環境保全型農業レポート > No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に?
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に?

    ●イギリスの「都市農村計画法」

     イギリスは,1947年以来,「都市・農村計画法」( Town and Country Planning Act ) を制定し,都市地域のみならず郊外,農村,自然地域を含めて,国土全体を一体的に管理する地域計画を策定している。この「都市・農村計画法」は,イングランド・ウェールズ,スコットランド,北アイルランドで制定されているが,具体的には地域ごとに別個に制定され,時代ごとに改正されている。イングランド・ウェールズでは,現在,「1990年都市農村計画法」( Town and Country Planning Act 1990 ) が施行されている。この法律に基づいて,地方自治体が中心になって土地利用計画を策定している。そして,土地利用の変更や,建築物の建設や土木工事などの開発行為は,地方計画局 ( Local Panning Authority ) の承認をえなければならない。

     この法律で,農業や林業のための土地や建築物の利用は適用除外にはなっているが,農業関連であってもアメニティ(快適性)の観点から,一定規模以上の建築物には規制がかけられることがある。しかし,法律で「アメニティ」について明確には定義されていない( Office of the Deputy Prime Minister (2005) Town and Country Planning Act 1990, Section 215. Best Practice Guidance )。その解釈は,地方の自然的,社会的状況の違いもあるので,地方計画局によって違うことが当然と受け止められているようである( John Sones (2008) Planning and polytunnels - John Sones looks at recent case law involving polytunnels and related planning issues Smallholder. 6th March 2008 )。

    ●ホール・ハンター共同経営会社

     イギリスのホール・ハンター共同経営会社は,ソフトフルーツ(イチゴ,ラズベリー,ブラックベリー,ブルーベリーなど)を栽培している同族会社で,農場はバークシャー州のヒースランズ農場(53 ha),サリー州のチュースリー農場(190 ha),バークシャー州のシープランズ農場(46 ha),ウェストサセックス州のホランド育苗温室,同州のマナ農場などを有している。

     問題になったのは,主力農場のチュースリー農場のポリトンネルである。同社は2004年に同農場を購入してイチゴ,ラズベリー,ブラックベリーを栽培し,2005年からは有機のソフトフルーツも生産している。

    ●ポリトンネルとは

     チュースリー農場では,3月から7か月間,ポリトンネル(スペイントンネルとも呼ばれている)を設置して,ソフトフルーツを栽培している。ポリトンネルの高さは,日本のプラスチックトンネルとは大きく異なって,内部を人が立ったまま歩行でき,3.2から4メートルもある。長さは50から100メートル,幅は6.8から8メートル。同農場での被覆面積は年によって差があり,34から43haである。いわば幅6.8から8メートルのカマボコ型ハウスが,隙間なく連なった様相を呈している。

    ●問題の発端

     2005年12月にチュースリー農場の所在地を所管している地方計画局が,ポリトンネルが建築物であり,したがってポリトンネルの設置は開発行為であるにもかかわらず,同農場が開発行為に必要な計画許可をえていなかったことを指摘し,ポリトンネルを撤去するように命じた。また,ポリトンネルと同時に,ソフトフルーツの栽培のために雇用された短期労働者用の多数のトレーラハウスも撤去するように命じた。

     イギリスは原生林などの原生の自然を徹底的に開発してしまい,農地とそれに関連する土地や建築物の作る2次的自然が市民に強く愛されている。そして,田園を守る多数の市民団体が存在している。その1つの「イングランドの農村を守る運動」( Campaign to Protect Rural England ) は,かねがね,安普請で光を散乱してまぶしいポリトンネルが落ち着いた伝統的田園景観を破壊していると批判していた。地方計画局の決定( The Journal (Newcastle, England) Dec 22, 2005. Polytunnels ruling `threat to fruit industry'.)はこうした市民運動に歓迎された。

    ●問題の拡大

     チュースリー農場側は,ポリトンネルを撤去してしまったらまともなソフトフルーツの生産ができなくなることから,地方計画局の決定は違法であると裁判所に提訴した。イングランドのDEFRA(環境・食料・農村地域省)の「1990年都市農村計画法」( Town and Country Planning Act 1990 )の概略説明でも,農業や林業のための土地や建築物の使用は,同法の適用対象から除外されると記されている。そのうえ,チュースリー農場は,ポリトンネルを建築物と理解しなかったため,ポリトンネルの設置について,計画許可を申請しなかったのである。

     ところが,2006年12月に高等法院が,ポリトンネルは建築物であり,その設置は開発行為になるので計画許可が必要とするという地方計画局の決定を支持して,チュースリー農場の敗訴が判決された( BBC News, 15 December 2006. Landmark ruling over polytunnels )。

