環境保全型農業レポート > No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果

    ●有機農業の推進に関する法律

     「有機農業の推進に関する法律」(環境保全型農業レポート.No.68 有機農業推進法が成立)が2006年12月に公布・施行された。これによって,わが国では2つのカテゴリーの有機農業が存在することになった。

     一つは,「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)に基づく有機農産物,有機畜産物,有機飼料および有機加工食品の日本農林規格(有機JAS規格)によって,登録認証機関のチェックを受けて行なう有機農業である。もう一つは,有機JAS規格の認証を受けていないが,「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として,農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行なわれる農業」である。具体的には勝手な解釈に基づいた栽培管理が行なわれて混乱が生じないように,有機JAS規格に基づいた生産基準を遵守することが要求される(ただし,登録認証組織によるチェックは不要)。

     有機JAS規格は国際的なコーデックス委員会の有機農産物の表示に関するガイドラインを踏まえて,日本政府が作成したもので,認証組織によるチェックを義務づけており,認証組織による検査を合格した農産物などでないと,「有機」という文字の入った表示を使うことを禁止している。それゆえ,有機JAS規格に合致する生産方法で生産した農産物などであったても,認証組織のチェックを受けていなければ,有機農業推進法では有機農産物として認定されるが,販売に際して,「有機」と表示を使えない。そのために,外国からは有機農産物とは認めてもらえない。

    ●なぜ有機JAS以外の有機農業が存在するのか

     ではなぜ,日本は有機JAS以外の有機農業を認めているのであろうか。

     日本では有機農業は農産物者の自主的な努力によって発展してきており,その推進を担っている農産物者は有機農業を本来のあたりまえの誰もが求める農業に位置づけている。そして,農林水産省の有機JAS規格は,表示規制から始めているが,これは有機農業を高付加価値農業として位置づけているからだ。その上,行政の支援なしに,長い時間をかけて農業者と消費者の間で築いてきた顔の見える信頼関係を否定して,高い費用を負担して認証組織の検査を受けなければ,「有機」の表示ができないというのは納得できない。こうしたスタンスから有機JASの認証を受けていない生産者が少なくない。こうした農業者の生産・販売活動も支援すべきだとして,当時野党だった民主党の議員立法によって,有機農業推進法が成立した。

    ●有機JAS以外の有機農業の実態は?

     有機JASの農産物生産・販売量や栽培面積などは,所管官庁の農林水産省が登録認証組織に対して調査を依頼すれば,各認証組織からの回答によって把握することができる。例えば,農林水産省の公表している都道府県別有機認定事業者数の統計によると,2010年3月31日現在のJAS認定農業者数(農家戸数)は3,815名である。そして,国内と外国の登録認定機関に対して行なった調査によって,2010年4月1日現在の日本の有機JAS規格の認定を受けている圃場面積を公表している(表1)。

     他方,有機JAS以外の有機農業については,生産者組織に参加していない者も少なくなく,その実態が十分には把握されていなかった。このため,NPO法人MOA自然農法文化事業団は,有機JAS以外の有機農業の農家数や有機農業実施面積などの実態を把握する「有機農業基礎データ作成事業」を計画し,農林水産省の補助金をえて,農林水産省補助事業として調査を実施した。

     調査対象とした有機農家は,

     (1) 「有機農業の推進に関する法律」で規定された有機農業を実践する者であって,

     (2) 有機JASで認められている以外の化学資材を使用せず,

     (3) 遺伝子組換え作物を栽培せず,

     (4) 農家(耕地面積が10a以上の個人世帯であるか,年間農産物販売金額が15万円以上の個人世帯)であること。これは自給農家と販売農家(30a以上または年間の農産物販売金額が50万円以上の農家)を合わせたものである。ただし,3年以内に新規就農し,上記(2)と(3)の条件を満たしている者は,この限りでない。

     (5) 過去1年間に有機農業で生産された農産物の販売実績がある。3年以内に新規就農した者については,有機農産物の販売を予定している。

     (6) 有機農業を実施している農地が固定されている。

     調査結果は下記にとりまとめられて公表された。

     NPO法人MOA自然農法文化事業団 (2011) 有機農業基礎データ作成事業報告書.p.59

     この概要を紹介する。

    ●調査方法

     一次調査で各都道府県のJAS以外の有機農家数を調べた。すなわち,2005年の農林業センサスの情報を元にして,各都道府県について,農家数と耕地面積とがともに20%以上になるように無作為に市町村を選定し,2010年7月12日から10月31日の間に,総勢59名の調査員が,農政局,都道府県や市区町村の農政課,普及指導センター,農業委員会,JA,有機農業関連団体,既知の有機農家や販売所などからの情報やインターネット検索によってえた情報に基づいて,農家に聞き取り調査を行なった。

