環境保全型農業レポート > No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査

    指摘された環境支払チェックの難しさ

    ●EUの農業環境支払

     EU(欧州連合)は農産物の過剰生産を抑制し,集約農業による環境汚染・破壊を軽減するために,1992年に「農業環境規則」を導入した。この法律は,伝統的農業が創出した農村景観,生物多様性や史的遺産の維持,並びに肥料や農薬などの投入資材による環境汚染の軽減に貢献する農法を5〜20年間実践することを契約した農業者に対して,その実践によって収量低下などで生ずる所得減収分を直接補償すること(環境保全目的の直接支払)を定めたものである。生産された農産物は市場価格で販売されるので,農産物価格を押し上げたり,外国産農産物を排除したりする効果は,価格保証に比べれば小さい。このため,環境保全目的の直接支払は1993年のウルグアイ・ラウンド農業協定で削減すべき農業補助金の対象外として認定された。

     EUは第一期の農業環境対策事業を1993〜1999年に実施した。そのやり方は,加盟国が地方の実情に沿った具体的な事業案を,EUの執行機関である欧州委員会に申請する。欧州委員会によって計画案が承認されると,EUから事業費の50%または70%(2003年からは85%または60%)が支給され,残りを加盟国が負担する。加盟国は事業への参加者を公募し,参加者は国と契約を結ぶことになる。

     農業環境対策事業は主に平場の農村を対象にしているが,中山間地には条件不利地域対策事業が別個に行われていた。2000年からは法律が改正されて,両者を一本化した農村計画事業の中で,第二期(2000〜2006年)の農業環境対策事業が実施されている。農業環境対策事業の加盟15か国での第二期の予算総額は134億8000万ユーロ(1兆8870億円)(2001年の平均支払額はha当たり89ユーロ(1.2万円強))に達し,農村計画対策事業で最大の予算となっている。

     農業者が加盟国の定めている優良農業行為規範を守ることは当然で,農業環境対策事業は優良農業行為規範よりもさらに環境にやさしい農法を必ず含んでいる。したがって,EUは優良農業行為規範以上に環境を改善する農業者のサービスを購入しているともいえる。

     この事業による環境保全目的の直接支払は,安価な外国産農産物輸入によって強く圧迫されている中小農家の離農防止に貢献していると評価されている。このため,同様に厳しい状況に追い込まれている日本でも,EUの環境保全目的の直接支払への関心が高い。日本ではいくつかの地方自治体が環境保全目的の直接支払を導入している。滋賀県の「環境こだわり農業推進条例」,兵庫県旧市島町(現丹波市)の有機農産物生産への直接支払制度,福岡県の「農の恵み事業」がその例である。

    ●EU会計監査院の会計監査

     EU会計監査院は,農業環境対策事業における予算執行が適切であるか否かを,2004年3〜9月に欧州委員会と5加盟国(オーストリア,フランス,ドイツ,イタリア,ルクセンブルク)を訪問して監査し,その結果を2005年10月5日に公表した(欧州会計監査院:『農村開発に関する特別報告書 No.3/2005:農業環境支払の監査(ECA/05/09)』。

     農業環境対策事業で支払を行う前提は,(1)事業計画案が環境の保護・保全に貢献することと,(2)事業に参加した農業者が契約事項を遵守したこととを確認できることであり,このことは法律に明記されている。このため,会計監査院は,計画案の書類審査段階と農業者の実践段階で,監督部局側が実際に上記2点を確認できているかを監査した。

    ●加盟国は有機農業のチェックを検査機関に丸投げ

     有機農業基準に準拠した有機農業は農業環境対策事業の対象となっており,有機農業に転換しようとする農業者は農業環境対策事業から補助金を受けることができる。ただし,公的あるいは民間の検査組織(登録認定機関)によって,農業者は基準に準拠した生産を行っていることのチェックを毎年受けなければならない。そして,国は検査機関のチェック状況を監督し,その結果を欧州委員会に毎年報告することになっている。

     会計監査の結果,検査機関の監督状況報告を提出していない加盟国が多く,提出された報告書のなかにも必要事項を記載していないものや,矛盾した記載を行っているものなど,ずさんなものが多いことが判明した。また,加盟国の多くは検査機関をチェックする際のマニュアルを作成しておらず,実際には検査機関のチェックをほとんど行っていない。このため,監査院は,農業者が有機農業を基準に従って正しく行ったかを国および欧州委員会が最終確認していないケースが多いことを指摘し,その改善を勧告した。