     この判決によって,ポリトンネルの設置には必ず計画許可を申請しなければならないのかという拡大解釈が話題になった。これによって市民運動が活気づいた。その一方で,農業側からは,高等法院は何を考えているのかとの憤慨がわき起こった。サマーフルーツ協会は,ポリトンネルは厳しいイギリスの天候からベリー類を守るのに使用されているが,イギリス農地の0.01%を覆っているにすぎない。増えている消費者のベリー類に対する需要をイギリスの生産者が満たせないとすると,輸入フルーツが夏期シーズンにスーパーマーケットの棚にならぶことになろうと,判決に失望した( BBC, 2006 )。

    ●問題の終息

     こうした反響に驚いて,地方計画局を所管しているコミュニティ・地方自治省は,全ての地方計画局の主任計画官に対して,チュースリー農場に対して出された判決が今後設置しようとする全てのポリトンネルに適用されることはないとする通知文書を出した( Department for Communities and Local Government (25 July 2007) Polytunnels )。

     それによると,チュースリー農場のポリトンネルについては,ポリトンネルの規模,その耐久性,地面への取り付け方を含めた物的要素を考慮して,開発対象の建築物と判定したのであり,そうでないポリトンネルもあるので,今後,全てのポリトンネルが必ずしも計画許可を必要とすることは意味しないとした。

     これと同時に,「都市・農村計画法」におけるこれまでの施行規則を踏まえて,建築物としてのポリトンネルの設置について計画許可の要不要を判断するのに,5 ha以上の規模の農場であって,1つの建築物が465 m2を超えるものについては計画許可を必要とする判断を示した。そして,複数の建築物を建てる場合には,互いに少なくとも90メートル離れていなければならないことも示した。

     *筆者注) 建築物はもともと通常の建物のことで,ポリトンネルを建築物とみなしたので,建築物での基準をポリトンネルに準用している。ポリトンネルの場合,隙間なく連なったカマボコ型ハウス群が1つの建築物とみなされ,連なったポリトンネル群の間に,互いに90メートルの間隔を置けという解釈になる。

     コミュニティ・地方自治省は,この通知文書に次の文章も記している。

    「政府は,農業の重要かつ多面的な役割を認識しており,計画局に対して,その計画政策を作成する際には,農業の重要かつ多面的な役割を認識し,持続可能で多様かつ適合性のある農業部門を助長する開発申請を支援するように依頼している。地方計画局は,農業開発提案に対する計画許可申請を決定する際には,このことを考慮することが大切である。」

     チュースリー農場の経営規模,ポリトンネルの大きさやしっかりした構造の点から,計画許可をえていなければならず,厳格にいえば,直ちにポリトンネルとトレーラハウスを撤去しなければならない。しかし,うっかりして事前に許可をえなかったことだけが問題で,ポリトンネルやトレーラハウスの設置自体にともなって法的違反が生ずることがないと考えられるので,地方計画局はあえて撤去命令を執行することなく,過去にさかのぼって計画許可申請を行なわせた。

     そして,必要な要件を満たしたとして,2007年11月に計画許可をさかのぼって発行した。これに対して,反対運動グループは,ポリトンネルは,農場の残りの部分や周辺のフットパス,道路や隣人の資産の視覚アメニティに影響を与える「散乱」効果を持っているだけだと,なお反対している( BBC News (29 November 2007) Farm gets polytunnels green light )。

     *筆者注) フットパスとは,イギリスの農場内道路は通常市民に開放されていないが,市民用に開放した農場内道路を含めた田園風景を楽しむ散策用公共通路のこと。

    ●おわりに

     農業生産サイドと市民運動サイドの鋭い対立に発展し,解決がどうなるかが懸念された一件は,行政サイドの奥の手で落着された感じである。

     コミュニティ・地方自治省の通知文書が出されたからといって,イギリスの地方計画局全てがそれにしたがう保証はないようである。この問題の解説記事を書いたJohn Sones氏は,ポリトンネルや他の建築物の設置(ないし拡張)を行なう前に,所管の地方計画局に話をすることを勧めている( John Sones (2008) )。それゆえ,イギリスでは,大規模なポリトンネルの設置が認められないケースが起こりうるだろう。

     「移動可能な」ものは建築物でなく,それを農地に設置する際には計画許可を必要としない。2006年の訴訟の際に,そうしたものとして次が例示された。

     「低トンネル」,つまり,「フレンチトンネル」と呼ばれるチェリーのカバー,ピッグアーク(小さな豚小屋),鶏小屋,クローシュ(若木を寒さから守るために被せる低い透明なカバー),農業用小屋,ホップのポール,地面で植物を被覆するポリエチレンシート,ネットやフリースなど。

     日本の低いプラスチックトンネルは「低トンネル」に入るであろうが,プラスチックトンネルやプラスチックハウスの景観は,わが国では市民にどう評価されているのであろうか。

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