環境保全型農業レポート > No.37 福島県の「環境にやさしい農業」
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」

     福島県には猪苗代湖や磐梯五色沼湖沼群があり,環境と調和した農業が大切になっている。幸いに猪苗代湖や磐梯五色沼湖沼群の水質は全国の湖沼のなかで1位,2位と良い。こうした福島県ではあるが,環境にやさしい農業の推進に力を入れている。その概要は,【須田十三男(2006)福島県における「環境にやさしい農業」の推進について.農業と経済.72(1): 67-69】に書かれている。この福島県の「環境にやさしい農業」への期待を込めて,あえて改善の望ましい点を指摘させていただく。

    ●「循環型社会形成に関する条例」と「猪苗代湖及び裏磐梯湖沼群の水環境の保全に関する条例」

     福島県は廃棄物による環境汚染を軽減・防止するために,2005年3月に「循環型社会形成に関する条例」を公布した。この条例は福島県における物質循環にかかわる全ての環境要素と関係者を対象にしているが,農業については,第12条において,「県は,農業による環境への負荷を低減し,及び持続可能な農業の確立を図るため,持続性の高い農業生産方式(持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(平成十一年法律第百十号)第二条に規定する持続性の高い農業生産方式をいう。)の導入を促進し,並びにそれらを担う人材の育成及び確保を図るため,必要な措置を講ずるものとする。」と規定している。そして,循環型社会を実現するために,県が「循環型社会形成推進計画」を策定することが規定されている。

     この推進計画は福島県環境審議会で目下検討されており,2006年1月に答申される予定だが,中間報告では具体的施策として,エコファーマーの育成,堆肥化とその流通・利用の推進,遊休農地の発生防止と活用,自然環境に配慮した整備を掲げている。そして,条例は,県が猪苗代湖及び裏磐梯湖沼群における健全な水の循環が保全されるのに必要な措置を講ずることを規定している。

     福島県は「循環型社会形成に関する条例」に先だって,2002年3月に「猪苗代湖及び裏磐梯湖沼群の水環境の保全に関する条例」を公布し,当該流域市町村内の全ての点源と面源に対して汚濁物質の排出を削減することを規定している。

     農業関係では畜産事業所と農地が対象になる。条例で畜産業を営む者は,家畜排泄物を公共用水域に流出させないようその適切な管理に努めなければならないと規定されているが,点源からの窒素とリンの排出規制は水質汚濁防止法の一律排水基準よりもはるかに厳しい。

     すなわち,一律排水基準は窒素120 mg/L(日間平均60 mg/L)以下,リン16 mg/L(日間平均8 mg/L)以下としているが,条例は畜産事業所で窒素20 mg/L以下,リン2 mg/L以下としている。これに対して,面源の農地についてはかなり緩く,条例では「県は,猪苗代湖及び裏磐梯湖沼群流域の良好な水環境を保全するため,適正な施肥及び適切な用水の管理についての営農指導その他の水環境に配慮した農業に関する施策を推進するものとする。」と規定して,農業者に罰則が及ばないようにしている。

     そして,条例で策定が規定された「猪苗代湖及び裏磐梯湖沼水環境保全推進計画」では,当該流域の達成水準として,農業では2000年度に1人だったエコファーマー認定者を2010年に80人に増やすことと(県全体のエコファーマー認定者数は2005年9月現在で8,621名),家畜排泄物処理施の設整備率を59.1%から100%に上げることを掲げている。

     また,農薬や化学肥料の適正使用を周知して環境に配慮した農業を推進することと,家畜排泄物の適切処理と堆肥のリサイクルを促進することを行動指針に掲げているが,いずれも直ちに実践する「ステップ1」でなく,速やかに実践するよう努める「ステップ2」に位置づけている。

    ●福島県農業環境規範と持続農法導入指針

     福島県は環境にやさしい農業を図る方策として,「福島県農業環境規範」を2005年11月に策定している。これは農林水産省が2005年3月31日に「環境と調和のとれた農業生産活動規範」(農業環境規範)(環境保全型農業レポートNo.12)として公表したものをベースにしており,記載内容も類似している。

     ただし,農林水産省の規範では,作物生産では,土づくりの励行,適切な施肥,適正な防除,廃棄物の適正な処理・利用,エネルギーの節減,新たな知見・情報の収集,生産情報の保存の7項目を上げているが,福島県の規範では8番目の項目として「安全な農産物生産への配慮」を上げている。家畜生産でも同様に「安全な畜産物生産への配慮」を追加している。

