環境保全型農業レポート > No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減

    ●農業における窒素・リンの余剰量を急激に減少させたデンマーク

     環境保全型農業レポート「No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス」で紹介したように, OECD(経済協力開発機構)は,農業が環境に及ぼす影響を評価する指標の1つとして,「養分バランス」の指標を開発している。すなわち,国全体の農地に,肥料,家畜ふん尿などで持ち込まれた窒素とリンの全量(インプット量)から,作物に吸収されて圃場外に搬出される窒素とリンの全量(アウトプット量)を差し引いた量を「養分バランス」として,農地面積ha当たりの養分量kgで表示する。「養分バランス」がプラスなら,養分が余剰となる。

     因みに日本は余剰窒素量を1990-92年の180 kg/haから2002-04年に171 kg/haに,9 kg/ha減少させただけであった。これに対して,デンマークは1990-92年の178 kg/haから2002-04年には127 kg/haに51 kg/ha減少させた。また,余剰リン量については,日本は1990-92年に65 kg/haと非常に高く,これを2002-04年に51 kg/haに減少させた。他方,デンマークは1990-92年に既に17 kg/haに減らしていたが,2002-04年には11 kg/haに減らした。

     EU(ヨーロッパ連合)は農業から排出された硝酸による水質汚染を防止するために1991年に「硝酸指令」を公布した(環境保全型農業レポート.「No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書」参照)。加盟国はこの指令の施行に必要な準備行動を1996年6月までに完了させることになっていた。しかし,硝酸指令を厳格に執行すると,大部分の加盟国はそのために多額の対策費を支出し,家畜頭数を大幅に削減しなければならなくなるため,何とか理屈を作って,自国内での施行を可能な限り遅くさせる行動をあえて行なった。そのなかで,2001年末時点で指令に規定された行動を期限内に実施して,執行機関の欧州委員会から1つの違反行為もないとほめられたのは唯一デンマークであった(Commission of the European Communities (2002) Report from the Commission: Implementation of Council Directive 91/676/EEC concerning the protection of waters against pollution caused by nitrates from agricultural sources )。

     広大な農地を有して低投入な農業を行なっている新大陸の農産物輸出国で余剰養分量が少ないのとは異なり,世界的にトップクラスの集約農業を行いながら,余剰窒素量やリン量の削減に成功しているデンマークが,どのような対策を講じてきたのかに興味がある。

     この点について下記の報告を基に概要を紹介する。

     (1) OECD (2012) Water Quality and Agriculture: Meeting the Policy Challenge, OECD Studies on Water, 155p. OECD Publishing. p.110-111

     (2) Kronvang, Brian et al.,(2008) Effects of policy measures implemented in Denmark on nitrogen pollution of the aquatic environment Environmental Science & Policy 11: 144-152

     (3) Maguire, Rory O. et al., (2009) Critical Evaluation of the Implementation of Mitigation Options for Phosphorus from Field to Catchment Scales. Journal of Environmental Quality 38: 1989 - 1997

     (4) Vinther Finn P. and Christen D. Brgesen (2010) Nutrient surplus as a tool for evaluating environmental action plans in Denmark Workshop papers and presentations of OECD Workshop on Agri-Environmental Indicators, Leysin, Switzerland, 23-26 March, 2010. 8pp

    ●デンマーク農業の概要

     デンマークはドイツから北側に伸びたユトランド半島と,その東側にあるスウェーデンとの間に分布するいくつかの島からなる。首都のコペンハーゲンはスウェーデンの直ぐ近くに存在する島に位置している。

     デンマークの土壌タイプは,全体として東から西に変化し,東の島嶼部に壌土,西のユトランド半島に粗粒質砂土が分布している。年間降水量は500〜900 mmの幅があり,西部では東部の地域よりも降水量が多い。デンマークの農業生産は非常に集約的で,窒素肥料や家畜ふん尿の使用量はヨーロッパで最高レベルである。農地はデンマークの全国土の60%を占め,農地のほぼ90%は耕地である(Kronvang et al., 2008)。

     デンマークの2010年における主要農産物の産出額をみると,作物よりも畜産物の産出額が圧倒的に多い(表1)。

    ●デンマークにおける農業からの養分排出規制の契機

     EUで,農業からの窒素排出問題への対応の必要性を最初に発見した国の1つはデンマークであった。EUの硝酸指令が公布されたのは1991年だったが,デンマークでは1970年代と1980年代初期に,硝酸濃度の上昇が家庭用飲料水源の地下水で認められ,農業からの養分ロスの影響についての関心が高まった。その上,デンマークの海水での窒素濃度の上昇や,深刻な酸素欠乏の頻度上昇が増えていることも示された。

     しかし,社会的に農業における養分管理に対する関心を呼び集めたのは,デンマークとスウェーデンの間のカテガット海峡で死んでいるロブスターを示したテレビ報道であった。ロブスター死亡発見の原因は,農業からの養分流出によって促進された藻類の異常繁殖に起因した低酸素濃度に帰せられた。これを契機に農業における養分管理の法的規制が着手された(Kronvang et al., 2008)。

    ●農業からの養分排出削減のための政策手段

     EUの硝酸指令が公布されたのは1991年だったが,それに先だってデンマークは,1985年から現在まで,水環境の窒素汚染を削減する目的で,国が,数次にわたる農業からの養分排出を削減する行動計画を実施している(表2)。この窒素排出の規制にはいくつかの手段がとられた(Kronvang et al.,2008,Maguire et al.,2009,Vinther and Brgesen, 2010)。

