環境保全型農業レポート > No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い
記事一覧
  • No.219 日本農業のエネルギー消費構造 12/12/17
  • No.218 アメリカの有機農業者への金銭的直接支援の概要 12/12/16
  • No 217 道路に近い市街地で栽培された野菜の重金属濃度 12/11/26
  • No.216 未熟堆肥は作物の土壌からの重金属吸収を促進する? 12/11/25
  • No.215 全米有機プログラム(NOP)規則ハンドブック2012年版 12/11/24
  • No.214 ソイル・アソシエーションの有機施設栽培基準 12/10/26
  • No.213 イギリスではポリトンネルが禁止に? 12/10/25
  • No.212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限 12/09/24
  • No.211 有機と慣行農業による収量差をもたらしている要因 12/09/23
  • No.210 EU加盟国の有機農業に対する公的支援の概要 12/08/24
  • No.209 窒素安定同位体比は有機農産物の判別に使えるのか 12/07/20
  • No.208 デンマーク農業における窒素・リンの余剰量の削減 12/07/19
  • No.207 有機農業の理念と現実 12/07/02
  • No.206 EUが有機農業規則の問題点を点検 12/07/01
  • No.205 イングランドの農業者は持続可能な土壌管理の知識を十分持っているか 12/06/05
  • No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価 12/06/04
  • No.203 OECD加盟国における水質汚染 12/05/08
  • No.202 ヨーロッパの河川における水質汚染の動向 12/05/07
  • No.201 有機農産物の日本農林規格が改正 12/03/31
  • No.200 薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響 12/03/30
  • No.199 EUにおけるバイオガス生産の現状と規制の現状 12/03/06
  • No.198 トウモロコシのエタノール蒸留粕の飼料価値と飼料供給に与える影響 12/03/05
  • No.197 コスト効果の高い余剰窒素削減政策は何か 12/02/01
  • No.196 世界の食料生産のための農地と水資源の現状と課題 12/01/31
  • No.195 福島県の農林地除染基本方針とその問題点 11/12/19
  • No.194 アメリカの養豚 ふん尿管理の動向 11/12/18
  • No.193 IAEA調査団(2011年10月)の最終報告書 11/11/24
  • No.192 岡山・香川両県から瀬戸内海への窒素とリンの負荷量 11/11/23
  • No.191 IAEA調査団(2011年10月)の予備報告書 11/10/31
  • No.190 放射能汚染事故時に如何に対処すべきか 11/10/12
  • No.189 農林水産省が農地土壌除染技術の成果を公表 11/10/11
  • No.188 アメリカの有機と慣行のリンゴ生産 11/09/20
  • No.187 有機JAS以外の有機農業の実態調査結果 11/08/22
  • No.186 カドミウム関係法律の改正とコメの濃度低減指針 11/08/21
  • No.185 イギリスが国土の生態系サービスを評価 11/08/20
  • No.184 西ヨーロッパと他国の農業生物多様性の概念の違い 11/07/21
  • No.183 中央農研が総合的雑草管理マニュアルを刊行 11/07/20
  • No.182 ビニールハウスは放射能をどの程度防げるのか 11/07/19
  • No.181 大気からの放射性核種の作物体沈着 11/06/13
  • No.180 放射性汚染土壌を下層に埋設する表層埋没プラウ 11/06/06
  • No.179 チェルノブイリ原子力発電所事故20年後のIAEA報告書 11/05/20
  • No.178 農薬の使用状況と残留状況調査の結果(国内産農産物) 11/04/19
  • No.177 キャッチクロップ導入と硝酸溶脱軽減効果 11/04/18
  • No.176 イギリスが世界の食料・農業の将来展望を刊行 11/04/17
  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い 11/03/28
  • No.174 経済不況は割高な環境保全農産物需要を抑制するのか 11/02/26
  • No.173 施設ギク農家の肥料投入行動とその技術的意識 11/02/25
  • No.172 世界の有機農業の現状(2) 11/01/14
