環境保全型農業レポート > No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書

    ●経緯

     「環境保全型農業レポート.No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書」に紹介したように,IAEA(国際原子力機関)は日本政府の要請に基づいて2011年10月に,福島第1原発事故によって汚染された20 km圏内の立入禁止区域外の修復・除染の進捗状況を現地調査した。その予備報告書を10月14日に日本政府に提出し,その後,最終報告書(IAEA: Final Report of International Mission on Remediation of Large Contaminated Areas Off-site the Fukushima Dai-ichi NPP 7-15 October 2011, Japan. 79p. NE/NEFW/2011.)を11月15日に提出し,公表した。

     報告書の結論は予備報告書と同じであるが,最終報告書は現地で視察した内容や意見交換した内容を含めて詳しく記述し,79ページにわたる報告書となった。

     報告書の基本的部分は,日本の放射線に対する過剰なまでの慎重な姿勢を,これまでの国際的に集積された科学的知見を踏まえて是正することをアドバイスするものである。詳しくは,環境保全型農業レポート.No.191をお読みいただきたい。

     最終報告書については,日本のマスコミは何らの報道もされていない。その要約部分を紹介する。

    ●日本語にはレメディエーションとデコンタミネーションを区別する用語がない?

     最終報告書は,目次の次,本文を始める前に,わざわざ「調査団は日本語ではレメディエーション(remediation)とデコンタミネーション(decontamination)に対して1つの単語しかないことを理解した。」と記している。これは,日本が法律や行政文書で2つの違いを認識した上で使い分けておらず,両者を同じ概念と理解して「除染」という意味にしか用いていなかったことをはからずしも示していよう。まずこの2つの用語を解説する。

     「レメディエーション」は,日本語では,通常,「治療」,「改善」,「修復」,「復旧」,「浄化」,「汚染除去」などと訳され,「デコンタミネーション」は「浄化」,「汚染除去」などと訳されている。恐らく,日本の関係者は両者とも日本語では「浄化」や「汚染除去」など,同じ内容の用語が該当すると説明したのであろう。

     IAEAはこれらの用語を「IAEA安全性用語集」(IAEA Safety Glossary, Terminology Used in Nuclear Safety and Radiation Protection, 2007 Edition )に準拠して使用しているとしている。「IAEA安全性用語集」による定義は下記のとおりである。

    A.レメディエーション

     レメディエーションとは,汚染物質それ自体(汚染源)または人間への曝露系路に対して働きかけを行なって,陸地の既存の汚染区域に由来する放射線曝露量を減らすために行なわれるいろいろな方法。

     定義からわかるように,レメディエーションは,汚染物質の完全除去を意味しない。

     より日常的用語のクリーンアップも使われることもあるが,これを使用する場合には,レメディエーションと同じ意味で使用し,違った意味を持たせてはならない。

     リハビリテーション(rehabilitation)(復帰)やリストレーション(restoration)(復旧)は,汚染以前の状態を復元できる場合には使用しても良いが,通常,レメディエーションでは元の状態に復元するのは無理である(レメディエーション行為自体の効果もあるなどのため)。リハビリテーションやリストレーションという用語の使用には賛成しかねる。

    B.デコンタミネーション

     デコンタミネーションとは,熟慮した上での物理的,化学的または生物的プロセスによって,汚染物質を,完全または部分的に除去すること。

     この用語の定義では,人々,装置や建物から汚染物質を除去する広範囲なプロセスを含めるが,人体内部からの放射性核種の除去,ないし自然の風化や移動による放射性核種の除去は,デコンタミネーションとは考えられておらず,その範疇には含めない。

     つまり,デコンタミネーション(汚染除去,除染,浄化)は,汚染物質そのものの除去を意味するが,レメディエーションは汚染物質の部分除去を含めたいろいろな方法によって,被爆量を減らすことを意味している。

     日本では,レメディエーションという用語については,石油などで汚染された土壌を微生物や植物の働きによって浄化することを「バイオレメディエーション」とカタカナで表記している。

     要するに,汚染物質の部分的除去を含め,必ずしも汚染物質を除去しなくとも,汚染された環境を人間や野生生物に害作用がないように改善することがレメディエーションといえる。端的には,デコンタミネーションを「汚染除去」とすれば,レメディエーションは「汚染緩和」といえよう。

     汚染物質を除去しないでも害作用をなくす方法は,日本の法律のなかでも認められている。例えば,「土壌汚染対策法」(2002年5月29日法律第53号)では,土壌を汚染した物質を除去する方法に加えて,汚染レベルや汚染状況によっては,土壌が風や雨で拡散するのを防ぐために,土壌をコンクリートなどで被覆するといった,汚染の拡散を防止するなどの,除去以外の措置も認めている。こうした拡散防止などによる健康被害の防止を含めるのがレメディエーションといえる。

