環境保全型農業レポート > No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響

    ●背景

     アメリカのブッシュ第43代大統領(2001年1月〜2009年1月)は,「2007年エネルギー法」を成立させた。この法律によって,アメリカでは2015年までにデンプン起源のエタノール(大部分はトウモロコシ由来)を150億ガロン(約568億リットル)使用することが規定された。エタノール用トウモロコシ生産には補助金が支給されて生産が急激に拡大し,エタノール生産量は2005/06年の45億ガロン(約170億リットル)から2009/10年には125億ガロン(約473億リットル)に増えた。こうした経過は,最近のアメリカにおけるトウモロコシの用途別消費量の推移からもうかがえる(図1)。このため,アメリカのトウモロコシ輸出量が減少し,穀物の国際価格が上昇して,世界的な食料需給が逼迫することが懸念された(環境保全型農業レポート「No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響」;「No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘」)。

     これは,ブッシュ前大統領が地球温暖化の防止に熱心だったからでは決してない。このことは,彼がアメリカの効率の悪いエネルギーの多量消費を放任し,地球温暖化防止のための京都議定書の批准を拒絶したことからもうかがえる。ブッシュ前大統領のねらいは,供給過剰で価格の低迷している穀物価格を,トウモロコシの在庫量を減らすことによって引き上げて,アメリカの農業者の所得を引き上げて,連邦政府の農業への補助金を削減することにあったと推察される。

     そして,アメリカでは,トウモロコシからのエタノール製造が増えるにともなって,トウモロコシの蒸留粕が増え,トウモロコシ蒸留粕を活用する研究が活発に行なわれるようになった(環境保全型農業レポート「No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究」参照)。

     トウモロコシ蒸留粕を飼料利用した多くの研究成果を踏まえて,アメリカ農務省経済研究局は,下記の資料を刊行した。

     L.A. Hoffman and A. Baker (2011) Estimating the Substitution of Distillers' Grains for Corn and Soybean Meal in the U.S. Feed Complex. USDA-ERS Outlook Report No. (FDS-11-I-01) 62 pp.

     この概要を紹介する。

    ●DDGS(可溶性物質添加乾燥穀物蒸留粕)とは何か

     トウモロコシやソルガムといった穀物のデンプンを発酵によってエタノールに変換して,蒸留してエタノールを抽出した後の粕(残渣)が,穀物蒸留粕(DG: Distiller's grains)であり,湿った穀物蒸留粕(WDG)と乾燥した穀物蒸留粕(DDG)とがある。発酵液に溶けているエタノール以外の物質を可溶性物質(solubles)と呼んでいるが,これを穀物蒸留粕に戻したものが「可溶性物質添加湿潤穀物蒸留粕」(wet distillers grains with solubles: WDGS),これを乾燥したものが「可溶性物質添加乾燥穀物蒸留粕」(dried distiller's grains with solubles: DDGS)である。

     ここではトウモロコシを原料に使用したものを扱っているので,DDGSは「可溶性物質添加乾燥トウモロコシ蒸留粕」に限定される。

    ●DDGSの養分組成と問題点

     DDGSは,トウモロコシの糖分がエタノールに変換された残渣であるため,糖分は激減しているが,蛋白質や脂肪は温存されている(表1)。DDGSは家畜・家禽の蛋白質源とエネルギー源として使用されている。

     DDGSを添加して配合飼料を調製する際には,次の点に留意する必要がある。

     (1) DDGSは乾燥工程を経るので,過剰加熱が起きると,炭水化物と蛋白質が化学結合して,有害物質が生ずる可能性がある。

     (2) エタノール発酵過程でpH調節に硫酸が使われているので,DDGSのイオウ含量が高まる。牛が0.4%(乾物当たり)を超えるイオウを含む飼料を給餌されると,神経病の脳軟化症にかかりやすくなる。

     (3) 飼料に含まれる過剰のイオウは,家畜の銅の吸収と代謝を妨害する。このため,飼料や水のイオウレベルが高い地域では,添加するDDGSのレベルを低く抑えることが必要になる。

     (4) DDGSのリンレベルはトウモロコシよりも高く(表1参照),このため,DDGSを単胃家畜用飼料に添加すると,コストのかかるリンのサプリメントをなくすことができる。しかし,アメリカでは家畜ふん尿の農地還元量が窒素やリンで規制されているが,リンの規制が厳しい地域では,家畜ふん尿中のリン濃度を高くしないように,飼料へのDDGSの添加を減らす必要がある(環境保全型農業レポート「No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例」参照)。このため,DDGSのリンを減らす研究も実施されている。

     (5) 発酵過程でのpH調節によって食塩が形成されるため,DDGSのナトリウム含量は平均0.11%もあり,トウモロコシの平均0.02%よりも高い。家禽が要求量レベルを超えるナトリウムを摂取すると,水消費量が増え,湿ったふんが卵に付着して,そこでの細菌の増殖を促し,家禽の腸内感染に対する感受性を高めてしまう。

     (6) トウモロコシの栽培過程でマイコトキシンが蓄積することがあるが,マイコトキシン濃度はDDGSでは約3倍に濃縮される。これに加え,DDGSの貯蔵過程でカビさせてしまうと,マイコトキシンが生成される危険がある。アメリカ食品医薬品局(FDA)は家畜・家禽飼養者に対して,マイコトキシンレベルのテストを勧めている。

