環境保全型農業レポート > No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限

    ●はじめに

     有機農業は環境にやさしいといわれている。確かに化学農薬を使用しないため,それによる作業者の健康や野生生物に対するダメージがなく,農産物に付着した残留農薬による人間への健康影響の心配もない。

     この他にも,有機農業は有機物を施用するから,土壌有機物レベルを高めて,土壌構造を発達させ,土壌の養分ストックを高めて,収量を持続的に高めるとされている。これと同時に,土壌有機物レベルの向上とともに,土壌生物が増えて,食物連鎖が活発化して,農業生態系の生物多様性が向上する。さらに,土壌中には分解しにくい腐植物質レベルが高まって,二酸化炭素を長期に蓄積するので,温室効果ガスとしての二酸化炭素の安全な長期固定にも貢献するとされている。

     また,輪作を行なって裸地期間をできるだけ少なくすることで,土壌表面を作物が保護し,土壌構造の発達とともに,土壌侵食が少なくなる。これによって,作物生産が持続的になると同時に,流出した土壌による水質汚染や水生生物生息地の破壊も減るとされている。

     有機農業のメリットとして,他にも様々なことが期待もこめて語られている。しかし,こうした農業生産の持続可能性と環境の保全を図る有機農業が本当になされるかは,有機農業に関する法律や規則がそれにふさわしい具体的な規制を定めているのか,有機農業者はそうした具体的規制をきちんと守った農作業を実践しているかにかかっている。

    ●「北のクリーン農産物」への意見

     有機農業ではないが,関連する話題を引き合いに出したい。

     北海道は,生産の持続性や農産物と環境の安全性を確保するために,国の規定では求められていないが,独自に「北のクリーン農産物」の表示制度を作っている。この制度では栽培技術を具体的に定め,養分管理については次によって適正施肥を実施することを農業者に課している(環境保全型農業レポート.2004年7月28日号.「一歩進んだ北海道の「北のクリーン農産物」施肥基準」参照)。

     (1) 作物によって,3〜5段階に分けた土壌窒素肥沃度水準ごとに施肥量を設定してある。農業者は1〜3年ごとに土壌分析を行なって,自分の圃場の窒素肥沃度水準と適正施肥量を認識する。

     (2) 作物の種類ごとに,土壌窒素肥沃度水準別の総窒素施用量の上限値を定めている。そして,有機物資材の種類ごとに,重量当たりの化学肥料相当の窒素換算量を設定し,有機物資材施用量を増やした場合の化学肥料窒素の削減量を計算できるようにしてある。これによって農業者は,有機物資材を施用したときの化学肥料窒素量の削減量を計算できる。それをもとにして農業者は,土壌窒素肥沃度水準別に,有機物資材と化学肥料を合わせた総窒素施用量を,上限値施用量以内に抑える。

     (3) 土壌の健全性を確保するために,有機物資材を施用することを義務化し,有機物資材の施用量下限値を設定し,その化学肥料相当窒素換算量と総窒素施用量上限値の差を,化学肥料施用量上限値として設定した。そして,有機物資材の過剰施用は環境汚染や土壌養分の不均衡をもたらすため,有機物資材施用量の上限値も設定した。

     その詳細は,上記を記した「肥料及び化学肥料の使用基準」を参照されたい。

     この施用基準は科学的に大変優れたものだが,農業者には不人気であると聞く。それは次の理由によるという。

     (1) 「北のクリーン農産物」は,有機農産物よりも単価が低い。

     (2) その上,養分管理が面倒くさい。

     (3) さらに,有機農業であれば,有機物資材の施用量には上限が設定されていないので,野菜など耐肥性の高い作物には多量の有機物資材を施用して,多収を確保できる。

     この(3)の理由によって,有機物施用の上限値が設定されていない有機農業で経済的優位をもとめて多量の有機物資材を施用し続けたとすれば,やがて養分過剰が生じて,作物生産の持続可能性もおびやかされ,余剰になった窒素が硝酸などとなって環境汚染を起こす。さらに,農産物中の硝酸濃度も高くなることが懸念される。

