No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS
●MPSの誕生と広がり
花きは,その美しさの陰で,農薬や肥料を多用して環境に大きな負荷をかけながら生産されているケースが多い。オランダでは特に,砂土地帯で集約的な花き生産による大きな環境負荷が以前から問題になっていた。そして,環境汚染に対する批判の高まりから,多くの花き生産業者がアフリカなど外国に移転した。だが,外国の環境汚染して花き生産を行うことに対しても批判が高まった。こうした経緯から,汚い花き生産のイメージを払拭するために,1993年にオランダの花き市場の一つである旧ウエストランド市場(現フローラホランド市場)が,ウエストランド地方の生産者や流通業者などと,花き生産における環境負荷を評価して,環境負荷の少ない花きであることを証明する制度を試行した。そして,1994年に花き生産における「環境認証プログラム」(MPS: オランダ語でMilieu Programma Sierteelt)を発足させた。そして,MPSは1995年に国際組織に発展した。
MPSの概要をMPSのホームページならびにフラワーオークションジャパン(東京都卸売市場太田市場花き部)のMPS紹介記事から紹介する。
●MPSシステム
生産者が自らの生産行為をMPSの基準と照合して記載し,4週間ごとにMPS本部にインターネットないしファックスで報告する。本部は4週間ごと(年13回)に100点満点の評点をつける。北ヨーロッパと西ヨーロッパの基準では環境問題別に次のように配点している。ただし,配点は国の自然条件や環境問題の状況によって異なる(表1)。
評点を合計し,70〜100点にMPS-A,55〜69.9点にMPS-B,10〜54.9点にMPS-C,0〜9.9点には「MPS-参加」の認証を与え,生産者はそれぞれのラベルを付けることができる。ただし,「MPS-参加」は環境品質の達成度を論及するものとはならない。MPS-Aの花きは農薬および肥料を慣行よりも50%以上削減したものであることを意味する。ただし,認証が与えられて,ラベルを使用できるのは,参加登録後に,1年間(13期間)にわたって連続して,生産行為を報告した後に,検査を受けてからとなる。
農薬(作物保護剤)は,人体および環境に対する負荷(生物毒性,残留性,移動性)の少ないものから,「緑」,「橙」,「赤」に類別されている。MPSではできるだけ農薬を使用せず,使用する場合は「緑」のグループのものを使用する場合に評点を高くしている。また,事業体の立地条件(河川までの距離,遮蔽・防風作物の有無,地下水水位,表面流去水を起こす傾斜,溶脱を起こしやすい土壌タイプ,年降雨量・降雨分布,平均気温,温室栽培・野外栽培)も考慮して基準を決めている。
ラベルの信頼性を高めるために,毎年参加生産者の30%を検査している。検査には,
(1)書類検査(1/4の参加者をランダムに抽出して,特に禁止農薬の使用や禁止行為の実施などを中心とした書類検査)
(2)現地検査(参加者の1/3を検査機関が訪問して現地で検査)
(3)ラベル検査(商品に添付されたラベルの適正性をチェック)
(4)第1回検査(登録後1年間生産行為を報告した後に生産行為に認証を与える前に全ての参加者に対して行う)がある。また,生産者の農薬や肥料の使用記録に疑問がある場合には,抜き打ちで、花きだけでなく,水や土壌を採取して検査も行う。これらの検査で違反が発覚した場合には,その内容に応じて,文書による警告から除名までの制裁が科せられる。
●運用状況
MPSのラベルのランクがAなら,市場でいくら高くなるというルールはない。価格は花きの品質で決められるのが原則である。しかし,出荷した花きが市場で競りにかけられる際,競りのボードにMPSの認証ラベルが同時に表示される。このため,同じような品質の花きであれば,MPSラベルの優れたものから競り落とされて,優先的に売れることになる。特にヨーロッパのスーパーなどにはMPS-Aを指定するケースが多く,MPS-Aの認証を得ることは販路確保に必要な条件となっている。
2004年におけるMPSに参加している生産者および登録されている栽培面積と,MPSのA〜Cのランク別認証状況は表2と3のとおりである(表2と3は,MPS: Annual Report 2004 から作表)。
●MPSのもたらす影響
日本の消費者の環境意識が高まってきたときに,MPSへの対応を全くしていないと,MPS認証を受けた輸入花きによって,国内生産が大きなダメージを受ける危険がある。FAJ(太田市場花き部)では,以前からMPSについてオランダ駐在員が情報を収集し,2003年1月にMPSに関する研修会を開催していた。そして,2006年4月にケニア産のMPS-Anoバラから国内でも表示販売を開始した。
ヨーロッパ産やアフリカ産のMPS-Aの花きの輸入圧力よりも,中国からMPSの認証を受けた花きが安価な値段で輸出されて,日本の市場を圧迫することが懸念されている。2006年6月2日付けでMPSは,中国がまもなく2年間にわたるMPSシステムの試行を開始し,その間に中国のMPS基準を整備することになったことを報じた。こうした動きから,日本における対応も加速されると予測される。
*MPS制度については、フラワーオークションジャパンの白川裕「ヨーロッパの花卉産業――MPS認証制度を中心に」(農業技術大系 花卉編 第4巻 花卉の動向とマーケティング 13-19)にも詳しい。(編集部)
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