     農業環境規範に付随する農家の点検シートも農林水産省のものをベースにしているが,福島県のものは作目ごとに具体的項目を増やしている。つまり,作物生産では,土づくり,施肥と防除の3項目については,普通作物,露地栽培の野菜・花き,施設栽培と果樹に分けて主要点検事項を掲げ,その他の項目を共通事項にして主要点検事項を掲げている。

     例えば,普通作物の施肥では,主要点検事項として,(1)福島県施肥基準以内の肥料を施用している,(2)土壌診断結果に基づいた肥料を施用している,(3)水田代かき後3日以上の止水とゆっくりした落水を行っている,(4)肥効調節型肥料を施用している,(5)局所施肥を行っている,(6)有機質肥料を施用している,を掲げている。この施肥に関する事項を1つでも実施していれば,施肥のチェック欄はまとめてOKとなる。また,家畜生産での点検は農林水産省のものと同様に,「家畜排泄物法」の遵守を基本にしている。


    福島県農業規範 点検シート」より

     エコファーマーの場合には,「福島県持続性の高い農業生産方式の導入に関する指針」に基づいた施肥と農薬散布を行う。「持続農業法」で環境にやさしいと認められている技術に加えて福島県が認める技術を1つ以上使用して,目安として表示されている施用量以下の堆肥と化学肥料窒素を施用し,目安の散布回数以下の農薬を施用する。施肥基準をホームページから入手できないが,化学肥料窒素施用量と農薬散布回数の目安は慣行の2割削減のようである。

    ●「日本一きれいな湖を守る福島農業」を打ち出せないか

     上述のように,福島県の農業環境対策は,「持続農業法」,「家畜排泄物法」と農業環境規範という国の施策に立脚している。「持続農業法」によるエコファーマーの導入指針も,特別栽培制度(環境保全型農業レポートNo.1と同様に,化学肥料窒素の削減を課しても,堆肥や有機質肥料の施用量には制限がない。福島県のエコファーマーの導入指針にある堆肥施用量は目安であって,上限量ではない。

     このため,化学肥料窒素を削減しても,堆肥や有機質肥料の施用量を増やせば,環境に流出する窒素量が同じというケースもありうる。また,「家畜排泄物法」に準拠して雨水を遮断して製造した家畜ふん堆肥は電気伝導度が高まり,耕種農家に嫌われて,畜産農家に滞留する可能性がある(環境保全型農業レポートNo.6)。

     福島県の湖沼はきれいなので,あまり厳しい制約をもった農法を農業者に課す必要はなく,「持続農業法」と「家畜排泄物法」を最低限遵守すれば,現状の水質を守れるのかもしれない。他方,指定湖沼で汚染状態が容易に改善しない琵琶湖を抱えた滋賀県は,持続農業法よりも厳しい環境にやさしい農法を遵守する農業者に所得補償する「環境こだわり農業推進条例」を施行している(環境保全型農業レポート)。

     また,農業による地下水汚染が各地で起きている北海道は施肥について厳格な基準を遵守する「クリーン農業」の制度を発足させている(環境保全型農業レポートNo.2)。滋賀県と北海道は肥料だけでなく,堆肥についても施用量の上限を設けている。

     福島県でも水質汚染がないわけではない。少し古いデータだが,1953〜62年と1986〜88年の河川水を比較すると,汚染が著しく進行し,水田からの窒素やリンの排出が問題な地域も少なくない【小沢一夫(1991)農耕地の水質保全と有効利用に関する研究.第1報.福島県内における農業用水の水質実態.福島県農業試験場研究報告.30: 37-46:小沢一夫(1992)第2報.安積疎水の水質実態と水稲への影響.同研究報告.31: 45-56】。また,福島県の野菜生産地帯で地下水の硝酸性窒素濃度が平均で10 mg/Lを超えているケースも報告されている【舘川洋(1995)有機農業−福島県を中心としたケーススタディー.庄司貞雄編「新農法への挑戦」.博友社】。

     日本一きれいな水質の湖をもっている福島県は,その流域については,国の基準に上乗せした独自の農法基準を設定し,それを遵守した農産物に独自ブランドをつけて,日本一の水質の湖を守る安全な農産物を売り出せないのだろうか。

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