環境保全型農業レポート > No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量

    ●瀬戸内海の水質汚染

     瀬戸内海は,東京湾,伊勢湾とともに,ほとんどが陸岸で囲まれた閉鎖性海域で,改善されてきているとはいえ,なお水質汚染が深刻な状態になっている。環境省が推定した2009年度における瀬戸内海への窒素負荷総量は433トン/日,そのうち,生活系が143トン/日,産業系が95トン/日,その他系が195トン/日,また,リン負荷総量は28.0トン/日,そのうち,生活系が11.4トン/日,産業系が6.5トン,その他系が10.1トン/日である(環境省 (2011) 化学的酸素要求量,窒素含有量及びりん含有量に係る総量削減基本方針)。その他系には,面源負荷(農地,森林,生活排水を除く市街地からの負荷),畜産,廃棄物処分場,水産養殖などが含まれ,農林水産業にかかわる部分が多い。このように,その他系が瀬戸内海への窒素負荷総量の45%,リン負荷総量の36%と,最も大きいシェアを占めている。

     こうした閉鎖性海域への窒素やリンの負荷量は,水質と流量のデータが収集されている1級河川からの海域への負荷量を中心にして推計されている。しかし,1級河川以外の河川も多い。データのそろっていない中小河川からの負荷量や,沿岸域から河川をへずに直接海域に排出されている負荷量については,十分に解析されていないため,負荷総量の精度が高くないという弱点があった。

     こうした弱点を改善すべく,独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センターの広域農業水系保全研究チームが中心になり,農林水産省の外部委託研究資金をえて,岡山県,香川県,広島大学,産業総合技術研究所などとのプロジェクト研究を行なった。この研究では,岡山県と香川県から両県に挟まれた瀬戸内海(備讃瀬戸)について,これまでの弱点を補う新たな推定方法を工夫しながら,いろいろな負荷源からの窒素とリンの負荷量を推定した。その概要を下記に基づいて紹介する。

     高橋英博・吉川省子・鷹野 洋・笹田康子・二宮正士 (2010) 流域特性を考慮した岡山・香川流域から瀬戸内海への流入負荷量の推定.陸水学雑誌.71: 269 - 284

     清水裕太・小野寺真一・齋藤光代 (2009) 50 mメッシュ標高情報とGISを利用した海底地下水流出量の空間分布評価−瀬戸内海中央部での適用例−.陸水学雑誌.70: 129-139.

     高橋英博・吉川省子・鷹野洋・冠野禎男・笹田康子・小野寺真一・清水裕太・高橋暁・三好順也 (2011) 備讃瀬戸への水・栄養塩の流入量の推定.2010年度近畿中国四国農業研究成果情報

     近畿中国四国農業研究センター広域農業水系保全研究チーム(吉川省子(代表)・高橋英博・吉田正則・望月秀俊・石川博(以上、近畿中国四国農業研究センター)・鷹野洋(岡山県環境保健センター)・笹田康子・冠野禎男・田辺和司・岩井正直・矢野清・高木真人(以上、香川県)・小野寺真一・清水裕太・斉藤光代・加藤愛彬(以上、広島大学)・湯浅一郎・高橋暁・三島康史・三好順也(以上、産業技術総合研究所中国センター):研究成果パンフレット

     同チーム (2010) 水と栄養塩の動きを探り,農業に役立てる−備讃地域陸海域の水・栄養塩動態解明と農業への再利用技術の開発−

     同チーム (2010)日射対応型低流量潅水システムによる茶園等の施肥効率化−水・栄養分の効率的利用−

    ●流入負荷量の推定方法

     岡山県と香川県の陸地から排出された窒素とリンが,備讃瀬戸に流入するルートを, (1) 河川からの流入,(2) 沿岸域では排水路や表面流去などからの直接流入,(3) 地下水からの流入の3つに分割した。そして,流入負荷量の計算に際しては,両県をいくつかの流域に分割した。岡山県は,ルート1の河川から流入する河川流域を,高梁川,旭川,吉井川(いずれも1級河川)の3河川流域と児島湖流域,ならびにルート(2)の沿岸域,香川県では,河川流域を一級河川の土器川,25の2級河川流域,その他の小河川流域ならびに沿岸域に分割した。そして,両県とも,ルート3の地下水からの流入量を別途計算した。

    (1) 河川からの流入負荷量

     ルート1の河川からの流入量は,概略下記のように計算した。すなわち,岡山県の3つの1級河川流域と指定湖沼(湖沼水質保全特別措置法によって,水質保全対策を講じることを義務づけられている11の湖沼の1つ)の児島湖流域については,流量と水質濃度とのデータがそろっているので,河口部近くにおける両者のデータを乗じて備讃瀬戸へ負荷量を計算した。しかし,香川県については,データがそろっている1級河川流域は1つだけで,2級河川流域を25とその他の小河川流域を設定したものの,流量と水質濃度のデータがそろっていないケースが多い。そこで,ときたま行なわれた水質調査データとその時に測定された水位・流量データの収集,および降水後の高水位時の水位・水質・流量データの補足を行ない,それらを収集・解析して,水位と流量の回帰式を求めて,水位データから流量を算定した。そして,2級河川の水質や流量に関しては流量と水質の回帰式を求める,あるいはそれが難しい河川については月別に計算した水質データに流量を乗じて,備讃瀬戸への負荷量を計算した。

    (2) 沿岸域からの直接負荷量

     ルート2の沿岸域における直接流入は次のように計算した。すなわち,沿岸域の生活系・畜産系・面源系からの負荷量は,原単位法に基づいて算定した。ちなみに,原単位法とは,研究成果に基づいて設定した,農地,家畜,都市などの発生源から排出される,単位量の面積,頭数,人口などからの平均負荷量を原単位とし,これに総数を乗じて,負荷総量を概算する方法である。