    ●農業環境対策事業のチェックは難しい

     農業環境対策事業計画案はまず欧州委員会に提出され,その適格性が審査される。採択された後における農業者の契約事項の遵守状況は,抽出された5%の契約について現地でチェックされる。審査と現地チェックの両過程でチェックが難しいケースが多く,欧州委員会自体もこれまでに問題点を把握していながら,解決せずに放置していたと会計監査院に指摘された。チェックの難しい多くの事例が指摘されているが,その一部を紹介する。

    (1)ルクセンブルクのように農業環境対策事業に参加する経営体は全ての農地で事業を実施することが要件になっているケースもある。しかし,多くの加盟国で毎年事業に参加する農地を追加でき,1筆ごとの契約内容を把握しにくくなっているケースが多い。

    (2)契約書には遵守すべき基本的事項が記載されているが,具体性に欠けている。このため,検査員と農業者の双方とも何を要求されているかを具体的に理解してないケースが多くあり,要求内容の解釈が検査員で異なる場合も存在する。

    (3)指定作物を栽培することが契約項目の場合には,指定作物が実際に栽培されているかを現地で観察すれば確認できるが,投入物を実際にある量以下にしたかは,作物の生育状況の観察や土壌分析でも分からないケースが多い。

    (4)農業者は作業日誌をつける義務を有し,欧州委員会の検査のガイドラインは,作業日誌の記載内容を収量,伝票,土壌・作物体分析などとクロスチェックするように勧告している。しかし,多くの国は農業者の日誌や自己申告の裏付けをクロスチェックしていない。

    (5)EUは穀物の多収穫に倒伏防止用の植物生育調節剤を使用しており,生育調節剤無使用が農業環境対策事業の対象になっている。これを草丈の視覚チェックで行っている。しかし,草丈は様々な要因によって変動し,生育調節剤の無使用のチェックとしては不十分であるなど,現地での視覚チェックには不十分なものが多い。

    (6)現地チェックは契約事項の履行を確認するのに適切な時期に行うべきだが,そうでないケースが多く,また,1回だけでは不十分であっても,2回目を行うこともない。

    (7)現地チェックのマニュアルはなく,検査員の経験と知見によって判断が異なる。

    (8)土壌分析結果や養分収支を把握してチェックすべき項目が多いが,検査員は専門知識を持っていないため,十分なチェックがなされていない。

    (9)景観要素の保全と管理」では,対象の樹木,用排水路等々を存続管理することが必要だが,景観要素の配置状況の記録がなく,存続管理を確認できず,契約事項の遂行やその検証には高レベルの自由度が存在しており,オーストリアが2005年から導入した航空写真の利用を図る必要がある。

    (10)同一現地チェックが契約内容によって異なる複数の部署によって行われていて,部署によって指示が異なる場合もある。

     こうした監査結果から,会計監査院は,農業環境対策事業のチェックは労働負担が大きく,高い専門知識と技能を要するにもかかわらず,素人の検査員がチェックできる容易な項目しかチェックされておらず,チェックがずさんであると結論している。きちんとチェックできることが農業環境対策事業支払の原則であり,欧州委員会,閣僚理事会及び欧州議会は,2007〜2013年の第三期の農業環境対策事業を提案する際には,一方で非遵守のリスクを,他方でこの事業の意義を考慮しながら,如何にこの原則を実行できるようにするかを検討すべきであると勧告している。これに対して欧州委員会は指摘点を改善するように,欧州委員会はチェックのためのガイドラインを具体化し,加盟国の行うチェックに遺漏がないように努めるとの回答を行っている。

    ●教訓

     わが国では,2005年3月に「環境と調和のとれた農業生産活動規範(農業環境規範)」が通達され,農林水産省の各種補助金,交付金,資金,制度等の事業は,農業環境規範を実践する農業者に対して講じていくことになり,補助金を受けようとする農業者は,自らがその生産活動を点検して署名捺印した点検シートの写しを手続窓口に提出することが義務化された(環境保全型農業レポートNo.12 「農業生産活動規範とは」。この農業環境規範は生産性向上のために国が支援する経営体の守るべき条件であって,規範以上に環境にやさしい農法を行うことを条件にした環境保全目的の直接支払ではない。それはともかく,農業環境規範や自己申告による点検シートは,簡単すぎるほど簡単なものであり,農業者が規範を守っていることをEUのような意味で確認できるか疑問である。さりとて厳密にすると,EUのようにチェックに多大の労力とコストを要することになるであろう。チェックを行う行政職定員が今後とも削減されることが予測されるなかで,実のある環境保全型農業を推進する体制作りが大切になろう。

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