No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付
茨城県那珂市の地道な耕作放棄地対策
全国で耕作放棄地が増加している。茨城県の北部に位置する那珂市では,後継者のいない農家が増えて,遊休農地が増え,産業廃棄物の不法投棄地となったり(図1),また,雑草地化して病害虫の温床になったりしているのに加えて,裸地状態で放置されて耕地から風食によって舞い上がった土ホコリが最近増えた住宅地に飛び込んで,市民から苦情が寄せられている。
これらの問題は,遊休農地を雑草地や裸地状態で放置しているために生じている。日本農業新聞(2006年4月7日)にも紹介されたように,那珂市は,遊休農地へのヘアリーベッチ栽培に補助金を交付している。ヘアリーベッチはマメ科の草本植物で,9〜11月に播種し,耐寒性に優れて春に50〜70 cmに伸びて紫色の花をつける。夏期の高温多湿に弱くて枯れるが,ロータリで鋤き込むことによって自然下種した種子から,秋になれば再生する。アレロパシー(他感作用)による雑草抑制力もあり,休耕田,耕作放棄地,果樹園の草生栽培で活用されている(図2)。
ヘアリーベッチ採用に際しては,那珂市の担当者や試験栽培農家が農業環境技術研究所の藤井義晴氏を訪ねて技術指導を受けた。2003年9月に市内の農業者に試験栽培をしてもらい,好結果を得たことから,2004年6月に「那珂市遊休農地解消対策補助金交付要領」を告示して,自作農地1 a以上にヘアリーベッチを作付けする農業者に,最初の作付時に限って,種子代を25 %を上限に補助することを定めた。
播種量は10 a当たり3〜4 kg,種子代は3,000〜4,000円が標準で,その25%以内が補助される。那珂市経済環境部経済課農政係の寺門氏によると,交付金受給者は,2004年に105人,22.1 ha,2005年に128人,26.2 haで,2006年は40 haを予定して,希望者を募集している(那珂市のHPの「農林水産」の項)。
那珂市には,遊休農地が約100 haある。そのうち,現在は26.2 haにヘアリーベッチが栽培されているだけなので,これだけで春先の風食をなくすことは難しい。また,春先には耕作状態にある野菜畑が裸地化しているため,風食軽減には野菜畑への対策も必要である。こうした耕作耕地を対象に那珂市は,遊休農地とは別に規格外の小麦種子を希望農業者に無料配布して,青刈り栽培を助成している。標準播種量を10 a当たり5 kgとして,2005年度には2,500 kgの種子(50 ha分)を配布した。那珂市の2005年の耕地面積は約4,300 haで,水田と畑がほぼ半分ずつを占めている。このため,青刈り小麦の栽培面積の比率もまだ小さく,その多くはロータリで鋤き込めるように,小麦が小さいうちに鋤き込まれていると推察される。このため,風食の苦情をなくすには至っていない。しかし,地域から支持される農業を継続するには,こうした努力の積み重ねが必要である。
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