     二次調査では,一次調査で把握できた1,719の有機農家のなかから無作為に抽出した600名の有機農家(有機JAS認定農家を除く)について,全耕地面積,有機農業実施面積,有機農産物出荷量,上位5品目の収量および単価などを,2010年11月から2011年1月の間に原則として聞き取り調査した。なお,聞き取り調査が困難な場合には,調査票の郵送と電話確認を行なった。そして,調査の結果,有機JAS基準にしたがった生産を行なっていないことが判明した場合には,調査対象から除外した。

     なお,有機JAS認定農家の収量と販売価格のデータが農林水産省から公表されていないため,比較のために,全国で83の有機農家について収量と販売価格のみの調査も実施した。

    ●調査結果

     A.有機農家数

     2010年に一次調査を行ない,調査した全国591の市町村の620,110の総農家数のうち,1,719の有機農家(有機JAS農家を含まない)の存在が判明した。当該都道府県の有機農家数を,当該都道府県で調査した市区町村の平均農家割合で除して,当該都道府県の有機農家数を推定した。その結果,2010年における,全国の有機JASでない有機農家数は7,865,JAS農家数は3,815,合計で11,680。それゆえ,2010年における有機JAS認定とそうでないものを合わせた有機農家数は全国で約12,000と推定された。  なお,一次調査の対象とした有機農家の条件をクリアできなかった「自称有機農業者」が多数存在した。そうした人々には技術支援を行なって,条件をクリアできるようにすることの必要性が指摘されていた。

     B.有機農家の経営主の年齢

     平均年齢は59.0才(最小値26才,最大値89才)であった。2010年農林業センサスによると,2010年の農業就業人口の平均年齢が65.8才であったが,有機農家経営主はそれに比べて約6才若かった。

     C.農業年数と有機農業年数

     農業年数(農業を始めてからの年数)は平均27.6年(最小値1年,最大値73年)であった。農業年数には10年と40年の2つの山があった。40年の山は親の後を継いで20才前後に就農した人達のもので,10年の山は別の職業についていた後に,途中から就農した人達のものと推定される。

     有機農業年数(有機農業を始めてからの年数)は平均15.8年(最小値1年,最大値60年)で,就農と同時に有機農業を始めた者は43%であった。そして,意外であったが,有機農業を始めて10年以下の人達の割合は大部分の年齢階層で20%程度かそれ以下であったのに,60才から65才未満の階層では約55%に達し,極端に高かった。

     D.農業従事者数

     農業従事者数の平均は,家族による2.1人であった。

     E.有機農業実施面積

     有機農業実施面積は, JAS有機認定圃場が2010年4月1日現在で9,067 haであったが,有機JAS以外の有機農業実施面積は2011年1月31日現在で7,300 ha,合計で16,417 haと推定された(表2)。  

     2009年7月15日現在のわが国の総耕地面積は460.9万haであったので,有機農業実施面積は全体の0.36%(有機JASが0.20%,有機JAS以外が0.16%)と推定された。

     有機農業実施面積を農家数で除した農家当たりの平均有機農業実施面積は,有機JASで2.4 ha,有機JAS以外で0.93 haと計算される。有機JAS以外の有機農業では自給的農家を含めた値であり,自給目的で有機農業を実践している者が多いと考えられる。

     有機JAS以外では田の割合が54%と,有機JASの33%よりも高かった。

     F.有機農産物の出荷量

     2010年1月31日現在で有機JAS以外の有機農産物の出荷量を推定した(表3)。農林水産省の公表している2009年度有機JAS格付実績量と合わせた2009年度の有機農産物出荷量は10.1万トン(有機JASが5.7万トン,有機JAS以外が4.4万トン)と推定された。そして,有機農産物出荷量は,国内の農産物総生産量の0.35%(有機JASが0.20%,有機JAS以外が0.15%)であった。