  • No.171 OECDが日本の環境パフォーマンスをレビュー 11/01/13
  • No.170 有機JAS規格の改正論議が進行 10/12/23
  • No.169 都市農業は地下水の硝酸性窒素汚染を起こしていないか 10/12/22
  • No.168 アメリカで不耕起栽培が拡大中 10/12/21
  • No.167 アメリカが有機農業ハンドブック2010年秋版を刊行 10/12/03
  • No.166 EUが土壌生物多様性に関する報告書の第二弾を刊行 10/12/02
  • No.165 春先に深刻な農地の風食とその抑制策 10/11/04
  • No.164 家畜ふん堆肥製造過程での悪臭低減と窒素付加堆肥の製造 10/11/03
  • No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造 10/09/14
  • No.162 アジアではリン肥料の利用効率が低い 10/09/13
  • No.161 EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件 10/08/26
  • No.160 OECD加盟国の農業環境問題に対する政策手法 10/08/25
  • No.159 ダイズ栽培輪換畑土壌の窒素肥沃度維持技術 10/07/20
  • No.158 アメリカが飼料への抗生物質添加禁止に動き出す 10/07/19
  • No.157 有機質肥料による養液栽培 10/06/22
  • No.156 EUが土壌生物の多様性に関する報告書を刊行 10/06/21
  • No.155 EUで土壌指令成立のめどたたず 10/06/20
  • No.154 全国の農耕地土壌図をインターネットで公開 10/05/27
  • No.153 EUのCAPに関する世論調査結果 10/05/26
  • No.152 農林水産省がGAPの共通基盤ガイドラインを策定 10/05/06
  • No.151 イギリスの有機質資材の施用実態 10/05/05
  • No.150 EUの第4回硝酸指令実施報告書 10/03/29
  • No.149 有機栽培水稲のLCAの試み 10/03/28
  • No.148 アメリカの有機食品の生産・販売・消費における最近の課題 10/03/04
  • No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況 10/03/03
  • No.146 IPMを優先させたEUの農薬使用の枠組指令 10/02/01
  • No.145 甘い日本の農地への養分投入規制 10/01/31
  • No.144 欧米における農地へのリン投入規制の事例 09/12/28
  • No.143 米国が土壌くん蒸剤の安全使用強化に動き出す 09/12/27
  • No.142 英国の企業等の環境法令遵守支援ツール 09/11/28
  • No.141 米国が農薬ドリフト削減のためのラベル表示変更検討 09/11/27
  • No.140 農水省が米国有機農業法に基づく国内認証機関認定へ 09/10/31
  • No.139 家畜ふん堆肥窒素の新しい肥効評価方法 09/10/30
  • No.138 バイオ燃料作物の生産にどれだけの水が必要か 09/09/30
  • No.137 有機と慣行の農畜産物の栄養物含量に差はない 09/09/29
  • No.136 日本の輸入食品の残留動物用医薬品の概要 09/08/27
  • No.135 日本が輸入した農産物中の残留農薬の概要 09/08/26
  • No.134 日本の輸入食品監視統計の概要 09/08/25
  • No.133 アメリカ農務省が中国輸入食品の安全性を分析 09/08/24
  • No.132 黒ボク土のpHと可給態リン酸上昇が外来雑草を助長 09/08/03
  • No.131 施肥改善に対する意欲が不鮮明 09/08/02
  • No.130 イギリスが農業用資材に含まれる園芸用ピートを明確に表示するよう指示 09/06/26
  • No.129 国内でのナタネ栽培とバイオディーゼル生産の環境保全的意義は? 09/06/25
  • No.128 土壌の炭素ストックを高める農地の管理方法 09/05/26
  • No.127 意外に事故の多い石灰イオウ合剤 09/05/25
  • No.126 食品のカドミウム新基準値設定の動き 09/04/17
  • No.125 EUの水に関する世論調査 09/04/16
  • No.124 アメリカはエタノール蒸留穀物残渣の利用を研究 09/03/03
  • No.123 石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 09/03/02
  • No.122 イングランドが土・水・大気の優良農業規範を改正 09/02/17
  • No.121 イングランドが硝酸汚染防止規則を施行 09/02/16
