環境保全型農業レポート > No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書

    〜日本政府の過剰除染方針を批判〜

    ●第2回IAEA福島第1原発調査団

     IAEA(国際原子力機関)は,福島第1原発事故について,2011年5月24日〜6月1日に1回目の調査団を日本に派遣して,事故の発生経過,事故の現状,事故後の対策,日本の原子力規制の仕組みになどについて調査を行なった。その報告書を6月1日に日本政府に提出した。

     これに続いて,2011年10月7日〜15日に2回目の調査団を日本に派遣して,20 km圏内の立入禁止区域外側の修復・除染の進捗状況を現地で調査した。その結果は,予備報告書の形で10月14日に日本政府に提出された(IAEA (2011) Summary report of the preliminary findings of the IAEA mission on remediation of large contaminated areas off-site the Fukushima Dai-ichi NPP 7 - 15 October 2011, Japan. 20p. NE/NEFW/2011 )。

     この予備報告書の概要は新聞各紙に報じられた。その要点は,日本政府の行なおうとしている除染には過剰な部分がある。過剰な除染は,作業を行なっても除染効果はわずかで,多額のコストを要した上に,多量の廃棄物量を生じて,その処分や貯蔵の場所を確保するのに地域住民の了解をえることが難しい,といった問題があることが報じられた。

     報道では農業や廃棄物関係部分があまり紹介されなかったが,予備報告書には農業や廃棄物に関してより詳しく記述しており,その概要を紹介する。なお,最終報告書は2011年11月15日までに提出される予定である。

    ●日本の修復戦略について

    A.日本の除染方針

     原子力災害対策本部は2011年8月26日に「除染に関する緊急実施基本方針」を出した。そして,年間実効線量が20 mSv以上と推定される場合は,国の政府が年間被曝量を20 mSv未満にし,推定年間被曝量が20 mSv以下の場合には,国の政府は市町村やその住民の協力をえつつ,推定年間被曝量を1 mSv以下にするとしている。子供の被曝に対して特別な注意を払っていて,学校およびその行き帰りのときに子供達が受ける実効曝露量を1 mSvにすることを最優先にしている。

    B.汚染修復戦略の軸が表土の削り取りであることについて

     日本政府は,放射能で汚染された住宅地,農地,森林などの汚染修復について,除染によって放射能汚染の修復を行なうとしている。これに対して,IAEA調査団は,除染は,事故で放出された環境中の放射能濃度の削減を達成するために使える多数のオプションの1つにすぎないとしている。

     日本政府が考慮している主たる戦略は,土壌については,大気から沈着した放射性セシウムが土壌表層に蓄積することに基づいた,深さ5 cmまでの表層土の削り取りである。表層土の削り取りを中心にしたクリーンアップによる汚染物量は予備的試算によると,ざっと500万〜2900万m3と試算されている。これに,津波による破壊で生じた汚染された瓦礫(木材,コンクリート,金属)230万トンが加算される。表層土の削り取りを中心にした戦略は,土壌表層の放射性核種濃度を削減し,その結果,被曝量を減らす利点をもっているものの,不必要な多量の廃棄物を生み出すというリスクも持っていることを,調査団は指摘している。

    C.自然放射線

     放射線は我々の環境に元々存在する自然的要素であり,全ての放射線を排除することはできない。その大部分は半減期が長くて,238U (ウラン−238),232Th(トリウム−232),40K(カリウム−40),87Rb(ルビジウム−87)の崩壊によって生ずる放射線に起因する。

     表1に岩石や土壌の天然放射能の値を示す。40Kに由来する自然放射線量は,花崗岩の地殻全体での平均値で1,000 Bq/kgを超え,玄武岩のなかでもサリック質玄武岩(ケイ酸とアルミナを主とするもの)で1,100〜1,500 Bq/kgに達している。また,土壌では,4種の放射性核種に起因する放射線量が500 Bq/kgを超えている。なお,表1は下記文献から抜粋したものである。IAEA (2003) Extent of environmental contamination by naturally occurring radioactive material (NORM) and technological options for mitigations. 198p. Technical Reports Series No.419