     (7) 一部のエタノールプラントは,細菌汚染を防除するために発酵過程中に抗生物質を添加している。現在,飼料に使用する蒸留粕には抗生物質の残留は許されていない。 (8) DDGSの養分含量は,発酵プラントや同じプラントでも発酵のたびごと大きく異なってしまうことに留意する必要がある。

    ●全米におけるDDGSの飼料への潜在消費量

     今後,トウモロコシからのエタノール製造が増えるとともに,DDGSも増えることになる。そこで,著者らは,アメリカにおいてDDGSの飼料利用が潜在的にどこまで可能か試算した。

     上述のDDGSの養分組成から生ずる,栄養生理的障害が起きない範囲でDDGSを飼料の乾物重量の何割まで添加できるかを調べた研究の文献を整理して,DDGSの適正混合可能量の範囲として表2をまとめた。

     この表2はおおまかな目安ともいうべきものだが,一方で,畜種別の飼料へのDDGSの添加可能量の低レベルの値と,肉牛,乳牛,豚,家禽の年間頭羽数の統計値とを用いて,全米におけるDDGSの飼料への潜在消費量を計算した(表3)。このとき,潜在消費量はトウモロコシの作物年(9月−8月)での値として計算した。なお,家禽には鶏の他に七面鳥が含まれている。

     全米での飼料での潜在的DDGS消費量は,2006/07年から2010/11年の平均値で6,180万トンであった。因みに2010/11年のDDGSの供給量の推定値は3,740万トン,また,トウモロコシ起源のエタノール生産量の2015年目標量の150億ガロンから推定されるDDGSの生産量は4,250万であるが,潜在的DDGS消費量はこれらよりもはるかに大きいと計算された(表3)。

    ●DDGSのトウモロコシとダイズ粕に対する代替率の推定

     通常の飼料にはトウモロコシやダイズ粕が使われており,両者の合量が飼料乾物重量に占める割合は,肉牛で10〜40%,乳牛で20%まで,豚で20%,家禽で12〜15%までとなっている。1ポンド(0.454 kg)のDDGSが,栄養的にトウモロコシとダイズ粕の何ポンドに該当するか,つまり,DDGSのトウモロコシとダイズ粕に対する代替率を,既往の文献から整理した。DDGSの飼料価値に関する知見は年とともに集積しているが,現在ではやや保守的な仮定に基づいた代替率(セット1)と,より新しい知見に基づいた代替率(セット2)をまとめた(表4)。セット2は,最近の研究によって認められた,家畜の増体やミルク生産量といった家畜のパフォーマンスの向上を考慮したものである。なお,出典の文献をみると,セット1は2002〜2006年の文献,セット2は2008年以降の文献となっている。

     各年に飼料用に使用されたDDGSの総量は統計で公表されているが,それらが畜種別に消費された割合の統計は公表されていない。農務省が2007年にこの点に関連する調査を行なっており,それらの調査結果をふまえると,2007/08作物年において飼料用に消費されたDDGSの消費割合は,肉牛で約66%,乳牛で24%,豚で6%,家禽で4%と推定された。これをベースにして,他の年におけるDDGSの畜種別消費割合を,DDGSの消費総量を頭羽数の増減率に応じて配分して計算した。そして,全米の家畜と家禽の全体でみたときの,1ポンドのDDGSが何ポンドのトウモロコシとダイズ粕の合量に相当するかを計算した。

     途中の計算は省略するが,結論として,1トンのDDGSは,トウモロコシとダイズ粕の合量で,2006/07年には1.22トン,2010/11年には1.21トンに代替し,過去5年間の作物年(2006/07-2010/ 11年)の平均値では1.22トンに代替すると推定された。

     そして,2006/07年に1,250万トンのDDGSがアメリカの家畜・家禽に給餌され,このDDGSは1,280万トンのトウモロコシと230万トンのダイズ粕に代替したと推定された。同様に2010/11年には,2,910万トンのDDGSがアメリカの家畜・家禽に給餌され,これらのDDGSは2,860万トンのトウモロコシと670万トンのダイズ粕に代替したと推定された。

     2006/07作物年と2010/11作物年のどちらでも,DDGSで代替された飼料(トウモロコシとダイズ粕)の量は,重量ベースで,当該作物年にエタノール製造に使用されたトウモロコシの約38%に相当したことが注目された。

    ●結論

     アメリカでは,家畜に給餌されるトウモロコシとダイズ粕の量が,最近,停滞しているか減少している。その理由の一端は,DDGなどのエタノール副産物が,トウモロコシやダイズ粕に代替していることによる。飼料原料の重量別順位は,従来から1位トウモロコシ,2位ダイズ粕であったが,2010/11年時点でDDGSがダイズ粕に置き換わり,2位となっている。エタノール製造の拡大によってトウモロコシに対する需要が増えたが,DDGSが飼料として利用されることによって,飼料マーケットへのトウモロコシ需要のインパクトが部分的に相殺されている。

     例えば,DDGSによって代替される飼料(トウモロコシとダイズ粕)の量は,特定の作物年におけるエタノール製造で使用されたトウモロコシの約38%(重量ベース)となっている。2010/11年では代替したトウモロコシとダイズ粕の合量の約80%はトウモロコシが占めているので,トウモロコシ分だけでいえば,エタノール製造に使用されたトウモロコシの30%に相当することになる。つまり,エタノール製造に使われたトウモロコシの約30%は,DDGSの形で飼料に戻されたともいえる。

     そして,アメリカの家畜生産ではまだDDGSを飼料として受け入れる余地がある。しかし,今後どの程度DDGSが使用されるかは,他の飼料原料との価格バランスもあり,正確に予測することは難しい。

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