  • No.120 カドミウム濃度の低い玄米とナスを生産する新技術 09/01/19
  • No.119 日本農業のエネルギー効率は先進国で最低クラス 09/01/18
  • No.118 家畜排泄物の利用促進を図る都道府県計画 08/12/12
  • No.117 鶏ふんのエネルギー利用とリンの回収 08/12/11
  • No.116 イギリスで農地系の野鳥が引き続き減少 08/11/26
  • No.115 世界の農業普及の流れ 08/11/25
  • No.114 OECDの指標でみた先進国農業の環境パフォーマンス 08/10/16
  • No.113 養豚場を除く畜産事業場からの排水規制が強化 08/10/15
  • No.112 望まれるリンの循環利用 08/09/16
  • No.111 人工衛星画像を利用した新しい世界の土地劣化情報 08/09/15
  • No.110 イギリス(イングランド)が自国の硝酸指令を強化 08/08/13
  • No.109 OECDがバイオ燃料の過熱に警鐘 08/08/12
  • No.108 農林水産省が8作物のIPM実践指標モデルを公表 08/08/11
  • No.107 「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書 08/07/19
  • No.106 EU環境総局が土壌と気候変動に関する会合を主宰 08/07/18
  • No.105 EUとアメリカの農業環境政策の違い 08/07/17
  • No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌 08/06/03
  • No.103 ダイズの作付頻度を高めると土壌が硬くなる 08/06/02
  • No.102 農業がミシシッピー川の水と炭素の排出量を増やした 08/04/06
  • No.101 日本も農地土壌の炭素貯留機能を考慮 08/04/05
  • No.100 「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書 08/04/04
  • No.99 茨城県の「エコ農業茨城」構想 08/03/06
  • No.98 EUの生物多様性に関する世論調査 08/03/05
  • No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず 08/01/18
  • No.96 八郎潟を指定湖沼に追加 08/01/17
  • No.95 イギリスの下水汚泥の土壌影響に関する研究報告書 08/01/16
  • No.94 低濃度エタノールを用いた新しい土壌消毒法 07/12/19
  • No.93 飼料イネへの家畜ふん堆肥施用上の問題点 07/12/18
  • No.92 環境保全型農業に関する意識・意向調査結果 07/11/08
  • No.91 バイオ燃料製造拡大が農産物価格と環境に及ぼす影響 07/11/07
  • No.90 減農薬からIPMへ 07/10/11
  • No.89 中国における農業環境問題 07/10/10
  • No.88 ユーレップギャップがグローバルギャップに改称 07/10/09
  • No.87 超臨界水処理による家畜ふん尿のエネルギー利用技術 07/09/14
  • No.86 有機農業用家畜ふん堆肥の品質基準の必要性 07/09/04
  • No.85 気候緩和評価モデル 07/09/03
  • No.84 EUの第3回硝酸指令実施報告書 07/07/23
  • No.83 まだ続く土壌残留ディルドリンの作物吸収 07/05/31
  • No.82 EUREPGAP(ユーレップギャップ)の概要 07/05/30
  • No.81 農林水産省が基礎GAPを公表 07/04/28
  • No.80 抗生物質の代わりに茶葉で豚を飼育 07/04/27
  • No.79 MPSの環境にやさしい花の生産が日本でも開始 07/04/26
  • No.78 畜産事業所からの排水基準 07/04/25
  • No.77 日本での井戸水が原因の新生児メトヘモグロビン血症事例 07/03/26
  • No.76 有機農業の推進に関する基本的な方針(案) 07/03/25
  • No.75 家畜排泄物の利用の促進を図るための基本方針案 07/03/24
  • No.74 EUのLCAに基づいた環境政策 07/03/23
  • No.73 硝酸は人間に有毒ではない!? 07/02/15
  • No.72 形だけの農林水産省環境報告書2006 07/01/20
  • No.71 2005年度地下水の硝酸汚染の概要 07/01/19
  • No.70 「持続性の高い農業生産方式」の追加案 07/01/18
  • No.69 EUの環境および農業に関する世論調査結果 07/01/17
  • No.68 有機農業推進法が成立 06/12/17