    D.放射性廃棄物の基準設定の必要性

     調査団は,削減する必要のある人為的原因による放射線の曝露については,合理的で信頼できる上限値(基準レベル)を設定し,上限値を超えた廃棄物だけを,特別な隔離を必要とする「放射性廃棄物」として分離することが重要であることを強調している。そして,表層土の削り取りなどで生じた廃棄物の大部分はこの上限値に達せず,上限値に達しないものは「放射性廃棄物」に区分することを避けることが大切だとしている。それらはそのまま,あるいはクリーンな自然なものと混合して,埋立,堤防や道路の建設などに用い,コンクリートなどは再び建築物などに使用できるとし,生じた廃棄物を全て「放射性廃棄物」に区分しても,被曝量削減に何ら役立つことなく,むしろ「放射性廃棄物」の量をいたずらに増やして,人々に不必要な大きな課題を生み出してしまうとしている。

     調査団は,日本の関係当局が,現実的で信頼できる上限値(基準レベル)の設定問題を再検討することを勧め,IAEAは再検討に際して日本を支援する用意があるとしている。

    ●土壌中の放射性セシウムの水稲への移行率について

    A.日本の農地の修復戦略

     調査団は,日本政府から,現在の空間放射線量率が1〜20 mSv/年にある地域の農地を対象にして汚染軽減対策を実施し,農地での空間放射線量率レベルを次の2年間に50%削減することを目標にしていると,説明を受けた(「除染に関する緊急実施基本方針」)。

    B.放射性セシウムのコメへの移行率を0.1に設定したこと

     調査団が農地の放射性セシウム汚染で最も問題にしたのは,放射性セシウムの作物への移行率(土壌中のセシウム濃度(Bq/kg乾土)と,作物体に吸収されたセシウム濃度(Bq/kg乾物)との比率)を,コメで0.1に設定したことである。

     食品の放射能の暫定規制上限値値は500 Bq/kgなので,移行係数を0.1に設定したために,コメ栽培可能水田の放射性セシウムの上限値が5000 Bq/kgに設定された(2011年4月8日付原子力災害対策本部「稲の作付に関する考え方」)。調査団は福島県に設けた実証試験地も訪問し,訪問時までにえられていた予備的結果が0.1よりもかなり低かったことから,実際の移行係数はかなり低いはずだと予見して,土壌中のセシウムのイネの穀粒への移行率を0.1に設定したことを間接的に批判している。

     もしもコメへの移行率をもっと低く設定できるのであれば,コメ栽培土壌のセシウム濃度の上限値をより高く設定できる。例えば,移行率が0.01で良いならば,栽培上限値を50,000 Bq/kg乾土に上げることができる。それによって,放射性廃棄物に分類される農地土壌の量を大幅に減らすことができる。

    C.放射性セシウムのコメへの移行率

     土壌中のセシウムの作物への移行率について補足を行なうと,IAEAはこの点などについて次の文献を刊行している。IAEA (2010) Handbook of Parameter Values for the Prediction of Radionuclide Transfer in Terrestrial and Freshwater Environments. Technical Reports Series No. 472 。この文献から抜粋して,主要作物群の収穫部位についての移行率を表1にまとめておく。移行率は作物群によっても,土壌グループなどによっても大きく異なっている。土壌では粘土鉱物含有率の高い埴土で移行率が低く,粘土鉱物含有率の低い砂土や有機質土壌(泥炭土など)ではより高くなっている。

     このIAEA (2010)のハンドブックの基になったのは,IAEAが2009年に刊行した文献である。このなかで,放射線医学総合研究所の内田滋夫や田上恵子らが,放射性核種の土壌からコメへの移行率をまとめている (S. Uchida, K. Tagami, Z.R. Shang and Y.H. Choi (2009) Transfer to rice. In "IAEA: Quantification of Radionuclide Transfer in Terrestrial and Freshwater Environments for Radiological Assessments. TECDOC-1616. p.239-251 (pp.616)" )。そのなかで,Uchidaら (2009) は,コメ(玄米ないし精米)への移行率は,ポット試験では0.0057〜0.33と高めだが,圃場試験では移行率が通常0.001(10-3)のオーダーであると記載している。このことは,Uchidaら (2009)がまとめた放射性セシウムのコメへの移行率の表から,日本での放射性セシウムの移行率を圃場試験で測定した結果を抜粋した表3からも示されている。