     (1)特定汚染源からの排水処理施設における処理方法を向上させる法的義務要件の導入

     特定汚染源の畜産施設などからの排水処理施設の処理方法改善は,1987年に採択された行動計画で実施された(表2には記入されていない)。

     (2)家畜の飼養密度

     デンマークは1985年に家畜飼養密度を2家畜単位/haに設定した。これは1991年に公布された硝酸指令にある「2002年12月21日までは家畜飼養密度を家畜ふん尿窒素量で年間210 kg N/haに規定」にほぼ合致する。デンマークは1998年に家畜飼養密度を1.7家畜単位/haに設定したが,これは家畜ふん尿窒素で170 kg N/haに相当する。このように,硝酸指令に先行した規制を行なった。

     (3)家畜ふん尿(スラリー)貯留容量の拡大

     家畜ふん尿を冬期に草地に散布しても,牧草が生育しないので養分は吸収されず,土壌が凍結していれば,家畜ふん尿は土壌表面に露出したままとなる。冬期に雨が多いので,降雨時に養分が表面流去して表流水を汚染する。デンマークでは家畜ふん尿の貯留容量は,通常270日間だが,法的には最低180日間で良いことになっている(OECD, 2012)。家畜ふん尿を270日(9か月)貯留できる容量を確保することによって,家畜ふん尿の施用を秋から春にシフトさせることが可能になった。これによって養分利用率が大幅に改善された。

     (4)可給態窒素量の施用可能上限値の設定と,施肥設計計画および輪作計画策定の義務化

     (5)家畜ふん尿中の可給態窒素割合の法的基準値の設定

     家畜ふん尿の全窒素量に対する可給態窒素量(作物に利用可能な窒素量)の割合については,基準値が設定されている。家畜ふん尿を施用した場合には,作物タイプごとに施用可能な可給態窒素量が規定されているので,その分の化学肥料窒素量を減らさなければならない。

     このことが遵守されたかは,家畜飼養頭数から算出される家畜ふん尿量と化学肥料の購入量によって確認している。窒素の規制は,事前に研究者,農業者,農業者団体と密接に対話して設定され,その後に普及組織や教育組織がフォローアップしている。

     また,家畜ふん尿の可給態窒素割合は,1991,1998,2000および2004年に設定されている(表2)。年次を追って家畜ふん尿の可給態窒素割合が高く設定されているので,施用できる家畜ふん尿量を少なくしなければならない。

     (6)総合的な環境管理

     2004年からの水環境に関する第3次行動計画から,デンマークの農業からの窒素排出規制は農地からの硝酸溶脱削減だけでなく,より総合的なアプローチに向けて動き出している。農村開発に関するEUの農業政策の新しい方向や,EUの生息地指令や生物多様性条約を反映させて,地域開発目標と水環境や自然保護との調和を図る努力を強化している。

    ●余剰窒素量や余剰リン量の減少

     上述したように,デンマークでは農業における余剰窒素量が,1990-92年の178 kg/haから2002-04年には127 kg/haに51 kg/ha減少した。上記の様々な対策を講じて,余剰窒素量はその後も減少し,2009/10年には約96 kg/haに減少している。また,余剰リン量は1990-92年に既に17 kg/haに減少していたが,2002-04年には11 kg/haに減少し,2009/10年には約4.8 kg/haに減少している(OECD, 2012)。

     余剰窒素量や降水量などのデータを用いて,作物根域から下に溶脱する硝酸性窒素量をシミュレーションモデルで計算した結果をみると,国全体での平均溶脱量は,1985年に約110 kg N/haであったが,2007年には60 kg N/ha弱に48%減少した。

     この減少要因は,次のように理解されている(Vinther and Brgesen, 2010)。

     第1は,家畜ふん尿窒素中の可給態窒素割合の法的基準値を引き上げて,施用できる家畜ふん尿量を減らしたことで,減少原因の約60%を占めている。第2は,「技術効果」で,作物品種の向上,作物保護,作付管理などが約25%,無機肥料施用量の削減が10%,間作物の導入義務が,窒素溶脱の5%削減に寄与したと推定されている。

     しかし,最近では,冬作穀物を栽培する輪作が増え,秋に間作物を導入する余地が減ってきており,窒素要求量の多い作物の栽培面積が増えたこともあり,溶脱窒素量を削減させる一層の努力が必要になっている。

    ●おわりに

     デンマークは,かつては農業における余剰窒素量がOECD加盟国でトップクラスであった。しかし,国として農業における窒素とリンの削減に取り組んだ結果,最近では余剰養分量を大幅に削減することに成功した。とはいえ,余剰養分量が減少したからといって,水系の養分濃度が減少するには時間がかかる。環境中に溜まった養分量が減少するには長年を要するからである。環境を元に戻すにはさらに長期の取組を続ける必要がある。

     根域からの窒素溶脱量は1985年に比して2007年にはほぼ50%に減少しているが,2009年から新しい「グリーン成長行動計画」をスタートさせた。その計画では,水環境の「良好な生態学的質」を確保するには、窒素溶脱量をさらに全体で33%削減することが必要であるとした。このため,「グリーン成長」のターゲットでは,国土を23の集水域に分割して,脆弱性の少ない水系の集水域の削減ターゲットよりも,脆弱性の高い水系の集水域で,より高い削減ターゲットを設定して,取組を強化している(Vinther and Brgesen, 2010)。削減目標の最も高い地域での農業生産には深刻な影響を与えることになろうが,デンマークは目標達成に向けた努力を継続している。

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