     生活系の原単位は,合併浄化槽・単独浄化槽・雑排水からの負荷に分け,人口1人当たりの排出負荷量で表示した。畜産系は,牛・豚の1頭当たりの排出負荷量で表示した。面源系は,水田,畑地,森林,市街地の4つに区分し,ha当たりの排出負荷量で表示した。原単位は既往の行政関係文書や科学論文を参考にして設定した。また,産業系からの負荷量は,関係報告書などによって事業所排水からの排出量を整理した。 海域への流入負荷量を推定する場合には,流達率を考慮する必要がある。沿岸流域では,産業系の事業所排水や生活系の下水処理施設の排水の多くが海域へと直接排出されていることから流達率を1とし,畜産系・面源系の排出負荷量についても流路が短いことから流達率を1とみなした。

    (3) 地下水からの負荷量

     ルート3の地下水からの流出量を推定するには,地下水の流出量の推定が必要である。これは,透水断面積と地形勾配および不圧地下水の動水勾配と地形勾配の関係の経験式を基に,50mメッシュ標高から海岸線付近の地形勾配を算出することで,ダルシー則によって推定した(詳しくは文献(2)を参照)。

     透水係数を対象地域全域で砂質(1.0×10-3m/s)と仮定した場合,岡山県と香川県における海岸線からの年間地下水流出量は,岡山県沿岸で5.2 億トン/年(年降水量1647mm の4.0%),香川県沿岸で0.9 億トン/年(年降水量1140mm の4.2%)と見積もられた。

     地下水は沿岸域では酸素不足の状態になっていて,その中の窒素の多くが脱窒により消失することがわかり,地下水からの流入負荷量は他のルートからの流入負荷量に比して無視できる量であった。リンについては,窒素と逆に沿岸域で濃度が増すことがわかっている。土壌中でリンは鉄,アルミニウム,カルシウムなどと結合して水に溶けにくい状態になっていることが多いが,海水中のナトリウムがカルシウムと置き換わり,また水で洗われると分散が進み,リンが地下水中に溶けだす可能性がある。地下水リン量は河川リン量の1〜2割になる可能性があるが,まだ検討が必要であり,推定結果には含めていない。

    ●排出負荷量

     2000〜2005年の6年について,窒素,リンとCODの両県において余剰となった排出負荷量と,そのうち備讃瀬戸に流入する流入負荷量を計算した。平年降水量の2003 年の窒素とリンの結果を紹介する。

     排出負荷量は,詳細の説明は省略するが,各汚染源で余剰となる窒素やリンなどの単位量(原単位)を設定して計算した発生負荷量に,当該汚染源から他の場所に排出される排出率を乗じた値で,汚染源から排出される量である(表1)。

     岡山県と香川県の排出負荷量の総量は,窒素が29.8千トン/年,リンが1.5千トン/年と推定された。そして,それぞれの発生源は,窒素で,産業系30%,生活系25%,畜産系7%,農地18%,森林14%,市街地5%,リンで,産業系28%,生活系51%,畜産系7%,農地4%,森林7%,市街地3%であった。シェアの大きい窒素の発生源は,産業系30%,生活系25%,農業系(畜産系+農地)25%などで,農業系のシェアがかなり高かった。リンでは生活系51%と産業系28%で全体の79%を占め,農業系は11%と,窒素ほどのシェアを占めていなかった。

     両県とも,沿岸域と河川流域の排出負荷量を比較すると,沿岸域に商工業と住宅が集中しているために,窒素とリンともに,産業系と生活系を合わせたシェアが圧倒的に高く,農業系のシェアが高いのは沿岸域よりも内陸の河川流域であった。

    ●流入負荷量

     流入負荷量は,備讃瀬戸に流入する負荷量のことである。前項で述べた排出負荷量が全て備讃瀬戸に流入するわけではない。例えば,農地で余剰になった窒素は,水田では落水によって,畑では表面流去水によって,河川や地下水に流入したり,土壌に保持されたりしたりしながら,一部が脱窒したりする。河川流域で余剰になった窒素やリンの排出負荷量のうちのどれだけの割合が河川に流入するかは,流達率を設定しても,推定値には大きな誤差が生ずる。このため,河川流域については,河口近くにおける負荷物質の濃度と流量から,備讃瀬戸への流入負荷量を推定した。また,沿岸域については瀬戸内海までの距離が短いので流達率を1と仮定して,表1の排出負荷量の値を採用した。

     その結果,岡山県と香川県から備讃瀬戸への流入負荷量は,窒素が15.9 千トン/年,リンが0.8 千トン/年と推定された(表2)。両県からの窒素の流入負荷量の合計値は,河川流域からよりも沿岸域からのほうが多く,特に香川県では沿岸域からの流入量が多かった。リンについては,河川流域からの流入量のほうが沿岸域からよりも多かったが,それでも沿岸域が約40%を占めていた。

    ●終わりに

     農業が地域の水質にどれだけの負荷をかけているかの研究は少なくないが,農業だけでなく,他産業や市民生活,森林などの他の土地利用も同時に解析した事例は極めて乏しい。数少ないそうした研究も,農業については他部門の研究者がラフな仮定の下に推定しており,農業の専門家が自ら他部門の研究者に呼びかけて行なった最初の研究といえる。

     こうした解析の上に,他部門からとともに,農業からの環境負荷を減らす取り組みが強化されることが期待される。

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