  • No.67 野菜畑と河川底性動物との関係 06/12/16
  • No.66 EUの統合環境地理情報データベース 06/12/15
  • No.65 特別栽培農産物ガイドラインの一部改正案 06/12/14
  • No.64 亜鉛の排水基準が改正 06/12/13
  • No.63 コシヒカリへの地力窒素発現量予測 06/11/30
  • No.62 EUが農薬使用に関する戦略を提案 06/11/23
  • No.61 化学肥料の硝安も爆発物の材料 06/11/22
  • No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案 06/10/13
  • No.59 国内未登録除草剤残留牛ふん堆肥による障害 06/10/12
  • No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問 06/10/11
  • No.57 水稲有機農業の経済的な成立条件 06/10/10
  • No.56 キャベツおよびカンキツのIPM実践指標モデル案 06/09/10
  • No.55 環境にやさしいバラの生産技術 06/09/09
  • No.54 対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」 06/08/12
  • No.53 朝取りホウレンソウは硝酸含量が高い 06/08/11
  • No.52 イギリスの食品保証制度 06/08/10
  • No.51 イギリスの葉菜類の硝酸含量調査結果 06/08/09
  • No.50 食品のカドミウム規制に終止符! 06/07/14
  • No.49 日射制御型拍動自動灌水装置の開発 06/07/13
  • No.48 EUでは農業が水質汚染の主因 06/07/12
  • No.47 花き生産における国際環境認証プログラム:MPS 06/06/15
  • No.46 アメリカ 耕地からの土壌侵食の実態 06/06/14
  • No.45 コンニャク根腐病対策の新展開 06/06/13
  • No.44 ヘアリーベッチ栽培に補助金を交付 06/05/11
  • No.43 亜鉛の基準に関する動き 06/05/10
  • No.42 食品中カドミウムの国際基準案最終段階 06/05/09
  • No.41 長崎県版GAP(適正農業規範) 06/04/06
  • No.40 イギリスの農薬使用規範 06/04/05
  • No.39 成分表示と消費者の価格許容調査 06/03/15
  • No.38 環境保全に関する意識・意向調査結果 06/03/14
  • No.37 福島県の「環境にやさしい農業」 06/02/27
  • No.36 流出水への監視強化へ 06/02/26
  • No.35 持続農業法施行規則の一部改正 06/02/25
  • No.34 欧州の水系汚染対策 06/02/24
  • No.33 家畜ふん堆肥施用量計算ソフト 06/01/19
  • No.32 JAS規格が一部改正 06/01/18
  • No.31 残留農薬ポジティブリスト制度の導入 06/01/17
  • No.30 EUの農業環境支払事務の会計監査 05/11/29
  • No.29 有機畜産関連の日本農林規格告知 05/11/28
  • No.28 牛ふん堆肥によるコシヒカリ栽培技術 05/11/08
  • No.27 福岡県「農の恵み事業」 05/11/07
  • No.26 フードチェーン・アプローチ 05/09/23
  • No.25 輪換畑ダイズ収量低下の原因 05/09/22
  • No.24 有機農業に対する政府の取組姿勢 05/09/21
  • No.23 定植前リン酸苗施用法 05/08/31
  • No.22 輸入蓄養マグロのダイオキシン類濃度 05/08/30
  • No.21 フード・マイル計算の難しさ 05/08/29
  • No.20 続・コメのカドミウム基準情報 05/07/26
  • No.19 殺菌剤耐性いもち病菌の出現 05/07/25
  • No.18 総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針案 05/07/23
  • No.17 精米カドミウム含量の動向 05/05/19
  • No.16 家畜ふん堆肥中の抗生物質耐性菌 05/05/18
  • No.15 水田の汚濁物質排出量 05/05/17
  • No.14 北海道「遺伝子組換え」条例 05/04/21
  • No.13 北海道「食の安全・安心条例」 05/04/20
  • No.12 「農業生産活動規範」とは 05/04/19
  • No.11 湖沼の水質保全はどうなる 05/04/18
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  • No.175 2011年度から環境保全型農業実践者に支援金を直接支払い

