環境保全型農業レポート > No.98 EUの生物多様性に関する世論調査
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査

    ●生物多様性条約

     「生物多様性」という用語が世界的に広く知られるようになったのは,1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連の環境と開発に関する特別総会(地球サミット)で定められた,21世紀に向けて世界各国が地球環境保護のために協力して行なうべき行動計画である「アジェンダ21」の第15章に,「生物多様性の保全」の重要性が取り上げられて以来のことである。

     地球サミットでは,生物多様性の保全とその利用によって生じる利益の公正な分配などに関する国際的な取り決めを定めた生物多様性条約の条文が作成された。生物多様性条約は,地球サミット後に各国で国会承認などの所用の手続をへて,1993年12月に発効した。この条約において,「生物の多様性とは,すべての生物(陸上生態系,海洋その他の水界生態系,これらが複合した生態系,その他生息または生育の場のいかんを問わない)の間の変異性をいうものとし,種内の多様性,種間の多様性および生態系の多様性を含む。」と定義されている。

     生物多様性条約は,第六条で,締約国に対して,「生物の多様性の保全および持続可能な利用を目的とする国家的な戦略もしくは計画を作成し」,「可能な限り,かつ適当な場合には,関連のある部門別のまたは部門にまたがる計画および政策にこれを組み入れること」を規定している。

    ●生物多様性条約に対する日本とEUの対応

     日本は環境省が中心になり,関係府省の協力を得て,1995年に「生物多様性国家戦略」を策定し,2002年に見直しを行って「新生物多様性国家戦略」に改訂した。さらに2007年11月に「第三次生物多様性国家戦略」を策定した。

     農林水産省は,これらの戦略の一部を担ってきているが,農業・林業・水産業における生物多様性への取組をより具体的に強化するために,2007年7月に「農林水産省生物多様性戦略」を策定した。

     EUは,生物多様性の保全について古くから法律などを整備してきている。1979年に野鳥とその生息地の保護を目的とする「野鳥指令」(Council Directive 79/409/EEC on the conservation of wild birds)を施行し,1992年に野生動植物とその生息地の保全を目的とする「生息地指令」(Council Directive 92/43/EEC of 21 May 1992 on the conservation of natural habitats and of wild fauna and flora)を施行した。そして,1998年には「生物多様性戦略」(Communication of the European Commission to the Council and to the Parliament on a European Community Biodiversity Strategy. COM (98)42)を策定し,2006年に「2010年までに生物多様性の喪失を防止する行動計画」を策定した(Communication from the Commission: Halting the loss of biodiversity by 2010 - and beyond: Sustaining ecosystem services for human well-being. COM(2006) 216 final)。

    ●オーストリアとドイツ市民の生物多様性に対する認識が突出

     EUの執行機関である欧州委員会の環境総局は,力を入れている環境施策の一つである生物多様性の保全に対して,EU市民がどのように理解しているかを外部機関に委託して世論調査した。調査は2007年11月20〜24日に,EU27か国の15歳以上のランダムに選んだ2万5000人を超える市民に電話でインタビューして行なった(European Commission (2007) Flash Eurobarometer Series. No.219. Attitudes of Europeans towards the issue of biodiversity. 要約版同詳細版 )。

     世論調査では,まず生物多様性という言葉を聞いたことがあるかないか,聞いたことがある場合にはその意味を承知しているかを聞いた。EU27か国の平均で,生物多様性という言葉を聞いたことがあり,その意味も承知している者は35%,聞いたことはあるが,意味は分からないと回答した者が30%で,35%は言葉を聞いたことがないと回答した。この結果をみると,EU市民の生物多様性に対する認識は高いと思える。しかし,国別の結果をみると,生物多様性という言葉の意味も承知していた者の割合は,オーストリアとドイツで突出していて,この2か国の結果が平均値を押し上げていることが分かる(図1)。

    ●生物多様性の喪失の意味

     調査では,上記の質問に次いで,回答者に対して,『生物学的多様性または生物多様性は,我々もその一部となっている生命のネットワークを構成している地球上の生命(植物,動物,海洋など)の多様性を意味している』と,生物多様性の概念の輪郭を説明してから,生物多様性の喪失(ロス)についての質問を続けた。

     生物多様性の喪失が具体的に何を意味するかについて,EU市民は27か国の平均値として,「動植物がいなくなること」41%,「動植物が絶滅すること」20%,「自然生息地が減ること」18%,「自然公園のような自然遺産が減ること」14%,「森林が減ること」12%,「気候変動」11%,「大気や水の質に関連した問題」9%と回答した。この結果から,市民の大部分が,生物多様性の喪失を種に焦点を当てた概念,または自然生息地の変化に関連した概念として理解していることが示された。

    ●生物多様性喪失の原因

     次に,生物多様性を喪失させている原因を複数示して,その中から最も重要と考える原因を一つ選択するように求めた。その結果,EU27か国の平均値として,「大気や水の汚染」27%,「原油流出,工場事故などの人的災害」27%,「気候変動」19%,「農業の集約化・森林伐採・魚の乱獲」13%,「土地利用の変更と開発(道路・住宅・工場等の建設)」8%,「外来動植物の導入」2%,「その他」1%,「無回答」3%であった。

    ●子供の世代までに生物多様性喪失の影響を受けると回答

     では,自国における生物多様性の喪失,つまり,動植物種,自然生息地や生態系の減少や絶滅の可能性などを,市民はどの程度深刻に受け止めているのか?

