環境保全型農業レポート > No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開

    ●土壌の分類

     国や地域によって,気候,植生,地形,母材などが大きく異なり,これらの違いに応じて様々な土壌が発達している。例えば,同じ岩石が風化されて砕けた礫から土壌が発達する場合でも,降水量の多い地帯では,岩石から溶け出た塩類が雨で流されて酸性の土壌ができる。しかし,降水量の少ない地帯では,塩類が残ってアルカリ性の塩類集積土壌ができる。そして,降水量が同じでも,温度,植生,地形,母材が違えば,別の土壌ができてくる。

     土壌を分類する際には,土壌を掘って,色,岩石の混入度合い,土壌粒子の大きさなどによって断面を構成している土層を区別する。そして,土層の堆積状態や形状などを観察して土壌を分類する。

     土壌の分類方式には国際的統一を目指したものもあるが,特異的な土壌が多く存在する国は,おおづかみな統一的分類方式よりも,当該国に多い特異的な土壌をより詳しく識別できる土壌の分類方式を構築している。かつての国際的な土壌の分類方式は,欧米の土壌を中心に構築され,日本に多い火山灰土の分類は詳細さを欠いていた。このことなどのため,日本は独自の土壌分類方式を構築してきた。

     土壌の分類方式には,自然生成過程だけを重視したものあるが,実用目的で土地を利用する際には,その目的に大きな影響を与える要因を重視した土壌分類が行なわれている。日本には,農業生産を目的にした「農耕地土壌分類」,森林造成・管理を目的にした「林野土壌分類」(土壌分類方式森林土壌図),国土開発を目的にした「土地分類基本調査」の土壌分類,農耕地や森林・原野を問わず,土壌生成過程を重視した「日本ペドロジスト学会」の作った分類が,存在している。

    ●農耕地土壌分類

     日本の農耕地土壌の分類方式を構築し,その土壌型別分布図(土壌図)を作成するには,まず全国の農耕地の土壌特性を把握して,土壌の分類方式を構築し,それぞれの土壌の広がり範囲を確認する必要があった。

     その第一歩は,農林省(当時)が中心になって,1953年から1961年まで,各都道府県の農業試験場が全国の水田約170万haを対象にして行なった「施肥改善調査事業」であった。この調査事業では,化学肥料の施肥効果を検証するための現地試験と,その試験結果が適応できる範囲を把握するために土壌の分布状況の調査などが行なわれた。この調査事業で水田の約20万地点で土壌断面の特性データが蓄積された。次いで,1959年から1978年に行なわれた「地力保全基本調査事業」によって,全国の田畑約508万ha(水田288万ha,普通畑180万ha)について,農地の生産力を阻害している理化学的要因を明らかにして,土壌の潜在的生産力の分級が行なわれた。この調査事業では,各都道府県の農業試験場によって,25haにつき1地点の間隔で土壌調査が行なわれ,土壌断面の特性データが蓄積された。

     これらの調査事業では,農業環境技術研究所(農環研)の前身である旧農業技術研究所が中心になって作った暫定的な農耕地土壌の分類が使用されていたが,調査事業で蓄積された土壌断面の特性データを踏まえて,1973年に「農耕地土壌の分類」第1次案が作られた。「農耕地土壌の分類」はその後,1975年に第2次案,1983年に第2次案改訂版,1995年に第3次改訂版が作られている。

     農耕地土壌分類では,「ほぼ同じ材料から同じような過程をとおって生成された結果,ほぼ等しい断面形態をもっている一群の土壌の集まり」を土壌統と呼び,分類の基本単位としている。そして,断面形態の主な特徴や母材,分布状況などについて共通点をまとめて土壌群に大別している。土壌統数の多い土壌群については,中間分類として土壌統群が設定されている。土壌情報閲覧システムでは,第2次案改訂版に基づいた土壌分類方式に準拠しており,16土壌群,56土壌統群,320土壌統が設定されている。

    ●これまでの農耕地土壌図の閲覧

     土壌の違いによって,作物生産に適正な肥料や堆肥の施用量や,土壌改良の仕方などが異なってくる。例えば,「地力増進法」に基づいた土壌の基本的な改善目標や堆肥の施用量は土壌群グループによって異なる(2008年10月改正の地力増進基本指針)。

     このため,農業者が自分の農地の土壌の種類とその特性を確認した上で,土壌診断結果などを有効に活用することが望まれるが,これまでは農業者が土壌図を直接閲覧して土壌の種類やその特性を確認することは簡単ではなかった。

     農耕地土壌図は,過去に農林水産省から都道府県別印刷物として刊行され,農業関係の研究所,普及センター,大学などに所蔵されているが,一般の人は接しにくい。また,財団法人土壌協会が,農耕地土壌図と代表土壌断面データをデジタル化しCD-ROMを販売しているが,全国版は消費税込みで21万円,5つに分割した地域版は各5.25万円で,個人で購入するには高額である。都道府県の多くは,ホームページで当該都道府県の土壌図を提供しているが,すべての都道府県ではないし,提供される土壌図の縮尺もまちまちである。