    ●日本で実施されている農業環境対策事業

     EU(欧州連合)では,農業者を支援するために金銭を直接支払っているが,それを受給するには,環境を保全する農業の実践,農地の良好な農業的および環境的状態の維持,食品の安全性,動物および植物の健全性ならびに動物福祉の確保を規定に準じて遵守することが義務となっている(環境保全型農業レポート.No.161.EUでは農地を良好な状態に保つのが直接支払の条件)。

     日本では多額の補助金が農業者に支払われているが,その大部分は,政府が生産を奨励ないし誘導しようとしている作目の,生産量や栽培面積に応じて支払いを行なう生産とリンクした支給であり,環境保全を支払い条件にしている農業環境対策事業はまだ少ない。

     OECD(経済協力開発機構:2010年12月9日現在で日本を含め先進34か国が加盟)の農業部門では,環境や資源を保全しつつ,農業生産を持続的に発展させることを目標の一つに掲げ,そのために様々な調査,分析や政策提言を行なっている。その一環として,2010年11月に「農業政策と環境影響との関連性:OECDの様式化した農業環境政策インパクトモデルの使用」( Linkages between Agricultural Policies and Environmental Effects: Using the OECD Stylised Agri-environmental Policy Impact Model, OECD Publishing. 176p.)を刊行した。その中で日本は,水田で水稲と小麦を生産している6 ha規模の農業者を想定し,その農業者が政策によって水稲,小麦および不作付の面積をどのように変え,それにともなって農業の持つプラスの環境保全機能がどのように変わるかをモデル計算した。その報告のなかで,農林水産省が行なっている環境負荷軽減のための農業環境対策として表1を掲載している。

    ●農業生産活動規範(農業環境規範)の問題点

     農林水産省は,「農林水産環境政策の基本方針−環境保全を重視する農林水産業への移行」(2003年)に基づいて,環境にやさしい農業の推進を図っている。 2005年3月31日に農林水産省は,「環境と調和のとれた農業生産活動規範」(農業環境規範)の通達を出した(環境保全型農業レポート.No.12.「農業生産活動規範」とは)。

     農林水産省の位置づけでは,この規範は農業者が環境保全のために採択すべき必要な生産行為であり,規範を守ることが農業環境対策事業での直接支払を受ける最低要件となっている(クロス・コンプライアンス)。しかし,この規範の内容は,環境保全の視点からすれば,違反する者が誰もいないと考えられるほどのあまりにも低いレベルの内容で,単に形式を作ったにすぎないといっても過言ではない。

    ●エコファーマーの問題点

     エコファーマーは,1999年10月に施行された「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」で導入された制度である。農業者は,有機質資材施用技術,化学肥料削減技術および農薬代替防除技術の3つのカテゴリーの環境と調和した技術として,都道府県が指定した各カテゴリーの技術を導入する計画を作成し,都道府県知事に申請する。承認を受けた農業者はエコファーマーとして認定され,計画遂行に必要な機械や施設の購入や,建設に要する資金を低利で長期に借り受け,所得税の軽減を受けることもできる。

     エコファーマーは環境保全型農業実践者と見なされているが,厳密には問題がある。例えば,堆肥施用を行なうことを計画に入れて承認を受けたなら,マニュアスプレッダーの購入資金の貸付を受けることができる。しかし,堆肥の施用量については何の制限もない。このため,極端なことをいえば,有機質資材と肥効調節型肥料を合わせて,過剰施用を行なって地下水を硝酸汚染させても,エコファーマーとして認定されうるのである。化学肥料と堆肥の双方を合わせて,作物の種類ごとに適正な養分施用をすることが大切だが,そのための具体的規制はない。

    ●農地・水・環境保全向上対策の先進的営農支援の問題点

     農業者の高齢化や離農者の増加によって,残っている農業者だけでは,地域で農業を維持するために不可欠な水路や農道などの維持が困難になってきた。このため,非農業者を含めた地域の共同活動により,農地・農業用水などの農業資源を図ることを主目的にして「農地・水・環境保全向上対策」が創設され,その一部として環境の保全向上を図る営農を支援する仕組みが作られた(環境保全型農業レポート.No.54.対象範囲の狭い「農地・水・環境保全向上対策」)。

     この仕組みでは,(1)地域が非農業者を含めてまとまって行なう農地,農業用水などの農業資源を適切に保全する活動に助成金(基礎支援)が支払われる。(2)基礎支援を受けている農業者が,当該地域の協定に基づいて環境負荷低減に向けた農業生産での取組を共同で行ない(営農基礎活動支援),(3)その上で地域において相当程度のまとまりを持って,持続性の高い農業生産方式として指定された技術を導入したり,化学肥料と化学合成農薬を地域の慣行よりも原則5割以上削減したりするなどの先進的な取組を実践する場合に,支払が行なわれる(先進的営農支援)(水稲3,000円/10a,麦・豆類1,500円/10a,果菜類9,000円/10aなど)。

     ここでの化学肥料の5割以上の削減とは,窒素化学肥料施用量の削減であって,有機質資材の施用量には制限がない。こため,窒素肥料を減らして,有機質資材の施用量を大幅に増やせば,逆に窒素の施用量を増やしてしまう場合もある。また,湖沼などでアオコが異常繁殖する富栄養化の原因として,窒素とともにリンが問題である。全国の農地でリンの過剰集積が問題になっており,豪雨時の水食によって,土壌粒子に吸着したリンが湖沼などに流入して富栄養化の要因となっている。しかし,リン施用量については何の削減も求められていない。