     つまり,放射性核種による土壌汚染の場合には,放射性核種の作土全体への混和,下層への埋没など,汚染物質の土壌中での総量を変えない場合を含めて,汚染土壌による外部被曝量や作物による放射性核種の吸収量を減らして内部被曝量を減らすことが,レメディエーションになる。

     日本の関係者がレメディエーションとデコンタミネーションとを区別する日本語がないと説明したようだが,そうしたレメディエーションを認識していないから,何が何でも除染という戦略しか考えなかったことを,はからずも示したといえよう。

     以下にIAEAの最終報告書の要約部分のなかの結論部分の訳を記載する。そこでレメディエーションと記載されている部分はそのままレメディエーションと表記することにする。なお,最終報告書でIAEAは全てレメディエーションを用い,デコンタミネーションは日本側の組織,法律,行政文書などの名称として用いられているだけである。

    ●報告書の要約

     本報告書は調査団の主要結論を述べるものである。報告書は,現在までになされた9つの領域における重要な前進を特筆するとともに,現在の方法を改善できると調査団が考える12のポイントについてアドバイスを特記するものである。アドバイスは,国際基準や他の国々のレメディエーションプログラムを考慮した上で,(日本の)戦略,計画,特定のレメディエーション技術を改善するためのものである。日本は,現在のレメディエーション努力を継続し,今後のレメディエーション活動のために,調査団のアドバイスを考慮されるよう尽力されたい。

    (1)特筆すべき重要な進捗事項

     特筆1: 調査団は,日本が,福島第1原発事故の影響を受けた人々を救援するために,有効なレメディエーションプログラムを策定するために必要な法的,経済的および技術的な資源をきわめて迅速に配分したことを評価する。その際,子供と子供が時間を過ごす場所を優先している。

     特筆2: 福島除染推進チームは,環境省の東北地方環境事務所の駐在員,福島県災害対策本部および日本原子力研究開発機構から構成され,情報を共有し,関係府省庁と調整を図り,福島県と関係市町村に技術的支援を与えている。調査団は,レメディエーション技術の実践的カタログを策定した日本の努力を歓迎する。

     特筆3: 調査団は,「原子力災害対策特別措置法」が利害関係者の参加を明記していることを是とする。調査団は政府が新法の施行を待たずに,レメディエーション計画の視点を施行することを既に開始している点を評価する。

     特筆4: 調査団は福島県や市町村レベルで実行されている,人々のレメディエーションへの積極的な参加を評価する。調査団は,学校を訪問し,多くは生徒の両親だが,ボランティアによって学校敷地内の汚染土壌が多量に除去されているのを観察し,得るところが多かった。調査団は県や市町村と多数のボランティアが,自力で重要かつ効果的な努力を行なっていることを評価する。

     特筆5: 調査団は,日本原子力研究開発機構が地域住民の要求に基づいた市民への情報提供や,プログラム参加のために講じている実際的な方策を評価するものである。

     特筆6: 調査団は,様々なレメディエーション方法を試験して評価するために,現地実証試験地を使用することは,意志決定プロセスを支援するのに非常に役立つ方法であると考える。

     特筆7: 調査団は,日本当局によるすばらしいモニタリングおよびマッピングがレメディエーションプログラム遂行の成功の基礎となるものであることを了承するものである。現在その設置が取り組まれているリアルタイムの広域モニタリングシステムと,そのデータが透明な形でオンライン利用できるようになることは,市民や国際社会を安心させる重要な手段となる。

     特筆8: 調査団は,事故の初期段階では,食料および農業に関連した基準レベルについての不確実性や市民の心配に対処するために,慎重な保守的姿勢を採ったのは良い方策であったと認めるものである。

    (注)調査団は,日本が土壌中の放射性セシウムの作物への移行率をコメで0.1に設定したのは,安全係数をむやみに高く設定して高すぎると批判している(環境保全型農業レポート.No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書/libnews/nishio/nishio191.htmを参照されたい)。とはいえ,水稲作付に先立つ4月という事故直後の段階ではむしろ良い姿勢と評価したことを意味する。ただし,次の作期に向けて科学的データを踏まえて見直しを勧めている。

     特筆9: 調査団は,日本原子力研究開発機構の支援と指導によっていくつかの学校敷地が,大部分ボランティアによってレメディエートされた事実を評価する。調査団は400の校庭が(2011年9月30日現在で),既にほぼ修復されていると知らされている。