    ●土壌情報閲覧システム

     独立行政法人農業環境技術研究所の高田裕介氏は,土壌協会などの了解の下に,5万分の1の縮尺で作られている農耕地土壌図(1992年または2001年)を,2万5千分の1の基盤地図情報に重ねて,都道府県名と市町村名を指定するだけで,当該地の農耕地土壌図をインターネット上で画面表示できる「土壌情報閲覧システム」を構築した(農環研プレスリリース(2010年4月13日),土壌情報閲覧システム)。

     A.農耕地土壌図

     土壌情報閲覧システムで表示している土壌図は,「地力保全基本調査事業」で作成した農耕地土壌図であり,その土壌分類方式は1983年の第2次案改訂版に準拠している。元の土壌図の縮尺は5万分の1だが,この縮尺では地図上の1 mmが実際には50 mに相当し,地図上の1 mm四方は25 a,1 cm四方は25 haとなる。このため,通常は,分散錯圃した圃場の1筆1筆を土壌図の上で識別できない。しかし,それぞれの圃場の土壌群と土壌統を土壌図から読み取ることはできる(図1参照)。

     「地力保全基本調査事業」では,1974年の農耕地面積に合わせて土壌群別農地面積を集約しているが,その後に農耕地面積は大きく減少している。このため,土壌情報閲覧システムでは第3次と第4次土地利用基盤整備基本調査結果での農耕地の分布を踏まえて,1992年と2001年の土壌図を提示している(どちらかの年次を指定しないと土壌図が表示されない)。

     土壌情報閲覧システムは,その「土壌分類解説」のページに,土壌図に表示されている土壌群と土壌統群の特徴の説明,土壌断面の写真,全国における土壌群の分布図や地目別面積を記載している。

     土壌情報閲覧システムには,土壌群別の日本全体における農耕地土壌分布も示されており,そのうちの黒ボク土と灰色低地土の分布図を図2に示す。黒ボク土は,主に北海道,東北,関東,山陰,南九州といった火山の多い地帯の台地に分布し,灰色低地土は全国の大きな河川流域に分布していることが分かる。

     B.土壌断面データベース

     土壌情報閲覧システムには,土壌の分類方式や土壌図を作成する基礎になった全国7115調査地点の土壌断面データベースも組み込まれている。都道府県名を指定し,水田と畑ならびに土壌群を指定すると,指定条件に該当する土壌断面データが得られた場所が円で地図上に表示される。その円をクリックすると,土壌断面の調査結果の当時の手書き原票がpdfで表示される。

     記載されている項目は,深さ1 mまでの層位の特徴,調査時点での土壌の水分含有率,腐植含有率,礫含量率,粒径組成,土性,現地容積重,固相率,液層率,気相率,孔隙率,pH(H20),pH(KCl),置換酸度(Y1),全炭素含有率,全窒素含有率,塩基交換容量,交換性のカルシウム・マグネシウム・カリの含有率,石灰飽和土壌,リン酸吸収係数,有効態リン酸含有率の層位別データである。

     「地力保全基本調査事業」当時と比べれば,土壌の養分含有率は上昇して,当時の値が今日でも通用することは考えにくい。しかし,粒径組成,土性,塩基交換容量,リン酸吸収係数といった値は変化しにくく,今日でも近似値として使用可能であろう。これらの値は「地力増進法」に基づいた土壌の基本的な改善目標にも関係している。土壌診断で分析してもらえない場合には,近くに同じ土壌統での断面データがある場合には,それを活用することができる。

     ただし,土壌断面データベースの所在を示す小円が示されても,当該の断面データがない場合もあるので,注意が必要である。

    ●おわりに

     日本の農耕地土壌図は5万分の1でまだ縮尺が大きすぎる。韓国も5万分の1の土壌図を作っていたが,1995年から精密土壌図作成のための土壌調査を開始し,全国の耕地について5000分の1の精密土壌図を完成させている。5000分の1の縮尺なら1 cmが実際の50 mに相当するので,分散錯圃の小圃場でも明確に識別することができる。韓国はこの精密土壌図に基づいて,1筆ごとに施肥の適正化を行なって,国をあげて取り組んでいる「環境農業」の基盤にしている。日本でも5万分の1よりも精密な土壌図が必要なことは研究サイドから提起されたが,予算化さなかったし,今後ともそれは期待できない。

     今後,農業による環境負荷削減に真剣に取り組むには,精密土壌図を作り,それを誰もが利用できるようにすることが大切である。農環研の今回の土壌図公開はこの方向に向けた前進に貢献しよう。

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