     有機農業が環境にやさしく,持続可能で,安全で高品質な農産物を生産する農業であることを担保できるようにするには,より具体的な法的規制,あるいは民間ベースの生産基準が必要である。  次に,外国での有機農業における家畜ふん尿施用量の規制の現状を概観してみる。

    ●有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の国際的な規制の状況

    1.EU

     A.1991年および1999年の旧有機農業規則

     EUは,1991年6月に作物の生産と加工について有機農業規則を公布した(同年7月に施行)。この法律は当初,有機の作物生産だけを対象としてスタートした。家畜生産に関する規定は遅れたために,このときの有機農業規則ではまだ,飼養密度や家畜ふん尿の施用量上限について論及されることはなかった。

     1999年7月に有機の家畜生産に関する規定が追加されて,作物生産と家畜生産を合わせた有機農業規則となった。この改正の際に,有機の家畜では飼養密度を家畜ふん尿窒素で年間170 kg/ha未満にすることが規定された。これは,EUが農業から排出される硝酸やリンの量を規制する硝酸指令(Council Directive of 12 December 1991 concerning the protection of waters against pollution caused by nitrates from agricultural sources (91/676/EEC) )によって,表流水や地下水が農業起因の硝酸に汚染されているかその危険の高い地帯を硝酸脆弱地帯に指定し,当該地帯内では家畜の飼養密度を,原則として家畜ふん尿窒素として年間170 kg/ha以下にすることが規定されていることとの整合性を図ったものである。つまり,環境保全を追求するイメージの有機農業として,この家畜ふん尿窒素で年間170 kg/ha以下の飼養密度を採用したと理解できる。因みにこの飼養密度で飼える搾乳牛は,標準的にはha当たり2頭,肥育用肉牛は2.5頭となる。

     家畜の飼養密度だけを規定しても,有機で使用した家畜のふん尿やそれから調整した堆肥などを,無制限に作物に施用できるのであれば,耕種圃場では養分の過剰施用によって環境汚染が引き起こされてしまう。しかし,この有機農業規則は,作物への家畜ふん尿の施用量については規制していなかった。施用量の規制にまで踏み込んだのは9年後の2008年の有機農業実施規則である。

     B.2008年の有機農業実施規則

     環境保全型農業レポート「No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要」において,EUが新しい有機農業実施規則で,家畜の飼養密度の上限を家畜ふん尿で年間170 kg N/haに制限し,養分源として施用する家畜ふん尿由来の堆肥,乾燥ふんなどの最大施用量も同じ量に制限していることを紹介した。

     これは,EUが,農産物生産過剰の抑制と環境保全,資源の持続可能な使用,動物福祉,食品安全性,栄養,人体の健康,農業経営体の財政的活力向上などを重視した農業を推進する方向に政策をシフトしたのに合わせて,有機農業規則を2007年に全面改正した(Council Regulation (EC) No 834/2007 of 28 June 2007 on organic production and labelling of organic products and repealing Regulation (EEC) No 2092/91 )ことによる。そして,有機農業規則の改正を受けて,有機農業実施規則を全面改正した(2008年9月に成立,2009年1月1日から施行)(Commission Regulation (EC) No 889/2008 of 5 September 2008 laying down detailed rules for the implementation of Council Regulation (EC) No 834/2007 on organic production and labelling of organic products with regard to organic production, labelling and control )。

     有機農業規則は,その第12条において,有機農業における植物生産の一般的規準として,次を規定した。

    第12条 植物生産規準

     1. 第11条に規定された全般的農業生産規準に加えて,下記の規準を有機植物生産に適用しなければならない。

     (a) 有機植物生産は,土壌有機物を維持ないし向上させ,土壌の安定性と土壌生物多様性を高め,土壌圧密と土壌侵食を防止する耕耘や栽培方法を使用しなければならない。

     (b) 土壌の肥沃度と生物学的活性は,マメ科や他の緑肥作物を含む複数年にわたる作物輪作や,堆肥化したものが望ましいが,有機生産からの家畜ふん尿または有機質資材の施用によって,維持・増進しなければならない。  (c) バイオダイナミックのものを使用して良い。