     この支援では地域でのまとまりが前提になるため,1人やごくわずかの人数で頑張っている有機農業者は対象にならない。そして,予算的にも先進的営農支援は対策事業全体のわずかを占めているだけである。

    ●環境保全型農業直接支援交付金の導入

     2011年度から環境保全型農業直接支援交付金が支給されることになった。

     農業者等が,化学肥料(化学肥料窒素施用量)と化学合成農薬(散布回数)を原則5割以上低減する取組とセットで,地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動に取り組む場合,取組面積に応じた支援(国の支援額:4,000円/10a)を行なうものである。そして,2010年度まで農地・水・環境保全向上対策の先進的営農支援の支給対象となっていた農業者グループが,協定に基づいて行なう化学肥や化学合成農薬を原則5割以上低減する取組に対しては,2010年度までの支払い実績の範囲内で,2011年限りで支援を継続する。予算額は,環境保全型農業直接支払交付金と先進的営農活動支援交付金を合わせて,44億6200万円。この支援事業を推進するための事務経費や効果の調査・検証などの予算と合わせた総額は48億710万円。

     この交付金は,現在,世界的に大きな関心を集めている地球温暖化防止と生物多様性保全とを錦の御旗に掲げて予算を獲得したものである。そして,支援対象の活動として下記の4つの取組を指定しており,それらの主な環境保全効果として,次を見込んでいる。

     (1) カバークロップの作付:地球温暖化防止(土壌炭素貯留),水質保全など

     (2) リビングマルチ・草生栽培の実施:地球温暖化防止(土壌炭素貯留),水質保全など

      なお,果樹園の雑草草生栽培は,粗放管理と区別できないので,対象としない。

     (3) 冬期湛水管理:生物多様性保全など

     (4) 有機農業の取組:生物多様性保全など

     この(1)〜(4)の取組だけを行なっても,支援の対象にはならない。あくまでも化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組とセットで行なうことが条件となっている。

     化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組としては,(1) 有機農業,(2) 特別栽培および,(3) 都道府県のエコファーマーの要件である「持続性の高い農業生産方式導入指針」で化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減が規定されている場合にはエコファーマーが対象となる。(2) および (3) では通常エコファーマーの認定を受けているケースが多く,エコファーマーの認定を受けていれば承認事務がスムースである。有機農業の場合はエコファーマーの認定を受けていなくても良い。なお,有機農業については,収穫前に実施確認を行なうので,交付申請書や実施計画書を市町村にすみやかに(遅くとも収穫前までに)提出することが求められる。有機JASの認定を受けているケースでは,有機JAS認定書と誓約書で確認事務が簡単である。しかし,有機JASの認定を受けていない場合には,生産記録によって化学肥料や農薬が使用されていないことを確認し,無作為に抽出した対象に対してヒヤリングを行なって,生産記録の正確性の確認も行なわれる。

     そして,環境と調和のとれた農業生産活動規範点検シートに基づいて,農業者自らが点検を行なうとともに,当該点検シートを提出することが求められる。

     国の支援額は4,000円/10aで,地方公共団体(都道府県と市町村の双方の場合がありうる)が国と同額の負担(4000円/10a)を行なった取組に対して行なうことが基本だが,他の対策事業とことなり,地方公共団体が負担を行なわない場合であっても,国の支援額だけは支給される。

    ●有機農業促進のための予算

     政策目標として有機JAS認定農産物の生産量を2014年度までに5割増加させることを掲げて,環境保全型農業直接支援交付金で有機農業者を対象に加えたこと以外にも,有機農業を促進するための予算が2011年度に認められている。

     民間団体が行なう全国段階での有機農業普及・参入支援事業として,有機農業参入希望者を対象にした相談,研修,情報提供などの支援,有機農業技術の実態把握や標準技術の体系化などに1億400万円。

     また,有機農業に取り組む産地の収益力向上対策として,(1)販売企画力,生産技術力や人材育成力強化などの取組,(2)有機農産物市場を開拓するために,産地と流通業者をマッチングさせる有機農産物マッチングフェアなの開催,(3)有機農業技術支援センターを設置する際に融資残の自己負担部分の補助金などの支援を行なう。これらは産地活性化対策事業として,有機農業でないケースと合わせた予算総額(約107億円)が決められているが,有機農業分としての枠は設けられていない。

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