    (2)アドバイス

     アドバイス1: レメディエーション戦略にかかわった日本当局に,被曝量を削減するレメディエーション方法のメリットとデメリットに影響する,様々な要因のバランスを慎重に考慮することを勧める。被曝量の削減に効果的に役立たない慎重すぎる保守的姿勢を避けるよう,日本当局に勧める。

     被爆量削減という目標は,多くの状況下では,適正化原則Justification principle *と最適化原則Optimization principle*を現実的に実践することによって達成することができる。意志決定支援組織に放射線防護専門家(および法的規制組織)をより多く参加させることが,この目標の達成に役立つであろう。IAEAは,基準の新規設定や適正化を検討するのに日本を支援する用意がある。

    (注)*「IAEA安全性用語集」の定義を下記に示す。

    「適正化原則」 放射線防護システムに関する国際委員会による要求に準拠して,当該方法が全体として有効,つまり,当該方法を導入ないし継続することによって生ずる,個人ないし社会に対する便益が損害(放射線損傷を含む)よりも多いことを判定するプロセス。

    「最適化原則」 放射線防護システムに関する国際委員会による要求に準拠して,どのレベルの防護や安全性が,被曝量および潜在的な被曝の可能性やその程度を,「経済的および社会的な要因を考慮しつつできるだけ合理的に低くする」かを,決めるプロセス。これは工程や方法の最適化とは同じではない。

     アドバイス2: 日本政府と県および市町村の間により恒久的な連絡組織を設置して,主要関係者間の調整をさらに強化することが適切である。

     アドバイス3: 日本政府と県および市町村が,様々な利害関係者の参加と利害関係者間の協力を引き続き強化することを勧める。関係当局は,利害関係者のニーズや日本の文化的背景を踏まえた,利害関係者の参加戦略および実施方法をさらに展開させるプロセスに,適切な大学ないし学界が関与することを強化することが望まれる。

     アドバイス4: 「計画的避難区域」へのアクセスは自由で,チェックされていない。調査団は,当該地域に出入する人々に対して,ルートや簡単な指示を記した適切な指示書ないしチェック物の使用を検討することを勧める。こうした指示書ないしチェック物*によって市民に情報提供を行なうことは,出入りする人たちが受ける不要な放射線曝露を避けるのに大切であると考える。

    (注)具体的には不明だが,出入りする人達に対する注意事項を箇条書きし,それを守ったか否かのチェックを記入する冊子のようなものが考えられる。

     アドバイス5: 特別な放射線防護手段を要するような曝露を起こさない廃棄物を,「放射性廃棄物」に分類しないことが大切である。調査団は,関係当局が,当該被曝の現実的かつ信頼できる限界値(浄化レベル)の設定を再検討することを勧める。浄化レベルを満たしている残留物は,構造物,埋立,堤防や道路の建設などに使用できる。IAEAは基準の改定,新規設定や適切化の検討に際して日本を支援する用意がある。

     アドバイス6: 調査団は,人々が被曝レベルでなく,表面積当たりの汚染レベル(Bq/m2)または体積当たりの汚染レベル(Bq/m3)にだけ関心を持ったり,または主に関心を持ったりする場合に生ずる誤解の潜在的リスクに対して,当局が注意を払うように希望する。森林地域や事故による汚染が比較的低い場所から,あるレベル(いわゆる最適化原則に基づいて設定したレベル)を超える汚染を,時間と努力をかけて除去しても,それが自動的に人々の被曝量低下につながるものではない。そうした無理な除染を行なうことは,不必要なまでに多量の残留物質を発生させるリスクをはらんでいる。調査団は,当局に対して,市民への被曝を減らす最適結果をもたらすレメディエーション活動に焦点を当て続けるように勧める。

     アドバイス7: 収集したデータは,データ管理プランの下で,一定様式で記述すべきである。

     アドバイス8: 農地のレメディエーションについて,調査団は,次の作付期に向けて,IAEAの出版したデータや係数および現地実証試験で得られた結果を踏まえて,慎重な保守的姿勢をある程度弱めるべき余地があると考える(土壌から作物への放射性セシウムの移行を求める係数などで)。IAEAは,日本が新たなより適切な基準を検討するのを支援する用意がある。

     アドバイス9: 都市部の廃棄物について,調査団は,大部分の物体は非常に低い放射能しか含んでいないことは明かであるとの意見である。IAEAの安全性基準を踏まえた安全性評価にしたがえば,こうした物体は一時貯蔵ないし中間貯蔵をせずに,レメディエーションしてさしつかえない。工業廃棄物用の既往の都市インフラを利用するのが有効である。

    (注)基準以下の汚染しか受けていないコンクリート,土壌などは,汚染されていないものと混合して,建築や土木の基礎工事に再利用することなど)