     ・・・

     そして,新しい有機農業規則に基づく実施規則として,上記の有機農業実施規則が公布された。その前文のパラグラフ12において,家畜ふん尿投入量の上限値の設定の必要性が,「(12) 養分によって土壌や水のような自然資源が環境汚染されるのを避けるために,ヘクタール当たりの家畜ふん尿使用量や,ヘクタール当たりの家畜飼養頭数の上限を設定しなければならない。この上限値はふん尿窒素量に関係したものでなければならない。」と記された。

     この前文に対応する形で,有機農業実施規則の「第1章 植物生産」の「第3条 土壌管理と施肥」において,次の規定がなされた。

    第3条 土壌管理と施肥

     1. 植物の養分要求を有機農業規則(EC) No 834/2007の第12(1)(a),(b)および(c)条に規定した方法で満たすことができない場合,本規則の付属書?に規定した肥料および土壌改良材だけを,必要な量に限って有機生産に使用することができる。経営管理者は,当該製品を使用する必要性の証拠文書を保持していなければならない。

     2. 経営体に適用される家畜ふん尿の総量は,硝酸指令で規定されているように,使用している農地面積のha当たり年間170 kg 窒素を超えることはできない。この上限値は,きゅう肥(farmyard manure),乾燥きゅう肥,脱水家禽ふん,家禽糞を含む家畜ふん堆肥,堆肥化きゅう肥,および液状家畜排泄物の使用にのみ適用させるものとする。

     この第1項は,新しい有機農業規則の第12条が,有機による輪作や,有機で飼養した家畜のふん尿などによって養分を確保するのが原則だと規定しているものの,これによって養分を確保できない場合には,慣行飼養され,付属書?で指定された家畜ふん尿など(表1)を,農地面積のha当たり年間170 kg 窒素を超えない範囲で使用することを認めたのである。

     ここでひねくれた解釈をすると,有機農業実施規則の第3条は,有機の家畜ふん尿などを確保できない場合を規定していて,有機の家畜ふん尿を自分の経営体で確保できる場合には,有機の家畜ふん尿などを無制限に施用できるのではないか。第3条の2項にある「経営体に適用される家畜ふん尿の総量は,硝酸指令で規定されているように,使用している農地面積のha当たり年間170 kg 窒素を超えることはできない。」は慣行の家畜ふん尿などにだけ適用されるのであって,有機のものは無制限ではないかとの疑念がでるかもしれない。しかしそうした解釈は誤りで,有機の家畜ふん尿などであっても,認められた慣行のものであっても,農地面積のha当たり年間170 kg 窒素を超えることはできない。

    2.イギリスのソイル・アソシエーション

     イギリスのソイル・アソシエーションは1946年に設立された有機農業団体で,自ら有機農業や有機食品の基準を策定し,それに準拠した農業者,加工業者や販売業者の認証も行なっている。

     ソイル・アソシエーションは2012年4月に有機基準を改訂した(Soil Association organic standards - farming and growing Revision 16.6 April 2012. 240p. )。

     ソイル・アソシエーションの基準は,全ての法的要件,特にEUの有機農業規則834/2007と有機農業実施規則889/2008の要件を遵守している。そして,ソイル・アソシエーションの基準の一部は法律で要求されているよりも厳しくなっており,EUの規則でカバーされていない環境管理や保全,織物や,健康ケア製品や美容ケア製品の基準を有している。

     注目すべきは,ソイル・アソシエーションが,家畜ふん尿などの施用量について独自に次の規定を設けていることである。

    家畜ふん尿,堆肥および植物廃棄物

     4.7.6 非有機の家畜ふん尿や植物廃棄物は,土壌肥沃度管理を補完するためにだけ使用するのでなければならない。その使用はごくたまにだけであって,土壌の健康や肥沃度を維持する他の方法が不十分なときに限らなければならない。