     表2では,土壌からコメへのセシウムの移行率の幾何平均値が0.0083とはいえ,最大値が0.1を超えるケースもある。この0.1を超えるケースはポット試験の結果であるとしても,摂取量が多く,日本農業の基幹であるコメが放射性セシウムで汚染されないように確保するためには,放射性セシウム濃度のあまり高い土壌での水稲生産を避ける方が安全である。このため,原子力災害対策本部はコメへのセシウムの移行率を0.1という高い値を設定した。これは慎重姿勢に基づいた判断といえよう。

     しかし,表3に示すように,日本で実施された圃場試験での放射性セシウムの移行率は,高い値でも0.001(10-3)のオーダーで,0.1の数十分の一にすぎない。

     調査団は,国と福島県が福島県で実施している実証試験地での最初の結果を示されており,実際の移行係数はIAEA (2009)の文献の値(表3)と一致するようであるとしている。そして,調査団は,試験が完了し,現実的な移行係数をしっかり設定できるようになったときには, 0.1という移行係数を廃止できようとの趣旨を記している。

     因みに,福島県が2011年産米の放射性セシウム濃度を調べた本調査結果では,1,174の調査点数のうち,食品の安全性の暫定基準である500 Bq/kgを超えた点数はなかった(表4)。

     なお,表4で放射性セシウム濃度が最も高かった地点は,新聞報道されたように,二本松市の砂質土壌の水田で,砂が約75%,粘土鉱物が約13%で,粘土鉱物は県内の田の平均より少なかった。また,この水田でのカリ施用量は通常の4割程度に過ぎず,土壌のカリは3.1 mg/100 gで,県の平均20 mgより少なかったという。さらに,田には常時わき水が流れ込んでいて,周囲の林地からセシウムが流れ込んだ可能性もあるという。(例えば,朝日新聞2011年10月18日)。

    D.農地の放射能汚染をどうやって修復するのか

     農林水産省は,農地の放射能汚染の修復として,表土の削り取りと反転耕という物理的な修復手段に焦点を当てている(環境保全型農業レポート.No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表)。調査団はこれらに加えて,カリウムや窒素の施肥,セシウムを吸収しにくい作物への転換といった土地利用・管理の変更,農業用水管理方法の変更を組み合わせることを助言している。

     しかし,私見を述べると,セシウムの吸収を拮抗的に阻害するカリウムやアンモニウムのレベルは,日本ではチェルノブイリ周辺国よりもはるかに高く,これらの施用が日本ではチェルノブイリほどの効果をもつかは疑問だが,二本松の例のように,カリウム施用量が少ない水田では効果があろう。また,湛水した土地で栽培できる作物は限定されており,土地利用を変えることは水田転換を意味するが,その必要があるのかどうか疑問である。というのは,土壌中でセシウムは粘土鉱物や雲母に固定されてしまい,年数がたつほど作物に吸収されるセシウムが減少して,移行率は低下するはずである。それゆえ,来年以降の水稲作では,コメの放射能は年とともに減少するはずである。

     もしも,移行率を0.1よりも小さい値に設定し直して,水稲栽培可能水田の放射線レベルを引き上げるとすると,どこまで引き上げられるかが,次の課題になる。その際には,2011年産米のセシウム濃度を,土壌の放射線レベルや土壌タイプと関連させたデータを踏まえて,食品基準を超えるリスクの高い圃場を予測する研究が必要になる。

     5000 Bq/kgを超えるセシウム濃度の高い土壌で水稲を栽培した際に,セシウムの吸収を抑制するために,従来からの技術に加えて,セシウム固定能力の高いバーミキュライトなどを添加する技術を検討する必要があろう。そうした技術を実施したとしても,高濃度のセシウムを含むコメが生ずるリスクの高い水田では,無理にコメの生産を可能にするのではなく,水稲栽培を休んで湛水管理を考えたい。特に泥炭土のような有機質土壌が典型的だが,湛水された水田は畑に比べて有機物分解を抑制する。このため,土壌からの二酸化炭素発生を抑制する地球環境保全目的として,水稲なしの湛水管理に補助金を出すといった仕組みの適用も望まれる。