     IAEAは,日本が基準を改定したり,新たなより適切な基準を検討したりするのを支援する用意がある。

     アドバイス10: 森林地域のレメディエーションに時間と努力を払う前に,当該レメディエーションが被曝量を減らす効果があることの安全性評価を実施しなければならない。効果がないなら,そのために要する時間と努力を,便益が多い地域に集中させるべきである。この安全性の分析には,現地実証試験の結果を利用すべきである。

     アドバイス11: 調査団は,日本当局が淡水系や海洋系の有益なモニタリングを続けることを勧める。

     アドバイス12: IAEA調査団は,日本当局が,利害関係者と密接に協力して,廃棄物について適切な最終処分場を積極的に探すことを勧める。国と県は,これらの施設を確保するために協力すべきである。そうしたインフラが利用できないと,レメディエーション活動が成功するのを不当に抑制したり妨害したりして,市民の健康と安全性を危うくする可能性がある。

     IAEA調査団の主要な指摘事項の内容については,「環境保全型農業レポート.No.191. IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書」を参照されたい。

    ●清水修二福島大学副学長のチェルノブイリ視察記事

     福島の自治体関係者や福島大学の研究者ら約30人が,2011年10月31日から11月7日まで,チェルノブイリ事故から25年を経過したウクライナ共和国とベラルーシ共和国を訪問して,現地の状況を視察し,現地で意見交換を行なった。その調査団長の福島大学の清水修二副学長にインタビューして話をうかがった記事が,朝日新聞に掲載された(2011年11月16日)。その見出しが,『「除染せず」に驚く,放射能と生きるたくましさと怖さ』である。そのなかにIAEAの報告書と重なる内容が多い。その一端を紹介する。

    『−農業はどうでしょう。参考になったことは。

     「現地では農地を平均11ヘクタールごとの網目状に分けて放射線を測定し,詳細な汚染度マップを作っていた。土地によって汚染の内容も度合も違う。ここはこの作物を植える,ここはまだ無理,ここは加工品の原料としてなら牛乳でも可能,というように,何とか土地を使おうとしている。これも参考になりました。一律に100%大丈夫でないとダメとか,除染しない土地は使えないなどと決めつけるのではく,もっと土地ごとに対応していくことが大事です。それが農産地として生き残る道になると思う」

     「実際,現地で受けた説明では,穀物と牛乳は事故から4年後には放射線量が基準値以下まで大幅に減って出荷できるようになったという。我々にとっても明るい話だった」

     ・・・・・

     −日本では除染が大きな課題になっています。チェルノブイリではどう取り組んだのでしょう。

     「福島で進めようとしていることとはだいぶ違った。ベラルーシの当局者は,農地も森林も除染しない,するべきではないと結論づけた,というんですね」

     −除染しない,のですか。

     「試みたが,あまりにも膨大な費用がかかって引き合わない,それに表土を削ったら農地の肥沃度が落ちてしまう,土の始末も大変だという説明だった。たしかに現地は広大です。バスでいくら走っても,地平線まで森林や平原が続いている。あれだけ広ければ,そういう判断もありうるかと思いました」

     ・・・・・

     −日本でもそういう論議が出てくるでしょうか。

     「わからない。でも,出てくるかもしれない。1人あたり数千万円,地域で何千億円もかけて除染をすることで,どれだけの農業生産のリターンがあるのか,別の土地で新たに生産するための資金にした方がいいのでは,という議論が。しかし,日本には狭い国土で営々と工夫を重ねて農業をやってきた歴史があるし,自分の土地への愛着は強い。そもそも土地所有制度が違う。それを考えると,単に生産性や合理性だけでは割り切れない。判断は軽々にすべきではないと思います」』

    ●おわりに

     1986年のチェルノブイリ原子炉事故の5年後の1991年12月にソビエト連邦が崩壊し,事故の影響を強く受けた地域は,ロシア,ウクライナとベラルーシの3か国に分離され,しかも経済的に疲弊して,汚染対策を十分にとれなくなった経緯がある(「環境保全型農業レポート.No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書」参照)。

     国による経済ベースの違いによって,レメディエーションのコストと便益のバランスは異なるはずであり,国々の事情を踏まえて,レメディエーションの仕方は当該国が決めることになる。しかし,IAEAが指摘しているように,日本の慎重すぎる保守的姿勢によって,大量の土壌を削り取ることを軸にした除染方針では,保管場所について地元住民の賛成がえにくい現実があり,金もかかって,解決の終着点にたどりつくことに不安を感じざるをえない。健康や農産物の安全性に危険が生じない範囲の低レベルの放射線と共存する暮らしを考える必要もあろう。

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