     4.7.7 正当な理由があるなら,非有機の家畜ふん尿や植物廃棄物を使用することができる。ただし,下記を行なわなければならない。

     ・畜種や飼養システムを含む家畜ふん尿の詳細を,ソイル・アソシエーションに知らせる。

     ・きゅう肥に持ち込まれた遺伝子組換え生物に関する申告書(完全記載のなされたもの)

     ・なぜ必要として使用するのかを我々に説明する

     ・家畜ふん尿や植物廃棄物を必要期間(基準4.7.19を見よ)堆積ないし堆肥化したことを確認する。

    堆肥,家畜ふん尿やスラリーの施用量

     4.7.23 有機の家畜ふん尿などは自らの有機農地に散布しなければならない。

     4.7.24 自らの有機または転換中の農地に施用できる家畜ふん尿などの総量は,全農地面積当たりの平均値で,年間170 kg N/haを超えてはならない。

     家畜ふん尿などの施用量は,自らの経営体で,または自ら農業に使用している連携ユニットの全農地面積当たりで計算しなければならない。

     4.7.25 いかなる農地にも,年間ha当たり250 kg Nを超える量を施用してはならない。これには家畜が直接農地に排泄したふん尿を含まない。これは保護栽培(筆者注:施設栽培のこと)には適用しない。

     4.7.26 窒素量を計算する際には下記に留意しなければならない。

     ・硝酸指令(Directive 91/676/EEC)は,家畜ふん尿は,家畜の尿,ふん,敷料(ただし,敷料中の窒素量は無視できる)と規定している。

    (筆者注)正確には硝酸指令では次のように定義されている。「家畜ふん尿などは,家畜の排泄物および敷料と家畜の排泄物の混合物で,加工した形状のものも含む,を意味する。」

     ・年間ha当たり170 kgの窒素は,家畜によって農地に施用された窒素量に加えて,外部から持ち込まれた乾燥ないし顆粒状のふん尿を合わせたものである。

     ・年間ha当たり170 kgの窒素には,他の肥料,マメ科作物,その他の補完的養分は含めない。

    3.アメリカ

     アメリカは「国定有機プログラム」(National Organic Program) で,有機農業や有機食品の生産,販売などを規制している。アメリカは,家畜ふん尿などについては,そのふん尿が含有している可能性の高い病害虫による被害から農産物の安全性を確保するために,家畜ふん尿などの処理や施用の仕方に重点を置いた規制を行なっている(環境保全型農業レポート「No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行」)。しかし,施用量の上限については規制を行なっていない。

    4.IFOAM

     IFOAM(国際有機農業運動連盟)は,2012年に有機生産・加工の基準集を改正した(The IFOAM NORMS for organic production and processing. Version 2012. 132p. )。

     このなかで,「養分および肥沃度資材は,土壌,水や生物多様性を損なわない仕方で施用しなければならない。」,「人間の排泄物は,病原菌や寄生虫のリスクを減らす仕方で処理し,土壌と接触している部分を人間の食用として消費している1年生作物においては,収穫前6か月以内に施用してはならない。」などの要件が記載されているが,施用量の規制はない。

    ●投入養分総量の規制

     上記に述べたように,家畜ふん尿とそれに由来する資材に限定しては,投入可能窒素総量がEUでは規制されている。では,家畜ふん尿など以外の,マメ科作物,緑肥,植物起源の堆肥,有機質肥料などの投入物も合わせた投入養分総量がEUの有機農業では規制されているであろうか。残念ながら,そうした規制は,現実的に難しいためか,見当たらない。

     しかし,ソイル・アソシエーションの有機基準には次のような記載がある。

    4.6 土壌管理

     4.6.3 土壌中の有機物,可給態養分および養分貯蔵量のレベルを,土壌分析と養分の収支計算によってモニターしなければならない。毎年同じ時期にこれを実施するように努めなければならない。