     調査団は,さらに,農産物の放射能レベルの検査を引き続き行ない,修復効率を評価するパラメータとして全ての試験地で検査に取組むべきことに加え,農業者が自らの農地で農業を再開することを勧告している。そのことが,地方,国および国際的な消費者の信頼をさらに高めることになろうと記している。

    ●森林対策

     チェルノブイリ事故の経験から,次のようなことが判明している。

     森林は,林床表面が土壌ではなく,落ち葉などの有機物で被われていた。そのため放射性核種が固定されにくいことに加え,菌根菌が放射性核種を含む重金属類などを積極的に収集して,植物に供給している。この結果,森林の植物やキノコ,それらを食べる鳥獣の放射能が耕地に比べて高く,しかも長期に続く(環境保全型農業レポート.No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書)。

     調査団は,こうした放射能で汚染された森林に対しては,長期間にわたって対策を継続することが必要であり,しかも,対策の効果がでるまでに時間がかかることを指摘している。そして,森林に対して行なう対策を,管理対策と技術対策の2つに大別している。

     チェルノブイリでは管理対策として,放射能汚染防止のために次の行為が禁止された。

     (1) 一般市民や森林作業者のアクセス制限

     (2) 市民による食用林産物(ベリーやキノコなど)の収穫制限

     (3) 市民による薪の収集制限

     (4) 狩猟行為の禁止・変更

     (5) 火事の防止

     技術に基づいた対策としては,落ち葉の除去や土層の削り取り,皆伐と鍬込み,肥料を含むカルシウムやカリウムの施用があろう。しかし,技術的対策のコスト効果は,特に大規模に適用した場合には疑問である。可能であったとしても,小規模な場合に制限されよう。つまり,遠隔地の広大な森林でなく,多くの人達が訪れる公園のような,面積の小さい都市林などであろう。その上,これらの方法は,通常の森林施業以上に行なうと,森林の生態学的機能を損なうことになる。

     調査団は,コスト便益計算の結果は,全体的な損失を最小にする管理オプションは,アクセスと林産食物の消費を制限することであって,技術対策の実施は小規模なケース以外は実際的とは思えないとしている。

    ●終わりに

     チェルノブイリの原発事故は1986年4月に起きたが,1991年12月に旧ソ連が崩壊した。これによってチェルノブイリ事故の汚染地域はベラルーシ共和国,ウクライナ共和国,ロシア連邦の3か国に分離・独立し,経済的にも厳しい状況となって,その間,放射能汚染対策もろくに実施できない状況となった(環境保全型農業レポート.No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 )。これに対して,今回の福島第1原発後の日本政府の除染戦略は,莫大な予算を使って,一気にクリーンアップしようというものといえる。

     しかし,日本の除染戦略では,予算に加えて,広い敷地を要する保管施設が必要になる。つまり,膨大な量の廃棄土壌をほぼ3年間一時的に保管する仮置き場を,廃棄土壌を生じた福島県の市町村に置く,その後,福島県内に設ける中間貯蔵施設に30年間程度保管した後,福島県外で最終処分するとしている。しかし,仮置き場や中間貯蔵施設をどこに設けるかは地元住民の反対があって,ほとんど決められていない。

     こうしたコストや廃棄物貯蔵・処理施設の問題が大変重要であるため,EUやIAEAは,地域住民,農業者,消費者を含む利害関係者の参加した場での論議を踏まえ,生ずる廃棄物量をできるだけ増やさない方式で,土壌の修復を図る方向を打ち出している(環境保全型農業レポート.No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか )。

     どのように放射能汚染を修復するかは当該国が決めて実施するものであり,EUやIAEAの勧告に従わなければならないことは決してない。しかし,日本政府の方針は国際的にみてかなり無理があると見られていることを認識しておく必要があろう。

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