日)の放射性セシウム濃度は,硫安+無カリ区において茎葉で52 Bq/kg,根で148 Bq/kg であった(土壌から茎葉への移行率は0.00674)。

     飯舘村現地圃場の土壌の放射性セシウムは,1,067,820 Bq/m2と計算される。一方,ヒマワリの収量(新鮮重)を10 kg/m2,放射性セシウム濃度を52 Bq/kg とすると,520 Bq/m2がヒマワリに吸収された計算になり,土壌に含まれる放射性セシウム(1,067,820 Bq/m2)の約2,000 分の1 にあたる。このことから,ヒマワリによる除染効果は小さいと考えられる。ただし,今回のヒマワリの値は開花時の値であり,今後,開花30 日後まで経時的に採取したサンプルの結果や,他の植物での結果を加えて総合的に評価する必要がある。

    ●コンクリート製容器による汚染土壌の貯蔵

     外寸1.5×1.5×1.5 m,壁厚15 cm,内容積は1.6 m3の普通コンクリート製と重量コンクリート製の容器(重量はそれぞれ4.2 tと6.0 t)を試作し,吊り金具をもちい,安定した水平面にコンクリート製容器を設置した。飯舘村での試験で削り取った廃土(放射性セシウム濃度:約5 万Bq/kg)を詰めたフレコンバッグを防水シートに包んだ後,コンクリート製容器に封入した。蓋とのジョイント部にフチゴムを使用し,雨水の浸入と内部からの漏洩を防止した。土壌を封入したコンクリート製容器表面の線量率は,フレコンバッグ表面と比較して90.1〜94.3%減衰しており(普通コンクリート製よりも重量コンクリート製の容器で減衰率が3〜4%高かった),コンクリート製容器による放射線の遮蔽効果が確認された。

    ●土壌からの放射性物質の分離技術の開発

     飯舘村の畑から採取した放射能非汚染土壌に,土壌重量の100〜200倍の重量の希塩酸 (0.5 mol/L)を加えて,200℃に加熱すると,土壌中のセシウムのほぼ100%を希塩酸溶液に抽出できた。抽出液にセシウム結合剤のプルシアンブルーの超微粉末を添加して,セシウムを捕捉・回収した。

     プルシアンブルーの超微粉末を塗布した布や不織布をフィルターにして,上記の「(B)水による水田土壌の撹拌・除去」の上澄み液中の放射性セシウムの除去に使用した。

     さらに,既知のセシウム結合剤とは異なる,新規の環状構造をもった,選択的にセシウムを結合するクラウンエーテルを新たに設計・開発し,溶液中のセシウムを100%回収でき,繰り返し利用できることを確認した。

     今後,こうした新しい技術を発展させることによって,汚染土壌から放射性セシウムを分離・回収し,保管すべき土壌量を大幅に減少させるとともに,除染した土壌を元の圃場に戻すことが期待できる。

    ●農地土壌除染技術の適用の考え方

     上記の「●土壌中の放射性セシウム低減現地試験」の結果を踏まえて,農林水産省は農地土壌除染技術の適用の考え方について,次の提言を行なった(表2)。

     (1) 既に耕作が行なわれている場合が多い,稲の作付制限対象区域設定の際の判断基準としている放射性セシウム濃度5,000 Bq/kg以下の農地(原子力災害対策本部の「稲の作付に関する考え方」参照)については,必要に応じて反転耕などにより農作物への移行低減対策,空間線量率低減対策を講じることが適当である。

     (2) 5,000〜10,000 Bq/kgの農地については,地目や土壌の条件を考慮した上で,水による土壌撹拌・除去,表土削り取り,反転耕を選択して行なうことが適当である。

     (3) 10,000〜25,000 Bq/kgの農地については,表土削り取りを行うことが適当である。10,000 Bq/kgを超えると,深さ30cmの反転耕による希釈で5,000 Bq/kg以下にすることが困難になる。

     (4) 25,000 Bq/kgを超える農地については,固化剤などによる土ぼこり飛散防止措置を講じた上で,5cm以上の厚さで表土の削り取りを行うことが適当ある。表土を薄く削ると,廃棄土壌の放射性セシウム濃度が100,000 Bq/kgを超える可能性がある(2011年6月16日原子力災害対策本部「放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の当面の取扱いに関する考え方」により,脱水汚泥等について,100,000 Bq/kgを超える場合には,適切に放射線を遮へいできる施設で保管することが望ましいとされている)。また放射線量が高いため,固化剤による土ほこり飛散防止等,除染作業時の被曝に対する様々な安全対策を講じる必要がある。

     
    
    

    ●農地土壌除染技術の適用の考え方の問題点

     上記の「農地土壌除染技術の適用の考え方」にはまだ次の問題点が残されている。

     (1) 「農地土壌除染技術の適用の考え方」は,除染だけを考え,その実施による環境影響,コスト,多量の廃土の保管場所などについての農業者・地域住民・消費者などの受入可能性などを考慮していない(環境保全型農業レポート.No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか参照)。これらを考慮した実施ガイドラインを作成する必要がある。

     (2) 稲の作付は原子力災害対策本部によって放射性セシウム濃度5,000 Bq/kg以下の水田とされているが,「農地土壌除染技術の適用の考え方」では,反転耕を5,000〜10,000 Bq/kgの畑や水田に適用させるとしている。この適用を消費者などに納得してもらうには,どうしても食品中の放射性物質に関する暫定規制値を確保した農産物を生産できる栽培ガイドラインを,原子力災害対策本部か農林水産省から,裏付けのあるデータとともに通知する必要がある。

     (3) 畑では表土を削り取って裸地状態で長期間放置しておくと,強風で風食,豪雨で水食や冠水が起き,植物がないと,土壌肥沃度の低下に加え,土壌生物量が減少し,それにともなって地上部生物の量や多様性が減少し,景観も劣化する。これらの影響を最小に抑えるために,表土の削り取りを実施した後,季節を考慮しつつ,何日以内に,客土,再播種などを行なうべきかのガイドラインを提示する必要がある。

     (4) 上記の(2)と(3)のガイドラインにしたがって生産した農産物が食品中の放射性物質に関する暫定規制値を満たしていることを確認する検査・表示態勢を構築する必要がある。

    ●土壌からの放射性物質の分離技術の今後の課題

     上述したセシウム結合剤のプルシアンブルーやクラウンエーテルを用いて,土壌から溶液に抽出したセシウムを分離する技術は,汚染土壌全体を保管せずに,分離した放射能セシウムだけを保管することを可能にして,保管施設などの必要面積を劇的に減らせる可能性をもったものといえる。

     しかし,実用化させるには次の検証が必要であろう。

     (1) 土壌中のセシウムの溶液への抽出と溶存セシウムの回収を実規模で連続運転性できることを確認し,コストと回収効率を算出する。

     (2) 特に畑土壌では,抽出済み土壌を中和し,乾燥してから圃場に戻すことが望ましいが,そのための酸洗浄・乾燥プロセスのコストと実施効率を算出する。

     (3) 削り取りから抽出済み土壌の圃場還元までの期間を最短化する作業プロセスを提示する。

    ●終わりに

     放射能除染技術については広範な利害関係者の意見を聞きながら,できるだけ広範囲な人達の支持が得られる形で合意をえて,農業生産を早急に再開できるようにすることが望まれる。再開を急ぐあまりに利害関係者の意見を聞かずに実施して,削り取った汚染表土の保管や処理のための場所を確保がえられずに,かえって再開が大幅に遅れることのないようにすることが望まれる。

    (c) Rural Culture Association All Rights Reserved.