環境保全型農業レポート > No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか

    ●実験的確認が難しい

     福島第一原発の事故にともなって大気に放出された放射性ヨウ素やセシウムが野菜などの作物に沈着し,それらの野菜から食品衛生法に基づいた暫定基準値を超える放射能が検出されて出荷制限がなされた。その際,ビニールハウス内で生産した野菜などの農産物は,放射性核種を含んだ雨や大きなほこりが直接ハウス内に侵入するのを防止しているので,露地栽培のものが基準値を超えたとしても,基準値を超えないとの期待があった。しかし,その後にハウス栽培のホウレンソウなどで基準値を超えるケースが出現した。

     消費者庁の「食品と放射能Q&A」は,「露地栽培に比べハウス栽培の野菜や家庭菜園のものは安全ですか」という設問に対して,「野菜の出荷制限等を行う際には,しいたけなどを除き,露地栽培・ハウス栽培に関係なく対象としています。これは,ハウスで栽培していても,換気などによって農作物が放射性物質を含むガスやチリを浴びる可能性があるからです。」と記している。

     では,ハウス栽培の野菜などは,露地栽培のものに比べてどの程度沈着した放射能量が少ないのだろうか。これを実験的に確認するには,原子炉事故が起きる前に露地とハウスの栽培セットが用意されていなければならないので大変難しく,具体的データが乏しい。

    ●野菜などのダイオキシン類汚染に関するプロジェクト研究

     大気から作物体への放射性核種の沈着は,ダイオキシン類に類似している(環境保全型農業レポート.No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着)。そこで,具体的データが乏しい放射性核種による農産物汚染を類推するために,かつて研究された焼却炉からのダイオキシン類の飛散に関するデータの解析結果が有効であろうと考えられる。以下,ダイオキシン類の研究成果を見ていくことにする。

     かつてダイオキシン類は,製造過程で副産物として生じたダイオキシン類を混入した一部の農薬が施用されて土壌を汚染し,さらにゴミ焼却の過程で生じたダイオキシン類が焼却炉から大気に放出された。焼却炉からのダイオキシン類の大気への放出は長年にわたって継続していて,社会的に問題になった。このため,1999〜2001年度の3か年にわたって,農業環境技術研究所と埼玉県農林総合研究センターが,野菜などのダイオキシン類汚染の実態把握などを研究した。このプロジェクト研究のなかで,露地栽培したホウレンソウと雨よけ栽培およびハウス栽培したホウレンソウのダイオキシン類濃度が比較された。このなかの下記報告から,関係部分の概要を紹介する。

     (1) 殷煕洙 (2003) 各種作物における付着・吸着実態の解明と汚染軽減方策.1.ホウレンソウ.農林水産技術会議事務局プロジェクト研究成果シリーズ No.410 ダイオキシン類の野菜等農作物可食部への付着・吸収実態の解明.p.16-26.

     (2) 殷煕洙 (2003b) 各種作物における付着・吸着実態の解明と汚染軽減方策.2.ニンジン.同上書.p.26-31.

     (3) 上路雅子 (2003) 各種作物における付着・吸着実態の解明と汚染軽減方策.7.茶.同上書.p.57-60.

    ●ダイオキシン類の総重量と毒性等量

     ダイオキシン類には419もの多数の異性体が存在し,その毒性は異性体によって大きく異なる。このため,ダイオキシン類の量は,各異性体の重量を合計した総重量によって表示(総重量濃度)することもあるが,ダイオキシン類の毒性を考慮した毒性等量(Toxicity Equivalency Quantity: TEQ)によって表示することが多い。すなわち,哺乳類に対する毒性の最も強い 2,3,7,8-TCDD( 2,3,7,8-四塩化ダイオキシン)を1として,これと比較した毒性によって各異性体の重量を換算して,合計した総重量である。

     重量単位は通常ピコグラム( pg:1ミリグラムの100万分の1)で,通常pg -TEQ/gサンプルで表示する(環境保全型農業レポート.2004年10月22日号.ダイオキシンの汚染源は除草剤か焼却炉か?)。

    ●雨よけ栽培によるダイオキシン類沈着の減少

     雨よけ栽培は加温を目的とせず,過剰な雨水を遮断することを目的にして,上部のみを被覆したビニールハウスで作物を栽培する方法である。このため,雨水とともに降下してくるダイオキシン類が作物体に直接沈着することを防止できる。しかし,ビニールハウスの側面は開放されているため,大気中に存在するガス状または粒子状のダイオキシン類が大気から作物体に沈着するのは防止できない。

     埼玉県農林総合研究センター園芸支所の鶴ヶ島圃場の表層腐植質黒ボク土の畑で,ホウレンソウを春と秋に,露地と雨よけの二つの方法で栽培した。消石灰10 kg/aを混和した後,幅100 cmのベッドを作り,3要素を化成肥料で各1.5 kg/a施用し,畦幅15 cm,株間15 cmの6条植えでホウレンソウを播種した。