     G.有機農産物の単収と販売価格

     主要作目ごとに,有機農法での単収が慣行よりも何割減収したかと,販売価格が慣行のものよりも何割高く売れたかをまとめた(表4)。

     有機JAS以外では作目全体で慣行農法よりも25%減収したが,販売価格は46%割高であった。つまり,慣行に比べた0.75の収量と1.46の販売価格との積は1.1となり,総販売額は慣行よりも平均して1割高かったといえる。コメ(うるち米)の場合,有機JAS以外では慣行に比べて25%(10 a当たり約120 kg)減収したが,販売価格は平均2倍であり,総販売額は1.5倍となった。

     有機JASでも,減収率はほぼ同様であったが,価格の割高率は全体として有機JAS以外のものの46%よりも,有機JASのものは67%と,20%程度高かった(表4)。

     H.有機JAS以外の有機農業者の有機JASに対する姿勢

     有機JAS以外の有機農業者のうち,有機JASを申請中および目指している者は,合計でも12%にすぎない。大部分の者は有機JASをとるつもりはないことを回答している。その理由として,回答数の比較的多かったのは,取得費用が高いとか申請書類が煩雑すぎるであった。そして,有機JASをとらなくても,買ってくれる,消費者との信頼関係がある,だからとる必要がない,とるメリットがないとの回答が多かった。

    ●終わりに

     有機JAS以外の有機農業者についての統計がこれまでなかったが,今回の調査によって,その輪郭が明らかにされたことは意義のあることである。 ところで,有機JAS以外の有機農業者の多くが有機JASを取得するつもりがないとの回答が多かったが,このことから次が推察される。

     有機JAS以外の有機農業では,自営農家も多く,全体として規模が小さく,労働力も乏しい。そうした有機農家にとって,有機JASの取得に金がかかり,記録作りなど時間をとられるのは,経営的にも労働的にも厳しいケースが多いであろう。有機JAS基準を守りつつも,その認証を受けずに,そのための費用と作業の負担増加がない方が,特に規模の小さい,高齢者の有機農家にはありがたい。有機JASを取得すると,経営的にかえって厳しくなる。そうした声が聞こえくる感じがする。

     有機JASは,有機農産物の国際的な貿易を円滑に進めることを目的にしたコーデックスのガイドラインを踏まえて,生産基準が作られている。これは有機農産物の規格を国際的にある水準以上のものにして,その基準を遵守した生産が実施されていることを認証組織による生産者のチェックによって担保する仕組みとなっている。これによって国際的な有機農産物の貿易が活発化した。その結果として,日本だけでなく,アメリカやヨーロッパの主要先進国では,自国消費者の有機食品に対する需要を満たすのに,多量の有機農産物をオセアニア,中南米,アジアの有機農産物輸出国から輸入している。その結果,地域内の物質循環に立脚した有機農業を目指しているにもかかわらず,世界の有機農業はそれから大きく外れている(環境保全型農業レポート.No.172 世界の有機農業の現状(2))。

     では,こうした現状は,国際的な有機農産物貿易を円滑にすることを目的にしたコーデックスのガイドラインや,それを踏まえた各国の有機農業基準ができたために生じたのであろうか。国際的な農産物貿易となれば,安価な農産物を輸出できる国があれば,それを輸入する国が出てくるのは必然で,地域の物質循環を踏まえた有機農産物の自給率が低下する。この点に関して,アメリカにおいて地元産(自分のコミュニティから100マイル(160 km)以内で生産されたもの)の慣行農産物と有機農産物とがほぼ同等の評価をえていることが注目される。その背景には,アメリカの消費者も農産物の品質や安全性については輸入品よりも自国産を信頼していることがあろう(環境保全型農業レポート.No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題.)。

     有機JAS以外の農業者も,地域で販売しつつ,地域の物質循環に根ざした本来の有機農業を目指しており,顔の見える範囲で消費者との信頼関係を培ってきている。それゆえ,有機JASの認証はなくても経営が成立し,有機JAS認証のための支払がないために,経営が安定しているケースもあろう。しかし,そうしたケースであっても,有機JASの生産基準をしっかり守って,消費者から信頼される有機農産物を供給してゆくことが大切である。そのために,有機JAS以外の農業者が自分らの組織で互いに勉強して,技術レベルを向上させることが大切であろう。有機JASと対立しても何の得にならないであろう。

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