     EU27か国の平均で,88%が深刻とし(「非常に深刻」43%,「かなり深刻」45%),「深刻でない」は8%,「全く深刻性がない」は1%にすぎなかった。そして,国内で生物多様性の喪失が深刻とした回答割合は,国によって大きく異なった。フィンランド10%,エストニア11%,ラトビア15%,デンマーク18%などで低かった。他方,ギリシャ70%,ポルトガルとルーマニア67%,ブルガリア61%,キプロス58%,イタリア57%などで高かった。意見の違いは,国における環境問題の深刻さを反映していると理解される。

     他方,自国内でよりも世界レベルの生物多様性喪失の方が深刻であるとする者が多く,EU27か国の平均で,70%が「非常に深刻」,25%が「かなり深刻」とした。

     生物多様性喪失が現在の時点で回答者自らに影響を与えていると回答した者は,EUの平均で19%にすぎず,EU市民の大部分は生物多様性喪失の影響が直ぐに自分に及んでいるとは見ていなかった。しかし,ポルトガル,ギリシャ,ルーマニアなど,自国内で生物多様性の喪失が深刻とした回答割合の高かった国では,現在の時点でも生物多様性喪失の影響が回答者自らに及んでいるとの回答割合が高かった(図2)。

     EU平均では,回答者の35%が近い将来に自分の世代に生物多様性喪失の影響を受けると予想し,同率35%の者が,自分の世代に影響を受けるとは思わないが,子供達の世代は生物多様性喪失ロスの影響を受けると予想していた。

    ●生物多様性の喪失をなぜ止めなければならないか?

     生物多様性の喪失を止めることが大切である理由として4項目を提示して,それぞれの是非を質問している。その結果,多数の者が全ての理由について賛成であると回答した(表1)。

     各項目について回答者が大いに賛成とした割合は,「自然を守る責任があるので,倫理的義務である」が61%,「市民の福祉や生活の質ならびにレクリエーションや楽しみは自然や生物多様性のおかげである」が55%,「食料,燃料,医薬品などの生産に不可欠である」が50%,「生物多様性の喪失によってヨーロッパ経済が疲弊してしまう」が44%に達した。

    ●生物多様性についての情報をどこからえているか?

     全てのEU加盟国で,テレビのニュースやドキュメント,インターネット検索,新聞および雑誌の記事が,生物多様性ロスの原因などの生物多様性に関する主要な情報源であった。その内訳は,テレビが52%,インターネット検索が42%,新聞や雑誌が33%であった。

    ●日本での世論調査

     日本では,内閣府大臣官房政府広報室が2006年に,「自然の保護と利用に関する世論調査」を外部機関に委託して,個別面接聴取によって調査している(全国を対象に有効回答数1,834人)。生物多様性を自然あるいは野生生物と同義語にしていて,生物多様性の意味や意義がEUのように広くはない。そのなかで,野生生物の保護と対策について,「多種多様な生物が生息できる環境の保全についての意識」と「多種多様な生物が生息できる環境の保全に必要な対策」を調査した。

     多種多様な生物が生息できる環境の保全について,「人間の生活の豊かさや便利さを確保するためには,多種多様な生物が生息できる環境が失われてもやむを得ない」と回答した者は3%とごくわずかで,56%は「人間の生活が制約されない程度に,多種多様な生物が生息できる環境の保全を進める」と回答し,37%が「人間の生活がある程度制約されても,多種多様な生物が生息できる環境の保全を優先する」と回答した。そして,大都市には環境保全を優先すべしとする者が町村より多く,町村には人間の生活が制約されない範囲の環境保全を求める者が大都市よりも多かった(表2)。これは,野生鳥獣による害を現実に受けているかいないかの違いを反映していると推察される。

     どのような対策が必要かについて,記載された項目から2つまでの複数回答を求めたところ,「生息地の改善」,「生息地の開発規制」,「整備事業での野生生物の生息状況配慮」がそれぞれ30%強であったが,これに次いで「農薬や化学肥料の使用を少なくするなど生物の生息に配慮した農林業を進める」(27.8%)がランクされ,集約農業の影響への関心も高いことが注目された(表3)。

    ●農業における生物多様性の保全

     今日,農業は生物多様性の喪失を加速させている要因としてしか理解されないことが多い。しかし,農業の集約化が急速に進行したのは,世界的に第二次世界大戦後であって,日本では高度経済成長の始まった1960年頃以降である。それまでの数千年あるいはそれ以上ににわたるゆっくりと発展した粗放的な農業は,野生生物に森林や自然草地などとは異なった新しい生息環境を創りだし,そこに適応した野生生物を定着させ,生物多様性の向上に貢献してきた。

     例えば,用水路によって河川や湖沼とつながった水田が,メダカ,ナマズ,カエル,ホタルなどの水生動物の繁殖の場として機能したこと,麦などの冬作物を栽培した畑が春先のヒバリの繁殖地として機能したこと,堆肥材料や薪炭材料を採取することによって植物遷移を止められ,林床の開けた里山林が身近な野生動植物の繁殖地として機能したことなど,その例は多い。長い時代にわたって毎年繰り返された農作業によって創られた本来の自然にはない環境が安定的に存在したことが,生物多様性を豊かにするのに貢献してきたのである。そうした農の営みと環境との永続的なかかわりからみても,農業が生物多様性の保全に貢献するには,伝統的な農業の創ってきた環境を復元・維持し,農業環境を汚染したり破壊したりしないことが基本である。農業における生物多様性の保全では,希少生物を隔離された環境で繁殖させることよりも,希少生物を含めて,身近な生き物が生きてきた環境を保全することの方が大切である。

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