     その結果,ホウレンソウ葉部のダイオキシン類濃度は,露地栽培に比べて雨よけ栽培によって,総重量濃度だと春栽培で24%,秋栽培で34%,毒性等量濃度でそれぞれ45%と66%減少した(表1)。ホウレンソウ葉部のダイオキシン類は,大気から沈着したものだけでなく,土壌から吸収されたものや,雨や風で舞い上がって付着した土壌粒子中のダイオキシン類も含んでいるはずである。しかし,葉部のダイオキシン類は,異性体の分布割合が大気のものと類似していたので,その多くは大気に由来すると推定される。

    ●ハウス内外の大気中のダイオキシン類濃度の違い

     上記のホウレンソウを用いた実験に引き続き,1999年11月15日から2000年1月30日までビニールハウス内で,ダイオキシン類濃度の異なる土壌でホウレンソウをポット栽培した。

     季節的に露地栽培は無理なため,露地栽培とハウス栽培のホウレンソウ葉部のダイオキシン類濃度を直接比較することはできなかった。しかし,2000年1月に大気中のダイオキシン類濃度を測定し,ハウス外で26.5 pg/ m3 (0.31 pg-TEQ/ m3),ハウス内で9.7 pg/ m3 (0.12 pg-TEQ/ m3)であることを観察した。上部だけでなく側面も被覆したハウスでは,外部に比べてダイオキシン類濃度が,総重量濃度で63%,毒性等量濃度で61%減少した。

    ●マルチ+トンネル栽培によるダイオキシン類沈着の減少

     ホウレンソウと同じ鶴ヶ島圃場の畑に施肥を行なった後,1999年8月中旬にニンジンを条播し(条間15 cm),12月13日に収穫した。なお,トンネル被覆は10月14日〜12月13日とした。

     表2に示すように,ニンジン葉部のダイオキシン類濃度は,露地栽培に比較して,総重量濃度で,マルチ栽培によって34%,マルチ+トンネル栽培によって60%,毒性等量濃度で,それぞれによって33%と68%減少した。マルチ栽培で減少したのは,ダイオキシン類を吸着した土壌粒子が,ニンジン葉部に付着するのが防止されたためと推定される。

     また,ニンジン根にはかなりのダイオキシン類が付着しているが,それは根表面の皮の部分で,それをはぎ取れば,根内部のダイオキシン類濃度は極めて低く,安全であることが示されている。

    ●ベタ掛け栽培による茶葉へのダイオキシン類沈着の減少

     埼玉県農林総合研究センター茶業研究所(入間市)が栽培しているチャ樹(萌芽期:1999年4月23日)を,通常の露地とベタ掛け(不織布などで作物を直接に覆う方法)で栽培し,一番茶を5月17日に収穫した。その際,ベタ掛け栽培では,収穫前20日間にわたってベタ掛け資材でチャ樹を被覆した。

     表3に示すように,生葉のダイオキシン類濃度は,露地栽培に比較してベタ掛け栽培によって,総重量濃度で38%,毒性等量濃度で35%減少し,荒茶ではそれぞれ16%と27%減少した。

    ●まとめ

     上述したように,雨よけ栽培,マルチ栽培,マルチ+トンネル栽培,ハウス栽培,ベタ掛け栽培によって,ダイオキシン類の大気から作物体への沈着が30〜70 %減少した。放射性核種の大気から作物体への沈着がダイオキシン類と同じ割合で減少するとは考えられないものの,類似した傾向はあると考えられる。それゆえ,大気中の放射能各種の濃度があまり高くなければ,上記の栽培方法によって,放射性物質についての食品衛生法に基づいた暫定基準値(環境保全型農業レポート.No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着)をクリアできよう。

     しかし,大気中の放射能各種濃度が非常に高くて,露地栽培作物体が高濃度に汚染された場合には,上記の方法によっては基準値をクリアできないであろう。例えば,2011年3月21日に採取されたホウレンソウのなかには,131I(ヨウ素131)が1.9万Bq/kg生重,134Cs(セシウム134)が2万Bq/kg生重,137Cs(セシウム137)が2万Bq/kg生重と,異常に高いレベルの汚染が生じた事例があった。こうした事例の場合には,上記の方法では基準値をクリアできないであろう。

     事故を起こした原子炉から,再び多量の放射性核種の大気放出が起きないことを期待する。大気からの放射性核種の沈着が問題にならなくなれば,土壌中の放射性核種の吸収による作物体の放射性核種の汚染が表面に出てくる。しかし,作物体中に吸収された放射性核種の含量は,大気からの沈着に比べて,137Csの場合,土壌タイプによって異なるが,1/3から1/100に減少したことがチェルノブイリ事故でも観察されている(環境保全型農業レポート.No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書)。大気からの沈着を気にせず,土壌からの移行対策に集中したいものである。

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