     ソイル・アソシエーションは,土壌の多量および微量要素や重金属類などについて土壌分析を実施することを求めており,イギリス国内の関係する土壌分析機関を紹介している。おそらくそこでの土壌診断基準は,イギリスの慣行農業での土壌診断に基づいた施肥の基準書である肥料マニュアル(DEFRA (2010) Fertiliser Manual (RB209) 8th Edition )をベースにしていよう。なお,このマニュアルは,施肥基準(MAFF (2000) Fertiliser Recommendations: for Agricultural and Horticultural Crops (RB209) 7th Edition)を改訂したものである。

    ●イギリスの有機農業における有機質肥料の取り扱い

     イギリスの慣行農業を主体とした農家における有機質資材の使用実態調査をみると,全農家数のうち,有機質資材を使用した農家は32%だけで,その圧倒的大部分は家畜ふん尿やそれ由来の資材を使用している。そして,日本の通常の意味での有機質肥料が多い農場外有機質資材を使用している農家割合は,有機質資材使用農家のわずか1%(全体の0.3%)にすぎない(環境保全型農業レポート「No.151 イギリスの有機質資材の施用実態」参照)。このことからイギリスでは購入有機質肥料があまり使用されていないと推定される。

     EUの有機農業実施規則の付属書?には,有機農業で使用可能な肥料および土壌改良材が掲載されている。その中には,動物起源の有機質肥料(血粉,蹄粉,角粉,骨粉,魚粉,肉粉,羽粉,羊毛,毛皮など)や,植物起源の有機質肥料(油料作物の油粕,ココア殻,麦芽粕など)が記載されている。これらについては毛皮にだけ,?価クロームが乾物1 kg当たりゼロと記されているほか,特段の注意事項も記されていない。

     しかし,ソイル・アソシエーションの基準書には多くの注意事項が記されている。その主要なものを下に記すが,外部から購入する有機質肥料はできるだけ少なくすることと,動物起源の有機質肥料に起因する人畜共通病原菌の蔓延防止に関することである。

     ・外部からの持ち込み養分に対する必要性を最小にするように,施肥を計画しなければならない。したがって,主要養分源として当初から購入有機質肥料を計画することは許されない。

     ・肉粉,血粉,骨粉,蹄粉,角粉は,作物と直接接触させないように,微生物が増殖過程にある堆肥に添加する場合に限って使用できる。ただし,牛や羊のいる経営体では使用できない。

     ・再生羊毛は,作物と直接接触させない場合のみ使用できる。

     ・魚粉と魚乳濁液(フィッシュエマルジョン)は,禁止物質を含んでないものならば,施設栽培,微生物が増殖過程にある堆肥,または永年生作物に限って使用できる。

     ・新鮮血液を含む肥料は使用してはならない。

     ・食肉処理場や肉加工ユニットからの加工廃棄物は,有機農業起源のもので,適切に処理されていない限り,農地に施用してはならない。

    ●おわりに

     EUが有機農業において家畜飼養密度の上限を定め,それにともなって家畜ふん尿とそれに由来する資材の作物生産のための農地への施用量に上限を設定したことは,環境保全を図る有機農業を担保する上で,画期的であった。

     こうした画期的な規制がなされたのは,慣行農業における環境汚染防止に対する取組が,EUでは他の国々よりも前進していることによる。例えば,環境保全型農業レポート「No.203 OECD加盟国における水質汚染」に紹介したが,家畜ふん尿管理の法的規制要件(表2)が,EUではアメリカや日本よりも具体的に進んでいる。農業の環境保全効果に対して国が農業者に支援するためには,支援対象の農業がきちんと環境を保全することが必要である。有機農業は環境保全効果が高いというイメージが先行しながら,実際には大過剰の家畜ふん堆肥を施用して環境汚染を引き起こしているのを黙認しているケースがあってはならない。

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